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57 支える愛情
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今日は帰りが遅いと言われたので、久しぶりに一人で家に帰る。途中で愛読している小説の新刊が発売されていることを思い出し、家とは逆方向に足を進めた。
久しぶりの本屋さんに、興奮が収まらず店内をウロウロと見回っていると、前に彼の隣で読んでいたマッサージの本が目についた。
(ミハイル、喜んでくれたな・・・その笑顔に私も癒されてたんだっけ)
目が潤みそうになるのをごまかすために目的の棚へ向かい、新刊を手に取り会計を済ませて店を出た。
帰っていると、ぽつぽつと雨が降ってきていた。
早足で家へと向かいながら、少しづつ濡れていく水滴を感じる。
(雨・・・あの時のも・・・)
あの時よりは弱い雨に打たれながらも、無意識に叶わなかったプロポーズの日を思い出す。
『マール、君は幸せになれるよ』
雨なのか、涙なのか、私の顔は濡れていく。
あの時と同じように雨が降る空を見上げていたら、急に顔に雨が降らなくなった。
驚いて後ろを振り返ると、傘を持つアルノーがいた。
「使ってください」
「大丈夫だよ・・・そこまで雨足強くないから走って帰る」
「俺の家、すぐそこなんで」
「アルノー寮じゃなかったけ?」
アルノーも私も悲しい感情に浸っているのだろう。お互いの声は暗いのに、それをごまかすようにいつもの会話をしている。
「俺、家持ってるんすよ」
「え、凄いね」
「自慢みたいになっちゃうんで、みんなには内緒にしといてくださいね」
「わかったよ」
「広すぎて一人では持て余してますけどね」
「自慢じゃない」
「ははっ、そうでした」
笑顔で笑うアルノーは、濡れて目に張り付いていた私の髪を指でよける。
「俺にはその涙を拭ってあげられないんで」
視界が広がり、傘を差し出す彼は心の中で泣いているように見えた。
「せめて、これ以上顔が濡れないように、この傘使ってください」
「そんな・・・」
「じゃあ先輩、足元に気を付けて帰ってくださいね」
私に傘を手渡す優しい手が離れると、アルノーは早足でどんどん遠くへ行ってしまった。
(ありがとう・・・)
家に帰る頃には、濡れていた目元は乾いていた。
雨で少し冷えた体をお風呂で温めて、彼の準備してくれていた夕食を食べる。片付けると、買ってきた小説を久しぶりに読むことにした。
広いソファーにゴロリと寝転び、パラパラとのめり込むように読み進める。
(やっぱり面白いな・・・)
このソファーで本を読むのが気に入っている。ミハイルといた時もよく一緒に本を読んでいたなんて思い返してまた悲しくなったので、頭を切りかえて続きを読む。
無意識にミハイルのことばかり考えすぎてしまうので、最近眠れていない。
どんどんと内容は入ってこなくなり、気がつくと目を瞑っていた。
夢の中で髪を優しく撫でられている気がする。
寝返りをしようとすると、ソファーでないことに気がついた。
目を開けると、先ほど読んでいた小説を持ったミハイルに膝枕されているみたいだった。
本から目を外した彼と目が合う。紫の垂れ目が甘く微笑み、ミハイルと勘違いしそうになった。
(これは、夢・・・?)
「なんだ、起きたのか」
「なわけないよね」
「最近あまり眠れていないのか」
ミハイルは私の目の下のクマをそっと撫でる。優しく動く指に思わず体がびくりと跳ねた。
起き上がろうとするとやんわり戻される。
「もう、寝るから」
「ちゃんと眠れていないのだろう。もう少しこのままでいろ」
膝枕から動けないでいると、しなやかな指が髪を掬いはらりと落とす。何度も、優しく繰り返される。その動きは彼との新婚旅行の時を思い出す。
「綺麗な髪だな」
「ど、どうも・・・」
まさか褒められると思わず、甘い瞳から目を逸らす。
「緑の瞳も綺麗だ」
「・・・ありがとう」
私の赤くなった顔に満足したのか、柔く微笑む姿に見蕩れてしまった。
「少し寝ろ」
髪を梳くていた手が私の目を覆い、そこで意識が無くなった。
きっと彼も同じく私を魔力で眠らせていたんだろう。よく知る感覚だった。
ぼんやりと意識が戻るとゴロリと寝返る。
私の好きな香りが顔の前にあると分かり吸い込んでいたら、ビクリと震える。ゆっくりと目を開けるとミハイルのお腹に顔を埋めていた。
私は慌てて起き上がってミハイルを見る。
彼は顔を真っ赤にし、口に手を当てて顔を逸らしていた。
「ごめんね・・・」
私は気まずくなり、ソファーから立ち上がろうとしたら体にはブランケットがかけられていた。
「休ませてくれて、ありがとう」
「あ、ああ」
真っ赤になりながら動揺している彼に、ブランケットを返しお礼を告げると部屋に戻った。
ベットに入るとピアスの箱を眺めながら、ミハイルの香りの余韻に浸る。
