ナイショの妖精さん

くまの広珠

文字の大きさ
292 / 646
5 あたしという名の集合体

52

しおりを挟む

 一階にあがると、まぶしい光に包まれた。

 自宅カフェ「つむじ風」の窓は、いつのまにか雨戸で閉め切られ、玄関のドアには、鍵がかけられている。


「お店は臨時休業にしたわ。この枝を、ストーブにくべればいいのね?」


 ヨウちゃんのお母さんが、ストーブの横につみあげられた小枝を、ストーブの火につっこんだ。

 切り口から、ドロッと赤黒い樹液が流れている。樹液は、火の熱でぶくぶくと泡立ち、つんとした木のにおいが立ちのぼってくる。


「こ、これは……エルダーっ! きさま、そういうことかぁっ!!」


 あたしの口から、老婆の声がとどろいた。

 お母さんがハッと目を見開いて、自分の口を手でおおう。


「……綾ちゃん……どうして……?」


「かあさん、ありがとう。あとは、オレがひとりでやれる! かあさんは、店の外に出て、すぐにドアを閉めてっ!」


「で、でも……あぶないわ……」


「へいきだ。オレにだってもう、少しくらいはとうさんの知識がある。かあさん、オレを信じて」


 お母さんは、目を赤く染めて、ヨウちゃんを見つめた。

 琥珀色の目はゆるがない。お母さんよりも高い視線から、まっすぐにお母さんを見おろしている。


「……ヨウちゃん。――ううん。もう、親が息子を、ちゃんづけなんかで呼んじゃダメね。葉児、しっかり、綾ちゃんを救うのよ」


 ヨウちゃんは、視線をそらさずにうなずいた。


 むっと、濃い木のにおいが、店内に充満していく。


「エルダーの枝よ、綾の中にいるモノの真の姿を、オレの前にあぶりだせっ!」


 パアッと、枝全体が、虹色の光に包まれた。


「やめろぉおおおおおっ!! 」


 あたしののどから、つきあげてくる老婆の雄たけび。

 ぶわっと、左右の指先から、黒い蛇がとびだした。

 蛇は、ストーブ目がけて、突進していく。だけど、強いにおいの中、目がくらんだかのように、ぐるぐると身をよじった。目的を失い、四方八方に飛び散る。


 パリンっ!


 蛇の腹にぶつかって、陶器の花びんが割れた。


 バリン、バリン、バリンっ!


 カウンターにならんでいたグラスが倒されて、ゆかに落ちていく。


「かあさん、早く外にっ!」


 ヨウちゃんの声にハッとなって、お母さんがドアからとびだす。バタンとドアが閉まる。

 閉まったドアに、バン、バン、バンっと、黒い蛇がぶちあたった。

蛇は、胴をぶつけ、そのままゆかに落ちていく。


「……くそっ……」


 あたしの口から、荒い息がもれた。

 左手首に、ミミズが這ったような感触が走る。


 うわぁああっ!!


 あたしの左手が、右手首をおさえた。その手のすき間から、ドロッとした黒いモヤがこぼれ落ちてくる。


「き……きさま……ガキのぶんざいで……このわたしを……小娘の中から、追い出す気か……?」


 なにこれ……? 気持ち悪い……。


 モヤがゆっくりと、あたしの体の内側を移動していく。

 左手の甲の出口に向かって……。


「エルダーの枝を火にくべると、魔術をかえてくる相手をあぶりだすことができる。なるほど。それが、おまえの本体か?」

しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

四尾がつむぐえにし、そこかしこ

月芝
児童書・童話
その日、小学校に激震が走った。 憧れのキラキラ王子さまが転校する。 女子たちの嘆きはひとしお。 彼に淡い想いを抱いていたユイもまた動揺を隠せない。 だからとてどうこうする勇気もない。 うつむき複雑な気持ちを抱えたままの帰り道。 家の近所に見覚えのない小路を見つけたユイは、少し寄り道してみることにする。 まさかそんな小さな冒険が、あんなに大ごとになるなんて……。 ひょんなことから石の祠に祀られた三尾の稲荷にコンコン見込まれて、 三つのお仕事を手伝うことになったユイ。 達成すれば、なんと一つだけ何でも願い事を叶えてくれるという。 もしかしたら、もしかしちゃうかも? そこかしこにて泡沫のごとくあらわれては消えてゆく、えにしたち。 結んで、切って、ほどいて、繋いで、笑って、泣いて。 いろんな不思議を知り、数多のえにしを目にし、触れた先にて、 はたしてユイは何を求め願うのか。 少女のちょっと不思議な冒険譚。 ここに開幕。

トウシューズにはキャラメルひとつぶ

白妙スイ@1/9新刊発売
児童書・童話
白鳥 莉瀬(しらとり りぜ)はバレエが大好きな中学一年生。 小学四年生からバレエを習いはじめたのでほかの子よりずいぶん遅いスタートであったが、持ち前の前向きさと努力で同い年の子たちより下のクラスであるものの、着実に実力をつけていっている。 あるとき、ひょんなことからバレエ教室の先生である、乙津(おつ)先生の息子で中学二年生の乙津 隼斗(おつ はやと)と知り合いになる。 隼斗は陸上部に所属しており、一位を取ることより自分の実力を磨くことのほうが好きな性格。 莉瀬は自分と似ている部分を見いだして、隼斗と仲良くなると共に、だんだん惹かれていく。 バレエと陸上、打ちこむことは違っても、頑張る姿が好きだから。

