魔力を持つ人間は30歳までに結婚しないといけないらしい

ここりす

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42 最後のデート

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今日はミハイルの魔法が解ける日

お互い休みを取り、ミハイルと最後のデートをすることになった。

お気に入りのクーライズ通りにあるレストランで食事すると、魔力の馬車に乗る。暖かい季節になったら見せてくれると約束していた場所に連れてきてくれるみたいだ。

馬車を降りると手を繋ぎ森の中を歩く。少し足元が悪いところはミハイルがしっかり支えてくれるので安心して一緒に進んでいく。静かな森の中で、ミハイルが隣にいる光景を目に焼きつけるように眺めていた。


「マール、そろそろ着くよ」


森を抜けると、そこには色とりどりの花が辺り一面に広がり、鮮やかなその景色に感動した。温かく優しい風がふんわりと頬を撫でる。

「わあ・・・こんな素敵な花畑に来たのは初めてだよ」

「ここは特別な場所でね。王宮で派遣調査に来た時にたまたま見つけたんだ。マールと一緒にこの景色を見られて嬉しいよ」

ミハイルに優しく微笑みかけられる。

彼のこの笑顔が好きだ。

私達は見つめ合うと無言になる。

今日はずっと考えないようにしていた。


(これが最後だなんて・・・)


お互い、いつもより口数が少ない。



「もっと奥まで行ってみよう」

優しく手を引かれると花畑の真ん中に進み、ミハイルが用意してくれた敷物の上に2人寄り添って座る。鮮やかな花たちに囲まれ、私達の周りには花の甘い香りが広がっている。

「いい香りだね」

彼は頷くと隣で花の香を楽しんでいるようだ。私はどんな花よりも綺麗に輝くミハイルに見蕩れていた。



花よりも彼を見ていたら、ミハイルが緊張する面持ちで口を開いた。

「マール、これを君に持っていて欲しいんだ」

手を掴まれると特殊な刻印が入った箱を手渡される。

中を開けると空っぽで、ミハイルはずっと着けていたピアスを外すとその中に差し込む。

私はその行動にショックで固まってしまった。

「どうして・・・」

私の頭を優しく撫でると、泣きボクロに唇が切なく触れた。

「僕が元に戻った時にこのピアスをどうするか分からないから、マールに持っていて欲しいんだ」

「そ、そっか」

渡された理由に少し安堵するが、それでも寂しさは拭えない。

「マールは着けたままでもいいし、外して箱の中に一緒に入れてくれてもいいよ」

「・・・うん」

私は箱を大切に仕舞うと、まだ彼のものでありたい自分のピアスに触れる。

その手にミハイルの手が重なると、私達は自然と見つめ合う。


「マール、最後のお願い聞いてくれる?」


「どうしても?」


「そうだね・・・どうしても」


「ん・・・」


「僕が元に戻って、たとえ君を傷付けたとしても必ず結婚式をしてほしい」


「ひどいね」


「ごめんね・・・でも必ず結婚するって約束して」




私は伝えたい言葉を飲み込み、彼の最後の願いを聞く。





「愛する貴方のためなら」





ミハイルの左手を両手で包むと、愛を込めて薬指に唇を落とす。



(貴方と結婚したい・・・)




「マール・・・」




悲しい約束をする私達の顔は切なさに染まっていた。





ここに来た時はまだ明るかったのに、もう夕方になっている。

どんな魔法でも止めることが出来ない時間はゆっくりと溶けていく。

花畑の中で夕日が沈んでいくのを眺め、私達は今日という終わりの日を味わっていた。

私は目の前で時間が過ぎていくことから避けるように、夕日に照らされるミハイルの綺麗な横顔を眺める。

「・・・そんなに見つめないでよ、僕に見とれてたの?」

俯きがちな表情で笑いかけられる。

「うん」

素直に頷くと、自然とお互いの顔が近づいた。

触れるだけの優しいキスは、私の胸を苦しめる。

(ただ、このままそばにいて欲しい)

