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第4章 リュート君誘拐事件!?
18話 横暴 sideスール
しおりを挟む──僕の仕える主は、とても凄い人だ。
僕の主であるリュート・ウェルザック様は、この国の宰相を勤めるヴィンセント・ウェルザック様の実のご子息で、この国の貴重な魔眼持ち。
本人も様々な才に溢れ、将来有望なことは間違いない方だ。
性格も温厚で我が儘も言わないので、とても過ごしやすい環境だと思っていた。
僕は伯爵家の五男として生まれた。
伯爵家ともなれば一応高位貴族に属する家になるが、家は爵位だけの貧乏田舎貴族だ。
そして家を継ぐ長男もいれば、補佐をする次男も既にいる。
女の子なら高位貴族への玉の輿も狙えるが、男の僕では厳しいだろう。
精々下位の、跡取りがいない家へ婿養子にいけるかどうかといった具合だ。
と言っても、家は財力や権力、コネが必要不可欠。
何もない家ではそれも厳しいだろう。
だからこそ、僕は将来どこかの高位貴族について、身をたてようと必要な知識や技能を身につける為に努力してきた。
公爵家から従者の話が来た時は、千載一遇のチャンスだと思った。
同性で年も近い。
こんなチャンスはきっと2度とない。
だから、正式に雇われる事になった時は、良い主に仕えることが出来て将来安泰だと安心していた。
それなのに────
◆◆◆◆◆◆◆◆
「っ、本気ですかリュート様!?」
「!!?」
僕はリュート様のあまりに突飛な発言に、思わず声を荒げた。
リオナさんも驚いているようで、言葉も出さずに目を見開いている。
「勿論、本気です」
こんな時に冗談は言わないと、リュート様はきっぱりと答えた。
その目に迷いは一切ない。
「……旦那様が許可する筈がありません」
「だろうね……」
旦那様は、絶対にお認めならないだろう。
無謀すぎる。
リュート様に甘い奥様も、絶対に反対する。
そんな事は聡いリュート様にも分かっている筈だ。
「なら──」
「だから、気付かれる前にやるよ? まぁ、後で必ずバレるだろうけど、その頃には解決済みだしね。後で大人しく叱られるとするよ」
僕の話を遮って、リュート様はそう仰った。
違う、そういう問題ではないです。
そんなことしたら僕達だって立場が──
「正気ですか!? 貴方は公爵家子息で、この国の貴重な魔眼持ちの一人なんですよ!?」
僕は必死に、リュート様を説得しようとした。
万が一にも、そんな危険なことをさせるわけにはいかない。
僕だって責任を取らされる事になる。
「全部分かっています。それに勝算なしに、こんな事を言ってるわけじゃありません」
「……勝算?」
リュート様は落ち着いた様子で僕達に仰った。
取り乱す僕に反して、その様子はどこまでも落ち着いている。
「はい、勝算はありますよ……ただ、その為に1度僕が誘拐されなければなりません。まあ、敵の目的が誘拐である以上、僕が害される可能性は低いでしょうし、殺されることはまずないから大丈夫ですよ」
それはそうかもしれないけど……そもそも、危険のある場所に自ら行くことが、間違っているんだ。
旦那様達に任せるべきだ。
リオナさんの妹さんには悪いけれど、僕にとって主の命とは比べるまでもない。
「リュート様、妹の事を気にかけてくれるのは大変嬉しいのですが、その様なことを貴方にさせる訳にはいきません」
今まで黙っていたリオナさんが、リュート様に弱々しい声でそう言った。
その表情は悪く、青を通り越して白くなっている。
今現在危険にさらされているであろう妹さんが、心配でたまらないのだろう。
「うん、僕を気遣ってくれてありがとうございます。でも僕のせいで、リオナさんの妹は誘拐されてしまったのだから、その責任を僕が取りたいんです。この方法の方が、妹さんを無事に救出出来る確率は上がる筈ですから」
リュート様がリオナさんと目を合わせ諭すように言った。
「しかし……」
リオナさんは躊躇いがあるのか、頷くことが出来ないようだった。
妹さんの事は心配だろうが、この1ヶ月共に過ごしてきた。
主を危険に巻き込みたくはないのだろう。
どちらかを選ぶことなんて出来ない。
無愛想ではあるが、彼女はとても情に厚い。
「……リュート様、とにかく1度旦那様に報告しましょう? 何か策があるにしても、僕達だけで判断は出来ません」
このままでは、リュート様が無理矢理策を実行しそうなので、僕は部屋を出て旦那様の所へ行こうとした。
《バタンッ》
「ダメだよ、スール君。この件は内密にして、妹さんを救出するんですから」
すると扉が勢いよく閉められ、リュート様はいつもの穏やかな笑みを消して、僕を鋭い視線で射抜く。
恐らく魔法で、扉から出られないようにしたのだ。
「え?」
「主命令って、やつだね」
僕が驚いていると、先程まで雰囲気とはうってかわって、ニッコリと微笑んで言った。
「君達には、必ず責任がいかないようにする。全ての責任は僕がとる。だから──」
僕達を安心させるように、それでいて思わず従ってしまいそうになるように。
「僕の我が儘を聞いて欲しい」
今までで、一番綺麗だと思えるような笑顔を浮かべて仰った。
僕の主は大変優秀で、温厚で、素晴らしい主だと思っていた。
僕は運がいいと。
いや、今もそうだと思っている。
ただ────
どうやら主は温厚で優しくはあるが、時々横暴だったらしい。
僕達は頷くことしか出来なかった。
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