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第4章 リュート君誘拐事件!?
12話 我が家はブラック企業?
しおりを挟む「随分、賑やかだね」
「兄様! もう予定はよろしいんですか?」
丁度昼御飯を食べ終わり、食後のお茶を飲んでいたところに兄様がやって来た。
予定はもう済んだのだろうか。
「うん。もう済んだよ」
そう言って、兄様は俺の隣の席に座った。
俺の隣は兄様の定位置になりつつある。
「レイ君はご飯もう食べたの?」
食べていなかったら用意して貰うけれど、母様は言った。
「えぇ、食べてきました」
兄様は微笑んで言った。
「……それで、彼等がリューの新しい従者達かな? リュー、紹介してくれる?」
兄様はスールとリオナに視線を移し、俺に言った。
どこか値踏みするような視線だ。
「はい。カラン伯爵家の五男、スール・カラン7歳とメイソン子爵家の三女、リオナ・メイソン8歳です。スール君、リオナさん、此方は僕の兄のレイアス・ウェルザックです」
俺は双方に、紹介をする。
「お初に御目にかかります。スール・カランと申します。よろしくお願いいたします」
「同じく、リオナ・メイソンです。よろしくお願いいたします」
2人は席を立ち、兄様へ頭を下げて挨拶をする。
「そう、カランにメイソンね……」
2人に向けられる視線に、俺まで緊張する。
スール達は兄様にとって合格か、否か。
俺には予想がつかない。
「ダメよレイ君! そんな難しい顔しちゃっ! スール君やリオナちゃんはいい子なんだから、仲良くしなくちゃっ!!」
スール達の事を気に入った母様が、兄様を咎める。
「すみませんカミラさん。君達もすまないね」
すると、兄様はすぐに何時もの微笑みを浮かべて、母様達に謝った。
心なしか部屋の温度まで上がった気がする。
確かに母様の気持ちも分からなくはないが、兄様の態度も分からなくはない。
あまり全面的に信用するのもまだ時期尚早だろう。
調査結果は問題なかったので、気にしすぎるのもあれなのだが…………
「ただ――」
兄様はスール達に目線を向け、笑みを浮かべる。
スールやリオナは普段耐性がないのか、少し頬を染めた。
「リューに悪影響を及ぼすなら、容赦なく切るからね?」
そして、最上級の笑みでそう言い切った。
今日も兄様は通常運転だ。
く、黒い!!
黒いオーラが滲みでてるっ!?
2人をそんなにビビらせないで兄様っ!
スールの下手くそな愛想笑いとは比べようもなく、兄様の笑みは完璧で美しい。
あまり感情を表に出さないタイプの2人が、思わず頬を染めるほどに……
が、最後のは眼が全く笑ってない。
その黒いオーラに、気付いたのだろう。
先程まで頬を赤く染めてたのが一転、顔を青くして震えている。
彼等は普通の子供だ。
あの威圧感には、耐えられない。
つまり、超ビビっていた。
「レーイーくーん?」
2人が怖じ気づいているのに気付いたのか、母様が兄様に声をかけた。
「仲良くって言ったでしょう! 言った側から、2人を怖がらせてどうするの!?」
「……すみません。でも言っておかないと、ね?」
兄様は肩を竦める。
反省はしていないようだ。
「……もうっ! レイ君ったら!! 2人も気にしちゃダメよ? 辞めさせたりなんかしないから!」
兄様の反省皆無な態度に、母様は諦めて2人のフォローをした。
まぁ、よっぽどの事をやらかさない限り俺もクビにする積もりはない。
シュトロベルンを避けるとなると、新しい人なんて中々見つからないだろうしね。
「「あ、ありがとうございます!」」
場の雰囲気に負けて、スールもリオナもたじたじだ。
そんな彼等を見ていて、俺はふと思った。
“そもそも彼等はウェルザックに、馴染むことが出来るのだろうか?”
何せこの家は濃い。
攻略対象者や悪役令嬢がいるのだ。
特に悪役令嬢(リリス)。
リオナは顔が整っているので、会ったら絡んで嫌がらせをするかもしれない。
この先、注意が必要になるのは確実だろう。
そんな最悪な環境に比べ、2人は優秀だが普通の子供だ。
この家での生活は、将来的に苦痛になるかもしれない。
何せ命の危険だってバリバリある上に、性格がくそ悪い悪役令嬢に、ブラコン腹黒な乙ゲー攻略対象者の三重苦だ。
当然の事だろう。
もし俺の立場だったら、いくら大貴族の家でも仕えたくない。
……前世だったら、家って結構なブラック企業だよな。
命の危険はある上に、パワハラまであるし。
俺は彼等が辞めないでくれることを切に願うのであった。
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