つもるちとせのそのさきに

弥生

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転.なゆたのかなたへ 参

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参.傭兵、ラッキースケベを期待した寝室で項垂れる。


「よっと、大分片付いてきたな」

 しばらく掃除などをしていたが、できたのは居住空間を整えるぐらい。
 俺の荷物はとりあえず使っていなかった部屋に置くことにして、他はジーンと同じ場所を使う。
 そう、寝室も。

らい、もう終わりか? 夕食も済んだし、今日はゆっくりしたらどうだ」
「そうですね、あと片付けが終わっていないのは坊ちゃんの寝室ぐらいですから」
「寝室は私のテリトリーだからな! ちゃんと片付いているぞ!」
 片付いている、という言葉は一切信用していないが、プライベートエリアというのは十分わかる。

 落ち着け、息子。まだお前の出番ではないぞ。

「今日からは二人で眠るので、俺のちょっとした荷物(狂信者からのプレゼント)を置きに行っていいですか?」
「ああ! 許可してやろう!」
 よし、確か枕元に小さなチェストがあったはず。その一番下の段の奥の方に入れておこう。

 ジーンがロックを解除してまだ暗い寝室の中に入ると、窓に写る美しい風景に目を奪われた。
 淡い光を放つ小さな花が、窓一面に映し出されていた。
 その花の淡い光は、とても優しい色をしていて、少しずつ色が異なっていた。

「美しいだろう。淡く光る小さな人工花だ。何時の頃だったか、ここに来れば願いが叶うという噂が流れてな。稀に人が訪れることがあったのだ。と言っても叶えてやれる願いも私ができる範囲でしかないのだが。まぁ、民草がお礼をしたいというので、願いが叶ったらそこに花を植える様にと言ったらこうなったのだ」
 一面の光る花はどれほどあるのだろうか。
 幾千幾万……どれほどの人の願いを叶えてきたというのだろうか。

「ふふ、慰めの一つかもしれないが、この景色はなかなかのものだろう」
「ええ。暗闇にぼんやりと光り……とても素敵ですね」
「ははっお前に、お前に見せてやりたかったのだ」
 ほんと、ラッキースケベを期待していた浅はかな5分前の俺を張り倒してやりたい。

「私は、お前がいない間も少しは頑張っていたのだぞ? 褒めさせてやっても良いが?」
「ジーン、さすがあなたは神子です。皆を救った、比類なき俺の神子様です」
「ふふっ……あははっ私はずっと、お前のその言葉を待っていたのだ」
 嬉しそうに抱きついてきたジーンを受け止める。

 しばらく部屋の明かりをつけずにその景色に目を奪われていた。
 ジーンを抱き締めながら、二人でただただ淡い光を見つめていた。


「さて、もうそろそろ明かりをつけますか?」
「そうだな!」
 入ってすぐの壁を探り、部屋の明かりをつける。
 寝台に目を向けた時、あまりの光景に目を奪われる。

「っ!?」
「うふふっ驚いたか?驚いたか!?」
「こ……れは……」
「あははっその顔が見たかったんだ!」
 ジーンが一層笑顔になって俺にぎゅむぎゅむと抱き着いてくる。

「お前が昔作っていてくれた魔除け人形。全部、全部大切にしていたぞ? 初期にくれたものは年数がたちすぎて少しぼろぼろになってしまったが……。途中でコーティングして永年保管できる方法を見つけてな。寝台の物が置けるところに全部飾ってあるのだ」
「………っ」
「ふふっ嬉しすぎて声もでないか?」
「そ……れ……じゃなくて……」
「うん?」
「その奥の……」

「ああ、ズッキーニたちのことか?」

 寝台の物が置ける平たい場所に……確かに俺の作った魔除け人形たちが可愛く一列に並んでいた。
 だが、問題はそこじゃない。そこじゃないんだ!!!
 なんで、その奥に……俺の息子の形状の大人玩具ディルドが陳列してあるんだ!!!!!

「そちらに驚きすぎて魔除け人形の心的インパクトが全部ぶっ飛んでしまいましたよ!!!! なぜそんな準猥褻物が並んでいるんですか!!!!」
「可愛いだろう? 私のズッキーニたちだ!」
「色が浅黒くてちょっとリアルすぎてドン引くんですけど!!!?」
「なぜだ!?」
「いや普通に大人玩具ディルドが何本も並んでたら引くでしょう!!! というか何本あるんですか!! なんでそんなに作ったんですか!!!」
「むぅ、お前は何もわかっていないな!」

