魔力を持つ人間は30歳までに結婚しないといけないらしい

ここりす

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37 切ない恋心 ①

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彼に告白してから2日間まともに寝室から出られず、身の回りのお世話はミハイルに任せっきりだ。今はお風呂も一緒に入り、髪を乾かしてもらって、彼の作ったご飯を食べる。

ミハイルは上機嫌に全てこなしてくれていた。


「明日から朝の身支度、僕も手伝っていい?」

「んー、なんで?」

「ピアスがいつでも見られるように、ヘアセットさせて欲しいんだけどダメかな?」

普段はロングヘアーをそのまま下ろしていることが多いので、確かにピアスは分かりにくい。

「いいけど、面倒じゃない?」

「僕がしたいだ、お願い」

「わかった」


夕食の片付けをすると、今日はもう遅いので寝る準備をする。夫婦の寝室に入ると綺麗なシーツに交換されていた。

「ミハイル、全部ありがとうね」

「いいんだ、さあ寝ようか」

どちらからともなく、おやすみのキスをして2人で寄り添うようにベットで眠る。

彼の体温が心地よく、すぐ眠りについた。




翌朝、ミハイルに起こされ朝食を食べると、昨日言われた通り私の部屋で支度を手伝ってくれる。

私を鏡台の前に座らせると、器用にミハイルの綺麗な指が髪を結わえていく。自分でも見とれるほどその仕上がりは素晴らしかった。

「ミハイルってなんでも出来るんだね」

「ふふっ僕の手で君を可愛くできて嬉しいよ」

耳が出るようなヘアースタイルを眺めていると、鏡越しにお互いの瞳色のピアスが見えたので照れてしまう。私の表情を眺めるとミハイルが手を取り自分のピアスに触れるように手を添えた。

私の瞳色を付けるミハイルは今まで以上に満たされた表情をしており、思わず息をのむと耳元で囁かれる。


「僕は、マールのものだよ」

「ミハイル・・・」


顔を赤くしていると私のピアスに触れる指にぞくりと体が震えた。


「マールは・・・・・・、」


それ以上話そうとしない彼に、胸が痛むとミハイルの苦しそうな顔が鏡に映る。
私はそんな彼を悲しませないと、あの時心に決めたので蕩けるような表情で彼を鏡越しに見つめた。


「ミハイル、貴方を愛してる」

「マール・・・」


振り向き紫の瞳が潤む彼の顔を手で包み込むと、甘く深い口づけをする。ミハイルは受け入れるように唇を重ねた。


「私を、離さないんでしょう?」

「ああ、そうだった」


抱き寄せられるとベットに押し倒されそうになりながら、先ほどよりも濃い口づけをされる。


「んんっ・・・はぁ、ま、待って!そろそろ家を出ないと・・・ん」

「んっ、もう少しだけ」

「んーーあっ、ダメ!!」


いやらしく体に触れる手からなんとか抜け出して、急いでミハイルを引き連れて部屋を出ると玄関に向かう。
まだ足りないと言い続けている彼の手を引き寄せ抱きついた。

「ふっマールから抱きしめてくれるなんて嬉しいな」

ミハイルも優しく抱きしめ返してくれる。


「ミハイル、大好き」

「ああ、僕も大好き」


胸がチクリと痛む。


手を繋ぐと一緒に家を出た。

(僕も大好き・・・か)

ミハイルと両思いになれて幸せ・・・なのに魔法にかかったミハイルの好きの気持ちと、自分の好きの気持ちに溝を感じる。


彼に恋に落ちた時からわかっていたことなのに・・・



隣で歩くミハイルは、幸せそうに私に笑いかける。

「そんなに僕を熱心に見つめてどうしたの?やっぱり家に戻って今日は休もうか?」

「大丈夫!!今日、帰りに寄りたいところがあるんだけど付き合ってくれない?」

「もちろん、お昼は僕の研究室に来てね。マールの好きなものを詰め合わせてきたんだ」

手に持った籠を持ち上げる彼に、微笑むと頷いた。




いつも通り魔法支援室まで送ってもらうと、みんな私の髪型とピアスに注目し話しかけられる。

「今日の髪型、かわいいね。ピアスは・・・凄いオーラだね!」

「ラブラブなの見せつけすぎだよ~」

「マール、良かったわね」

「はい、ありがとうございます」

ユリアさんを含めみんなに褒められると、照れるように席について仕事に取り掛かる。隣にいるアルノーからピアスをチラリと盗み見るような視線を感じたので、顔を向けるとアルノーは俯き黙って仕事に取り掛かっていた。その表情は黒髪に隠れてしまい分からない。

アルノーの黒髪から覗く耳に、ジャラリと沢山ついたピアスを眺めると、同じく黙ったまま作業を続ける。

(こんなに開けて、痛くなかったのかな・・・)

ミハイルに開けてもらったことを思い出してしまい、手が止まっていると隣から声をかけられた。

「先輩、手が止まってますよ。ほら、今日も旦那さんが迎えに来るまでに仕上げないと」

私の持っている仕事を一緒にどんどん進めていってくれるアルノーに感謝しながら、お昼の時間まで集中した。





お昼の時間になり、アルノーに追い出されるとミハイルの待つ研究室に向かう。

甘い顔で迎え入れてくれると、私の好きなものが並んだテーブルに着く。食べようとすると隣に座る彼に一口ずつ口に運ばれるので、食べながらもやんわりと止める。

「自分で食べられるよ」

「僕がしたいんだ、お願い」

彼のお願いに弱い私は素直に受け入れる。紫の瞳に見つめられながらバランスよく食べさせられていると、恥かしくなり目を逸らしてしまう。

「マール、君の可愛い顔を見せて」

「恥ずかしい・・・よ」

「ここには僕達しかいないよ」

「誰か来るかもしれないじゃない」

「誰も邪魔できないように、してあるよ」

冗談なのか本気なのかわからない国内一の魔力持ちの言葉に、頭を抱えそうになるがそんなところも含めて愛おしく感じたので微笑んだ。





アルノーが言った通り今日の分の作業は終わり、定刻になると一緒に魔法支援室に出る。また明日と声をかけられると去っていく。黒髪から揺れるピアスを眺めてその背中にお礼を言うと水晶に魔力を流した。

「お疲れ様、僕ももうすぐそっちに着くよ」

「え、もう?」

「マールと帰れるのが嬉しくて」

「ふふっ分かった」


塔を出ると待っていたミハイルと一緒に歩き出す。

「今日はどこに寄りたいの?」

「新しくできたカフェあってね、ミハイルとそこに行きたいの」

「デートだね」

「ふふっそうだね」


両想いになってからさらに甘くなったミハイルとの生活に、心は満たされていた。
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