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3 広がりゆく闇
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しおりを挟む頭のどこかで、「自分だけはだいじょうぶ」って、思っていた気がする。
「自分だけは、真っ黒にならないでたえられる」って。
「あたしは人間だもん。手のひらサイズの妖精とはちがうもん」って。
だけど「あたしだけ」なんて、ない……。
窓の外は夜。部屋の中も、真っ暗。
だって、明かりをつけたら、自分の両腕の黒が、めだっちゃう。
「綾っ!! 夕飯だって、何度呼んだらわかるのっ!? 冷めちゃうから、さっさと来なさいっ!! 」
バンと、あたしの部屋のドアが開いた。
ふとんに丸まって、目だけ出すと、ママが真っ暗な部屋に息を飲んでた。
「綾……? ぐあいでも悪いの? 電気もつけないで」
窓のカーテンが、サッと敷かれる。
とたん、蛍光灯のスイッチを押されて、部屋の中に真っ白い明かりがともった。
「ヤダっ! まぶしい! ママ、早く電気消してっ!! 」
「なに言ってんの! ほら、おでこ見せなさい。熱は……ないわね。じゃあ、どうしたの? お腹でも痛い?」
「あたしのことはほっといてっ! 部屋から出てってっ!! 」
「ほっとけるわけないでしょっ! わけを話しなさいっ!」
「ヤダぁっ!! 」
あたしは、ママの手をはらって、またふとんの中に丸まった。
だって、こんな真っ黒い腕。見られたら、ママがパニックになっちゃうっ!
「こら、綾っ!! 」
「ほっといて―――っ!! 」
あたしの絶叫に、ママ、ぽかん。
「……わかったわ。お夕飯は、ママが先にひとりで食べるから。あんたのぶんは、パパのといっしょに冷蔵庫に入れとくわ。食べたくなったら、おりてきなさいね」
バタンと、部屋のドアが閉まる音がした。
二階の階段をおりていくママの足音。パタリ、パタリと、間隔を開けて、力ない感じ。
……ごめんね、ママ。
せっかく、ご飯をつくってくれたのに……。
あたしは、ふとんの中から右手をのばして、勉強づくえの上のキッズケータイをさぐりとった。
ふとんの中でピッピッと操作して、登録してある電話番号をさがしだす。
ケータイを耳にあてると、プルルル、プルルルと発信音がきこえてきた。
ヨウちゃんのお母さんに、電話をかわってもらって。保留のメロディが切れるのを待って。
電話の向こうが一瞬、無音になる。
「……もしもし。ヨウちゃん?」
「……綾か? どうした?」
「あのね……」
話そうと、口を開けたとたん、目のふちから涙がこぼれ落ちた。
「あ、あたしね……」
うっくと、しゃくりあげる。
「あ……あたし……」
「どうした?」
い……言えないよ~……。
つごうが悪くなったときだけ、「助けて」だなんて。
だって、あたし。学校でヨウちゃんに、ぎゃんぎゃんわめいちゃって。
そのせいで気まずくなって。放課後、教室から逃げ出してきちゃったんだよ!
それなのに……。
「……綾? 泣いてるのか……?」
ヨウちゃんの声がけわしくなる。
「な、なんでもない……。ごめんね、へんな電話して」
「おい、綾っ!! 」
あたしは、プチっと電話を切った。
ひっく、ひっくと自分のしゃくりあげる声ばかりが、ふとんの中にきこえてくる。
心臓が痛い。
みんなにつけられた、たくさんの傷が痛い。
ぜんぶの傷口が開いて、黒い蛇みたいなモヤが、ドロドロと体中にあふれ出していく。
……あたしなんか……。
あたしなんか……アホっ子で。
勉強ができなくて。運動も音楽も図工も苦手で。
長縄もとべなくて。
いつも、みんなのお荷物で……。
ヨウちゃんの……お荷物で……。
『そのとおりだ』
胸の奥から声がした。
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