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コルカタ編 本章
世界最強の血族×2
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軍服のような上着を脱ぎ、優男は僧侶へ、それをかけた。顔を、左胸の傷跡を、覆うように。
「……コオリモリ、あれを」
男のそばへ腰を降ろして、解り良いように、指を差す。それは、血の跡だった。血痕が、道しるべのように、続いている。
「このハゲさんが、ただ一方的にやられるわけがない。あれはきっと、教祖の血だ。……そしてその向かう先は――」
その道は、また複雑に入り組んで、いろんな部屋に通じているのかもしれない。しかし、男にしては聡明なことに、ひとつ、可能性にすぐ、思い至る。そうだ。その先は、少女がさきほど、進んだ道。
「追うぞ!」
少女のこともそうだが、僧侶の敵討ちも含めて、意気揚々と男――と、優男――は、先へ進んだ。
――――――――
ところで、別の場面。施設の入り組んだ道の、ひとつの終着点。他の簡素な部屋とは一線を隔し、いろんな子ども向けのおもちゃなどが散らばる、異質な部屋。そこでは――
「やったね、エフ! えらいえらい!」
「えらいえら~い」
『…………』
「「…………」」
女流と幼女が、捕まって、縛られていた。亡き娘子が遺した機械生命体に、まったく抗うこともできずに。
「ちょっとフィロちゃんさん! あんな啖呵切っておいて、なんですかこのありさま!」
「いやあ、技術の進歩はすさまじいものがあるのう!」
「のう! じゃないです!」
わっはっはっは! と、女流は笑う。清々しいというか、豪胆というか。とにかく軽い調子で。
対照的に、幼女は焦っていた。せっかく、男の役にたてたかもしれないのに。そう思う。まだ納得も、認めもしていないが、姉とも呼ばれるべき者から、女流へ依頼があった。亡き娘子、エルファ・メロディアの遺した『異本』、『Euphoric Field ILL12010501』を、蒐集してほしい、と。それに、直接は声がかからなかった幼女が無理矢理に、手伝う、と、ついてきた形だ。それがこの、体たらくである。
「もう……こんなんハクに見付かったら、それ見たことかって言われちゃうよ。私も役にたてるんだって、証明したいのに」
そう落ち込む幼女を見て、女流は笑うのをやめ、ちらりと彼女を、見た。まだ長い付き合いではないが、それでも、かつては多くの臣民を束ねた女流である。人を見る目には、一定の自信があった。その目で見る限り、危うい、とも思ってしまう。そのうえで、どう導いてやろうかと、思案を巡らせた。
「そもそも、余たちは戦いにきたのではない。話し合いにきたのであろう。よもやこんな幼子たちを傷付けるつもりもないのだし、のう?」
キュウウゥゥ――――。と、女流の言に反応するように、『EF』の機体から機械音がわずかに、漏れた。
「そうですね! そのはずだったんですけどね! 率先して攻撃を仕掛けたフィロちゃんがなにを言ってるんですかね!?」
幼女はご立腹である。そして、言うことはもっともだった。
「え~、だってぇ~」
「ぬぅわあぁにが『だってぇ~』ですか! そっぽ向いてないでこっち見てください! 私は怒ってますよ!」
「……だって、技術の進歩を見たかったんだもん」
「もん、じゃねえ! 子どもか!」
幼女は我を忘れて、両足をばんばん踏みしだいて、怒った。もはやどっちが年上か解ったものではない。
「しょぼぼぼ~ん……」
くてん、と、縛られたまま芋虫のように転がり、女流は幼女に、背を向ける。拗ねてしまった。
「ふんがああぁぁ――!!」
じたばたと、縛られたままミミズのようにのた打ち回り、幼女は怒りを発散する。そうでもしていないと、気が変になりそうなほど、いろいろと処理が追い付かなかったのである。
こうしてこの場は、無為に時間が、過ぎていった。
*
「おねーちゃん? どしたの? おなかすいた?」
娘のひとりが転がる幼女に近付き、その背中を指でつつく。
