63 / 159
第3章 敬虔なる暴食
30話 再生の光
しおりを挟む「“ゲート”《接続:ルーベンス》」
俺が詠唱すると、扉に魔法陣が浮かび上がった。
この場所とルーベンスを繋ぐ魔法。
この状況を打開する為の魔法を。
「開けて下さい」
俺は扉を開けて貰うように言った。
「おぉっ! これは!!」
一先ず、魔法が正常に発動したことに歓喜の声が上がる。
だが、問題は何処に繋がっているかだ。
あまり距離があいていては、救助に時間を要してしまう。
「確認、お願いします」
俺は近くに待機していた、ルーベンスを訪れたことのある神官に頼んだ。
「はい!」
神官は扉を通り、繋がった別の地点へ足を踏み入れる。
「間違いありません! 少し町外れになりますが、間違いなくルーベンスですっ!!!」
数分後、確認を終えて戻ってきた神官の声が聖堂内に響いた。
「うおおー!!」
「これで多くの人が助かる!!」
「ぼさっとするな! 行くぞ!」
神官の声の後、歓喜の叫び声が聖堂内をこだました。
そして、待機していた魔術師や食糧や薬を持った神官、兵士が一斉に動き出す。
「……よかった」
俺はその様子にふぅと安堵の溜め息を溢した。
当初の予定とは、少しずれたようだが想定の範囲内で済んだ。
……成功してよかった。
魔力も一気に使ったからか、力が抜けてふらつく。
もし失敗に終わっていても、すぐに2度目の空間魔法とはいかなかっただろう。
「お疲れ、リュー。流石だね!」
床に座り込みそうになった時、俺の肩を兄様が後ろから支えてくれた。
「流石に緊張しました。失敗なんてしたらシャレにならないのに、ぶっつけ本番で使うわけですし」
俺はそのまま兄様にもたれかかった。
「ははっ、全然そんな風に見えなかったけどね。リューらしいな! ……そういえば、この魔法は継続時間ってあるのかな?」
「いえ、ほぼ永続的なものですよ。だからこそ固有魔法並みの魔力を消費してしまいましたし。僕今、魔力空っぽです」
だからなのか、怠さが半端ない。
とにかく眠りたくて仕方がない。
立っているのも、少し辛いくらいだ。
魔力を全て使いきるととこうなるんだな、と頭の片隅で思った。
「やっぱり、リューはすごいな! 魔力使いきったのって初めてだっけ? 使いきると倦怠感が凄いから、後は任せて休んでなよ」
「はい、これはキツイですね。ですがまだ休むつもりはないです。僕も手伝いを……」
俺は自身の力で立つと、扉に向かって歩こうとした。
「まだ無理だよ、少し休まないと」
歩き出そうとしたところで、兄様に止められた。
「ですが……」
緊張しているであろうユーリについててあげた方が良いだろうし、指示くらいなら俺にも出来る。
これでも医療知識については、前世で身に付けている。
行って足手纏いと言うことはない筈だ。
「指示とかなら僕が代わりにするよ。ユーリも固有魔法は1回しか使えないからね。ルーベンスにいる患者の状態を確認するまで、出番はないよ。だから少し休んで?」
「…………分かりました……では簡単な指示だけお願いします。病状を5段階で分けて、対応してください。レベル5は固有魔法でしか治療出来ない方を。レベル別に分けてレベル5の方のみをユーリにやって貰えば、効率的に治療出来ると思います。魔導具は上級魔法を込めているので、レベル3、4の人を優先で。レベル2の方は下級の回復魔法で対応出来る方を。レベル1の方は魔法による治療でなく、薬による治療で対応してください。……それでは30分くらい休みます。ユーリが魔法を使うときは、起こしてください。絶対ですよ?」
「ははっ、分かってるよ。確かに治療は分けた方が、効率的だね。指示として伝えておくよ……それじゃあ、僕は行くから少し休んでね?」
俺は指示をお願いして、少し休むことにした。
俺は近くにあった椅子の上で横になる。
