乙女ゲームに転生したようだが、俺には関係ないはずだよね?

皐月乃 彩月

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第2章 俺と攻略対象者と、時々悪役令嬢

08話 家族関係はドロドロ?

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突然現れた少女は、焦げ茶の髪に同色の目をした平凡な容姿に派手な格好というチグハグな印象だった。

“お兄様”って呼ぶってことは……

「何のようだい? リリス」

やっぱり、ゲームに出てくる悪役令嬢のリリス・ウェルザックで、間違いなかったようだ。
確か攻略キャラの第3王子の婚約者であり悪役キャラでありながら、他のルートでもヒロインの邪魔をしてくる忙しい強者のキャラだ。

「それはこちらの台詞です! 何故このような場所にお兄様がいらっしゃるのですか!?」

リリスは顔を赤くし、ひどくお怒りのようだ。

顔が怖い。
大抵の子供は怒っていても愛嬌があるものだが、それが皆無だ。
流石は悪役令嬢、7歳児にして既に迫力があるな。
服も真っ赤なドレスだし、化粧も子供の癖にすごく濃くて不釣り合いだ。

「リリスちゃんもお久しぶりね。元気にしていたかしら? リリスちゃんはまだ赤ちゃんだったから覚えてないかも知れないけど」

「無礼者っ! 卑しい平民風情がこのわたくしに気安く話しかけないでっ!」

母様が空気を変えるためリリスに話しかけるも、リリスは切って捨てた。

あ゛ぁ?
卑しい平民風情だと?
……よし、半殺しにしよう。
今後のための再教育だ。
子供だからって母様にそんな口聞いて許されると思うなよ?
というかその台詞、お前にブーメランだってこと分かってんの?

俺の怒りゲージはマックスに達した。

レイアスとリリスの母、クリスティーナ・ウェルザックは、固有魔法を持った伯爵家の嫡男と無理矢理結婚した。
レイアスは父親に瓜二つであるが、リリスはどちらにも似ておらず髪の色や瞳も平民に多いことから浮気相手の平民との子であると噂されている。
事実、ゲームでも伯爵との子ではないと明言されているらしいし、伯爵が死んでから出来た子供だ。
つまり、母様を平民扱いし蔑むことは、自分の血筋を貶めることに等しい。

俺が教育的指導をしようと口を開こうとしたが、その前に兄様の口が開いた。

「無礼なのはお前だ、リリス。突然押し掛けて、その言い種。そもそも、お前がこの離れに来ること事態、義父上に許可されていない」

無表情で淡々と兄様はリリスに言った。
一瞬誰だか分からなかった。
ほんの短い時間だが、俺の中の兄様は腹黒で少し変態だが面倒見が良くてニコニコ笑っていた。
こんな冷たい表情は知らない。
まるで、ゲームの設定と同じだ。
俺は驚愕した。

「なっ……だって、お兄様がっ!」

「僕は義父上からこの離れに入る許可を受けているし、家庭教師もセルバに頼んで今日は休みにしてもらった。そもそもお前が僕の行動に口出しする権利は無い。さっさと本邸へ帰れ」

兄様は冷たく命じた。
実の妹への情は感じられない。

「何故お兄様が、こんな妾の、下賎なやつらのことを庇うのですかっ!?」

リリスは叫んだ。
俺の前でまたも母様を侮辱した。
母様はここで話を割り込んでも拗れる事が分かっているのか、そんな暴言にも苦笑いを浮かべたままだ。

……こいつまだ言うか、本当に性格悪いな。

「下賎? ……それをお前が言うのかい?」

レイアスは蔑んだ目で見て言う。
リリスの血筋の事を暗に示唆した。

「っつ、失礼しますわ!」

1番触れられたくない事だったのだろう。
リリスは顔を強張らせた後、俺と母様を睨み付け庭を出ていった。

「……レイ君ちょっと言い過ぎなんじゃないかな? 妹でしょ?」

今まで沈黙を守っていた母様が、兄様を嗜める。
確かに妹に面と向かって言う事じゃない。

「事実ですよ。それにアレに遠慮は無用です。下の者に好き勝手にやっているようですし……本当にあれが妹だなんて思いたくない」

俺に見せた微笑みはなく、その目には軽蔑と蔑みしかない。
心底嫌そうだった。
母様もさっき迄とのギャップに驚いているようだ。

「リューもあれに近付いてはダメだよ? ……まぁか義父上がさせないだろうけどね」

兄様が俺に笑顔で言った。

アレって、兄様どんだけ妹のこと嫌いなんだよ……まぁ、俺も嫌いだけど。
確かに、ゲームではそういう設定とか聞いたけど。
……さっき迄、残念な感じだったからすっかり設定忘れてたよ。

「……僕もそろそろ本邸の方に戻るとするよ。また明日来てもいいかい?」

兄様が席を立ち上がり言った。
先程とはうってかわって、自然な微笑みだ。

「えっ? はい」

思わず言われるがままに頷いてしまった。

「それじゃあ、また明日リュー。カミラさんも今日はありがとうございます」

兄様はそれだけ言うと、俺達を残し庭を出ていった。


家族関係は何だかドロドロしているようだ。
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