魔力を持つ人間は30歳までに結婚しないといけないらしい

ここりす

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32 気付いた想い

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あれから数日、平穏な日常に戻った。

(触れ合うのも、またなくなっちゃったな・・・)

私が入れたミハイルと同じ味にならない紅茶を飲みながら、チラリとミハイルの横顔を眺める。

透き通るような銀色の髪型は私の好きな理想の王子様そのもので、輝く紫色の瞳は垂れ目で甘い顔立ちをしている。血色のいい綺麗な形をした唇が紅茶を飲んでいる所につい目が吸い寄せられていた。あまりにも見蕩れすぎていたのか、ミハイルが照れたように笑うその表情に胸を打たれ、顔が赤くなっている気がした。

「そんなに見られると照れるよ、マール。まるで僕のことが好きって顔に書いてあるね」

「えっ」

気持ちを見透かされたみたいで、思わず目が泳ぐ。

「ほら、こっちを見て」

隣で隙間なく座り直すミハイルに顔を覗き込まれた。

「ねえ、ここにキスしてもいいかな?」

顎を掴まれ彼から目を離せないでいると、指が甘く唇をなぞり、ゾクリと体が震えた。

「また、逃げられないんでしょ?」

「ごめんね・・・」

悲しそうな唇が触れると、ミハイルの表情に胸が締め付けられる。素直になれず自分の感情から逃げる言葉を伝えたことに後悔した。




翌日、新婚旅行で休んでいた分の仕事がまだまだ溜まっているらしくミハイルは仕事だ。新婚旅行でも言っていた通り、ミハイルにしか出来ない大事な仕事があるのだろう。明日は一緒に休みなので、ミハイルと過ごせるのが楽しみになっている。

目が覚めると家からミハイルの気配がしなかったので自然と起き上がった。

(もう、ミハイル行っちゃったのかな・・・)

私は寂しさの原因を辿るように温もりを探すと玄関にいるみたいで、慌ててそこへ向かうとミハイルが驚いた顔で待っていた。

「どうしたの・・・マール」

「その、お見送り」

「ああ、起きた時に僕がいなかったから寂しかったんだね」

ごめんねと優しく撫でられる手が心地いい。

「そんな可愛い顔されると行きたくなくなるよ」

「ふふっお仕事頑張ってね」

「早く帰って来るね。マールの食事は用意しといたから後で食べてね」

「うん、ありがとう」

「あの、マールから行ってきますの・・・ハグしてくれない?」

「う、ん・・・」

私は照れながらも、素直にミハイルに抱きつくと優しく抱きしめ返してくれる。先ほどまでの寂しさは吹き飛び、あたたかい胸の中にいると満たされた気持ちになった。

「幸せだよ・・・離れたくないけど、そろそろ・・・」

私は彼を見上げて、満たされた気持ちで伝える。

「ミハイル、行ってらっしゃい」

「マール・・・行ってきます」

名残惜しくミハイルと離れると、手を振り彼の後ろ姿を見送った。



ミハイルが用意してくれた食事を食べると、自分のこの気持ちを確かめるために、伴侶システムへと向かうことにした。



******



伴侶システムに到着すると、結婚が決まった時に出会った神官主に案内される。

「ダレロワ様、お待ちしておりました。伴侶システムまでご案内致します」

「突然お伺いしてすいません。今日はよろしくお願いします」

「いえいえ、あれからお元気にされておりましたか?」

「はい・・・お陰様で」

「こちらもダレロワ様達のおがげで、伴侶システムに興味を示された魔力持ちの方が多く訪れられるようになりました。登録された方が増えたので、より相性のいいパートーナーを見つけて多くの方が結婚されていかれます。こちらとしても喜ばしい限りです」

「そう、ですか・・・」


ーーー『魔力持ちの理想の夫婦』


図らずとも私達の結婚が国王陛下の言った通りになりつつあり、どこか複雑な気持になった。





私が登録してもう2ヶ月半が経つ伴侶システムがある扉の前に再び立つ。

(魔法がかかって、1か月半・・・)

重厚な扉が開かれると伴侶システムはあの時と変わらず、真っ白な部屋の中に巨大な水晶だけが置かれており、とても神聖な雰囲気に包まれていた。

「登録した時と同じように、手をかざして魔力を流していただきますと、相性の判定が確認できます。それでは私は一旦失礼します。何かございましたら、入口の者をお呼びください」

「ご案内いただきありがとうございます」

ここからは1人にしてくれるみたいで、安心した。


「ふぅ・・・」


広い部屋にひとり、一呼吸すると緊張する手で巨大水晶に触れる。


魔力を流すとまばゆい光に部屋が包まれ、あのミハイル・エンリーが映し出された。








『マール・ダレロワ、ミハイル・エンリー』









『相性100パーセント』







私の目から涙がこぼれ落ちていた。


(ずっと気付いてた・・・もう、わかっていたのに)



目の前の巨大水晶にはミハイル・エンリーは映っているのに


私の知っているミハイル・エンリーはどこにもいない


測れない私達の相性に、気付いてしまった。




私が、ここに来たのは


100パーセントを示す水晶に満たされないのは



ーーーーー彼に恋に落ちたからだ




水晶に大きく表示されているミハイル・エンリーに目を映す。


「貴方を愛してる・・・心から、愛してるの」


自分の悲しい気持ちに気付いた私は膝から崩れ落ち、私を好きになる魔法にかかった彼を想う。



「・・・うっ、あああっ・・・」


『マールも恋に落ちたらわかるよ』


「好き・・・・・・貴方のことが好きなのに・・・」



あの時ここに来なければ、ミハイル・エンリーと結婚する未来はなかったのに、魔法にかかった貴方に出会うこともなかったのに、貴方に愛された日常は訪れなかったのに、私は・・・



「恋に落ちてしまったの」



涙を流しすぎて息が詰まり見上げると、巨大水晶に映る私の顔は、哀しさと苦しさで歪んでいた。



100パーセントを示す水晶は輝く光りに包まれているのに、私の心にはその光が胸に突き刺さるように痛い。




ミハイルの魔法はいつか解ける。

それでも私は、今の彼をこれ以上悲しませたくはない。

溢れ出した私の答えは・・・




「貴方が消える日まで、愛すよ」







気持ちを落ち着けて、部屋を出ると神官主が待っていた。


「伴侶システムをご覧になられて、顔付きが変わられましたね。ご納得いただける結果だったでしょうか?」

「はい、ありがとうございます」

「それは良かったです。ダレロワ様の幸せをお祈り致します」

満足そうに神官主は頷き、その場で見送られる。



私はその言葉には頷くことなく、悲しい結末へと歩むことにした。
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