すると、すぐに眠気におそわれ、本日2度目の眠りについた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「リュー、リュー起きて」
肩を揺すられ俺は目を覚ます。
「にぃさま? ……っつう!?」
起き上がると頭が割れるように痛んだ。
眠る前に感じていた倦怠感もあまり取れていない。
やはりほんの少し休んだくらいでは、魔力はあまり回復しないらしい。
「大丈夫?」
痛みに顔をしかめた俺を、兄様は心配そうに覗きこむ。
「大丈夫です。ユーリは?」
「今からだよ。リューの言った通りに、病状で分けたから人数は何とかなりそうだよ。11人いて、ギリギリ可能だって」
「そうですか……よかった」
多くいた場合、命の選択をしなければならない。
ユーリにはその選択は厳しい選択になる。
そうならずに済んでよかった。
「うん、そうだね。じゃあ、行こうか?」
「はい」
俺は兄様に手を引かれ、魔法でルーベンスへと繋がった扉を潜る。
扉を通り見えたのは、慌ただしい光景だった。
「これは……」
「かなり酷いよね……最初、僕達が来たときも飢餓状態がすごくて、ろくに動ける人が居なかったよ」
町の中は酷かった。
井戸の中の水は悪臭を放ち、少しばかりはあったであろう田畑も荒廃している。
「こっちだよリュー」
兄様に連れられてやって来たのは、1つの家屋だった。
室内に入ると、床に布団を敷いて老若男女関係なく寝ている人達が見えた。
ここにいる人達は、レベル5の通常の魔法では手遅れな人達だ。
皆皮膚があちこち爛れ、腐り、餓えのせいで枯れ木のように痩けていた。
生きているのが不思議な状態であった。
「りゅぅと!」
部屋の奥にユーリがおり、俺の姿を見つけて声をかけた。
「ユーリ大丈夫?」
ユーリは緊張のせいか、ただでさえ白かった肌が更に白くなって顔色が悪い。
ユーリにかかる何人もの命への責任。
幼子に簡単に背負える筈がない。
「ん、…りゅぅとが…きてくれた…から、だいじょぅ…ぶ!」
「大丈夫、ユーリなら出来るよ。僕達がついてる」
俺はユーリを安心させるように手を握った。
ユーリの手は冷えて震えていたが、段々と熱を取り戻していった。
「…ん、……やる!」
少しの間そうしていると、ユーリは手を離して病に苦しんでいる人達に向き直った。
手をかざして詠唱を始める。
「“われはしんせいにしてきゅうさいしゃ、すべてをいやすもの”
“われはかみにあいされしせいじゃ、すべてをすくうもの”
“いまこのちにしろきひかりをふりそそがん”
“りじぇねれーしょん”」
その詠唱の直後、床に白き光を放つ魔法陣が浮かんだ。
一瞬にして部屋が光に包まれる。
「……発動したのか?」
俺は目を開けて患者を確認するも、治療された気配はない。
まさか失敗かと思った直後、部屋の中央に何かが浮かんでいるのに気付いた。
「……何だコレ?」
思わず言葉が溢れる。
それは頭に角をはやした白い馬だった。
前世に物語に登場したユニコーンに似ている。
ただし小さい。
ぬいぐるみの様な可愛いユニコーンだった。
「ゆに、おねがぃ!」
俺はユーリに聞こうとしたら、ユーリが先に口を開いた。
「きゅーぅっ!!」
ユニコーンはユーリに応えるように声を上げると、角から白い光を辺りに振り撒いた
その光を浴びた患者は、どんどん傷が癒えていく。
痩けていた体がみるみる健康状態まで戻り、腐敗して爛れた箇所も元通りに癒えていた。
「凄いな……」
その様は神聖なものだった……ぬいぐるみみたいなユニコーンがいなければ。
ユニコーンのせいで神聖と言うよりも、ファンシーな感じが拭えない。
「…ありがと! …ばぃ…ばぃ!」
「きゅーぃ!」
治療が終わったのか、ユーリはユニコーンに手を振るとユニコーンはまた魔法陣の中へ帰っていった。
まだまだやるべきことは多くある。
だがこれで大きな問題は解決したと言ってもいい。
ルーベンスは救われるだろう。
でも……
最後がこれってちょっと締まらないかな。
可愛いんだけどね?
