ナイショの妖精さん

くまの広珠

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2 妖精のお医者さん

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 ……なにこれ……?

 こないだ来たときと、ちがう。
 生ゴミがくさったみたいな、鼻につくにおい。

「和泉っ! 勝手にかあさんのマネして呼ぶなっ!」
 
 あたしについて穴に足を踏み入れて、中条も「うっ」と鼻をおさえた。

「……どうしたんだ、ここ……?」

 目が慣れてきて、闇の中に、部屋の壁が見えてくる。

 チカチカまたたいているのは、銀色の妖精の羽。

 わ……多い……。

 まるで、満天の星空。それか遊園地のパレードのイルミネーション。

 あのお花畑にいた妖精の子が、どこにいるのかわかんない。
 だって、羽のはえた手のひらサイズの子どもたちが、ひとり、ふたり、三人、四人……。

 十一、十ニ、十三……。

 中央の花の中に横たわる妖精の少女をとりかこんでる。

 赤いくるくるの髪で、体に緑の葉っぱを巻きつけた男の子。
 ホタルブクロのお花を帽子にしてかぶった、白いお花のドレスの女の子。

 年齢は、どの子もあたしと同じか、幼いくらい。

 妖精の顔つきって、みんな似てる。お肌真っ白。目は寄り目。鼻はつんとしていて、くちびるも小さくとがっていて。

 どの子も、肩を落としてうつむいてる。

 やけどを負った少女の肌はもう、ほとんど緑色だった。小さな口で息をしているけど、うめく体力ものこってないみたい。

「このにおいって……あの子から……?」

「い、和泉! 葉っぱ」

「う、うんっ!」

 あたしが枝から葉っぱをむしりとると、中条は、その上にペットボトルの湧き水をかけた。

 葉っぱから、しゅうっと霧がたちのぼっていく。

 虹色の霧。

「この葉を!」

 中条、葉っぱを手に取って、妖精のほうに歩みかけたけど、また、かたまっちゃった。

 ……え? なに?

 やっぱり、怖いの?

「貸して。あたしがやる」

 あたしは、中条の手から葉っぱを取りあげて、妖精たちの輪へ歩いていった。

 手のひらサイズの妖精たちが、つっつっとトンボの羽で飛びあがり、あたしのために、道を開ける。

 寝ている少女の妖精の前に来ると、あたしはしゃがみこんだ。

 ドキドキ、ドキドキ。胸が鳴る。

 暗い穴の中なのに妖精の銀色の光で、女の子の顔がよく見える。

 薄目を開けてる青い瞳。こんなに緑色のほっぺになっちゃってるけど、この子、とっても美人。もう、ハリウッドの女優さん並みの。

 あたしは指先でブラックベリーの葉をつまんで、そっと女の子の体にかぶせた。

 一枚、二枚、三枚、四枚……。

 胸からお腹に、水にひたった葉を九枚かけたら、今度はお腹から足に、一枚、二枚、三枚、四枚……。

 今度は顔に、一枚、二枚、三枚……。

 みるみるうちに、少女の姿は、葉の下に隠れてく。
 妖精の輪の真ん中には、こんもり積もったブラックベリーの葉っぱ。

 こんなんで、だいじょうぶ……?

 チラッと輪の外をあおいだら、中条がこくんとうなずいた。

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