ナイショの妖精さん

くまの広珠

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4 告白の後先

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 時計が、カチカチと時を刻んでいく。

 パパは、リビングのソファーに腰かけて、テレビでレイトショーを見ていて。ママはドライヤーで、自分の髪をかわかしている。

 ダイニングのテーブルに、新聞紙をしいて。その上に、ネトルとヤロウの葉っぱを広げて。

 あたしは自分が書いたメモの文字をながめてる。


「ネトルとヤロウのサシェ。携帯すると、恐怖心がやわらぐ」


――ふ~ん。やっぱ、おまえ、勝手に書斎に入ったのか――


 ヨウちゃんの瞳がよみがえってくる。


――人を自白させる方法を調べるために、留守をねらって、人んちの書斎に忍び込む。やり方、すげぇ卑劣だな――


 ガラス玉みたいな目だった。目から感情が消え失せていた。


 ……痛い。


 でも、本当に痛かったのは、あたしじゃない。

 あたしに裏切られたヨウちゃんのほうだ。


「綾。サシェつくるんでしょ? ここにあるハギレ、つかう? あんたの給食袋縫ったのこりとか、テーブルクロスののこりとか、あんまり大きいのはないけど」


 頭にタオルを巻いたままで、ママが裁縫箱を運んできた。

 お重みたいに三段の引き出しがついた木の箱の下ニ段に、色とりどりのハギレがたくさんつめこまれている。


「……うん」


「そんな、新聞紙に葉っぱならべて待ってても、なかなか乾燥しないんじゃない? いっそ、レンジでチンしちゃったら?」


「……え? レンジ……?」


「めずらしいことじゃないわよ。ハーブティー用にドライハーブをつかいたいときだって、生の葉っぱをチンしたりするんだから」


「ええっ!?  ママ、ハーブティーなんて入れたこと、あるの?」


「しつれいね。ママだって長く生きてるんだから、若いころには、鉢でミントを育てたりもしたわよ。ローズマリーのサシェだって、つくったわよ」


「ホントっ!? 」


「サシェはいいのよ? 香り袋として、お洋服といっしょにクローゼットに入れたり、カバンに入れたりして、楽しめるもの。綾は、どんな形のものをつくりたいの?」


「……ほぇ? かたち?」


「やだ、この子ったらっ! なんにも考えてなかったんじゃないでしょうねっ!?  サシェって、中にハーブをつめこむ、小さな袋でしょ。そのまま、きんちゃく袋にしてもいいけど。クッションみたいに四角にしたり。テトラ型にしたり。ハートとか、星とか、好きな形をつくればいいのよ。

ほら、葉っぱは、さっさとレンジでチンしちゃって。その間に、デザインを考えなさい」


 なんだか、ママのほうがうきうきしてる。

 うながされて、あたし、チラシの裏に完成図を描いてみることにした。


 でも、ヨウちゃんがよろこぶ形ってどんなだろう……。


――オレは二度とおまえと口をききたくないっ!――


 ズキッと、言葉が胸につきささる。


「よろこぶ形なんて、あるわけないよ……。なにをあげたって、ヨウちゃんは、もう、あたしがあげたものなんかで、よろこばない……」


 ぼろぼろ涙があふれてきて、しゃくりあげたら、肩に、ポンとママの手が置かれた。


「……綾。人のためにつくるの? ちがうでしょ」


「……え?」


「葉児君となんのケンカしたか、知らないけど。あなたにはまだ、これを、あげたいって気持ちがある。だから、そのために……自分のあげたいっていう気持ちのために、つくるんじゃないの?」


 ……自分のあげたい、気持ち……?


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