箱庭物語

晴羽照尊

文字の大きさ
216 / 385
コルカタ編 本章

世界最強の血族×2

しおりを挟む
 軍服のような上着を脱ぎ、優男は僧侶へ、それをかけた。顔を、左胸の傷跡を、覆うように。

「……コオリモリ、あれを」

 男のそばへ腰を降ろして、解り良いように、指を差す。それは、血の跡だった。血痕が、道しるべのように、続いている。

「このハゲさんが、ただ一方的にやられるわけがない。あれはきっと、教祖の血だ。……そしてその向かう先は――」

 その道は、また複雑に入り組んで、いろんな部屋に通じているのかもしれない。しかし、男にしては聡明なことに、ひとつ、可能性にすぐ、思い至る。そうだ。その先は、少女がさきほど、進んだ道。

「追うぞ!」

 少女のこともそうだが、僧侶の敵討ちも含めて、意気揚々と男――と、優男――は、先へ進んだ。

 ――――――――

 ところで、別の場面。施設の入り組んだ道の、ひとつの終着点。他の簡素な部屋とは一線を隔し、いろんな子ども向けのおもちゃなどが散らばる、異質な部屋。そこでは――

「やったね、エフ! えらいえらい!」

「えらいえら~い」

『…………』

「「…………」」

 女流と幼女が、捕まって、縛られていた。亡き娘子が遺した機械生命体に、まったく抗うこともできずに。

「ちょっとフィロちゃんさん! あんな啖呵切っておいて、なんですかこのありさま!」

「いやあ、技術の進歩はすさまじいものがあるのう!」

「のう! じゃないです!」

 わっはっはっは! と、女流は笑う。清々しいというか、豪胆というか。とにかく軽い調子で。

 対照的に、幼女は焦っていた。せっかく、男の役にたてたかもしれないのに。そう思う。まだ納得も、認めもしていないが、姉とも呼ばれるべき者から、女流へ依頼があった。亡き娘子、エルファ・メロディアの遺した『異本』、『Euphoricユーフォリック Fieldフィールド ILL12010501』を、蒐集してほしい、と。それに、直接は声がかからなかった幼女が無理矢理に、手伝う、と、ついてきた形だ。それがこの、体たらくである。

「もう……こんなんハクに見付かったら、それ見たことかって言われちゃうよ。私も役にたてるんだって、証明したいのに」

 そう落ち込む幼女を見て、女流は笑うのをやめ、ちらりと彼女を、見た。まだ長い付き合いではないが、それでも、かつては多くの臣民を束ねた女流である。人を見る目には、一定の自信があった。その目で見る限り、危うい、とも思ってしまう。そのうえで、どう導いてやろうかと、思案を巡らせた。

「そもそも、余たちは戦いにきたのではない。話し合いにきたのであろう。よもやこんな幼子たちを傷付けるつもりもないのだし、のう?」

 キュウウゥゥ――――。と、女流の言に反応するように、『EFエフ』の機体から機械音がわずかに、漏れた。

「そうですね! そのはずだったんですけどね! 率先して攻撃を仕掛けたフィロちゃんがなにを言ってるんですかね!?」

 幼女はご立腹である。そして、言うことはもっともだった。

「え~、だってぇ~」

「ぬぅわあぁにが『だってぇ~』ですか! そっぽ向いてないでこっち見てください! 私は怒ってますよ!」

「……だって、技術の進歩を見たかったんだもん」

「もん、じゃねえ! 子どもか!」

 幼女は我を忘れて、両足をばんばん踏みしだいて、怒った。もはやどっちが年上か解ったものではない。

「しょぼぼぼ~ん……」

 くてん、と、縛られたまま芋虫のように転がり、女流は幼女に、背を向ける。拗ねてしまった。

「ふんがああぁぁ――!!」

 じたばたと、縛られたままミミズのようにのた打ち回り、幼女は怒りを発散する。そうでもしていないと、気が変になりそうなほど、いろいろと処理が追い付かなかったのである。

 こうしてこの場は、無為に時間が、過ぎていった。

        *

「おねーちゃん? どしたの? おなかすいた?」

 娘のひとりが転がる幼女に近付き、その背中を指でつつく。
 きっ! と、つい感情が先走って、幼女は鋭い目を向けた。それに娘が一歩後ずさるから、反射的に表情を解く。

「だいじょうぶだよ~。ちょっとそっちのおばさんに、怒ってただけだから」

 にっこりと笑う。そうだ。あの高性能の機体にではなく、こちらの娘たちに話をつければ、うまくいくのではないかと、ちょっと黒い感情を孕みながら。

 さきほど聞いたエルファ・メロディアの話からすると、『EF』に命令を下したのはあくまで娘子だ。ならば、その命令を解除できるのも、娘子ひとりという考え方もできる。しかし、その子どもであるふたりの娘たちも、ある意味では『EF』を継承した『所有者』という考え方も、できなくはない。そのあたりの細かな関係はいまのところ解らないけれど、ゆえにまだ、娘たちさえ説得できれば『EF』を譲り受けることができる可能性も、消えてはいないのである。

