乙女ゲームに転生したようだが、俺には関係ないはずだよね?

皐月乃 彩月

文字の大きさ
100 / 159
第5章 腐った白百合

07話 リュート君、キレる

しおりを挟む
   
「えぇ、ユーリア・ライト・ユグドラシア王女殿下……いえ、須藤 由奈、貴方にです」

「……え? な、何故それを?」

俺の言葉にユーリア王女、もとい須藤 由奈はあからさまな動揺を見せた。

やはり……そうか、そうなのか。

最初、王女を見極めてから話そうと思ったが、その必要はなさそうだ。
あの腐女子王女は、ある意味では有害だが人格的には無害だ。
ただ腐っているだけだ。
此方が転生者だとバラしたとしても、問題はないだろう。

「それは前世で貴方のことを、知っているからですよ」

「え? え?? ということは、まさか貴方も転生者!? しかも私を知っているって……依ちゃん!!」

須藤 由奈は混乱した頭で、何故か俺を為永 依子と勘違いをして抱き付こうとしてきた。
確かに俺の中身が彼女であったのなら、感動の再会であっただろう。

「違います」

俺は伸ばされた腕をヒラリとかわし、為永 依子ではないと否定した。

「え? じゃあ、貴方は誰なの?」

「僕は高校の時、その為永 依子と同じクラスだった瀬良 龍斗です」

須藤 由奈の問いかけに、特に隠す必要もないので本名を教えた。
特に話した事はなかったので、俺の事は知らないだろうが。

「瀬永……龍斗君? あの神童で有名だった?」

「まぁ、そうですね。……僕の事知ってたんですね。貴方はあまり他人には、興味ないと思っていました」

須藤 由奈はある意味で、マイペース、唯我独尊だった。
自分の興味ない事に対して、とことん意識を割かないタイプだ。
だからこそ、高校時代の昼休み周囲の視線を無視して、散々好き勝手出来ていたのだが。

「いや、流石の私でも知ってるよ! 凄く有名だったし!!」

「そうですか、それはよかったです」

須藤 由奈は頬を紅潮させて、拳を胸の前まで上げた。
そんな彼女を俺は適当に流した。
ゲーム情報シナリオは知りたいが、前世の思出話には興味がない。

「そう言えば、何で私だって分かったの? 元々私が転生者だって分かってたから、急に会いに来たんだよね? 今まで何の接点もなかったし……」

「貴方が転生者ある可能性は、高いとは思っていましたよ。個人を特定出来たのは、その独り言です……言っている事は、高校時代と大差ないですから」

本当にあの頃と悪い意味で変わっていない。

「あー、なるほど」

俺が説明すると、須藤 由奈はポンッと手を合わせて納得の表情を見せて。

「でも、よく覚えてたねー。流石は天才児!」

彼女はニコニコとそう続けた。

「……貴方には散々迷惑を掛けられましたので」

そんな彼女の態度にイラッときたので、つい文句を言ってしまった。
あの頃を考えれば、つい文句の1つも言いたくなる。

「え? そんな事……あったっけ??」

しかし俺の嫌味に、須藤 由奈はまるで身に覚えがないと首を傾げる。
嘘や知らない振りではなく、本心からそう思っているようだ。

「あ?」

見に覚えがないだと?
散々、不愉快な話を聞かせておいて?

「瀬永君?」

俺がいきなりの押し黙ったのを不振に思ったのか、須藤 由奈がどうしたのかと問いかけてきた。

抑えろ……どんなに迷惑をかけられた腐ってるやつでも、相手は王女。
王女、王女だ…………。

そう、相手は王女だ。
半殺しにしてしまうのはまずい。

本当、王女じゃなきゃ思いっきり殴るのに……一発、一発だけでも殴りたい。
いや、駄目だ……殴るのも問題になる。
一旦、冷静になろう。
そうでないと、本当に実行に移してしまいそうだ。

俺は頭を冷やすために、須藤 由奈から距離をとろうと窓際に移動した。
カーテンは閉めきられており、窓から光は一切漏れない。
それが、この部屋の陰鬱さを更に助長していた。

折角の部屋が台無しだな。
家具事態は最高級のものばかりなのに……。

気付いたのは偶然だった。
ふと何気なく窓際にあるテーブルに目を向けると、上には乱雑にペンや沢山の紙束達が乗せられていたのだ。

……ん?
何だこれ?

何となく中身が気になり、ペラペラとページを捲る。

この際、勝手に見ても問題はないだろう。
相手はオープンな迷惑腐女子だし……怨み辛みが山程ある。

俺は別に腐女子を非難している訳ではない。
個人の趣味にまで、口出しをする権利は俺にはない。
だが、苦手な奴に強制的に聞かせるのは違うと思う。
TPOは大事だ。

「あ、それは!」

須藤 由奈の慌てた声が聞こえたが、その時既に遅かった。
俺は、ガッツリ見てしまっていた。














────攻略対象者達の自作BL漫画を。




「…………………………………………………………」

「あのね、この世界ではBL漫画ってないから、私が布教しようと思って! 流行ると思うんだよね!! 隠れ貴腐人とか、絶対居るはずだし!」

須藤 由奈もとい、腐王女は俺の表情が見えないのか楽しそうにそう語り始めた。

「…………ふ、ふざけんじゃねぇ!!」

俺はあまりの事に思わず叫ぶ。

「ど、どうしたの!?」

俺の突然の奇行とも取れる行動に、腐王女が驚きの声を上げた。
その顔は俺が何故キレてるのか、全く理解しているようには見えない。

「どうしたの?、じゃねぇ!! この腐れ王女が!! お前、そもそも傷心で閉じこもってるんじゃねぇのか? あぁん? それが、何で創作活動に走ってんだ! 王様と王妃様の気遣いを返せっ!!」

