9 / 19
1章
森の邂逅
しおりを挟む
馬車はガタガタと揺れながら、
アルセリア領の外れに広がる深い森へ進んでいった。
アイラは膝を抱えたまま、
涙で濡れた頬を袖で拭う。
(どうして……どうして捨てられたの……
わたし、家族が大好きだったのに……)
馬車の外から聞こえる風の音は、
まるで泣き声をかき消すように荒れていた。
やがて、御者が馬を止める。
「ここだ。……降りろ」
アイラは震える足で馬車を降りた。
視界いっぱいに広がる巨大な森。
森の入口の石碑には、古い文字でこう刻まれていた。
──星降りの森──
“魔獣の住む危険地帯”
アイラの全身がすくむ。
「や……いや……こんなところに、一人で……?」
御者は目を逸らしたまま袋を地面に置いた。
「食料と水だ。三日分……それ以上は無理だ。
……あとは、好きにしろ」
それだけ言うと、馬車はすぐに去っていった。
土煙が消えたとき、
アイラは完全に一人だった。
(パパ……ママ……戻ってきて……)
呼んでも誰も来ない。
足が震えて前に進めない。
そんな時だった。
──ざわ……ん。
森の奥から、空気が揺れる。
大地そのものが脈動したような圧が、ゆっくりと近づいてくる。
アイラは思わず後ずさる。
(な、なに……なにか来る……!)
木々の間に、白銀の光が走った。
次の瞬間──
巨大な影がゆっくりと姿を現した。
『……ようやく会えたな、愛し子よ』
星の光をまとい、
銀色の毛並みを 風 のように揺らす。
フェンリル。
大地を踏みしめる度に震えが走るほどの偉大さ。
鋭くも優しい蒼の瞳が、まっすぐアイラを見る。
その後ろから、
翼を広げた小さな ウィングキャット がふわりと飛び出し、
影の中からは、掌ほどのサイズに縮んだ シャドーベア がころんと転がってきた。
「ぇ……?」
恐怖が、不思議と消えていく。
代わりに胸を温かく包み込む感覚が広がった。
ウィングキャットが頬をすり寄せる。
『みゃ~……やっと会えたね、アイラ』
シャドーベアは影の中からちょこんと顔を出し、
『……泣かないで……ずっと守るから』
フェンリルはゆっくりと顔を寄せ、
その巨大な鼻先でアイラの頭を優しく撫でる。
『泣き虫の愛し子よ。
今日からは我らが家族だ。
二度と一人にはさせぬ』
ぽたり……と涙が落ちた。
怖い涙ではなく、
はじめて感じる“救われる涙”。
アイラは震える声で呟いた。
「……家族……?」
フェンリルは力強くうなずいた。
『ああ。
お前を捨てた者など、もう関係ない。
──我らが、お前の本当の家族となる』
その言葉は嘘ではなかった。
優しさを繕った偽りの言葉ではなく──
魂で誓う“真実”だった。
星降りの森に、
アイラの新しい人生が静かに始まった。
アルセリア領の外れに広がる深い森へ進んでいった。
アイラは膝を抱えたまま、
涙で濡れた頬を袖で拭う。
(どうして……どうして捨てられたの……
わたし、家族が大好きだったのに……)
馬車の外から聞こえる風の音は、
まるで泣き声をかき消すように荒れていた。
やがて、御者が馬を止める。
「ここだ。……降りろ」
アイラは震える足で馬車を降りた。
視界いっぱいに広がる巨大な森。
森の入口の石碑には、古い文字でこう刻まれていた。
──星降りの森──
“魔獣の住む危険地帯”
アイラの全身がすくむ。
「や……いや……こんなところに、一人で……?」
御者は目を逸らしたまま袋を地面に置いた。
「食料と水だ。三日分……それ以上は無理だ。
……あとは、好きにしろ」
それだけ言うと、馬車はすぐに去っていった。
土煙が消えたとき、
アイラは完全に一人だった。
(パパ……ママ……戻ってきて……)
呼んでも誰も来ない。
足が震えて前に進めない。
そんな時だった。
──ざわ……ん。
森の奥から、空気が揺れる。
大地そのものが脈動したような圧が、ゆっくりと近づいてくる。
アイラは思わず後ずさる。
(な、なに……なにか来る……!)