クールな幼なじみの許嫁になったら、甘い溺愛がはじまりました

藤永ゆいか
児童書・童話
中学2年生になったある日、澄野星奈に許嫁がいることが判明する。 相手は、頭が良くて運動神経抜群のイケメン御曹司で、訳あって現在絶交中の幼なじみ・一之瀬陽向。 さらに、週末限定で星奈は陽向とふたり暮らしをすることになって!? 「俺と許嫁だってこと、絶対誰にも言うなよ」 星奈には、いつも冷たくてそっけない陽向だったが……。 「星奈ちゃんって、ほんと可愛いよね」 「僕、せーちゃんの彼氏に立候補しても良い?」 ある時から星奈は、バスケ部エースの水上虹輝や 帰国子女の秋川想良に甘く迫られるようになり、徐々に陽向にも変化が……? 「星奈は可愛いんだから、もっと自覚しろよ」 「お前のこと、誰にも渡したくない」 クールな幼なじみとの、逆ハーラブストーリー。

荒川ハツコイ物語~宇宙から来た少女と過ごした小学生最後の夏休み~

釈 余白(しやく)
児童書・童話
 今より少し前の時代には、子供らが荒川土手に集まって遊ぶのは当たり前だったらしい。野球をしたり凧揚げをしたり釣りをしたり、時には決闘したり下級生の自転車練習に付き合ったりと様々だ。  そんな話を親から聞かされながら育ったせいなのか、僕らの遊び場はもっぱら荒川土手だった。もちろん小学生最後となる六年生の夏休みもいつもと変わらず、いつものように幼馴染で集まってありきたりの遊びに精を出す毎日である。  そして今日は鯉釣りの予定だ。今まで一度も釣り上げたことのない鯉を小学生のうちに釣り上げるのが僕、田口暦(たぐち こよみ)の目標だった。  今日こそはと強い意気込みで釣りを始めた僕だったが、初めての鯉と出会う前に自分を宇宙人だと言う女子、ミクに出会い一目で恋に落ちてしまった。だが夏休みが終わるころには自分の星へ帰ってしまうと言う。  かくして小学生最後の夏休みは、彼女が帰る前に何でもいいから忘れられないくらいの思い出を作り、特別なものにするという目的が最優先となったのだった。  はたして初めての鯉と初めての恋の両方を成就させることができるのだろうか。

黒地蔵

紫音みけ🐾書籍発売中
児童書・童話
友人と肝試しにやってきた中学一年生の少女・ましろは、誤って転倒した際に頭を打ち、人知れず幽体離脱してしまう。元に戻る方法もわからず孤独に怯える彼女のもとへ、たったひとり救いの手を差し伸べたのは、自らを『黒地蔵』と名乗る不思議な少年だった。黒地蔵というのは地元で有名な『呪いの地蔵』なのだが、果たしてこの少年を信じても良いのだろうか……。目には見えない真実をめぐる現代ファンタジー。 ※表紙イラスト=ミカスケ様

笑いの授業

ひろみ透夏
児童書・童話
大好きだった先先が別人のように変わってしまった。 文化祭前夜に突如始まった『笑いの授業』――。 それは身の毛もよだつほどに怖ろしく凄惨な課外授業だった。 伏線となる【神楽坂の章】から急展開する【高城の章】。 追い詰められた《神楽坂先生》が起こした教師としてありえない行動と、その真意とは……。

【完結】カラフルな妖精たち

ひなこ
児童書・童話
星野愛虹(ほしの・あにー)は小学五年女子。絵を描くのが大好き。ある日、絵を描いていると色の妖精・彩(サイ)の一人、レッドに出会う。レッドはガスの火を変化させて見せる。サイは自分の色と同じ物質をあやつり、人の心にまで影響できる力を持つ。さらにそのサイを自由に使えるのが、愛虹たち”色使い”だ。  最近、学校では水曜日だけ現れるという「赤の魔女」が恐れられていた。が、実はサイの仲間で凶悪な「ノワール」が関わっていた。ノワールは、人間の心の隙間に入り込むことを狙っている。彼を封印するには、必要な色のサイたちをうまく集めなくてはいけない。愛虹の所有するサイは、目下、赤と白。それでは足りず、さらに光のカギもないといけない。一体どこにあるの?仲間を探し、サイを探し。   これは愛虹と仲間たちが、たくさんの色をめぐって奮闘する冒険物語。児童向け、コミカルタッチの色彩ファンタジーです。

こわモテ男子と激あま婚!? 〜2人を繋ぐ1on1〜

おうぎまちこ(あきたこまち)
児童書・童話
 お母さんを失くし、ひとりぼっちになってしまったワケアリ女子高生の百合(ゆり)。  とある事情で百合が一緒に住むことになったのは、学校で一番人気、百合の推しに似ているんだけど偉そうで怖いイケメン・瀬戸先輩だった。  最初は怖くて仕方がなかったけれど、「好きなものは好きでいて良い」って言って励ましてくれたり、困った時には優しいし、「俺から離れるなよ」って、いつも一緒にいてくれる先輩から段々目が離せなくなっていって……。    先輩、毎日バスケをするくせに「バスケが嫌い」だっていうのは、どうして――?    推しによく似た こわモテ不良イケメン御曹司×真面目なワケアリ貧乏女子高生との、大豪邸で繰り広げられる溺愛同居生活開幕! ※じれじれ? ※ヒーローは第2話から登場。 ※5万字前後で完結予定。 ※1日1話更新。 ※noichigoさんに転載。 ※ブザービートからはじまる恋

処理中です...