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第6章 憤怒の憧憬
18話 面倒な兄妹を持った者同士
しおりを挟むそして、約束の昼食会当日────
「ほう……お前がスタッガルド将軍の子息か……将来が楽しみだと聞いている。俺はオズワルド・ライト・ユグドラシアだ。直に言葉を交わすのは初めてだな」
俺とユリアは勿論の事、オズ様や兄様、アシュレイとロゼアンナ・ディールという中々豪華なメンツが集う中で、先ずは一番地位の高いオズ様が口を開いた。
……というか今この部屋にいるの、俺以外皆乙女ゲーム関係者……攻略対象者3人と、悪役?令嬢が2人とか……散々王女に文句を言ったけど、俺も大概だよな。
気が付けば交遊関係は、いつも乙女ゲームの登場人物達ばかりだ。
「アシュレイ・スタッガルドです。本日はこのような場にお招き頂き、光栄です」
アシュレイが頭を下げて挨拶をする。
ロゼアンナ・ディールも、アシュレイの背後で静かに控え礼をとる。
「そう、固くなるな。お前とは1度こうして話がしたかったんだ。レイアスやリュートが随分世話になってるようだからな」
オズ様が兄様に視線を移して、意味あり気に口角を上げる。
「どちらかと言うと、僕が世話をしてるんじゃないかな? 手合わせに付き合ってあげているし」
兄様はオズ様の物言いが過ごし方不満だったのか、いつもの笑顔のまま訂正を挟んだ。
「そうか? それにしては、毎朝機嫌がよさそうだかな?」
その時の兄様を思いだしたのか、オズ様は更に笑みを深めた。
兄様を弄って、オズ様は実に楽しそうだ。
「は? 何を意味の分からない事を言っているのかな? まだ、老眼には早いよ? 眼鏡、作らせようか? あぁ、それとも目じゃなくて頭の病気かな? どちらにしろ、耄碌するには早過ぎるんじゃないかな」
けれど、そこで素直に弄られ続ける兄様ではない。
予想通り、兄様は直ぐに1つの嫌みに対して倍返しをした。
あれ?
何か不穏な気配が……今日は腐王女の友達作りの昼食会だった筈だよね?
何だか火花が散っている気がするのだが。
「……何だと? はっ! そう言うお前は、ヘタレもいいとこだな! ついこの前まで、何からも逃げていた奴が随分偉そうに喋るものだな!」
「逃げる? この、僕が? 本当に、医者に診て貰った方がいいんじゃないかな?」
そして俺の予想通り、更に激しく火花を散らし始める兄様達。
アシュレイ達もポカンとその姿を見たまま、ほったらかし状態だ。
「兄様、オズ様! 落ち着いて下さい! アシュレイ達もいるんですよ!」
俺は兄様達の仲裁に入った。
何で俺はこんな役回りばっかなんだろうか……運気が悪いのか?