(やっぱり、私はミハイルから離れられないのかな・・・)
彼のおかげで癒された体は、ぐっすりと眠りにつくことができた。
久しぶりの本屋さんに、興奮が収まらず店内をウロウロと見回っていると、前に彼の隣で読んでいたマッサージの本が目についた。
(ミハイル、喜んでくれたな・・・その笑顔に私も癒されてたんだっけ)
目が潤みそうになるのをごまかすために目的の棚へ向かい、新刊を手に取り会計を済ませて店を出た。
帰っていると、ぽつぽつと雨が降ってきていた。
早足で家へと向かいながら、少しづつ濡れていく水滴を感じる。
(雨・・・あの時のも・・・)
あの時よりは弱い雨に打たれながらも、無意識に叶わなかったプロポーズの日を思い出す。
『マール、君は幸せになれるよ』
雨なのか、涙なのか、私の顔は濡れていく。
あの時と同じように雨が降る空を見上げていたら、急に顔に雨が降らなくなった。
驚いて後ろを振り返ると、傘を持つアルノーがいた。
「使ってください」
「大丈夫だよ・・・そこまで雨足強くないから走って帰る」
「俺の家、すぐそこなんで」
「アルノー寮じゃなかったけ?」
アルノーも私も悲しい感情に浸っているのだろう。お互いの声は暗いのに、それをごまかすようにいつもの会話をしている。
「俺、家持ってるんすよ」
「え、凄いね」
「自慢みたいになっちゃうんで、みんなには内緒にしといてくださいね」
「わかったよ」
「広すぎて一人では持て余してますけどね」
「自慢じゃない」
「ははっ、そうでした」
笑顔で笑うアルノーは、濡れて目に張り付いていた私の髪を指でよける。
「俺にはその涙を拭ってあげられないんで」
視界が広がり、傘を差し出す彼は心の中で泣いているように見えた。
「せめて、これ以上顔が濡れないように、この傘使ってください」
「そんな・・・」
「じゃあ先輩、足元に気を付けて帰ってくださいね」
私に傘を手渡す優しい手が離れると、アルノーは早足でどんどん遠くへ行ってしまった。
(ありがとう・・・)
家に帰る頃には、濡れていた目元は乾いていた。
雨で少し冷えた体をお風呂で温めて、彼の準備してくれていた夕食を食べる。片付けると、買ってきた小説を久しぶりに読むことにした。
広いソファーにゴロリと寝転び、パラパラとのめり込むように読み進める。
(やっぱり面白いな・・・)
このソファーで本を読むのが気に入っている。ミハイルといた時もよく一緒に本を読んでいたなんて思い返してまた悲しくなったので、頭を切りかえて続きを読む。
無意識にミハイルのことばかり考えすぎてしまうので、最近眠れていない。
どんどんと内容は入ってこなくなり、気がつくと目を瞑っていた。
夢の中で髪を優しく撫でられている気がする。
寝返りをしようとすると、ソファーでないことに気がついた。
目を開けると、先ほど読んでいた小説を持ったミハイルに膝枕されているみたいだった。
本から目を外した彼と目が合う。紫の垂れ目が甘く微笑み、ミハイルと勘違いしそうになった。
(これは、夢・・・?)
「なんだ、起きたのか」
「なわけないよね」
「最近あまり眠れていないのか」
ミハイルは私の目の下のクマをそっと撫でる。優しく動く指に思わず体がびくりと跳ねた。
起き上がろうとするとやんわり戻される。
「もう、寝るから」
「ちゃんと眠れていないのだろう。もう少しこのままでいろ」
膝枕から動けないでいると、しなやかな指が髪を掬いはらりと落とす。何度も、優しく繰り返される。その動きは彼との新婚旅行の時を思い出す。
「綺麗な髪だな」
「ど、どうも・・・」
まさか褒められると思わず、甘い瞳から目を逸らす。
「緑の瞳も綺麗だ」
「・・・ありがとう」
私の赤くなった顔に満足したのか、柔く微笑む姿に見蕩れてしまった。
「少し寝ろ」
髪を梳くていた手が私の目を覆い、そこで意識が無くなった。
きっと彼も同じく私を魔力で眠らせていたんだろう。よく知る感覚だった。
ぼんやりと意識が戻るとゴロリと寝返る。
私の好きな香りが顔の前にあると分かり吸い込んでいたら、ビクリと震える。ゆっくりと目を開けるとミハイルのお腹に顔を埋めていた。
私は慌てて起き上がってミハイルを見る。
彼は顔を真っ赤にし、口に手を当てて顔を逸らしていた。
「ごめんね・・・」
私は気まずくなり、ソファーから立ち上がろうとしたら体にはブランケットがかけられていた。
「休ませてくれて、ありがとう」
「あ、ああ」
真っ赤になりながら動揺している彼に、ブランケットを返しお礼を告げると部屋に戻った。
ベットに入るとピアスの箱を眺めながら、ミハイルの香りの余韻に浸る。
(やっぱり、私はミハイルから離れられないのかな・・・)
彼のおかげで癒された体は、ぐっすりと眠りにつくことができた。
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