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3 あなたのいない世界
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しおりを挟むありえない。
こんなこと、ありえない……。
運動会の振替休日空けの、火曜日。
ベランダからこぼれる朝の光が、六年一組の教室を、まぶしく照らしている。
ベランダ側から四列目で、廊下側からも四列目。前からも、後ろからも三番目。
教室のまん真ん中が、わたしの席。
その前には、空っぽのつくえがあった。イスには誰も座っていない。
宝君、もうじき来るよね。
それで、いつものように、このイスに座って、朝のホームルームまでの時間、読書をはじめるんだ。
……あれ?
わたしは、前のつくえの下の空洞に目をこらした。
何か、入ってる……?
あのとがった角は、本かもしれない。
確かめたくなった。
名前が、書いてあったらいい。
宝君の持ち物だとわかれば、安心できる。
宝君が、この世にちゃんと存在するという証拠だから――。
勝手して、ごめんなさいっ!
わたしは、ガタンとイスを引いて、自分の席から立ちあがった。前のつくえの下に手をつっこんで、中に入っているものを取り出す。
やはり、本だった。ハードカバーで、背の下のほうに、学校の図書室のシールが貼られている。
『小栗判官』。
むずかしそうなタイトルがついている。
「おい、ズル姫。人の席で何してんだよっ!」
ビクッとして顔をあげると、目の前に巨体があった。
森山武。
年中半そで姿のTシャツから、脂肪ののった太い腕がのぞいている。前にも横にも大きくふくれた、堂々としたお腹まわり。
めくれあがった口元で、犬歯がちらついた。
「おーいみんな、きーて。こいつ、オレのつくえから、何かとろ~としてんだけどっ!」
「マジかよ! 怖っ!」
早矢が笑いながら、男子数人とともに近づいてきた。
「ズル姫。何持ってんだよ。見せてみろよっ!」
背の高い男子たちにかこまれて、威圧感がすごい。
ふらふらと、自分のつくえに遠ざかりながら、わたしはおどおどと、男子たちの目の前に、さっき見つけた本をさしだした。
「なんだ? この本。こくり……はん……かん……?」
武がぽかんと、本の表紙と裏を見比べている。
「『おぐりはんがん』だろ? ちゃんとここに、ルビがふってあんじゃん。武、ダセ~。自分で借りた本のくせに、タイトルも読めねぇの?」
「イヤ、オレ、こんな本借りてねぇしっ!」
……え?
わたしは、うつむいていた顔をあげた。
武は眉をひそめて、本を男子たちに押しつけようとしている。
「オレがこんなインテリっぽい本、読むわけねぇだろ? 中見てみろよ。こまけ~字が、ぎっしりじゃん。だれだよ、こんな本、勝手に人のつくえに入れたヤツっ!」
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