ナイショの妖精さん

くまの広珠

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3 ナイショの特訓

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「つまり。パスのときに、立ちどまったら、大幅な時間ロスになるんだ」


 ヨウちゃんは、バトンを肩たたきみたいに、肩でポンポンしながら、あたしたちの横に仁王立ちしてる。

 あたしの前には有香ちゃん。あたしは走るかっこうのまま、右手を前にのばして。有香ちゃんも走るかっこうのまま、立ちどまって、左手を後ろにのばして。

 休み時間に、校庭で体育の授業みたいなことをしてるのは、あたしたち一年だけ。


「だから、パスは走りながら行う。で、オーバーハンドバスのバトンの持ち方はこう」


 ヨウちゃんが自分のバトンを、あたしと有香ちゃんの手の間にさしこんだ。


「お互いに、バトンのはじとはじを持つ。そうすれば、バトンの長さのぶんだけ、走る距離を少なくできるだろ?」

「う、うん」

「さらに、お互いに手を大きくピンとのばす。そうすることによって、腕のぶん、もっと距離をかせげる」

「ああ、なるほど~」


 って、あたしたちの横で真央ちゃんも腕を組んでる。


「フォームと理屈はわかったな。じゃあ、じっさいに歩きながらでやってみるぞ。永井、先に歩き出して。綾、追いかける。永井、歩きながら手を後ろにのばす。そのタイミングを見て、綾は永井の手にバトンをのせる」


 有香ちゃんの左手に、あたしはバトンをさしだした。かんたん。なはずなのに、足がつんのめって、あたしの手からバトンがこぼれて、有香ちゃんの足元にポトリ。


「え……? これでダメって……」


 真央ちゃん、頭を抱えちゃう。


「綾、相手のリズムを見ろ。永井のテンポにあわせる。右左、右左。永井は左足を前に出したタイミングで左手を後ろにのばすから、そのタイミングで綾も手をのばす」


「う、うんっ!」


 理屈ではわかってるんだけど、どうして体が動かないんだろう。

 有香ちゃんの足ばっかり見て追いかけてたら、有香ちゃんが手をのばす前に、あたしの鼻、有香ちゃんの背中にぶつかった。


「い、イタぁ~」


「さすが……究極の運動オンチ……」


 真央ちゃんてば、首がっくし。


「……まぁ、あと数日。特訓だな」


 ヨウちゃんのこめかみにも、汗がうかんでる。







「コーナーを走るときは、トラックのギリギリ内側をねらうんだ。視線は落とすな。コーナーの先にある直線コースを見ろ」


 ヨウちゃんのアドバイスがどんどん細かくなってきた。


「短距離のときは、足を地面にベタっとつけて走るんじゃないんだよ。体を前のめりにして、足の親指のつけねだけ、地面につける感じ」


 む、むずかしい~……。


 リレーでは、あたしが第五走者で、ヨウちゃんはアンカーを走ることに決まった。

 決まってからは、バトンパスの練習はもっぱら、ヨウちゃんと。

 でも、うまくいかなくて、成功するのは十回に一回。


「綾、パスするとき、オレのどこ見て走ってる?」

「え? 足元かな? 右左、右左って、足の出ていくタイミング」

「それで、左足が出てから、左手がのびると思って、そのあとで行動にうつすからタイミングがずれるんだよ。なんていうか、テンポは体でつかむんだ」

「って、言われたって~……」

「綾ちゃんって、バトンパスのときだけ、ガチガチになっちゃうんだよね~。苦手意識強いから、よけい意識しちゃって、それで、体が動かなくなっちゃってるの。どうしたら、いいんだろね~」


 有香ちゃんも真央ちゃんも、考え込んでる。

 休み時間の特訓が終わったら、放課後は部活で、自主制作のパッチワークの直し。家に帰ったら、塾行ったり宿題したり。寝る前は、手芸部のノルマのコースターとしおりづくり。

 で、朝六時に、高台の坂まで行って、朝練。


 は、ハード……。


「ゴールっ!」


 高台の坂をかけのぼったら、ジャージ姿のヨウちゃんが笑っていた。

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