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episode.05

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「……………。」

完全にやってしまった。

薬師のくせにまんまと流行りに乗って風邪をひいてしまった。体が火照っているからまだ熱も下がってなさそうだ。

何より、リディオに迷惑をかけてしまった。

なんとお詫びをしたら良いのか……。

「あ、ソフィアさん起きましたか?お昼作ったんですけど、食べられそうです?」

「作………いつのまに。…食べます」

ヒョコッと暖簾から顔を出したのは、ジャンという青年で、なんとソフィアより年下なのに宮廷薬剤師として働いている超エリートさん。

リディオがソフィアの代わりに宮廷薬剤師を1人派遣出来る様に手続きをしてくれたらしい。

もう何から何まで世話になりっぱなしだ。情けない。

「すみません、ご迷惑をおかけして」

「迷惑な事はないですよ!王宮には僕の他にも薬剤師はいるので代わりは利きますから。その点ソフィアさんは凄いですよ、全部1人でこなしてたなんて」

それで倒れていては元も子もない。きちんと食べて早く治さなければ。

「ジャンさんは、手際が良いですよね。私はお昼を食べる余裕もない日ばかりで…」

普段ならこの時間、お昼休憩を取る間も無くバタバタしているのだが、ジャンはソフィアとお昼を食べるくらいの余裕を持っていた。

「あはは、手際が良いとは少し違うと思いますよ」

「?」

「僕は言ってしまえば余所者なので、本当に必要なところだけ診てもらったらすぐ帰っちゃうんですよ。僕と話す事なんて無いですしね。みんなソフィアさんの心配ばかりしてましたよ」

「そう、ですか…。」

「この仕事量を1人でこなしていたなら体調を崩すのも無理はないです。今日はたくさん食べてゆっくり休んでください。体力が戻れば、すぐに治りますよ。あ、薬置いておくので飲んでくださいね」

早めに食事を終えたジャンは再びお店の方へと戻って行ってしまった。

こんな小さな薬屋での仕事に文句を言うどころか食事まで用意してくれるなんて……良い人だ。

ソフィアはジャンが作ってくれたお粥をありがたく噛み締めて、最後に苦い薬を顔を歪ませながら飲んで、再び布団に潜った。

折角ジャンが来てくれているから、ソフィアはしっかり休んで回復に専念した方が後の為だ。

申し訳ない気持ちも勿論あるが、ソフィアは再び微睡の中に落ちて行った。



⚫︎⚪︎⚫︎⚪︎⚫︎⚪︎

誰かに頭を撫でられている夢を見た。

「先生…?」

夢の中でも眠くて目を開ける事が出来ない。誰かは分からないが優しい手に撫でられて、ずっと続けてほしいなんて思った。




意識が覚醒する。体は随分楽になったように感じる。

薬が効いたのか、恐らく熱も下がっていそうだ。

「目が覚めたか?」

「!?」

まだぼんやりしていたのだが、たった今覚めた。

「おっ……リディオさん…」

「大丈夫か?」

「す、すみません…私、こんなに寝ちゃって…」

窓の外はすっかり陽が暮れている。お昼を食べてからずっと眠り呆けてしまった。

「それでいい。休める時はしっかり休め」

「ありがとうございます。……ジャンは?」

「表で薬草の調合をしている。明日も休んだ方がいいか」

「!!それは悪いです!もうすっかり良くなったので!」

「無理をするとまたすぐ拗らせるぞ」

「だ、大丈夫です」

根拠は無いが、十分すぎるほど休んだ。今日の夜、眠れるかどうか分からないくらいよく休んだし、体調も良くなった。

休んでばかりいては先生に叱られそうだ。

夢を見たせいか、ソフィアはまた先生の事を思い出した。

厳しいけれど優しい人だった。心配をかけないように、不治の病と言われる大病を末期になるまで隠していた、そんな人だった。

先生の事を思い出すと懐かしくて寂しくなる。

ソフィアの暗い顔に気づいたリディオは顔を覗き込むようにして声をかけた。

「やはりまだ辛いんじゃないか?」

「いえ、そうじゃ無いんですけど…先生の夢を見た気がして。………優しく頭を撫でてくれたんです。懐かしいなと思って」

「………そうか」

「はい」

ソフィアは幼くして両親とも病で亡くした。ひとりぼっちで行き場のないソフィアを引き取ったのが、両親を看取ってくれた先生だった。

先生は師であり親のようで、よく笑う人だった。

「こんな姿見られたら、何やってんだよって笑いながらどつかれそうです。」

「厳しい人だったのか?」

ソフィアはかつての日々を思い出して微笑んでいた。先生の事を知らない誰かに、先生の事を話すのは初めてだった。

「ある意味では厳しい人でした。私の薬学の師は紛れもなく先生ですが、先生は私に何も教えてくれなかったんです」

ふふふっと微笑むソフィアとは対照的にリディオはその話を聞いて眉間に皺を寄せていた。

「…ではどうやって覚えたんだ」

「見て、試して、失敗して、また見ての繰り返しで覚えました」

薬の効能が強すぎてお腹を何度下したことか。今となっては懐かしい思い出だけれども。

それでも先生はやはり言葉では何も教えてくれなかったし、ソフィアが何度失敗しても呆れも怒りもしなかった。

「不思議な、人だな…」

「変人なんです」

「そんな事を言ったらどつかれるんじゃないか?」

先生の事を思い出すと、病で弱った姿が浮かんで気が沈みがちだったのだが、今日リディオに話した先生はソフィアが大好きだった笑っている先生だった。

やっぱり先生は笑っている方が似合う。

「確実にどつかれますね」

先生のそんな姿を思い出してソフィアも自然と笑みが溢れていた。
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