【完結】銀鳴鳥の囀る朝に。

弥生

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銀鳴鳥の囀る朝に。

銀鳴鳥の囀る朝に。 第三話 ※

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 グラディウスの寝室は万年床かと思われたが、意外にも寝台はきちんと整えてあった。
 サイドチェストに入れてあった避妊具とオイルをアイルに見せるように置く。
「男同士の性交の場合、女以上に中を柔らかくしないといけない。直腸の奥までたっぷりとオイルを馴染ませる必要があるんだ。できそうか?」
「ああ。避妊具は……付けないと駄目か? 性病は持っていないのだが」
「中に出すと腹を壊すことが……ああ、くそ。念のために一度清浄魔法をかけるが、良いか。初っ端からナマでしたいって言い出す男はくそ野郎だ。身体を許すなよ」
「わかった」
 グラディウスは恋多き男だが、そういった配慮はきちんとしている。
 アイルはどうせ抱かれるならば、この男の精液を腹に注がれたかった。
 身体の奥底まで満たされてみたかった。
 その願いも叶いそうだと心の底で嬉しく思う。

「……キスもいいのか」
 グラディウスが逡巡したが、アイルはコクリとちいさく頷く。
 目を閉じるとグラディウスの唇が降ってきた。
 最初は長い睫毛に。
 次は目の端に。頬をつたいぺろりとアイルの唇を舐めたかと思うと、ぬるりと唇を割って舌が入り込んできた。
「ん……っ」
 ちいさく抵抗しそうになったアイルの指を自身の指で絡めて、深く食らいつくように口づけを深めていく。
 逃げた舌を追い、絡め、唾液を啜る様に、くちゅりと音を立てて口づけを深めていく。
 そんな深く追い詰めていくような接吻に口付けすら初めてのアイルは息絶え絶えに翻弄されていく。
 んはっと唇が少し離れた際に息を吸うが、その息すら啜られるように再度口を吸われる。
 まったく慣れない様子のアイルに、心の底から湧き上がる気持ちに名前を付けずに、グラディウスは煽情的な笑みを浮かべる。

「アイル。これがキスだ。覚えろよ」
「あっああ……んぷっ」
「舌を絡めて、こうやって、深く交わるんだ」
 アイルの下唇を甘噛みしながら、アイルのシャツのボタンをはずしていく。
 はだけたシャツから手を差し入れ、小さな胸の突起をなぞり、器用に脱がしていく。
 脳髄を掻き乱すような口づけに翻弄されながら、アイルは身体に沿わされる手の熱さに身体の芯が熱を持っていくのを感じていた。

「あっ……は……っ。身体が、熱い……むずむずする……」
「上出来。触られて身体が拒絶をしないのなら、続けられるな。いい子だからキスに脳みそを溶かしていてくれ。少し身体を触るからな」
 はふはふと息を吸うアイルの姿に、グラディウスは自分よりも一回り小さな身体のアイルに愛撫を施す。
 胸から腹を撫で、腰を抱く。
 脱がしたシャツの下、綺麗な背中に指を添わせても小さく快楽に震えるだけだ。

 グラディウスは女性ならば胸がふくよかで、太ももなどにむっちりと肉の詰まった女を好む。 
 男でもそうだ。筋肉がしっかりと付き、自分と同じかそれ以上の体格の男を組み敷くことを好む。
 華奢な男などは好みではなく、細身であれば女性のような柔らかな身体の方が良い。

 だが、今はどうだろうか。
 アイルはそのどちらとも異なるのに、グラディウスの手に妙に馴染んだ。
 細いが、綺麗な筋肉の付いた身体。抱き潰してしまうほどに腰は細いのに、薄い尻を揉み扱いてしまう。
 恐る恐るといったように、アイルが腕を首に回してきた。
 きゅっと縋るように。その様子にくらくらしてしまう。

「んんっ」
 深く舌を絡める。
 飲み込み切れなかった唾液が口の端から顎まで伝う。
 それすら舐めとる時間が惜しく、ぐちゅりくちゅりと音を立てて口内を蹂躙していく。