きっ! と、つい感情が先走って、幼女は鋭い目を向けた。それに娘が一歩後ずさるから、反射的に表情を解く。
「だいじょうぶだよ~。ちょっとそっちのおばさんに、怒ってただけだから」
にっこりと笑う。そうだ。あの高性能の機体にではなく、こちらの娘たちに話をつければ、うまくいくのではないかと、ちょっと黒い感情を孕みながら。
さきほど聞いたエルファ・メロディアの話からすると、『EF』に命令を下したのはあくまで娘子だ。ならば、その命令を解除できるのも、娘子ひとりという考え方もできる。しかし、その子どもであるふたりの娘たちも、ある意味では『EF』を継承した『所有者』という考え方も、できなくはない。そのあたりの細かな関係はいまのところ解らないけれど、ゆえにまだ、娘たちさえ説得できれば『EF』を譲り受けることができる可能性も、消えてはいないのである。
そんな腹黒い考えをも含んだ、笑顔だ。まずは仲良くなる。それを目標とする。
「おばちゃ~ん。なにか悪いことしたの~?」
そんな思考を巡らしている間に、もうひとりの娘が、女流の方へ向かって、その背をつついた。
女流は幼女と違って最初から心得ていた。幼い娘たちを不安がらせないように、むしろ心配を煽るように悲しそうな顔つきを向けて、安心させる。
「確かに、悪いのは余である。弁明のしようもない、のう……」
暗い声で、言う。本心から申し訳ない気持ちもあったが、これも、心配させて構ってもらうための演技でもあった。
「悪いことしたら『ごめんなさい』なんだよ~。はい、おばちゃん」
声をかけて、幼い体で、女流の高身長を持ち上げようとする。それに合わせて、女流は身を起こし、「ごめんなさい」と、謝った。
「おねーちゃん! ちゃんと謝ったんだから、許してあげようね!」
幼女側にいた娘が、幼女を引っ張って、身を起こさせる。幼女はまだ少しむくれていたが、これも娘たちと打ち解ける一連の流れのひとつだと理解して、「私も言い過ぎました。ごめんなさい」と返した。女流が悪いとはいえ、言い過ぎたことは事実だ。そうも思うから。
「やった! 仲直り!」
幼女側にいた娘が嬉しそうに笑う。
「仲直り~」
それに追随して、女流側の娘も、ややテンションは低めに、笑った。
「「…………!!」」
その笑顔に、女流と幼女は、ふと、くすんだ心が解ける気が、した。あ、これ、天使や。そう思う。暗い、黒い、淀んだ感情を、晴らして、生まれ変わった。
娘たちは、天使に進化した! そして天使たちは、周囲にいる者たちを浄化した!
――――――――
巨木のような腕を、振り降ろす。だがそれは空を切り、狙ったものとは別の、ただの床を、抉った。土埃が舞い、そこには、隙ができた。だから、その隙を狙い、大男はまず、先へ進むことを選ぶ。
「『霊操 〝剛〟』!」
「う……ぐおおおおぉぉ――!!」
だが、前へ進む大男を、女傑は力づくで後ろへ下がらせる。ぷらぷらと殴りかかった腕を振り、道を、遮った。
「硬った……。効いとる気ぃせぇへんわ」
全力、だった。それでも思ったほどのダメージがない。これは、また、成長している。そう、判断する。
WBOが把握しているよりも、よほどの速度で、成長している、と。
「どけ。某に本気を出させるな」
大男は言う。その声は、あまりに威圧的に、空気をひりつかせるのに、なぜだろう? 女傑にはどこか、悲しんでいるようにも、感じられた。
「……世界でひとり、最強の極玉とも言える自然極玉の使い手、タギー・バクルド。大袈裟に言えば、世界もろとも消し去れる力を持つ、アリス・L・シャルウィッチ。いまはもうおらんけど、独学ながら、天才的な器用さと世界の認知で、最先端をも超える機械生命体を生み出した、天才発明家、エルファ・メロディア」
その娘子の名に、大男はピクリと、全身の筋肉をこわばらせた。
「……これだけの逸材を抱えながらも、うちの個人的な考えでは、あんさんが最悪に強大や。歴史上最強の人種、スパルタとモンゴル。双方の遺伝子を色濃く受け継ぐ、最強の血族。その、末裔――」
