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第3章 敬虔なる暴食
25話 聖焔
しおりを挟む「ギィアガガガカ゛ア゛っーー!!?」
ユーリは苦しみの声をあげながら、触手の様な靄を振り回し続けている。
まるで1つ1つが意思を持つかのように、不気味に這い回り周囲を破壊する。
「……大丈夫だよ、ユーリ。必ず僕が助けて見せるから!」
俺はどんどんユーリとの距離を詰める。
「イギィ゛ぅく゛!? だめ、ギィアッ! に、にげて、りゅぅ!」
ユーリは正気を取り戻したのか、俺に逃げるように言った。
「逃げないよ、俺は諦めたりにしない……約束、まだ果たしていないだろう?」
俺は更に近付いた。
近付く程に不快な気配を肌で感じた。
「りゅぅ…と、だめ!? ぅ゛ぐぁ゛ア゛アア゛ア゛ーーーァッ!!!!!」
「リューッ!?」
再度靄が俺に迫り、兄様が声をあげた。
「“ホワイト・サンクチュアリ”」
俺は魔法で防御し、更に近付いた。
完全ではないが不快感が少し和らぐ。
この世界はきっと乙女ゲームと同じ世界なのだろう。
現に攻略対象者や悪役令嬢も存在する。
この悪魔の召喚も恐らく設定(シナリオ)通りの事だ。
俺達の介入はイレギュラーで、放っておけばゲーム通りになった筈だ。
──ゲーム通り……
トーリ・クレイシスは悪魔と契約し、狂い、弱い立場にある筈の女子供を喰い殺し非道の限りを尽くす。
ユーリはそれを知りながらも止められずに、ヒロインに出逢うまで精神を病む。
そして最後にはトーリ・クレイシスは悪として、ヒロインとユーリに倒される。
これがゲームの設定。
変えられぬ運命。
しかし、ここで疑問が生まれる。
“果たしてトーリ・クレイシスは悪魔の力を祓われて、生きているのだろうか?”
“倒すとはどういったことなのだろうか?”
俺は須永 由奈の話の中で、生きて助かると言う話は聞いていない。
彼女の話ぶりからも生存はないと推測出来る。
つまり、トーリ・クレイシスは多くを救おうとして、多くを殺し最後には最愛の息子に殺されるということだ。
何て救われない。
そんなの全然ハッピーエンドなんかじゃない。
だってトーリがユーリを愛しているように、ユーリもトーリを愛しているのだから。
愛しているから、苦しくて憎かったのだ。
乙女ゲームは主人公の主観で、物語が進められる。
だからそんな結末でも、ヒロインにとってはハッピーエンドなのだ。
俺の中の奥底で、力が溢れてくるのが分かる。
ヒロインでは、トーリを救うことが出来なかった。
恐らく女神の加護は悪魔ごと、トーリを消し去ったのだろう。
もし仮にここで封印できたとしても、将来的にユーリはヒロインに滅ぼされるだけだ。
そんなことは絶対にさせない。
誰かじゃない、俺がユーリを救う!
俺の中で高まっていた力が急激に体から満ち溢れた。
──頭の中で唄が響き始めた。
「“我は清廉にして潔白、白き魂を持つ者”
“我は公正にして純白、邪悪を祓う者”
“今ここに星の導きのもと、邪悪を焼き払わん”
“アストラル・ファイア”」
俺は頭に浮かんだまま唄を詠った。
知らない筈の唄。
けれど、確かに俺の中にある唄だった。
俺の唄と共に白き聖なる焔が辺りに溢れ部屋を覆い尽くし、ユーリを靄ごと包み込んだ。
部屋に設置された禍々しい魔法陣や、黒い靄を焼き尽くしていく。
「グァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ーー!!??」
「ユーリッ!?」
ユーリは叫び声を上げて、ついには床に崩れた。
トーリはその声に、燃え盛る白い焔にも躊躇わずに飛び込んだ。
「大丈夫ですよ。この焔は邪悪なものしか焼かない、退魔の焔です。ユーリにとり憑いた悪魔のみを燃やし尽くします」
今なら分かる。
これは俺の固有魔法だ。
ずっと俺の中にあったもの。
俺の固有魔法の1つは退魔の力。
悪しきモノのみを焼き尽くす浄化の焔。
「…ぅう、…とぉさま? りゅぅと?」
トーリの腕の中で、ユーリの意識が戻り目を覚ました。
ユーリは服は所々破けているものの、身体には傷1つない。
「ユーリ! あぁ、本当によかった!! もう……駄目かと思って諦めていた。本当によかった、よかった!」
トーリ腕に力を込めて、ユーリを強く抱き締める。
声が震えており、涙を流しているようだ。
「……なぃてるの? …なかなぃで…?」
ユーリがトーリの頭を撫でた。
「っ! すまないっ! 私の浅はかな考えのせいで、お前まで捲き込んでしまった。……本当に愚かだ。大勢を救うどころか、息子を危うく失うところだった……」
そう言うと益々涙を溢れさせた。
ユーリはそれを見て、おろおろしてしまっている。
「本当に、よかった……!」
そんな2人を見て、俺も安堵のため息を溢しのであった。
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