そして、俺の気遣いも返せ。

俺は礼儀だとか、不敬だとか、全く気にせずに怒りに任せて叫んだのであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

最強スライムはぺットであって従魔ではない。ご主人様に仇なす奴は万死に値する。

棚から現ナマ
ファンタジー
スーはペットとして飼われているレベル2のスライムだ。この世界のスライムはレベル2までしか存在しない。それなのにスーは偶然にもワイバーンを食べてレベルアップをしてしまう。スーはこの世界で唯一のレベル2を超えた存在となり、スライムではあり得ない能力を身に付けてしまう。体力や攻撃力は勿論、知能も高くなった。だから自我やプライドも出てきたのだが、自分がペットだということを嫌がるどころか誇りとしている。なんならご主人様LOVEが加速してしまった。そんなスーを飼っているティナは、ひょんなことから王立魔法学園に入学することになってしまう。『違いますっ。私は学園に入学するために来たんじゃありません。下働きとして働くために来たんです!』『はぁ? 俺が従魔だってぇ、馬鹿にするなっ! 俺はご主人様に愛されているペットなんだっ。そこいらの野良と一緒にするんじゃねぇ!』最高レベルのテイマーだと勘違いされてしまうティナと、自分の持てる全ての能力をもって、大好きなご主人様のために頑張る最強スライムスーの物語。他サイトにも投稿しています。

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

転生したみたいなので異世界生活を楽しみます

さっちさん
ファンタジー
又々、題名変更しました。 内容がどんどんかけ離れていくので… 沢山のコメントありがとうございます。対応出来なくてすいません。 誤字脱字申し訳ございません。気がついたら直していきます。 感傷的表現は無しでお願いしたいと思います😢 ↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓ ありきたりな転生ものの予定です。 主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。 一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。 まっ、なんとかなるっしょ。

[完結]前世引きこもりの私が異世界転生して異世界で新しく人生やり直します

mikadozero
ファンタジー
私は、鈴木凛21歳。自分で言うのはなんだが可愛い名前をしている。だがこんなに可愛い名前をしていても現実は甘くなかった。 中高と私はクラスの隅で一人ぼっちで生きてきた。だから、コミュニケーション家族以外とは話せない。 私は社会では生きていけないほどダメ人間になっていた。 そんな私はもう人生が嫌だと思い…私は命を絶った。 自分はこんな世界で良かったのだろうかと少し後悔したが遅かった。次に目が覚めた時は暗闇の世界だった。私は死後の世界かと思ったが違かった。 目の前に女神が現れて言う。 「あなたは命を絶ってしまった。まだ若いもう一度チャンスを与えましょう」 そう言われて私は首を傾げる。 「神様…私もう一回人生やり直してもまた同じですよ?」 そう言うが神は聞く耳を持たない。私は神に対して呆れた。 神は書類を提示させてきて言う。 「これに書いてくれ」と言われて私は書く。 「鈴木凛」と署名する。そして、神は書いた紙を見て言う。 「鈴木凛…次の名前はソフィとかどう?」 私は頷くと神は笑顔で言う。 「次の人生頑張ってください」とそう言われて私の視界は白い世界に包まれた。 ーーーーーーーーー 毎話1500文字程度目安に書きます。 たまに2000文字が出るかもです。

悪役令息の継母に転生したからには、息子を悪役になんてさせません!

水都(みなと)
ファンタジー
伯爵夫人であるロゼッタ・シルヴァリーは夫の死後、ここが前世で読んでいたラノベの世界だと気づく。 ロゼッタはラノベで悪役令息だったリゼルの継母だ。金と地位が目当てで結婚したロゼッタは、夫の連れ子であるリゼルに無関心だった。 しかし、前世ではリゼルは推しキャラ。リゼルが断罪されると思い出したロゼッタは、リゼルが悪役令息にならないよう母として奮闘していく。 ★ファンタジー小説大賞エントリー中です。 ※完結しました!

悪役令息に転生したけど、静かな老後を送りたい!

えながゆうき
ファンタジー
 妹がやっていた乙女ゲームの世界に転生し、自分がゲームの中の悪役令息であり、魔王フラグ持ちであることに気がついたシリウス。しかし、乙女ゲームに興味がなかった事が仇となり、断片的にしかゲームの内容が分からない!わずかな記憶を頼りに魔王フラグをへし折って、静かな老後を送りたい!  剣と魔法のファンタジー世界で、精一杯、悪足搔きさせていただきます!

蔑ろにされましたが実は聖女でした ー できない、やめておけ、あなたには無理という言葉は全て覆させていただきます! ー

みーしゃ
ファンタジー
生まれつきMPが1しかないカテリーナは、義母や義妹たちからイジメられ、ないがしろにされた生活を送っていた。しかし、本をきっかけに女神への信仰と勉強を始め、イケメンで優秀な兄の力も借りて、宮廷大学への入学を目指す。 魔法が使えなくても、何かできる事はあるはず。 人生を変え、自分にできることを探すため、カテリーナの挑戦が始まる。 そして、カテリーナの行動により、周囲の認識は彼女を聖女へと変えていくのだった。 物語は、後期ビザンツ帝国時代に似た、魔物や魔法が存在する異世界です。だんだんと逆ハーレムな展開になっていきます。

おせっかい転生幼女の異世界すろーらいふ!

はなッぱち
ファンタジー
赤ん坊から始める異世界転生。 目指すはロマンス、立ち塞がるのは現実と常識。 難しく考えるのはやめにしよう。 まずは…………掃除だ。

処理中です...