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58 君の瞳に映る僕
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最近彼の帰りは遅いので、今日も一人で帰っていると、ミハイルの言葉を思い出す。
『目の前の僕を見てくれ』
その言葉に胸が痛みながらも帰っていると、後ろから足音がする。
振り返ると誰もいない。
3度目でおかしいと気付く。
魔力の気配もないので、正体の掴めない相手に冷や汗をかきながら早足で家に滑り込むように入る。
振り返り確認すると、家の扉のガラスに透けて見える黒い人影がいた。
(怖いっ!!!)
ガチャガチャと激しくドアノブが回され、恐怖で体が竦む。
この家は私とミハイルの魔力でしか開かないと分かっていても、扉が無理やり開かれそうで怖くなる。
防御魔法を使おうにもそこから目を離せず、どんどん冷えていく体は上手く動かせない。
人影が叫び出す。
「全部、全部っ!!お前のせいで失った!!!!!何もかもお前のせいだ!!!!!」
シーマの憎悪が籠った声がする。
人影を見ながら動けないでいると、魔力が使えないのか、扉が力強く叩かれる。
「おい!!!!出てこいよ!!!」
ガンッ!!!ガンッ!!!!!
「魔力なんかなくても、お前を消してやる!!!!!」
激しく衝突される玄関の扉から目を離さず、震える体で後ろに下がり助けを求めた。
「ミハイル・・・」
ーーーパキィイイイイイン
大きな音と共に人影が吹き飛ばされていく音がした。
「遅くなってすまない。怖かっただろう」
魔力の渦から飛び出し、目の前にミハイルが現れた。
震える体を包み込むように、私を胸の中に抱き寄せる。
扉をこじ開けようと暴れていた音は静かになっていた。
素早く私を抱き上げると、安心させるように微笑むミハイルと目が合う。
「僕だけを見ていて」
玄関を気にさせないように、優しい言葉がかけられる。
強ばる体を預けながらミハイルを見上げ、夫婦の寝室に運ばれる。
優しくベットにおろして座らせると、部屋に防衛魔法が掛けられた。
ーーパチンッ
指を鳴らし綺麗な魔法を使う姿に見蕩れていると、目の前に跪いたミハイルに両手を包まれる。
「どんなことがあっても、この指輪が君を守るから。だから安心して待っていてくれ」
甘く微笑むとミハイルは寝室を出ていった。
私は扉の方を眺め、指輪をはめた手を握りしめる。
きっと防音効果も付いているのだろう。家の音は一切聞こえず、私を安心させてくれた両手の温もりを思い出す。
(ミハイルが来てくれて、良かった・・・)
魔力の渦でミハイルが戻ってくる。玄関から離れていないのに、すぐに戻るために強力な魔力を使ってくれたのだろう。
「もう大丈夫だ」
私はその言葉に安堵すると、ミハイルが隣に腰掛ける。私の顔に手を添えると、泣いていないか確かめているようだった。
「マール、怖かっただろう」
ミハイルの優しさに心が緩み、涙がポロポロ溢れ出る。優しく涙を拭う指を受け入れ、ミハイルを見つめた。
「助けてくれてありがとう」
「もっと早く来たかったが、色々手こずってな。すまない」
あたたかい手に包み込まれている顔を横に振る。
「僕に寄りかかってくれないか」
私は言われた通り、彼に全身を預けるように寄りかかる。背中を優しく撫でてくれる手に、心がとても落ち着いた。
涙も引いて気持ちも落ち着き、余裕が出来てきたのでミハイルと話す。
「まだ、ここにいて大丈夫なの?仕事の途中なんじゃ、ないの?」
「ああ、マールより大切なものはない」
「ありがとう、ミハイル」
「怖い思いをさせてすまない」
「ミハイルは何も悪くないよ」
「アイツは今度こそ本当にもう二度と姿を表さない」
「うん・・・」
私の頭を優しく撫でると、彼の顔が近づく。
「今日はマールのそばにいたい」
目の前の紫の瞳に頷いた。
作り置きされていた夕食を一緒に食べ、ソファーでいつものように今日あったことを話す。
ミハイルがそばにいてくれる安心感に、先ほどの恐怖心で冷えた体は、あたたかさを取り戻していた。