今まで特に信じてなかったけど……風水、やろうかな……。
「む、……コホンッ、レイアス後で覚えてろよ。……すまないな、2人共。ロゼアンナ・ディール嬢も今日は来て貰い感謝する。どうか、ユーリアと仲良くしてやって欲しい」
オズ様は少し冷静になったのか兄様を睨みながらも、一旦は矛を収めた。
「……はい、私如きがユーリア殿下の御相手など恐縮ですが、精一杯努めさせて頂きます」
「固いな……そう、畏まらなくてもいい。ただ、ユーリアは立場や人見知りのせいか、リュートや俺達以外とはあまり話さなくてな……だから、ディール嬢には身分など気にせずにユーリアと仲良くして欲しいんだ」
オズ様はロゼアンナ・ディールの形式ばった挨拶に苦笑いを浮かべながらも、その目は真剣だ。
「はい、私如きが光栄です」
真面目なロゼアンナ・ディールは、力強く頷いた。
オズ様も何だかんだ言っても過保護だな……。
次期国王の命令なんて頷く他ないだろうと分かっていてなお、ユリアの為に権力を使った。
俺が言い出した事とはいえ、ロゼアンナ・ディールにはこんな濃ゆい性格の持ち主の輪に巻き込んで申し訳ない。
「……ユーリア殿下」
俺は、横で密かにガッツポーズをきめてる王女の名を呼んだ。
先程から成り行きを見守るばかりで、全く動く気がない。
流石に俺やオズ様に何もかもさせて、自分は何もしないのは駄目だ
「う、うん……初めましてロゼアンナ・ディール様。私はユーリア・ライト・ユグドラシアです! な、仲良くして頂けたら、嬉しいです!!」
ユリアは噛み噛みで挨拶をしながら、前へ出て手を差し出した。
よし、言ったな。
俺はユリアが、きちんと自分の言葉で踏み出せた事に安堵した。
「はい、ユーリア・ライト・ユグドラシア殿下。私はディール伯爵家が第2子、ロゼアンナ・ディールでございます。此方こそよろしくお願い致します」
ロゼアンナ・ディールもユリアに応えて、微笑を浮かべながら手を握り返した。
「……よかったな、リュート。お前もユーリアの面倒を見るのは、大変だったろう」
そんな2人を見て、オズ様がこっそり俺に話した。
「ははっ……これで、ユーリア殿下の視野が広がれば良いんですが……」
普通の、……腐じゃない方向へと。
「まぁ、ディール嬢は固い所はあるが、正義感が強い性格だからな。彼女なら、安心して任せられるだろ」
「オズ様……意外にシスコンですよね」
心底安心したといった様子のオズ様を見て、俺は苦笑いを浮かべて言った。
俺様な一面もあるが、エド様やユリアの事を気に掛けていて面倒見ほ良い。
「お前の兄には負けるがな」
「確かに……そうですね」
ブラコン・シスコン勝負なら、兄様の方が遥かに上だろう。
残念ながら。
「だろ?」
「はい……」
オズ様と2人、苦笑いを交わした。
お互い、手のかかる兄妹を持ったものだ。
これで腐王女の腐った趣味までオズ様が知ってしまったら……ストレスでオズ様の胃に穴が開きそうだ。
……絶対、阻止しないと。
「彼方も……上手く行きそうだな」
「……ですね」
王女とロゼアンナ・ディールから視線を外しオズ様の視線を辿ると、兄様とアシュレイがポツポツと何かを話していた。
「……レイアスも気に掛けている癖に、中々素直にならなかったからな……お前の言葉がいい切っ掛けになった。普段は何事もズバズバいく癖に、とんだヘタレだ」
オズ様は2人が話している様子を見て、緩く口角を上げた。
王族という立場にいるからか、兄様とアシュレイが腹違いの兄弟である事を知っているようだ。
「……まぁ、実際自分がその立場に立つのと、外から見るのでは違いますからね」
「まぁ、そうだな」
それに兄様は腐王女のように全て他力本願な訳ではないから、比べたら随分マシだろう。
腐ってもいない……残念ではあるが。
「今日は2人を招く許可を頂きありがとうございます、オズ様。お陰で、僕のここ最近の悩みが2つも解決しそうです」
「いや……将来王位を受け継いだ時、2人には宰相と将軍位に就いて貰うつもりだったから、俺としては今回の事は渡りに船だった。だから王族として、アイツの友として……此方こそ感謝するぞ、リュート」
当初は波乱になるかと思っていた昼食会だが、結果としてユリアには悲願の女友達が、兄様とアシュレイはまだぎこちないが兄弟らしい時間を過ごせたようで上手くいった。
もう、この2人は心配しなくても大丈夫だろう。
アシュレイが兄様に憎しみで剣を向ける事はない。
後の問題は──
「……アーシャ・スタッガルド、かな……」
そして、この人が一番の難関だ。
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