乙女ゲームに転生したようだが、俺には関係ないはずだよね?

皐月乃 彩月

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第3章 敬虔なる暴食

29話 ゲート

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「リュー、起きてっ! 準備が整ったよ!」

俺は兄様に揺さぶられ起こされた。

「ぅう、ねむ……ふぁーぅ」

俺はヨロヨロと起き上がるが、まだ眠くて欠伸がでる。
あれから何れくらい時間がたったのだろうか。
疲れはまだかなり残っているみたいだ。

「魔力は……どうかな? 充分に回復した?」

兄様は俺の疲れた様子に、少し心配そうに聞いてきた。

「ん……大丈夫です。1/3位まで回復はしているので」

眠気眼で自分の魔力を確認する。
どうやら魔力は足りそうだ。
少し眠ったお陰で、魔力が回復している。

「みゃゅ…ぅむ…みゅぅ…」

猫のような寝言が聞こえる方へと眼を向けると、俺の隣でユーリがすやすやと眠っていた。
そう言えば、後始末を終えた後、ユーリの部屋で倒れるようにしてベッドにもぐり込んだのであった。
かなり疲れていたので、あのまま眠ってしまったのだろう。
俺だけでなく、ユーリも消耗していたから仕方がない。

「ユーリ起きて。準備が出来たみたいだ」

俺はユーリの肩を揺すった。
本当ならこのまま寝かせてやりたいが、事が事なだけにユーリを起こさない訳にはいかない。

「むぅぅ…ねむ…」

しかし、ユーリはまだ寝たりないようで、俺から逃げるように寝返りを打った。
幼い身体に悪魔の力。
相当な負担だったのだろう。

「ユーリ……」

少し可哀想だが、俺はほっぺをペチペチ叩く。

「ぬぅぅ…」

「全然起きないね……」

全く起きる気配のないユーリに、俺と兄様は苦笑いを浮かべた。

「ユーリ! おーい、起きてー!」

俺は先程より強く肩を揺する。

「んん…めっ!」

しかし、ユーリは伸ばした俺の手をパシンと叩き落とした。

「「………………」」

沈黙のなか、健やかな寝息だけが聞こえる。
ユーリは寝起きがかなり悪いみたいだ。

……さて、どうやって起こすか。

「……しょうがないな。“アイス”」

埒が空かないと思ったのか、兄様が魔法でユーリの上に沢山の氷の塊を出現させた。
氷がユーリの顔や首、手足に落ちる。

「っつめたっ!!?」

かなり冷たかったのか、ユーリは飛び起きた。
ただでさえ、子供は体温が高いから驚くのも無理ない。

「めっ!」

完全に目が覚め状況を把握したのか、ユーリは怒り出した。

「しょうがないだろう? 頬を叩いても、肩を揺すっても起きないんだから」

「むぅぅー」 

兄様の正論に、ユーリは渋々起き上がった。
俺もこれには同意しているので、何も言わなかった。

「……ユーリは魔力は大丈夫そう?」

「ん、……でも…いっかい…しか…つかぇ…なぃ…と…おもぅ」

俺達はベッドから下りて、部屋の入り口である扉に向かう。
ユーリの魔力の回復量が、予測していたより低い。
せめて4~5回分の魔力は欲しかった所だ。

「ユーリの固有魔法って、空間に対してかかるの? それとも個人を指定して?」

固有魔法の詳細は公表されていないので、俺はユーリに詳細を聞いてみた。
足りない分をどうにかする為に。
1度に1人のみの効果であれば、治療可能な一席を巡って争いが起きる。
出来れば空間にかかるものであって欲しい所だ。

「どっち…もできる! …でも…くぅかんにかけ…ても、はんい…せま…ぃ。ぼく…だと…じゅぅにん…くらぃ…しか…できなぃ。けっそん…も…むり」

ユーリは申し訳なさそうに答えた。
けれど、狭くとも範囲で掛けられるなら何とかなるかも知れない。
病気の進行や病状で優先度を決めて使用すれば、効率的に治療出来る。

「充分だよ、ユーリ。さぁ、最初は僕の番だね。行こう!」

俺は不安で揺れるユーリに、安心させるように笑いかけた。
寝起きで温かい筈なのに、すっかり冷えてしまったユーリの手を握る。
俺達は聖堂へと向かった。

「ここに皆集まっているよ」

少し前を歩いていた兄様が扉を開けた。
扉の向こうでは、様々な人々が行き来してごった返していた。
皆が慌ただしく動き回っている。
部屋の中央には、治癒魔術師や食糧、薬などの支援品も大量に準備されているのが見えた。

ここまでの準備をたった数時間で用意するとは……
兄様やトーリはかなり無理をしたのではないだろうか?