 「まっまって、おか、おかしい、まっ」
 とろんとしていたのに急に焦りだしたアイルに、正気に戻す隙すら与えず、あむっと口を塞ぐ。
 アイルはたまらないと言わんばかりにぷるりと震える。
下穿きまでは脱がしていなかったので、色を変えたそこに何があったのかを悟る。
 グラディウスはにやりと笑ってしまった。 

「なんだ。お前、キスだけでイッたのか」
「まてって、言ったのに……こんな……気持ち良すぎて……うっ恥ずかしい……」
 首だけではなく胸元まで真っ赤に染めたアイルが可愛くて可愛くて。
 グラディウスの増長した独占欲が満たされる。

「これからもっとすごいことをしてやるのに。……忘れられなくなるぐらいにな」

――それこそ、他で満たされる事などないほどに。強く深く、こいつの心と身体に爪痕を。

 下半身の衣類を全部取っ払って、アイルが正気に戻って拾えないようにとベッドの下に投げ捨てる。
 一度イッたアイルのものが可愛くふるふるとしていたので、ぱくりと咥えるとずじゅるるっと吸い上げる。

「まっまって、グラディウス……あっおかしくなる……ふぁっ……あぁ」
 アイルはしゃぶりだしたグラディウスの頭を弱い抵抗で退けようとするが、より強い力で吸われてびくんと身体をしならせるばかりだ。
 じゅぷじゅぷと吸っていると、だんだんとアイルのものが勢いを取り戻してきた。
 普段清廉としたアイルを快楽に落としていくのは、本人が望んでいることとはいえイケナイことをしているようで、グラディウスはぞくぞくとした。

 ずるるっと強く吸い上げてからちゅぱっとアイルのものから口を離す。
 ふ……ふっ……と荒い息を吐いているアイルの瞳から零れた涙を小さく音を立てて唇で癒すと、用意していた高粘度のオイルを掌の上に大量に出して温める。
 アイルの身体を自身にもたれかけさせるように抱くと、耳を嬲り始めた。
 ふぁっと小さく喘ぐものだから、ちゅぱちゅぱと耳や首を舐める。
 そちらに気を取られている隙にグラディウスはオイルをアイルの臀部にたっぷりと塗り込める。
 首や耳を吸われる快楽に脳がほどけている間に、一本くぷりとオイルと共に挿入する。
「ひっ」
 小さくアイルが鳴き声を上げれば、ちゅうっと吸い上げて気を逸らし、太く無骨な指を狭い穴の奥へと突き入れる。
 きつく侵入を阻むそこをオイルで広げる。
 中は自分で洗ったとはいえ、ここを広げるところまで気が廻らなかったのだろう。
 そう思えば思う程、夜伽に慣れぬアイルが可愛く見えて、そのアイルに処女を捨てさせる選択を選ばせた男に怒りを抱く。

――ざまぁみろ。こんなにも初めての快楽に怯えて震えるこいつを一番最初に抱くのは俺だ。

「み、見えるところに跡は……っ」
 がじがじと齧っていた首筋を離すと肉付の薄い胸の乳首に齧りつく。
「んひゃっ」
「なら、見えないところならいいな?」
 小さな突起を舐めて齧ってしゃぶって、弄る。
 小さく喘ぐ声を聴きながら、肛門に捩じ込んだ指をぬちりと回し、くちくちと中を広げていく。
 中を広げるのは気持ちが良いことだ。
 そうアイルの身体に教え込むために、浅い部分の前立腺を狙ってとんとんと押す。
「あっ……そこ……ひん……む、むりだ……っ」
 良かった。アイルの身体は新しく覚えさせられた快楽に素直に応じてくれた。
 強く乳首をしゃぶりながら、指を二本、三本と中に入れていく。
 ぬちゅっと指を締め付けるものだから、ここに俺のを突き入れたらどれほど気持ちがいいだろうとグラディウスは陶然とする。