言えない思いに締め付けられ、ミハイルを見つめることしか出来なかった。







ついに夕日が沈み、少し暗くなってきた。
ずっとこのままでいたかったが、声がかけられる。

「少し冷えてきたね、・・・帰ろうか」

立ち上がったミハイルに手を差し出される。


愛おしい手に掴まると私を引き上げ、そのまま抱きしめられた。


「マール」


彼の腕の中で感じる大好きな温もりと匂いに包まれる。

私はついに堪えていた涙が溢れてしまった。


「ミハ、イル・・・ミハイルっ」


「この結末は初めから分かっていたのに、君から愛されたいと望んだ僕のせいで、マールを悲しませてごめんね・・・」


優しく顔を包み込むと私の涙を指で拭う。

顔を見あげるとミハイルの目も潤んでいた。


「マール・・・」

「ミハイル・・・」


私達は、最後のキスをする。


優しくて、甘い、いつものキス。だけどその唇は震えている。


名残惜しくお互いの顔が離れた。



「僕は魔法にかかって、君に恋に落ちて、ずっと幸せだったよ」



ありがとうと言うと最後に抱き締める腕の力が込められる。

震える手で愛する彼に感謝を込めて抱きしめ返した。



「マール、僕がいいって言うまで目を閉じてくれる?」

「うん」


言われた通り目を閉じる。


ーパチンッ


「目を開けて」


辺り一面の花が光に包まれ、魔法の光の粒がキラキラと舞っている。

「わあ・・・」

見たことがない幻想的な景色に息を飲んだ。

「僕の魔法、綺麗だって言ってくれたから」

キラキラと照らされた彼の顔は、この世のものとは思えないほど輝いて見える。

「とても綺麗」

「やっと笑顔になった」

ミハイルは嬉しそうに笑う。



「私、この景色も貴方のことも忘れない」



花から光が消え、私達はそっと離れた。
迎えの馬車がやってくる時間だとミハイルの水晶が告げている。

ここからミハイルは、王宮に行き遠征に戻ったばかりの特殊呪文が使える人の所へ向かう。

ミハイルにかかった魔法を解いて貰うために。

私は別の馬車で家に帰る。


ーーーここでお別れだ。



お互い、別れ辛いので一緒のタイミングで別の馬車に乗る。

涙で視界がぼやけ、震える足でなんとか馬車に乗ることができた。

自動で扉が閉まると、私はミハイルの馬車を見るために窓を覗き込む。











そこにはミハイルが立っていた。


「!!ミハイル・・・!」

「ごめん」

「お互い見送らない約束をしたのに・・・ずるいよ」

馬車に魔力が通り動き出そうとしている。


「待って!!」


頑なに開かない扉を諦め、バンバンと窓ガラスを叩く。


その手にミハイルが触れた。


私は窓を叩く手をピタリと止め、ミハイルと手を合わせた。


「ああ、ミハイルっ、ミハイル・・・」


大好きな手が目の前のあるのに、温もりが感じ取れない距離がもどかしい。
もう一度だけ、ミハイルと触れ合いたくてミハイルを見つめる。



「ミハイルっ!」



私の大好きな笑顔で



「ありがとう」



それだけを伝えると、馬車が動き出し私達の手が離れていく。

「やだ、戻してっ!私を彼の元に行かせて!!」

扉を叩き続けるがびくりともしない。

どんどんと離れていくミハイルを見つめる。

ミハイルは離れた手を小さく振り、笑顔で見送ってくれている。

私は縋り付くように窓からその姿を見続けた。


「いやだっ!ミハイル!!!!行かないで、私の愛したミハイルを消さないで!!!!」



ミハイルが見えなくなると、私は馬車で泣き崩れた。

「あああああっ、ミハイルっ、ミハイル・・・いやだよ・・・お願い、消えないで・・・ミハイルを消さないで・・・お願い・・・おねがいだからぁ・・・」

ピアスの箱を握りしめ、泣き叫ぶことしか出来なかった。

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