「ジョディーさん!」

俺は見知った顔を見つけて声をかけた。

「おぅ、リュートか! 話は聞いた! 試作機十機、いつでも使えるぞ!」

ジョディーは親指を立てて言った。
こういった場面では力強い。

「そうですか! よかった。これで治療は問題無さそうですね」

ユーリの魔法に、治癒魔術師。
そこに回復魔法の魔導具が加われば、かなりの人数の治療にあたれる。

「あぁ! 何せお前が術式を込めて、私が作ったんだからな! むしろそこらの術師の治療より、よっぽどいいぞ!」

だから、自信を持てと、ジョディーは俺の髪をぐしゃぐしゃにかいた。

「リュート!」

ぐしゃぐしゃにされた髪を直していると、ふいに名前を呼ばれた。
眼を向けると、そこにはいつもと変わらない父様がいた。

「父様っ!!」

俺は駆け寄り、そのまま父様に抱き付いた。
子供と大人の体格の違い故か、父様はバランスを崩す事なくしっかりと抱き止めた。

「何故ここに?」

「数時間前にレイアスから連絡が来たからな。……よくやったな、リュート。詳しい話は後で聞くが、お前のお陰で多くの人間を救うことが出来る」

父様は俺を抱き止めて、頭を撫でた。

うーん、急にドタバタしたからすごい落ち着く。
……やっぱり、転生して精神が身体に引きずられてるかもしれない。
暫くこのままでいたい気分だ。

「たった数時間でよくここまで集まりましたね」

「ああ、私の宰相権限で会議を通さずにやったからな。その分早く済む」

「えぇ!? それって大丈夫何ですか?」

父様はあっさり言ったが、俺のせいで後で責任問題になったら申し訳ない。

「国王の承認は得ているから問題ない。私用に使うわけでもないしな。それに会議なんか通していたら、1週間近くかかってしまうだろう。そうなれば手遅れになる者も出てくるかも知れない」

父様は力強く、俺を安心させる為に言った。

……あぁ、父様本当イケメン!!
母様が好きになっただけある。

「リュー、そろそろ……」

俺が離れる気配がないのを見かねて、兄様が声をかけてくれた。

いかんいかん、俺にはやるべきことがあるんだった。

俺は魔法を使う為、聖堂の奥の扉に近付いた。

聖堂内の人々の期待に満ちた眼差しが、あちらこちらから俺に突き刺さる。
皆俺が空間魔法を使えることを前提に、集まっている。
ここで万が一でもしくじったら、父様やトーリが責任追及されてしまうだろう。
ここでの失敗は絶対に許されない。

…………ダメだ、魔力を安定させないと。
余計なことは考えるな。
俺は出来る、出来る、出来る。
失敗なんてしない。
そう考えれば考えるほど、魔力は安定性を欠き手は震えた。

俺が不安に押し潰されそうな中、ふと別の視線を感じて顔を上げると、父様や兄様、ユーリや皆の姿が目に入った。
一切の不安もなく、ただ俺が成功することを確信している様子だった。

……そこまで信用されちゃ……裏切れないよね。

先程までの震えは収まり、顔には笑顔さえ浮かんだ。

もう、大丈夫だ。

「始めます!」

俺は中央に設置された扉に触れて魔力を流した。
先程とは違い、いつも通り魔力を操れる。

距離は北に1586……座標は……

扉に全体に魔力を循環させて、かの地ルーベンスへと繋ぐ。

「“ゲート《接続:ルーベンス》”」

俺は魔法名を唱えた。
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