 まだ、ダメだ。
 最初に強い快楽を。
 痛み以上に耐えられぬほどの愉悦を。
 
 グラディウスは普段の性交では有り得ないほどの情の深さでアイルの身体を解していく。
 まだオイルで濡れる掌でアイルの腹を抑える。
 ぬるりとそこをさすると、アイルが喘ぐ。
「俺のはこの上の辺りまで入るからな。ここだ。わかるか?」
「んっ……わか、わかる……わかったから、も……もう……」
「……まだ今なら引き返せるぞ」
 もうとっくに引き返せないところまで、グラディウスの情欲は高まっている。
「嫌だ……後生だから……さいごまで……」
 涙目でぎゅっとグラディウスに縋るアイルに、必死に取り繕っていた理性の糸が千切れた。

 グラディウスはベルトを緩め、パンパンに張りつめているモノを取り出す。
 ぶるんと大きくそそり立ったそれは、アイルのものの二回りは大きく育っていた。
 ぬちぬちと数度オイルを纏った手でしごくと、とろとろに溶けているアイルの臀部に突き立てる。
 みちみちと、丁寧に広げられたアイルのそこでも巨根とも呼べるそれは大きく、頑張って大きく広げて飲み込もうとも亀頭すら中に入らない。

「はっあ……くっ」
 アイルは突き立てられた怒張のあまりの熱さに、息を止めて小さく喘ぐ。
「アイル。いい子だ。そう、いきんで……」
 縋り付くアイルの背を撫でながら、片方の手で臀部を限界まで広げ、先端を捩じ込もうとする。
 ぐ……ぐぐっと淵が赤くなるまで限界近く穴をこじ開けると、ぐぷんと亀頭が中に入った。
「はぐっ……はぁ……はぁ……」
 動き出したい気持ちをぐっと堪えて、いい子いい子と舌を吸う。
 背中から臀部に掛けて、緩やかになでながら、中が馴染むのを待つ。
 舌をちゅぱちゅぱと吸っていると、身体が弛緩してきた。
 その隙にとグラディウスはぐちゅっと竿を中に少しだけ進めた。
 くちゅくちゅと、ぬちぬちと小さく中を慣らすように突き入れる。
 少しだけ奥に進めると、亀頭が前立腺に当たるのだろう。
 喘ぐアイルの声に甘さが混じる。
「あっ……あっ……んくっ」
 その可愛らしく喘ぐ声がもっと聴きたくて、とんとん、ごりゅっと前立腺をえぐる。
「んあっ!!!」
 涙をこぼして喘ぐアイルに、もっとその声が聴きたいのだと、グラディウスはだんだんと腰の動きを早めた。

「声、もっと出せよ」
「ひっ……んくっ……声、僕が喘いでも、綺麗な声じゃ……」
 グラディウスが女性を抱くことを知っている。
 自分のような者の声では萎えないだろうか。
「俺は男だって組み敷くんだぜ。気持ちがいいって声を、もっと聴かせろよ」
 グラディウスが中をえぐる動きを速める。
「はっはっ……んあっ」
 
 彼のものが、中を蹂躙していく。
 情欲を帯びた灼熱の杭が、自身に打ち込まれる幸福にくらくらとする。
 最初は緩やかだった挿入が、だんだんと早くなり、前立腺をえぐり、奥まで届く。
 自分の嬌声が寝室に響く。
 グラディウスの低く息を吐き出す際の声が。額から零れる汗が。
 肛門近くまで抜かれ、一気に奥まで叩きつけられる彼の熱が。
 
 アイルにとってどれも初めての刺激で、彼との身体の交わりによって胸の奥底から幸福がせり出してくる。
「もっと、腹の奥まで叩きつけるからな。処女だからって容赦はしねぇよ」
「あっ……んあっ……奥まで、くれる……のか?」
「たりまえだろ。直腸の奥。この奥まで捩じ込むからな」
「……うれし……」
 ぽろぽろと涙が零れだす。
 そんな深いところまで彼は自分を抱いてくれるのだ。
 アイルは多幸感に瞳が濡れる。
 グラディウスはアイルのそんな様に耐え切れなくなって、アイルをベッドに張りつけにする。
 手を絡み合わせて、組み敷いて。
 アイルの身体の奥底まで捩じ込む。

