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5 決戦は卒業キャンプで
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しおりを挟むあらためて言ったら、ほっぺたが熱くって。あたし、丸くなって、自分のひざで顔を隠した。
ヨウちゃん、ただ、ゆらゆら燃える火を見つめてる。
だよね。
あたし……ひどいことしたもんね。
一度なくした信頼は、そうかんたんには取りもどせない。
すごくよくきく言葉が、こんなに心につきささるなんて思わなかった。
ピーラーを左手に持ちかえて。あたしは、自分の右のポケットをさぐった。
出てきたのはやっぱり、ちっさいぞうきんみたいな、ヘンな物体。
う……あやしすぎ。ぜったい、呪いの袋って思われる……。
「ヨウちゃん、これ。あげる」
なさけないから、目を見れなくて。顔、ひざにうずめたまんまで。
あたし、右手をのばして、サシェをさしだした。
「ネトルとヤロウのサシェ。ヘタクソだけど、中身はちゃんと本物だから。持ってると、恐怖心がやわらぐんだって」
どうせ受け取ってくれないに決まってるから、相手のひざの上に、強引に置いちゃう。
「勝手に書斎に入ってごめんなさい。それから、ヘアベルをつかったこともあやまります。あたし……人間として、ぜったいに、やっちゃいけないことをしました」
「和泉ぃ~。マジでホント、ジャガイモ必要~。お願いだから、帰ってきて~」
うわ。誠におがまれてるっ!
「ご、ごめんっ! もう、行くっ!! 」
あたしは、バッとヨウちゃんのとなりから、立ちあがった。
石みたいに動かないヨウちゃんの背中。
わかってる。
よろこんでもらうためにあげたんじゃない。
あたしは、あたしがあげたいから、あげたんだ!
誠たちのところに歩いていたら、リンちゃんの肩にぶつかった。リンちゃんてば、野菜の入ったおなべを抱えて、よそ見しながら歩いてくるんだもん。
「あーもう。イッタイなぁ。やめてよ、和泉さん!」
なんか、あたしのほうが悪いみたい。
だけど、あたしは怒りを空に飛ばして。胸に手を置いて、す~は~深呼吸。
「……は? 和泉さん、急になにやってんの?」
「リンちゃん、あのね。今、ヨウちゃんと話してきたんだけど……」
のどから出てきたあたしの声は、いつもより1オクターブは高かった。
「ヨウちゃんもリンちゃんといっしょに、カレーつくりたいんだって」
「……え? で、でも……中条君は……アレでしょ。どうせ、ひとりでいたいんでしょ」
「そんなのカッコつけて、ロンリーきどってるだけに決まってるじゃんっ! ホントは前みたいに、リンちゃんたちに、しゃべりかけてもらいたいんだけどさ。ヘタレだから、自分で言い出す勇気がないんだよ」
「ええ~っ!? そうなの~っ!? やだぁ~っ! 中条君ってばっ!! わたしたちは、ぜんぜんオッケーなのにぃ~っ!! 」
リンちゃんの目、ハートマーク。
リンちゃんが、ほかの女子たちに、キャッキャッて話したら、青森さんたちまで、目、ハートマーク。
「中条くぅ~んっ!! 」
あっという間に、ヨウちゃん、女子たちの輪にかこまれちゃった。
「……え?」とか「は?」とか目をしぱしぱさせてるけど、アレ、ほっとこ。
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