ナイショの妖精さん

くまの広珠

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4 羽開くとき

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「――それで。和泉さんてば、永井さんとケンカしちゃったんだって~」

「河瀬さんもこまっちゃったみたいなんだけど~。けっきょく、永井さん側についちゃって。和泉さん、今、ひとりぼっち~」

「うっそ~、かっわいそ~っ!! 」

 屋上で、女子たちがゲラゲラと笑ってる。

 空は、ぼんやりうす曇り。

 あたしは知らんぷりで、屋上のフェンスから、校庭を見おろしていた。

 下校する子どもたちが、校庭をにぎわしている。

 中に、ランドセルを背負って歩く、有香ちゃんと真央ちゃんの姿を見つけた。校舎に背を向けて、校門から住宅街へ出ていく。

「ちょっと、和泉さんってば、きいてんのっ!?  人がしゃべってんだから、無視しないでくれるっ?」

 あんまりうるさいからふり返ったら、リンちゃんが、あたしの前に仁王立ちして、ツインテールの髪を、肩の後ろにかきあげていた。

「あ~、ムリムリ。和泉さんは、今、ショックでしゃべれません。ほら、朝、中条君にお手紙もらっちゃってさ。てっきり告白されるんだと思って、のこのこ屋上に来てみたら、かわりにうちらがいたから。がっかり~って」

 青森さんの声に、女子たち、さらに大笑い。

 一、ニ、三、四人。

 ちょっとホッとしたのは、あたしをだましたのが、クラスののこりの女子全員じゃなくって、リンちゃんのすぐそばにいる子たちだけってことかな。

「べつに。告白だなんて、思ってなかったもん。それにヨウちゃんが、こんなピンクの封筒で、お手紙出すとも思えないし」

 あたしは、ぷうってほっぺたをふくらまして、リンちゃんに封筒をつき返した。

 今朝、くつだなから、この封筒が落ちてきたときの違和感は、コレだったんだ。

 でも、「大事な話がある」って、ヨウちゃんに言われたのも本当……。

「な~に? やせガマンしちゃって。アホっ子のくせに!」

「いっつも、河瀬さんや永井さんの後ろでちぢこまってんのにさ~」

「中条君のこと、『ヨウちゃん』とかって、ウザいんだよ! 中条君もこまってんの、気づけよっ!! 」

 リンちゃんの腕がのびてきて、パンッと、あたしの胸を平手打ちした。

 あたしはよろけて、屋上のフェンスに、背中をガシャンっ!

「……イタっ!」 

「わかったかっ!!  コレに懲りたら、二度と、中条君に近づくなっ!」

 ぞっとした。
 リンちゃんのゆがんで笑った口元に、犬歯と歯ぐきがのぞいてる。

「あんたは、そこで反省しときな!」

 屋上のドアを開けて、女子たちは階段にもどっていく。

 ……なにこれ……? 集団リンチ……?

 あたしはフェンスにずるずるともたれて、屋上にしゃがみ込んだ。

 背中に吹きつける風が冷たい。

 泣けてくるほど、冷たい。



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