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4 なくしたもの
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しおりを挟むきのうは、部活の終わりが、待ち遠しかったのに。
きょうは、終わるのがイヤ。
終わって、ひとりで帰るのは、ヨウちゃんが怒ってるっていう現実を、再確認するみたいなものだもん。
有香ちゃんとならんで昇降口におりて。くつだなから、ローファーを取り出しながら、あたし、ため息をついた。
あたしが避けたのがいけなかったのかな?
それとも、みんなにからかわれたから、ヨウちゃん、すねちゃった?
校庭は真っ暗。運動部も部活を終わらせて、片づけにかかっている。
「あれ? 中条」
先にくつをはいていた有香ちゃんが、昇降口の入り口を見て、立ちどまった。
「……え?」
そっちを見たら、入り口のドアガラスに、ヨウちゃんが背中で寄りかかってた。
チラッと顔をあげた琥珀色の目と、目が合う。
「綾ちゃん、ほら」
有香ちゃんがあたしの背中を押した。
「わたしは帰るね。バイバイ」
メガネ越しににっこり笑って、手をふって。有香ちゃんはひとりで、昇降口から走っていっちゃう。
「ば……バイバイ……」
手をふって見送ったけど、気まずくなって、あたしうつむいた。
ヨウちゃんもまた、うつむいてる。
ど……どうしよう……。
やっぱ、まだ、怒ってる……よね?
あたしたちを取りかこむ、昇降口のうす闇。肌寒くて、重たい。
「……え、えっと。ヨウちゃん。ずっと……ここにいたの?」
「そう」
びっくりして、あたしは顔をあげた。
「だ、だって……授業が終わってから、二時間くらいあったのにっ!? 」
「考え事してた。それに、また図書室に行って、先輩に見つかったらめんどうだからな。あの人、自分のペースに人を巻き込むから、苦手なんだよ」
「……だけど……」
右手をのばして、ヨウちゃんの手をにぎろうとして。
それなのに、あたしの手は空ぶりして、自分のわきの下にもどった。
だって、ヨウちゃんの手、ズボンのポケットにつっ込んだままで、出てこない。
ヨウちゃんは、うす暗いくつだなのすみを見つめている。
「……さっきの。教室でのやつ。正直、傷ついた」
「ご、ごめんね。みんなの笑いものにしちゃって。デートのこととか話しちゃったの、イヤだった?」
「そんなことじゃねぇよ。そんなことじゃなくて……。綾……なんでおまえ、自分より卯月先輩といるほうが、オレはうれしいとか、そういうこと言うんだよっ!? 」
ヨウちゃんが顔をあげる。歯をかみしめる口元が震えてる。
「オレが、おまえをどう想ってるかなんて、もう、とっくに伝わってるはずだろ? 伝わってるよなっ!? 」
ヨウちゃんの両手が、ポケットから出て、のびてくる。向かい合わせに、あたしの両腕をぎゅっとつかむ。
「大好きなんだよっ! 四六時中、綾のことばっか考えてんだっ!! なのに、こんだけ想ってんのに、伝わってないとか、そんなこと……言われるだけでも、たえらんないんだよっ!! 」
「……ヨウちゃん……」
ドキンドキンと心臓が鳴る。
ヨウちゃんは首をたらして、あたしの胸に頭をつけた。
「……おまえに……同じように想ってくれとは言わない。けど……この感情を否定されるのは、キツイ……」
「……ごめんなさい……」
あたしの両腕をつかむ、大きな手のひらが震えている。
胸がきゅ~となって、息をするのも苦しくなった。
どうしよう……。わかんない。
これが、今だけの感情なの?
ヨウちゃんは、あたしがヨウちゃんを助けたから、今は気持ちが高ぶってるだけで。こういう感情も、ママが言うように、そのうち冷めていっちゃうものなの?
「……綾。今度の日曜、デートして」
ヨウちゃんが、涙をためた目をあげた。
「西湾のショッピングモール。映画観て、遊ぼ」
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