話しに夢中になっていると隣に座るミハイルの体温に落ち着く体に、眠気が襲ってきた。今日は眠るまでそばにいてくれるらしく、夫婦の寝室で寝ることになった。
私は広いベットにひとりで入り、ミハイルは隣の椅子に腰掛けている。
「ミハイルは、その・・・」
「ああ、僕は自分の部屋で寝る」
「そう・・・」
「ふっ、隣に寝てもいいのか?」
「それは・・・」
「分かっている。僕はまだ君に好かれていない」
ミハイルの言葉に酷く胸が痛む。
「明日、起きたらまたいつも通りだ。安心して眠るんだ」
「うん、おやすみ」
「おやすみ、マール」
最後にミハイルが何か言った気がするが、その言葉は耳に届かず意識が遠のいた。
次の日からミハイルは私が一人で帰ることを心配してくれているのか、仕事があるはずなのに私と家に帰り夕食を食べてからまた王宮へ戻る。
そんな生活が毎日続き、ミハイルが無理してくれているのが分かる。
いつも通り彼の研究室でお昼を食べている時の顔は、少し疲れが見えた。
定刻になると迎えに来てくれるが、今日はベンチに座らず、走って彼の研究室まで向かう。
魔法研究室の塔へ入ると、遠くにミハイルが見えたので、思わず叫んでいた。
「ミハイル!!」
私の姿を見て驚き、彼も急いで私の元へ駆け寄る。
肩を掴むと心配そうに私の瞳を覗き込んでいる。
「どうした!何かあったのか?」
「違うよ、ミハイルが心配で来たの」
「ああ、僕は大丈夫・・・じゃないから少しマールと研究室で休んでから帰りたい」
「うん、行こう」
研究室のソファーまで来ると、お昼の時よりもミハイルの近くに座る。
彼の顔色をのぞき込むと、驚いた顔をしていた。
「どうしたんだ、マール・・・」
(私のせいで、疲れているんだね)
ミハイルに手をかざし、強力な回復魔法をかける。私の魔力量からすると結構な消費量なので、便利だが多用できない。
魔法をかけ終えると彼との近さに急に恥ずかしくなり、座り直そうとすると腕を掴まれた。
「もう離れてしまうのか」
寂しそうなか細い声に、私は再び近くに座る。
「マールに初めて魔法をかけてもらった」
とても嬉しそうな表情でありがとうと笑う彼の顔色は良くなり安堵した。
ミハイルが私にもたれ掛かるので、その重みを支えるように受け止める。
「ミハイル、無理しないで」
私の頭の上にあるミハイルの顔が甘く擦り寄る。
「ありがとう。今日のマールは優しいな」
「ふふっ」
「この体を心配してくれているからだろう?」
笑っていた笑顔が固まる。ミハイルは私から離れ、瞳を覗き込んだ。
「顔もよく見蕩れているな。声も、名前を呼ぶと嬉しそうにする。こうして、見つめると君は必ず顔を赤くするんだ」
顎を掴まれ、甘い紫の瞳と目を合わせる。
「ミハイル・・・」
「それは誰を呼んでいるんだ」
「目の前のあなた・・・だよ」
「ふっ、僕は自分のしたことなのに、全てに頭を悩まされている。すまなかった」
パッと離れて飲み物を取ってくると言い残し、立ち去っていくミハイルの背中を眺めることしかで出来なかった。
ミハイルが苦しめられている表情に、応えられない自分の気持ちが辛くなる。
隣にいなくなった温もりに寂しさを感じ、無意識に指輪を眺めていた。
『目の前の僕を見てくれ』
その言葉に胸が痛みながらも帰っていると、後ろから足音がする。
振り返ると誰もいない。
3度目でおかしいと気付く。
魔力の気配もないので、正体の掴めない相手に冷や汗をかきながら早足で家に滑り込むように入る。
振り返り確認すると、家の扉のガラスに透けて見える黒い人影がいた。
(怖いっ!!!)
ガチャガチャと激しくドアノブが回され、恐怖で体が竦む。
この家は私とミハイルの魔力でしか開かないと分かっていても、扉が無理やり開かれそうで怖くなる。
防御魔法を使おうにもそこから目を離せず、どんどん冷えていく体は上手く動かせない。
人影が叫び出す。
「全部、全部っ!!お前のせいで失った!!!!!何もかもお前のせいだ!!!!!」
シーマの憎悪が籠った声がする。
人影を見ながら動けないでいると、魔力が使えないのか、扉が力強く叩かれる。
「おい!!!!出てこいよ!!!」
ガンッ!!!ガンッ!!!!!
