箱庭のユウ

空丘 みーね

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兄妹

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校門近くまで、二人で足早に帰り道を急いでいると、男の人影が渡り廊下から現れた。
「ユウ!」
それは、ユウの兄のハジメという青年だった。かれは高校三年生、特待で某有名大学の理工学部に進学が決まっているので、受験シーズンにも関わらず飄々とした青年だ。

「もう帰るのか?部活は?」

問いに妹のユウは答える。

「今日はアイちゃんの調子がわるそうだったから、早めに切り上げてカフェで休憩する予定なので、お兄ちゃんは一人で帰ってくださーい。」

つれないな、というジェスチャーで兄は苦い顔をする。

「俺さ、新しいコンピュータ開発を、企業とやっているんだ。ユウ興味ない?文学のネタになると思うんだけど、俺の暇つぶしに二人とも付き合ってよ~」

ユウは首を振る。

兄を見かねたアイが、ひとこと。

「私なら、大丈夫だから、二人でお茶でもしてきて」

ユウは、ちょっとムッとして小声で

「お兄ちゃん、進学が早く決まって調子にのっているから、甘やかさないで」

という。

仲がいいのか悪いのか、一人っ子のアイには不可思議なやり取りに、どう気を使っていいのかアイは、わからなくなってしまったのだった。

ユウの兄は、前述した通り、とある企業のAI開発チームに抜擢され、量子コンピュータを交えた、最新鋭の人工知能の開発に取り組んでいる。

内容は極秘なのだが、こと妹に対しては秘密保持もあったもんじゃないほど、チームでの出来事を自慢げにペラペラと話してしまっていた。

どうやら「小説を書く、知能」がテーマとなっているらしく、コンクール入賞した妹と張り合うの半分、じゃれあい半分で関わりたがっているようだ。

アイは、そんな「兄」という存在に憧れを抱いていた。
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