女傑は行儀悪く、指を突き付け、言った。
「カイラギ・オールドレーン」
「……コオリモリ、あれを」
男のそばへ腰を降ろして、解り良いように、指を差す。それは、血の跡だった。血痕が、道しるべのように、続いている。
「このハゲさんが、ただ一方的にやられるわけがない。あれはきっと、教祖の血だ。……そしてその向かう先は――」
その道は、また複雑に入り組んで、いろんな部屋に通じているのかもしれない。しかし、男にしては聡明なことに、ひとつ、可能性にすぐ、思い至る。そうだ。その先は、少女がさきほど、進んだ道。
「追うぞ!」
少女のこともそうだが、僧侶の敵討ちも含めて、意気揚々と男――と、優男――は、先へ進んだ。
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ところで、別の場面。施設の入り組んだ道の、ひとつの終着点。他の簡素な部屋とは一線を隔し、いろんな子ども向けのおもちゃなどが散らばる、異質な部屋。そこでは――
「やったね、エフ! えらいえらい!」
「えらいえら~い」
『…………』
「「…………」」
女流と幼女が、捕まって、縛られていた。亡き娘子が遺した機械生命体に、まったく抗うこともできずに。
「ちょっとフィロちゃんさん! あんな啖呵切っておいて、なんですかこのありさま!」
「いやあ、技術の進歩はすさまじいものがあるのう!」
「のう! じゃないです!」
わっはっはっは! と、女流は笑う。清々しいというか、豪胆というか。とにかく軽い調子で。
対照的に、幼女は焦っていた。せっかく、男の役にたてたかもしれないのに。そう思う。まだ納得も、認めもしていないが、姉とも呼ばれるべき者から、女流へ依頼があった。亡き娘子、エルファ・メロディアの遺した『異本』、『Euphoric Field ILL12010501』を、蒐集してほしい、と。それに、直接は声がかからなかった幼女が無理矢理に、手伝う、と、ついてきた形だ。それがこの、体たらくである。
「もう……こんなんハクに見付かったら、それ見たことかって言われちゃうよ。私も役にたてるんだって、証明したいのに」
そう落ち込む幼女を見て、女流は笑うのをやめ、ちらりと彼女を、見た。まだ長い付き合いではないが、それでも、かつては多くの臣民を束ねた女流である。人を見る目には、一定の自信があった。その目で見る限り、危うい、とも思ってしまう。そのうえで、どう導いてやろうかと、思案を巡らせた。
「そもそも、余たちは戦いにきたのではない。話し合いにきたのであろう。よもやこんな幼子たちを傷付けるつもりもないのだし、のう?」
キュウウゥゥ――――。と、女流の言に反応するように、『EF』の機体から機械音がわずかに、漏れた。
「そうですね! そのはずだったんですけどね! 率先して攻撃を仕掛けたフィロちゃんがなにを言ってるんですかね!?」
幼女はご立腹である。そして、言うことはもっともだった。
「え~、だってぇ~」
「ぬぅわあぁにが『だってぇ~』ですか! そっぽ向いてないでこっち見てください! 私は怒ってますよ!」
「……だって、技術の進歩を見たかったんだもん」
「もん、じゃねえ! 子どもか!」
幼女は我を忘れて、両足をばんばん踏みしだいて、怒った。もはやどっちが年上か解ったものではない。
「しょぼぼぼ~ん……」
くてん、と、縛られたまま芋虫のように転がり、女流は幼女に、背を向ける。拗ねてしまった。
「ふんがああぁぁ――!!」
じたばたと、縛られたままミミズのようにのた打ち回り、幼女は怒りを発散する。そうでもしていないと、気が変になりそうなほど、いろいろと処理が追い付かなかったのである。
こうしてこの場は、無為に時間が、過ぎていった。
*
「おねーちゃん? どしたの? おなかすいた?」
娘のひとりが転がる幼女に近付き、その背中を指でつつく。
きっ! と、つい感情が先走って、幼女は鋭い目を向けた。それに娘が一歩後ずさるから、反射的に表情を解く。
「だいじょうぶだよ~。ちょっとそっちのおばさんに、怒ってただけだから」