「魔力なんかなくても、お前を消してやる!!!!!」
激しく衝突される玄関の扉から目を離さず、震える体で後ろに下がり助けを求めた。
「ミハイル・・・」
ーーーパキィイイイイイン
大きな音と共に人影が吹き飛ばされていく音がした。
「遅くなってすまない。怖かっただろう」
魔力の渦から飛び出し、目の前にミハイルが現れた。
震える体を包み込むように、私を胸の中に抱き寄せる。
扉をこじ開けようと暴れていた音は静かになっていた。
素早く私を抱き上げると、安心させるように微笑むミハイルと目が合う。
「僕だけを見ていて」
玄関を気にさせないように、優しい言葉がかけられる。
強ばる体を預けながらミハイルを見上げ、夫婦の寝室に運ばれる。
優しくベットにおろして座らせると、部屋に防衛魔法が掛けられた。
ーーパチンッ
指を鳴らし綺麗な魔法を使う姿に見蕩れていると、目の前に跪いたミハイルに両手を包まれる。
「どんなことがあっても、この指輪が君を守るから。だから安心して待っていてくれ」
甘く微笑むとミハイルは寝室を出ていった。
私は扉の方を眺め、指輪をはめた手を握りしめる。
きっと防音効果も付いているのだろう。家の音は一切聞こえず、私を安心させてくれた両手の温もりを思い出す。
(ミハイルが来てくれて、良かった・・・)
魔力の渦でミハイルが戻ってくる。玄関から離れていないのに、すぐに戻るために強力な魔力を使ってくれたのだろう。
「もう大丈夫だ」
私はその言葉に安堵すると、ミハイルが隣に腰掛ける。私の顔に手を添えると、泣いていないか確かめているようだった。
「マール、怖かっただろう」
ミハイルの優しさに心が緩み、涙がポロポロ溢れ出る。優しく涙を拭う指を受け入れ、ミハイルを見つめた。
「助けてくれてありがとう」
「もっと早く来たかったが、色々手こずってな。すまない」
あたたかい手に包み込まれている顔を横に振る。
「僕に寄りかかってくれないか」
私は言われた通り、彼に全身を預けるように寄りかかる。背中を優しく撫でてくれる手に、心がとても落ち着いた。
涙も引いて気持ちも落ち着き、余裕が出来てきたのでミハイルと話す。
「まだ、ここにいて大丈夫なの?仕事の途中なんじゃ、ないの?」
「ああ、マールより大切なものはない」
「ありがとう、ミハイル」
「怖い思いをさせてすまない」
「ミハイルは何も悪くないよ」
「アイツは今度こそ本当にもう二度と姿を表さない」
「うん・・・」
私の頭を優しく撫でると、彼の顔が近づく。
「今日はマールのそばにいたい」
目の前の紫の瞳に頷いた。
作り置きされていた夕食を一緒に食べ、ソファーでいつものように今日あったことを話す。
ミハイルがそばにいてくれる安心感に、先ほどの恐怖心で冷えた体は、あたたかさを取り戻していた。
話しに夢中になっていると隣に座るミハイルの体温に落ち着く体に、眠気が襲ってきた。今日は眠るまでそばにいてくれるらしく、夫婦の寝室で寝ることになった。
私は広いベットにひとりで入り、ミハイルは隣の椅子に腰掛けている。
「ミハイルは、その・・・」
「ああ、僕は自分の部屋で寝る」
「そう・・・」
「ふっ、隣に寝てもいいのか?」
「それは・・・」
「分かっている。僕はまだ君に好かれていない」
ミハイルの言葉に酷く胸が痛む。
「明日、起きたらまたいつも通りだ。安心して眠るんだ」
「うん、おやすみ」
「おやすみ、マール」
最後にミハイルが何か言った気がするが、その言葉は耳に届かず意識が遠のいた。
次の日からミハイルは私が一人で帰ることを心配してくれているのか、仕事があるはずなのに私と家に帰り夕食を食べてからまた王宮へ戻る。
そんな生活が毎日続き、ミハイルが無理してくれているのが分かる。
いつも通り彼の研究室でお昼を食べている時の顔は、少し疲れが見えた。
定刻になると迎えに来てくれるが、今日はベンチに座らず、走って彼の研究室まで向かう。
魔法研究室の塔へ入ると、遠くにミハイルが見えたので、思わず叫んでいた。
「ミハイル!!」
私の姿を見て驚き、彼も急いで私の元へ駆け寄る。
肩を掴むと心配そうに私の瞳を覗き込んでいる。
「どうした!何かあったのか?」
「違うよ、ミハイルが心配で来たの」
「ああ、僕は大丈夫・・・じゃないから少しマールと研究室で休んでから帰りたい」
「うん、行こう」
研究室のソファーまで来ると、お昼の時よりもミハイルの近くに座る。
彼の顔色をのぞき込むと、驚いた顔をしていた。
「どうしたんだ、マール・・・」
(私のせいで、疲れているんだね)
ミハイルに手をかざし、強力な回復魔法をかける。私の魔力量からすると結構な消費量なので、便利だが多用できない。
魔法をかけ終えると彼との近さに急に恥ずかしくなり、座り直そうとすると腕を掴まれた。
「もう離れてしまうのか」
寂しそうなか細い声に、私は再び近くに座る。
「マールに初めて魔法をかけてもらった」
とても嬉しそうな表情でありがとうと笑う彼の顔色は良くなり安堵した。
ミハイルが私にもたれ掛かるので、その重みを支えるように受け止める。
「ミハイル、無理しないで」
私の頭の上にあるミハイルの顔が甘く擦り寄る。
「ありがとう。今日のマールは優しいな」
「ふふっ」
「この体を心配してくれているからだろう?」
笑っていた笑顔が固まる。ミハイルは私から離れ、瞳を覗き込んだ。
「顔もよく見蕩れているな。声も、名前を呼ぶと嬉しそうにする。こうして、見つめると君は必ず顔を赤くするんだ」
顎を掴まれ、甘い紫の瞳と目を合わせる。
「ミハイル・・・」
「それは誰を呼んでいるんだ」
「目の前のあなた・・・だよ」
「ふっ、僕は自分のしたことなのに、全てに頭を悩まされている。すまなかった」
パッと離れて飲み物を取ってくると言い残し、立ち去っていくミハイルの背中を眺めることしかで出来なかった。
ミハイルが苦しめられている表情に、応えられない自分の気持ちが辛くなる。
隣にいなくなった温もりに寂しさを感じ、無意識に指輪を眺めていた。
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