 とことこと可愛く駆け寄ると、左の端から1本ズッキーニを手に取る。

「まず、こちらズッキーニくん1号。あまりの寂しさに耐えられなくなって作った初号だ。お前のズッキーニの形状を思い出しながら造形した」
「うぐっ」
「次のこれがズッキーニくん2号。1号がちょっと硬い素材で生成してしまったからな。少し柔らかい弾力性のある素材で作ってみた」
「素材!?」
「それでこれが次のズッキーニくん3号。思ってみたのだが、この形状はお前のズッキーニの通常時の姿でしかない。こう、ぎゅむぎゅむと揉んで刺激すると膨張する素材で作ってみた。どうだ、膨らんできただろう? 昔の中の感覚を思い出しながら膨張率も調整したから大きさの再現も成功しているのだ!」
「無駄に匠の技!!」
「さらにズッキーニくん4号。こちら動かないズッキーニくんが可哀想だったので、スイッチを押すと小刻みに動くようにしてみた」
「技術的進歩!!!」
「ふふん期待にお答えズッキーニくん5号! こちら4号に改良を重ね、三段階で刺激の強弱が付くようにしてみた!」
「三段階調整!?」
「さらにさらに! ズッキーニくん6号はやはり本物に少しでも近づけないといけないと、もぎゅもぎゅ揉んで拡張した後、振動をマックスにして震え続けると中から身体に優しい白濁色オイルが吹き出す仕様!」
「おい絵面えづらがえぐいことになっているぞ!」
「普通の刺激では物足りない、そんな時にはズッキーニくん7号! 今までの性質に追加して、突起物を追加してより刺激がでるような変形エディションを追加してみた!」
「さらに形状がえぐくなってる!?」
「単調な動きでは飽きてしまうからな! ズッキーニくん8号はより刺激的な動きを追求して、こう、アグレッシブな動きもできるような18の動きを追加してみた!」
「うああああ!大人玩具バイブにありえないような動きをしている!!!」
「そしてこれが完成形! ズッキーニくん9号! この左右に大きく揺れるアグレッシブな動きに追加して、七色に光り輝きながら25時間動き続けるエクストラミラーボール仕様を搭載!!」
「うああああ!!! ゲーミングPC並みに光ってんじゃねーか!!!!」
 レインボーに光り輝きながらびったんびったんとズッキーニが踊っている!! ここは地獄か!!

 慌てて踏み込み、ジーンが握っている俺の息子型のレインボーダンシングズッキーニを叩き落とす。

「な! 何をするんだ!!!」
「俺の息子型玩具をなに魔改造しているんですか!!!!」
「お前の息子だから色々と性能をだな!」
「枕元に性玩具並べないでくれませんかね!!!?」
 すげーよ!今日色々とあった感動がすべて吹き飛びそうだよ!!
 あと意識も飛びそうだよ!!!

「むぅ。頑張って作ったのに」
「はいはい、このズッキーニたちはしまっちゃいましょうね」
「むぅぅ」
 ジーンがぎゅっと掴んでいた初号機も取ってチェストの奥に全部仕舞う。
 むしろ、これでジーンが身体を慰めていたなどと思うだけで捩じり壊したいという破壊衝動が湧き上がるが、そこはぐっと我慢する。

「はー、なんて……なんてこんなにエロく……」
「お前が悪いのだぞ」
「た、確かに俺が長年離れていましたもんね……」
「お前が……お前があんな、忘れられないぐらいの快楽を残していくから……」
「……っ」
 ぽか、ぽかぽかとジーンが俺の胸を力なく叩く。
「私にとっては、毎日だったのだぞ? 毎日、あんな……お前が身体の一部として馴染むぐらいに拡張されて、身体の奥が、切なくて、だから……だから……」
「っ!! ジーン、それは、それはすまない…」

 ああ、そうだ。
 そんな風に……そんな身体に作り変えてしまったのは俺だ。
 ジーンの未成熟だった身体を開き、快楽を植え付けていったのは俺だ。
 そんな性に目覚めた身体を千年も放ってしまうことになったのは、俺の責任だ。
 ズッキーニくんに……嫉妬なんてする権利は俺にはない。

「性欲の塊であるお前が喜ぶようにと準備してやったのに……怒られるのは不服だ」
 ………ん?
 ……んん? 性欲の、塊?
「俺、別に性欲は……いや、再会の時から言っていましたね。坊ちゃんの中で俺のイメージってなんなんですか?」
「毎晩毎晩盛ってくる性獣」
「そうでしたね!!! 俺にとっては1年に1日でしたが坊ちゃんにとっては毎日でしたね!?」
「毎日毎日、何回も中に大量に吐き出して、その後も後ろから中に入ってくるから本当にこいつは性欲の塊なのだなぁと思っていたのだが」
「冷静に言われると辛い!!!!」
「だからお前の性欲に満足してもらおうと、私は色々と準備をしていたのだが……。お前は股間を押さえて前かがみになるだけだし」
「それは仕方がない事案で……」
「襲って来ないし、甘い雰囲気にもならないし。むぅぅ、私のいちゃいちゃ計画が狂いまくっているぞ!」
「いや、俺も寝室でいちゃいちゃイベントが始まるかと思っていたらズッキーニがお出迎えするとか思っていなかったんですって」

 力なくポスリ、と叩いたあと坊ちゃんの優しい殴打が止まる。

「坊ちゃん。仕切り直しますね。俺は、ジーン……あんたが好きだ。あんたのためならなんだってやれるぐらいに、その、好いている。だから、もう一度、俺と育んでくれませんかね」
「お前は“私のもの”だからな。お前の愛を受け取ってやろう。ふふっお前だけが私に触れられるのだ。存分に愛せ。丸っとお前の全部を愛でてやろう」
 はぁ、本当に最強にえぐいぐらいに、クソ可愛い坊だ。

 甘えてくる坊ちゃんの膝にぐっと手を差し入れて、抱き上げる。
「さ、あとで俺を殺してくれる服を着てくれるんでしょう? 風呂に入りましょうか」
「そうだな。拡張もしないといけないしな」
そうそう、俺の息子はちょっと大きいからって……ん?


 ――使おうとも思ったのだがな。
 ――昔から自分の指ですら中に入れるのは怖いのだ。お前の形状はしていると言っても異物は異物。私が受け入れられると思ったのか?

 なんて、耳元で甘く囁くものだから、腰から砕けて崩れ落ちそうになった。

「はーーーーーー俺を殺しに来てる……」
「ん? お前のズッキーニも大きくなったな。いい子いい子。昔にお前として以来だから、また拡張しないといけないが、前に比べたらそんなに待たせはしないだろう」
「16年は掛からないでしょうね……」
「というか、あんな尋常じゃない動きをする物など本気で中に入れることができると思ったのか?」
「俺ですらまだ入れていないのにあのズッキーニたちは……て破壊しなくてよかったですよ……本当……」

 砕けた腰に力をいれて、大切な俺の坊ちゃんを浴室にお運びした。








 ちなみに、これまた死ぬほど余談だが。
 いや、余談であってほしいと願ってしまったが。


「ストロベリーミルクの匂いがするな」
「そうですね。何種類か軟膏持っているんですが、美味しそうなのを選んでみました」
「ふふっ甘い匂いがしていいな。しかし、頑張ったが指、全然入らなかったな」
「これからゆっくり拡張していきますよ。というか、あのズッキーニたちを見たから、ゴムの大きさを墓守たちも知っていたのか……滅茶苦茶しんどいな……」
「まぁ、可愛いあのズッキーニたちはインテリアとして飾っていたからな。清掃に来たものたちは見ていただろうな」
「最悪なインテリアだな!? ぐううう、クソ恥ずかしいぜ……」
「ふふん!立派なズッキーニだったからな!見た者はこう、大きさを確認して、私の顔を見返していたぞ!」
「そりゃそうですよね」
 坊ちゃんは基本内面と真逆の儚そうな美貌の青年だもんな。二度見はするだろうな。

「だからちゃーんと言ってやったのだ! これは“私の”だと!」
 ………。
 …………。
 ……………?

「…ん?」
「墓守がもじもじとしていたからちゃーんと言ってやったぞ? らいを(私の中で)可愛がってやっていると!」
 ……おれを可愛がる?

「なんだかとても驚いて私とズッキーニを交互に見ていたが、どうやらこの大きさが私に入るのかと驚いていたのだろう!」
「え、その、ズッキーニは私のって言ったのか?」
「うむ! お前のものはすべて“私のもの”だからな! お前の本物も、私の中以外に入るのを許さないぞ?」

 劉との会話を思い出す。

『あの御方にお前風情が触れるなど憤怒で狂いそうになるが、もしもあの御方が(お前に入れるのを)望まれた時のためにな』
『……ナニコレ』
『ストロベリーミルクの香りのする軟膏だ。それとこちらはバニラのフレーバーのする避妊具』
『………コレナニ?』
『あとはもしも(お前の尻が)切れてしまったときのための傷を塞ぐための軟膏だ。あとは(お前の尻を)拡張するときにつかうのはこの薬だ。たっぷり使えよ』
『……ぇ…』
『あの御方の為だからな。いいか、あの御方を(お前の尻が狭すぎて)苦しめてみろ。死ぬ一歩前までは削るからな』

 最悪の勘違いに膝から崩れ落ちる。


「その話が伝わったのか、ある時、貧相な身体の墓守が来てな。どうやったらあそこまで大きくなるのかと聞いてきたんだ。私がお前のズッキーニを大きく育てたからな! ちゃーんと答えてやった! “毎日毎日可愛がってやったら、あそこまで大きくなるのだぞ”っと!」
「ひっっ……」
「そうしたらなぜか私の下腹部を拝みだして“マーラ様”と呼び出してな?」
 うあああああ!! 情報端末で調べてはいけない単語上位に入る単語だ!!!!

 あ、だめだ。現実を受け入れられない……。
らい? どうしたのだ? そんな床に縋り付いて……。床を抱きしめてないではやく私の身体を抱き締めろ。撫でて、優しく昔話を語れ。私が眠るまでずっとだぞ?」

 あ、ああ……ああああ。



 ちなみにその後来訪した墓守達が、誰も彼も生暖かい目で切れ痔用の軟膏を手渡してきて、全世界の俺が泣いた。

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