にっこりと笑う。そうだ。あの高性能の機体にではなく、こちらの娘たちに話をつければ、うまくいくのではないかと、ちょっと黒い感情を孕みながら。
さきほど聞いたエルファ・メロディアの話からすると、『EF』に命令を下したのはあくまで娘子だ。ならば、その命令を解除できるのも、娘子ひとりという考え方もできる。しかし、その子どもであるふたりの娘たちも、ある意味では『EF』を継承した『所有者』という考え方も、できなくはない。そのあたりの細かな関係はいまのところ解らないけれど、ゆえにまだ、娘たちさえ説得できれば『EF』を譲り受けることができる可能性も、消えてはいないのである。
そんな腹黒い考えをも含んだ、笑顔だ。まずは仲良くなる。それを目標とする。
「おばちゃ~ん。なにか悪いことしたの~?」
そんな思考を巡らしている間に、もうひとりの娘が、女流の方へ向かって、その背をつついた。
女流は幼女と違って最初から心得ていた。幼い娘たちを不安がらせないように、むしろ心配を煽るように悲しそうな顔つきを向けて、安心させる。
「確かに、悪いのは余である。弁明のしようもない、のう……」
暗い声で、言う。本心から申し訳ない気持ちもあったが、これも、心配させて構ってもらうための演技でもあった。
「悪いことしたら『ごめんなさい』なんだよ~。はい、おばちゃん」
声をかけて、幼い体で、女流の高身長を持ち上げようとする。それに合わせて、女流は身を起こし、「ごめんなさい」と、謝った。
「おねーちゃん! ちゃんと謝ったんだから、許してあげようね!」
幼女側にいた娘が、幼女を引っ張って、身を起こさせる。幼女はまだ少しむくれていたが、これも娘たちと打ち解ける一連の流れのひとつだと理解して、「私も言い過ぎました。ごめんなさい」と返した。女流が悪いとはいえ、言い過ぎたことは事実だ。そうも思うから。
「やった! 仲直り!」
幼女側にいた娘が嬉しそうに笑う。
「仲直り~」
それに追随して、女流側の娘も、ややテンションは低めに、笑った。
「「…………!!」」
その笑顔に、女流と幼女は、ふと、くすんだ心が解ける気が、した。あ、これ、天使や。そう思う。暗い、黒い、淀んだ感情を、晴らして、生まれ変わった。
娘たちは、天使に進化した! そして天使たちは、周囲にいる者たちを浄化した!
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巨木のような腕を、振り降ろす。だがそれは空を切り、狙ったものとは別の、ただの床を、抉った。土埃が舞い、そこには、隙ができた。だから、その隙を狙い、大男はまず、先へ進むことを選ぶ。
「『霊操 〝剛〟』!」
「う……ぐおおおおぉぉ――!!」
だが、前へ進む大男を、女傑は力づくで後ろへ下がらせる。ぷらぷらと殴りかかった腕を振り、道を、遮った。
「硬った……。効いとる気ぃせぇへんわ」
全力、だった。それでも思ったほどのダメージがない。これは、また、成長している。そう、判断する。
WBOが把握しているよりも、よほどの速度で、成長している、と。
「どけ。某に本気を出させるな」
大男は言う。その声は、あまりに威圧的に、空気をひりつかせるのに、なぜだろう? 女傑にはどこか、悲しんでいるようにも、感じられた。
「……世界でひとり、最強の極玉とも言える自然極玉の使い手、タギー・バクルド。大袈裟に言えば、世界もろとも消し去れる力を持つ、アリス・L・シャルウィッチ。いまはもうおらんけど、独学ながら、天才的な器用さと世界の認知で、最先端をも超える機械生命体を生み出した、天才発明家、エルファ・メロディア」
その娘子の名に、大男はピクリと、全身の筋肉をこわばらせた。
「……これだけの逸材を抱えながらも、うちの個人的な考えでは、あんさんが最悪に強大や。歴史上最強の人種、スパルタとモンゴル。双方の遺伝子を色濃く受け継ぐ、最強の血族。その、末裔――」
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