ナイショの妖精さん

くまの広珠

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5 長い長い夏休み

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「……綾、おじぎ」


 ヨウちゃんに耳打ちされて、あたしもみんなのマネをして、畳に両手をついて、おじぎした。


 ……これが世にきく「土下座」……。


 畳におでこをつけたまま、右のヨウちゃんを盗み見る。


 え……キレイ……。


 背すじをのばしたまま。両手の指はそろえて、ハの字。

 スッときぬずれの音がして、ヨウちゃんが前を見たまま顔をあげた。

 鼠色の浴衣に、白い帯がサマになってる。


 なんか、ズルイ。自分だって、こんな席、はじめてのくせに~。


 回ってきた、落雁をぼりぼり食べていると、茶道部の部長だっていう三年の女子が、水差しを持って入ってきた。

 炉の前に正座して、茶せんで、しゃかしゃか、お茶を立ててる。

 そのうち、着物姿の茶道部員たちがわらわらと、お茶室に入ってきた。

 みんな、手に、お茶の入ったお茶碗を持ってる。

 梅色の着物を着た女子が、しずしずあたしのほうに歩いてきた。


 え……? だれ?


 ふわふわ天然パーマのショートの髪に、赤い玉かんざし。ぽっちゃりした白いほっぺた。ツバキみたいに赤いくちべに。

 あたしの前に正座して、お茶碗を置いて。ちょっと顔をあげると、真央ちゃんはくちびるだけで、ふわっと笑った。


 わ……おとなっぽい……。


 真央ちゃん、あたしの前の畳に手をついて、おじぎ。

 あわてて、あたしもぺこっとおじぎ。と、思ったら、ごつっと音がした。


「い、イッタぁ~」


 真央ちゃんの頭と、あたしの頭がぶつかっちゃってる。


「あ……綾のアホ~……」


 真央ちゃん、頭を押さえて、涙目。


「ご、ごめん……」


 となりでヨウちゃん、こぶしで口を押えて、ふきだしてるし。


「まぁ、ふたりとも、ゆっくりしてきな」


 真央ちゃんは、いつもの男言葉にもどってささやいて、すっと背筋をのばして立ちあがった。

 そうして、ほかの茶道部員たちといっしょになって、着物のそでをゆらして、お茶室から出ていった。


 スゴイ……。

 真央ちゃんが、真央ちゃんじゃないみたい……。


 後ろ姿はまるで、おしとやかな娘さん。


 って、そういえばこのお茶、どうやって飲むの~っ !?


 アワアワしてたら、横でヨウちゃんがささやいた。


「綾、オレのマネしろ」


 ヨウちゃんはお茶碗を両手で持って、手前に二回まわしてる。お茶碗に口をつけて、ごくごく。


 わ……もうちょっと、ゆっくり!


 あたしもあわてて、自分のお茶碗を持ちあげて、手前に二回、ぐるぐる。


 こ、こんな感じ?


 お茶碗に口をつけて、一気にごくごく。


 に、にが~っ!


 涙目で横のヨウちゃんを見たら、すずしい顔をして、ぜんぶ飲み干してた。

 自分が口をつけたところを、指先でふいて、お茶碗を二回奥にまわして、もどしている。

 もう何十分も正座してるのに、まっすぐ背筋をのばしてるし。


 くやし~っ! なんでこの人、いつも、さらっと、やってのけちゃうわけ~?
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