木々の間に、白銀の光が走った。
次の瞬間──
巨大な影がゆっくりと姿を現した。
『……ようやく会えたな、愛し子よ』
星の光をまとい、
銀色の毛並みを 風 のように揺らす。
フェンリル。
大地を踏みしめる度に震えが走るほどの偉大さ。
鋭くも優しい蒼の瞳が、まっすぐアイラを見る。
その後ろから、
翼を広げた小さな ウィングキャット がふわりと飛び出し、
影の中からは、掌ほどのサイズに縮んだ シャドーベア がころんと転がってきた。
「ぇ……?」
恐怖が、不思議と消えていく。
代わりに胸を温かく包み込む感覚が広がった。
ウィングキャットが頬をすり寄せる。
『みゃ~……やっと会えたね、アイラ』
シャドーベアは影の中からちょこんと顔を出し、
『……泣かないで……ずっと守るから』
フェンリルはゆっくりと顔を寄せ、
その巨大な鼻先でアイラの頭を優しく撫でる。
『泣き虫の愛し子よ。
今日からは我らが家族だ。
二度と一人にはさせぬ』
ぽたり……と涙が落ちた。
怖い涙ではなく、
はじめて感じる“救われる涙”。
アイラは震える声で呟いた。
「……家族……?」
フェンリルは力強くうなずいた。
『ああ。
お前を捨てた者など、もう関係ない。
──我らが、お前の本当の家族となる』
その言葉は嘘ではなかった。
優しさを繕った偽りの言葉ではなく──
魂で誓う“真実”だった。
星降りの森に、
アイラの新しい人生が静かに始まった。
15
あなたにおすすめの小説
骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方
ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。
注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
あっ、追放されちゃった…。
satomi
恋愛
ガイダール侯爵家の長女であるパールは精霊の話を聞くことができる。がそのことは誰にも話してはいない。亡き母との約束。
母が亡くなって喪も明けないうちに義母を父は連れてきた。義妹付きで。義妹はパールのものをなんでも欲しがった。事前に精霊の話を聞いていたパールは対処なりをできていたけれど、これは…。
ついにウラルはパールの婚約者である王太子を横取りした。
そのことについては王太子は特に魅力のある人ではないし、なんにも感じなかったのですが、王宮内でも噂になり、家の恥だと、家まで追い出されてしまったのです。
精霊さんのアドバイスによりブルハング帝国へと行ったパールですが…。
女神様、もっと早く祝福が欲しかった。
しゃーりん
ファンタジー
アルーサル王国には、女神様からの祝福を授かる者がいる。…ごくたまに。
今回、授かったのは6歳の王女であり、血縁の判定ができる魔力だった。
女神様は国に役立つ魔力を授けてくれる。ということは、血縁が乱れてるってことか?
一人の倫理観が異常な男によって、国中の貴族が混乱するお話です。ご注意下さい。
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
豊穣の巫女から追放されたただの村娘。しかし彼女の正体が予想外のものだったため、村は彼女が知らないうちに崩壊する。
下菊みこと
ファンタジー
豊穣の巫女に追い出された少女のお話。
豊穣の巫女に追い出された村娘、アンナ。彼女は村人達の善意で生かされていた孤児だったため、むしろお礼を言って笑顔で村を離れた。その感謝は本物だった。なにも持たない彼女は、果たしてどこに向かうのか…。
小説家になろう様でも投稿しています。
婚約破棄されたので四大精霊と国を出ます
今川幸乃
ファンタジー
公爵令嬢である私シルア・アリュシオンはアドラント王国第一王子クリストフと政略婚約していたが、私だけが精霊と会話をすることが出来るのを、あろうことか悪魔と話しているという言いがかりをつけられて婚約破棄される。
しかもクリストフはアイリスという女にデレデレしている。
王宮を追い出された私だったが、地水火風を司る四大精霊も私についてきてくれたので、精霊の力を借りた私は強力な魔法を使えるようになった。
そして隣国マナライト王国の王子アルツリヒトの招待を受けた。
一方、精霊の加護を失った王国には次々と災厄が訪れるのだった。
※「小説家になろう」「カクヨム」から転載
※3/8~ 改稿中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる