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金鳴鳥の囀る朝に。
金鳴鳥の囀る朝に。 第六話
しおりを挟む静かに大樹から離れた影があった。
焚きつけた結果を見届けて、男は静かに森を移動する。
「ったく、最後まで世話の焼ける奴らだぜ」
金鳴鳥は男の肩に趾を喰い込ませ、掴まりながら男の頭を突く。
「痛てーな! 仕方ねぇだろ。あそこまで追い詰めないとあいつも本気にならねーし」
「ピィィ! 私の麗しい主様になんという無体を! ピィィ! 万死に値しますよ!!」
「そっち!? 気にするところやっぱそこなのかよ!」
「あぁお労しや……こんな野蛮な中年に身体を弄られるなんて……主様も可哀想に……」
「ちっそこはお節介の報酬だと思ってくれよ」
触れた唇は昔に交わした時と同じ感触だった。……掠れる程昔の記憶と同じであるならば。
亡霊と名乗り、数多の時を巡る男は独り言ちる。
「どれだけ時をやり直しても、あいつは……アイルは、俺では未来を与えることは出来なかった」
清廉なる騎士の彼の人は、自分の役目を放棄することも、未来を望むこともなかった。
ただ淡々と、自分の運命を受け入れていた。
亡霊が断頭台に上がる前の彼の手を引き逃げたとしても、彼に未来を望ませることができなかった。
ただその心を変える事ができるのは、彼にとっての騎士のみ。
今までどの世界の守りたい人にも、騎士がいた。
目の前で失われる絶望に、守れなかった者は慟哭し続けた。
その大くの嘆きを背負い、今この場に立っている。
男は森に入った彼らが最初に休憩した湖畔に足を向けていた。
一歩、二歩と進んで、大樹の元まで来ると崩れ落ちるようにもたれ掛かった。
ずるずると座り込み、大樹に背を預ける。
パキンっと硬質な音が響いた。腕を見れば、金鳴鳥が繋いだ腕が落ちていた。
その断片は黒い鉱石の様で、血は一滴たりとも零れてはいなかった。
「あーあ、さすがは俺。残っていた力全部使っちまったか」
対峙したのは本当に短い間ではあったが、あの男に本来持つ資質を越える程の力を指示した。
本来であればあの力でも十分生きていける。けれども、奪われない為には強さはいくらあっても良いだろう。
無力感と圧倒的な敗北に奮起しろ。
それが、亡霊の手向けだ。
目元を隠そうと残っている手を上げようとすれば、ボトリと地面に落ちる。
身体の崩壊が始まろうとしていた。
「銀鳴鳥とは別の存在として発現した私とは異なり、貴方は同一存在として理を捻じ曲げ具現化しました。その歪みも『願い』の力で圧し通してきましたが、『願いを叶えし者』となった貴方の存在を保つことはもう出来ません」
「あぁ、わかっているよ。俺は満足だ。……生きているあいつを……あいつらを見る事ができた。もう、十分だ」
幾星霜の時を巡り、何度も何度も願いの為にやり直してきた男の最期の時が迫っていた。
男の身体は魔石のような硬質な物質に変わっていく。
捻じ曲げた理が身に返り、純度の高い魔力の結晶となっていくようだった。
「なぁ……願いを叶えるクソ鳥さんよぉ」
「何です、願叶えし野蛮な男」
「お前との旅路、悪くないものだったぜ。狂っちまいそうになる時も、絶望に立ち上がれなくなっちまいそうな時も、お前の喧しい声で進む事が出来たしな」
「私も……悪くない、と言えば言い過ぎの様なので同行者が貴方でやぶさかでもない、とも言えなくもないのですが」
「最期ぐらいは素直になれよ」
「……願いの為に貴方と有れた事、光栄に思います。私はこの世界で、やっと主様と貴方と私が幸せになる未来を見る事が出来ました」
「……そうだな」
「長かった……あの日から。本当に長かった……」
「あぁ、やっと……俺は……あいつの元に逝ける……」
パキリと、身体の中から結晶になる音がする。
金鳴鳥はそっと男の痛覚を無くす。
最期の時まで、痛みで男が苦しまないように。
願いを叶える魔鳥と言えど、自分の願いを叶えることは出来ない。
同じ望みを願い続けた道連れに、祝福の眠りが訪れるように。
「あぁ……会いてぇな。アイルに……。他の俺のアイルにじゃない。俺のアイルに……」
どれだけ世界を巡り、アイルを救おうとしてきても、その世界のアイルにとってのグラディウスは亡霊ではない。
アイルの眼差しは、いつだって亡霊を見る眼差しだった。
彼をグラディウスとして見ていた彼は、一番最初のアイルしかいない。
「あいつは本当に生真面目で、清廉としていて、悪気なく人の事けなしてんのにクソ真面目で。たまに……笑うんだ。仕方ない人だなって。俺は、その微笑がむずむずして、心地よくて、いつだって酒を持ってあいつの部屋に行っちまった」
「私にはとても笑いかけてくれましたよ。いつも。貴方と違って」
「うるっせぇよ。浸らせろよ」
「ピィィ」
「会いてぇな。……会いてぇ。俺のアイルに……。なぁ、俺の身体、この結晶。純度の高い魔力なら、最後に一つくらい願いを叶えてくれねぇか。……昔、団長が言っていた、勇敢な騎士の魂がたどり着く場所。ヴァルハラ、なんて俺は御伽噺だって信じちゃいなかった。けれど、死者の魂が行きつく先がそこならさ、きっと……あいつもいるはずだから」
パキパキと男の結晶化が進み、鎖骨を越える。
「俺の魂を、運んでくれねぇか。俺のアイルがいる世界に。もし俺がヴァルハラに行けないなら、輪廻で巡ってでも今度こそ、あいつに会いに行くからさ」
この世界で死んでは、彼には会えない。……だから。
「シリル……願いを叶える金鳴鳥。どうか、頼む。俺をあいつの元まで送り届けてくれ」
死を迎えるのであれば、あいつの居る世界で。
金鳴鳥は優しい瞳で男を見つめる。
「グラディウス……良い夢を。世界の理を変えるほどの強い願いを叶えた者よ」
男の瞳はすでに何も映していない。
パキリと、結晶が割れる音がした。
「願い、聞き届けたり。この金鳴鳥が貴方を彼の人の元まで送り届けましょう」
金鳴鳥が結晶の魔力を纏い、金色の翼を広げて飛翔する。
金鳴鳥は人の願いを叶え、銀鳴鳥は人に希望を授け、銅鳴鳥は人に絶望を与える。
金鳴鳥の囀る朝に、永劫の時の果て。
男の願いを抱え、金鳴鳥は飛び立った。
暗い暗い……闇を越えて、グラディウスは微睡む。
微かに金色のきらめきが、脳裏を過り消え去った。
『……』
声が、した。
自分を呼ぶ声。
『……グラ……ウス』
胸の奥から愛しさが込み上げる。
あぁ、この声は、優しい呼び声は……いつも自分を呼んでいた、彼の呼び声で間違いなく――
「グラディウス」
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