11
あなたにおすすめの小説
最強スライムはぺットであって従魔ではない。ご主人様に仇なす奴は万死に値する。
棚から現ナマ
ファンタジー
スーはペットとして飼われているレベル2のスライムだ。この世界のスライムはレベル2までしか存在しない。それなのにスーは偶然にもワイバーンを食べてレベルアップをしてしまう。スーはこの世界で唯一のレベル2を超えた存在となり、スライムではあり得ない能力を身に付けてしまう。体力や攻撃力は勿論、知能も高くなった。だから自我やプライドも出てきたのだが、自分がペットだということを嫌がるどころか誇りとしている。なんならご主人様LOVEが加速してしまった。そんなスーを飼っているティナは、ひょんなことから王立魔法学園に入学することになってしまう。『違いますっ。私は学園に入学するために来たんじゃありません。下働きとして働くために来たんです!』『はぁ? 俺が従魔だってぇ、馬鹿にするなっ! 俺はご主人様に愛されているペットなんだっ。そこいらの野良と一緒にするんじゃねぇ!』最高レベルのテイマーだと勘違いされてしまうティナと、自分の持てる全ての能力をもって、大好きなご主人様のために頑張る最強スライムスーの物語。他サイトにも投稿しています。
一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫
むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。
転生したみたいなので異世界生活を楽しみます
さっちさん
ファンタジー
又々、題名変更しました。
内容がどんどんかけ離れていくので…
沢山のコメントありがとうございます。対応出来なくてすいません。
誤字脱字申し訳ございません。気がついたら直していきます。
感傷的表現は無しでお願いしたいと思います😢
↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓
ありきたりな転生ものの予定です。
主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。
一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。
まっ、なんとかなるっしょ。
[完結]前世引きこもりの私が異世界転生して異世界で新しく人生やり直します
mikadozero
ファンタジー
私は、鈴木凛21歳。自分で言うのはなんだが可愛い名前をしている。だがこんなに可愛い名前をしていても現実は甘くなかった。
中高と私はクラスの隅で一人ぼっちで生きてきた。だから、コミュニケーション家族以外とは話せない。
私は社会では生きていけないほどダメ人間になっていた。
そんな私はもう人生が嫌だと思い…私は命を絶った。
自分はこんな世界で良かったのだろうかと少し後悔したが遅かった。次に目が覚めた時は暗闇の世界だった。私は死後の世界かと思ったが違かった。
目の前に女神が現れて言う。
「あなたは命を絶ってしまった。まだ若いもう一度チャンスを与えましょう」
そう言われて私は首を傾げる。
「神様…私もう一回人生やり直してもまた同じですよ?」
そう言うが神は聞く耳を持たない。私は神に対して呆れた。
神は書類を提示させてきて言う。
「これに書いてくれ」と言われて私は書く。
「鈴木凛」と署名する。そして、神は書いた紙を見て言う。
「鈴木凛…次の名前はソフィとかどう?」
私は頷くと神は笑顔で言う。
「次の人生頑張ってください」とそう言われて私の視界は白い世界に包まれた。
ーーーーーーーーー
毎話1500文字程度目安に書きます。
たまに2000文字が出るかもです。
悪役令息の継母に転生したからには、息子を悪役になんてさせません!
水都(みなと)
ファンタジー
伯爵夫人であるロゼッタ・シルヴァリーは夫の死後、ここが前世で読んでいたラノベの世界だと気づく。
ロゼッタはラノベで悪役令息だったリゼルの継母だ。金と地位が目当てで結婚したロゼッタは、夫の連れ子であるリゼルに無関心だった。
しかし、前世ではリゼルは推しキャラ。リゼルが断罪されると思い出したロゼッタは、リゼルが悪役令息にならないよう母として奮闘していく。
★ファンタジー小説大賞エントリー中です。
※完結しました!
悪役令息に転生したけど、静かな老後を送りたい!
えながゆうき
ファンタジー
妹がやっていた乙女ゲームの世界に転生し、自分がゲームの中の悪役令息であり、魔王フラグ持ちであることに気がついたシリウス。しかし、乙女ゲームに興味がなかった事が仇となり、断片的にしかゲームの内容が分からない!わずかな記憶を頼りに魔王フラグをへし折って、静かな老後を送りたい!
剣と魔法のファンタジー世界で、精一杯、悪足搔きさせていただきます!
蔑ろにされましたが実は聖女でした ー できない、やめておけ、あなたには無理という言葉は全て覆させていただきます! ー
みーしゃ
ファンタジー
生まれつきMPが1しかないカテリーナは、義母や義妹たちからイジメられ、ないがしろにされた生活を送っていた。しかし、本をきっかけに女神への信仰と勉強を始め、イケメンで優秀な兄の力も借りて、宮廷大学への入学を目指す。
魔法が使えなくても、何かできる事はあるはず。
人生を変え、自分にできることを探すため、カテリーナの挑戦が始まる。
そして、カテリーナの行動により、周囲の認識は彼女を聖女へと変えていくのだった。
物語は、後期ビザンツ帝国時代に似た、魔物や魔法が存在する異世界です。だんだんと逆ハーレムな展開になっていきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる