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第三章 行く末
恐れている事は
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ギンフォン国の南にある熱帯の町、ランドリー。
ランドリーとは逆の位置にある、スイナーと言う町は、海が見えるとても涼しい所だった。
海に囲まれたギンフォン国は大きな島国。ギンフォン国と呼ばれる大きな島は、垂直に近い傾斜の地形の上に存在し、海に面した所はすべて崖がある。崖の先端に立つと、真下は小さな砂浜と海が見える。
崖の上に作った町、スイナーは、他の町から大分離れた所に位置し、孤立した町だった。
タウンを持たないスイナーは、ギンフォン国の中で一番に小さな町。人口が少ないため、食材は行き届き、スイナーの村人たちは安定した生活を送っていた。
スイナーに住む人が、他の町へ向かう事はあっても、逆に訪れる来客は、ほとんど、いない。数年間の間で町へ訪れた来客はサイキ・ハイレンぐらいだ。
崖がある事から、とても危険な町として知られているスイナーだったが、緑に溢れ、森に囲まれているため、食材がとても豊富な町でもあった。
ティランの雷が空を覆った頃、頭上を見上げた村人たちは、目を見開いた。
スイナーに住む風の子、ミライ・ナウルも、両親に抱かれる中で空を見上げている。
「雷…」
ミライは呟く。
辺りが動揺する中でも、大きな光を見上げた風の子は、涼しい顔をしていた。
「あれは…」
ミライを抱いている母親は、喉から絞り出すような声を出す。彼女は感覚的に感じ取ったようだ。あの光は自分の息子と同じく、神々の子の力である事に。
「おい!」
二人の元へ駆け出したのは、風の子の父親だ。
「あなた! あれは」
ミライを抱きながら、風の子の母親は焦ったように声を上げた。
「あぁ、ただの雷じゃない」
父親は低い声を出す。
両親のただならぬ雰囲気を察したミライは、母親の肩に置いた手を、力を込めて掴んだ。
「ミライ…大丈夫だよ」
風の子の母親は、ミライに優しく声を出した。
町に同じくらいの子供がおらず、大人の中で育ったミライ・ナウルは、両親や村人からの愛情を一心に受け、心が優しい子供へと成長した。その反面、小さな村から出た事がないためか、とても気弱で臆病な部分を持つ。
「ナウルさん!」
ミライを宥めるナウル一家の下に、スイナーの代表を務める男が駆け付けて来た。顔を埋めていたミライは、顔を上げてスイナーの代表を見る。
「今のは神々の力ですよ」
スイナーの代表は、息を切らしなが言い、深刻そうな顔をして眉を顰めていた。ミライの両親も、真顔で彼を見詰め続ける。
「サタラーが動かなければいいですが」
ミライの父親は静かに言うと、ミライを抱く母の手に力がこもったかのようだった。
いつしか、空を覆っていた光は消え去り、いつもの青空が広がっている中、ギンフォン国民は混乱した面持ちを見せる。その中でも、神々の子、奇跡の子らの親たちは皆、不安そうに顔を見合わせたのだった。
風の子の親である彼らも、スイナーの代表の顔を見ながら眉を顰めた。
「会議は開かれるが」
頭上を見上げながら、静かに言うスイナーの代表は「大丈夫だ。安心してくれ」と続けた。
スイナーの代表は妙に落ち着いていたが、ミライの両親は不安そうな面持ちで立っていた。
彼らが最も恐れている事は、大きな力を目にした時の、町の代表たちの話し合いだった。
ギンフォン国で一番大きな町の"ギンハン"の代表を務めるサタラー・ミンハが、話し合いの際には各代表達をまとめる存在である。彼がさまざまな決定権を持っている。
ギンフォン国の空を覆った光によって、大きな力を目にした事により、各町の代表たちが集まり話し合いが行われる事を、奇跡の子、神々の子たち両親たちは避けたいようだった。
ミライの母親は、不安そうに目を伏せながら「闇の子のような決定だけは…」と呟いた。
彼らは思い出していた。かつて、代表たちが集まり、闇の大きな力を目の前にし、誤った決断を下した瞬間を。
「…………」
ミライは母の服を握りしめ、大人たちが目を伏せる姿を見ていた。
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