 ぐぷりと、直腸の奥まで亀頭が届く。
「んあっ!!」
 びくびくっとアイルの身体が跳ねる。
 結腸まで貫いたのだ。グラディウスはさらにそこをこじ開けるように逞しく育ったペニスで何度も何度もそこを貫いた。
 薄いアイルの腹にくっきりと浮かび上がるほどに腰を叩きつける。
 ぱんぱんというよりも、ぱちゅんばちゅんと濡れた音を響かせて、挿入が激しくなる。

 空っぽの身体が、彼の形に満たされる。
 アイルはその激しさに喘ぎながら、彼からもたらされる幸福感に心の底から満たされる。
 彼にとっては友人の頼みを聞いてくれただけかもしれない。
 けれども、アイルにとって彼に抱かれたことは、今までに感じたことがない程に心が満たされた。

 幸せだ。
 幸せだ。
 彼が、今だけは僕を見てくれる。
 僕だけを見て、彼の身体も熱くなってくれる。

 脳みそが溶けるような快楽に、自身の開放も近い。
 ふるふるとそれを伝えると、直腸の奥の窄まりに亀頭を引っかけて、深く交わりながらどちゅどちゅと奥を刺激された。
「んあああっ」
 言葉にならず、大きく喘ぐと、ぴゅるりと小さく果ててしまった。

 その刺激で奥が蠢くのだろう。「くっ」と小さな彼の喘ぎと共に、どぷどぷと自分とは比べ物にならないほどの量の精液が奥に出される。
 小さく息を吐くと、とさりと彼の身体が覆いかぶさってきた。
 やっとそのときに、今までは自分を押しつぶさないようにと配慮されていたのだと知る。
 グラディウスは奔放な騎士と思われているが、その実思いやりのある男だ。
 こんなときでさえ、きっと彼は優しい。
 アイルは、そんな彼が自分の中で果ててくれたことを喜ぶ。
 腹を撫でると、ぼこりと膨らんでいる部分がある。そこを外から優しく撫でて、中に吐き出された彼の子種を想う。

「アイルさんよ……そんな撫で方されたら俺の息子が元気になっちまうんだが?」
「こんなことで元気になるのか? いい子いい子」
「……煽るじゃねぇの」
「もっと中で吐き出してくれないかなと……」
「処女喪失したばっかだっていうのに。まだ足りないか?」
 ぱちぱちとアイルは瞬きすると、望めば彼はまだ抱いてくれるのだろうかと腹を擦る。
 腹の奥で萎えたばかりのグラディウスのものが芯を持ち始めた。
「……ちなみに、俺は性欲が強い方なんだが?」
「そうか。腹がたぷたぷになるほどにいけるのだな」
「言うね」

 お望み通りにと、グラディウスはにやっと笑うと怒張を打ち付け始めた。

 
 どれほど交わっただろうか。
 文字通りにアイルの直腸どころか結腸の奥まで彼の精液で満たされるほどに。
 何者にも犯されたことのない慎ましやかなアイルの蕾が、最後はくぱくぱと淫らに閉じきらなくなるほどに。
 何度も体位を変えて互いの身体を貪り喰らった。

 動けなくなったアイルをグラディウスは横抱きにして湯場に運ぶと、丁寧に身体の奥まで洗った。
 アイルは彼の見た目に反した丁寧な洗浄に、ふと洗浄魔法があるのならそれで済むのではないかと脳裏によぎったが、彼が丁寧に身体を洗い、中を清めてくれるので、それに身を任せた。
 もちろんグラディウスも魔法には気が付いていたのだが、くぱりと穴を広げると自分の出した精液がアイルの白い腿を伝う様が見たかったので何も言わなかった。
 思った以上にその様はぐっときた。
 睾丸の中身が空っぽになっていなければ湯場で交わる事となっていたかもしれない。
 