 そんな腹黒い考えをも含んだ、笑顔だ。まずは仲良くなる。それを目標とする。

「おばちゃ~ん。なにか悪いことしたの~?」

 そんな思考を巡らしている間に、もうひとりの娘が、女流の方へ向かって、その背をつついた。
 女流は幼女と違って最初から心得ていた。幼い娘たちを不安がらせないように、むしろ心配を煽るように悲しそうな顔つきを向けて、安心させる。

「確かに、悪いのは余である。弁明のしようもない、のう……」

 暗い声で、言う。本心から申し訳ない気持ちもあったが、これも、心配させて構ってもらうための演技でもあった。

「悪いことしたら『ごめんなさい』なんだよ~。はい、おばちゃん」

 声をかけて、幼い体で、女流の高身長を持ち上げようとする。それに合わせて、女流は身を起こし、「ごめんなさい」と、謝った。

「おねーちゃん! ちゃんと謝ったんだから、許してあげようね!」

 幼女側にいた娘が、幼女を引っ張って、身を起こさせる。幼女はまだ少しむくれていたが、これも娘たちと打ち解ける一連の流れのひとつだと理解して、「私も言い過ぎました。ごめんなさい」と返した。女流が悪いとはいえ、言い過ぎたことは事実だ。そうも思うから。

「やった! 仲直り!」

 幼女側にいた娘が嬉しそうに笑う。

「仲直り~」

 それに追随して、女流側の娘も、ややテンションは低めに、笑った。

「「…………!!」」

 その笑顔に、女流と幼女は、ふと、くすんだ心が解ける気が、した。あ、これ、天使や。そう思う。暗い、黒い、淀んだ感情を、晴らして、生まれ変わった。

 娘たちは、天使に進化した! そして天使たちは、周囲にいる者たちを浄化した!

 ――――――――

 巨木のような腕を、振り降ろす。だがそれは空を切り、狙ったものとは別の、ただの床を、抉った。土埃が舞い、そこには、隙ができた。だから、その隙を狙い、大男はまず、先へ進むことを選ぶ。

「『霊操れいそう 〝ごう〟』!」

「う……ぐおおおおぉぉ――!!」

 だが、前へ進む大男を、女傑は力づくで後ろへ下がらせる。ぷらぷらと殴りかかった腕を振り、道を、遮った。

「硬った……。効いとる気ぃせぇへんわ」

 全力、だった。それでも思ったほどのダメージがない。これは、また、成長している。そう、判断する。

 WBOが把握しているよりも、よほどの速度で、成長している、と。

「どけ。それがしに本気を出させるな」

 大男は言う。その声は、あまりに威圧的に、空気をひりつかせるのに、なぜだろう? 女傑にはどこか、悲しんでいるようにも、感じられた。

「……世界でひとり、最強の極玉きょくぎょくとも言える自然極玉の使い手、タギー・バクルド。大袈裟に言えば、世界もろとも消し去れる力を持つ、アリス・L・シャルウィッチ。いまはもうおらんけど、独学ながら、天才的な器用さと世界の認知で、最先端をも超える機械生命体を生み出した、天才発明家、エルファ・メロディア」

 その娘子の名に、大男はピクリと、全身の筋肉をこわばらせた。

「……これだけの逸材を抱えながらも、うちの個人的な考えでは、あんさんが最悪に強大や。歴史上最強の人種、スパルタとモンゴル。双方の遺伝子を色濃く受け継ぐ、最強の血族。その、末裔――」

 女傑は行儀悪く、指を突き付け、言った。

「カイラギ・オールドレーン」


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

マンションのオーナーは十六歳の不思議な青年 〜マンションの特別室は何故か女性で埋まってしまう〜

美鈴
ファンタジー
ホットランキング上位ありがとうございます😊  ストーカーの被害に遭うアイドル歌羽根天音。彼女は警察に真っ先に相談する事にしたのだが…結果を言えば解決には至っていない。途方にくれる天音。久しぶりに会った親友の美樹子に「──なんかあった?」と、聞かれてその件を伝える事に…。すると彼女から「なんでもっと早く言ってくれなかったの!?」と、そんな言葉とともに彼女は誰かに電話を掛け始め… ※カクヨム様にも投稿しています ※イラストはAIイラストを使用しています

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

処理中です...