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第3章 敬虔なる暴食
28話 出来ること。
しおりを挟む「くっ、空間魔法!? 今この国に転移の出来る程の使い手はいないはずです……残念ながらその案は実現しないでしょう」
不可能だとばかりに、トーリは首を振った。
「僕は空間魔法の“テレポート”を使えますよ?」
俺が使えるということが信じがたいみたいなので、もう一度言った。
「本当ですか? それなら……いやでも」
トーリは驚愕して喜びの色を見せたが、すぐに苦いものへと変わった。
「……何か問題でも?」
「いえ……仮に転移が使えたとしても、君はルーベンスに行ったことがないのでは? ……それでは魔法が使えても……」
トーリの言った不安は最もだ。
通常、転移はマーキングを施した場所にしか出来ない。
そして、俺はルーベンスを訪れた事がない。
俺も策があるとはいえ、実際に使用するのは初めてだ。
正直俺も100%出来るとは言い切れない。
「僕は以前から空間魔法について独自に試している事があるんです。行ったことがなくとも、座標を計算すれば転移は可能です」
「本当かなのかっ!? ……それなら少量でも物資を送ることが出来る!」
俺の説明に、今度こそトーリは喜色を浮かべた。
「いいえ、1度に大量に送れますよ。転移だと手間がかかるので、空間同士を扉で繋ぎます。そうすれば人も物も1度の魔法で行き来出来ます……ただ莫大な魔力を使うので少し休む必要がありますが……」
これなら一々魔法で転移させずに済んで、手間がかからないだろう。
物資も人間も必要な分だけ送る事が出来る。
結果的に使う魔力だって少ない筈だ。
流石に固有魔法は消費が激しいようで、現在残りの魔力が1/4以下まで減っている。
だが、2、3時間程休めば、魔力は必要量まで回復するだろう。
せめて全体の1/3の魔力は欲しいところだ。
「そんなことが出来るのかっ!?」
初めて聞く魔法にトーリは驚きを見せた。
「たすけられる…の?」
ユーリも驚いたのか、首を傾げて聞いてきた。
「うん。と言っても、実際使ってみないと分からないね……多少の誤差は出るだろうし。それでも町の近くには繋げられると思う」
「すご…ぃ!!」
ユーリは目を輝かせた。
「……僕だけじゃないよ、ユーリの力も必要だ。ユーリは回復系の固有魔法を持っているだろう? きっとその力で救うことの出来る命がある筈だよ?」
あと数時間で空間魔法は使用は出来るだろうが、その代わり俺の魔力はほぼ空になる。
俺は魔法が使えなくなるので、現地に行っても出来ることはほとんどない。
だがユーリは回復系の魔眼持ちだ。
身体欠損すら治癒すると言われる程の固有魔法なら、きっと必要になる筈だ。
「ぼく…が?」
ユーリは考えていなかったのか、ぽかんとした。
「うん。それに固有魔法を使わなくても、上級回復魔法を使えたよね。多くの人がユーリを待っている。だから行こう? 僕と一緒に運命を変えて欲しい」
ゲームでは決して救われない運命だった。
だけど、今ここに運命を変える為に必要な鍵は既に揃っている。
俺達ならそれが可能な筈だ。
俺はユーリに手を差し伸べた。
「ん! がんばる!!」
ユーリは俺の手をとって、強く握り返した。
「なら、王宮に早く連絡しないとね。支援は早ければ早い程いいから」
「私は教会で回復魔法が使える魔術師や、物資を可能な限りかき集める! レイアス殿、悪いが王宮への取り次ぎを頼んでも宜しいかな?」
兄様とトーリはてきぱきと動きだした。
「えぇ、リューもそれを望んでいますから。病原菌を抑えるために結界魔法を使える者も手配しておきます」
「頼みました! リュート君も今から準備が出来るまで少しでも休んで、魔力回復につとめてくれっ!ユーリっ! お前も休んで魔力を少しでも回復させなさいっ!!」
それだけ言うと、トーリは足早に部屋から出ていった。
「じゃあ、僕も王宮へ向かうけど……」
兄様は俺の様子をちらりと見る。
「僕はここを少し片付けてから休みます。後で落ち合いましょう。それと兄様、ジョディーに連絡をとってください。試作ですが、魔導具が幾つか仕上がっている筈です。持ってきてくれるように頼んでください」
今日の夕方過ぎには持ってきてくれる手筈だったので、何個かは既にある筈だ。
ぶっつけ本番での使用になるが、無いよりはマシだろう。
「了解だよリュー。すぐに休むんだよ?」
俺の頼みに頷くと、兄様も足早に部屋を出た。
さて、俺も部屋を直したら少し眠ろう。
流石にもう疲れた。
幼児の身体には少しもハードすぎる。
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