 グラディウスは丁寧にアイルの身体を清め、髪を乾かし、自分の衣類を着せる。 
 だぼりとした様子を満足気に見つめると、シーツを引っぺがして新しいものを敷き、二人で寝転ぶ。

 アイルをすっぽりと腕の中に納めると、ピロートークではないが、ぽつりぽつりと話をした。
 最近の事、昔の事。従騎士時代のやらかしに、二人部屋が楽しかったこと。
 アイルは彼の腕の中でくすくすと笑う。
 
 いつだって、幸福は彼と共にあった。
 彼に抱かれてよかった。
 最後に体中を愛された想い出は、一人先に去ることになる自分にとって、幸福以外の何物でもない。
 アイルは、間違いなく幸せだった。

 グラディウスも、うつらうつらと彼と話しながら、心の欠けた部分にすっぽりと収まる幸福感を感じていた。
 なんだ。この友人は時が過ぎたら誰かの家に婿入りして道を分かつのかと思っていた。
 なんだ。こんなにもぴったりと心に嵌るのに、自分は足りないと探しまわっていたのだろう。
 肉欲的な女性との快楽も、体格の良い男性との運動にも似た性交も。

 なんだ。ここにあったじゃないか。
 ぎゅむぎゅむと自分よりも一回り小さなその身体を抱きしめる。

 グラディウスは迷わない。
 やるべきことがわかれば、すぐにそこに打ち込むことができる。
 アイルが好きだと言っていた名も知らぬ男。
 処女は好かないと言って、アイルが処女を捨てることを決意した男。
 
 身体からでもいい。奪おう。
 今日たっぷりと奥を暴く快楽を植え付けた。きっと普通の男では物足りなくなる。
 そうなるように、今日一日でたっぷりとアイルの身体を作り変えた。
 明日から。そう、夜が空けたら、一番に。

 彼を口説き落そう。

 なんてことを思いながら、グラディウスは眠りについた。


「グラディウス、今日はありがとう。……もう眠ったのか?」
 答えは珍しく幼く感じる寝息で返ってきた。
 アイルはへにゃりと表情を崩すと、グラディウスの髪を優しくとかす。
「ありがとう。ありがとう……君のおかげでとても幸せだ」
 今まで隣に居てくれたこと。
 最期に自分の願いを聞き届けてくれたこと。
 
 彼への想いは雪が静かに降り積もる様に、アイルの心にそっと降り注いでいった。
 心に蓋をして、表に出ないようにとしてきたのに、気が付けば欠片が零れ落ちるようでもあった。
 彼の恋人たちが羨ましくないといえば嘘になる。
 けれども、嫉妬の心に想いが潰されるよりは、ただの友人だったとしても彼の隣にいたかった。
 燃え上がるような苛烈な想いではなかったが、それは確かに、アイルにとっては大切な恋心であった。
  
 眠ることすら惜しいとアイルは夜明けまでその温かな身体に身を寄せた。
 アイルは、自分に魔法が使えたらよかったのにと心底思う。
 そうしたら、彼が自分の処刑が終わるまで眠りに付かせておけるのに。
 そうしたら、この夜の記憶を彼から奪うことだってできたのに。

 友人が処刑されるところを、彼が知ったらどう思うだろうか。
 言葉にしようとしたが、舌に刻まれた呪いが防ぐ。
 仕事だから仕方がない。国のためだから仕方がない。
 そう思っても彼はきっと悲しんでくれる。だからこそ、彼の悲しみが少なければいいと願ってしまう。
 できれば、彼が起きる前に済んでしまえばいいな。
 アイルは、唯一表に出せる言の葉を舌にのせる。

「グラディウス。僕の愛しい人。永久に、君の幸福を。君の幸いをこいねがう」

 言葉に出した瞬間、胸の奥につかえていた想いが救われた気持ちがした。


 アイルは多幸感に包まれて、夜明けまでじっと愛しい者の腕の中にいた。



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