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59 離れられない告白 ①
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今日は祝日で、ミハイルは仕事だ。ゆっくりした時間に起きると、顔を洗う。ピアスの箱を眺めると毎晩悲しい気持ちになってしまうのに、どうしてもやめられないでいた。
(あれ、今日の顔は少し苦しそうじゃない・・・)
お昼を食べに行こうと思い、準備するために部屋に戻ろうとすると、扉に『食事を用意しておいたから好きな時に食べてくれ。今日は早く帰るから夕食は僕が準備する。ゆっくり家にいろ』と書かれていた。
きれいな字で書かれたぶっきらぼうなメモに思わず笑ってしまう。
食卓を見ると、食事が並べられていたのでそのまま席に着いて食べる。
魔法が解けてからも毎日欠かさず用意してくれているので、ありがたく頂いていた。
(うーん、食費を渡そうとしたらもの凄く嫌そうな顔して断られたな。だけど貰ってばっかりも悪いよね・・・)
何か彼に返せないかと思い悩んだ結果、今日はお菓子を作りたい気分だったので、レシピ本を読む。
(甘いのあんまりって言ってたな)
ミハイルと一緒に料理していた時に分かったが、私はかなり不器用な方らしい。なかなか上達しないのに、それでもミハイルはいつも優しく教えてくれたな・・・と思い返していたら手が止まっていた。
「よし、スコーンにしよ!」
私は本に印をつけて、キッチンを覗き込む。ルールは無効になったのに、綺麗に片付けられているキッチンをそっと探り、足りない食材をメモすると家を出ることにした。
食材を買っていると、見覚えのあるピアスをつけた彼がいた。あれからも隣にいることは変わらないのに、ずっと暗い彼になんて声をかけていいのか分からない。私は気付かれないようにそっとその場から離れると、別の店に移動した。
(ミハイルとほとんど一緒に過ごすようになってから、話す機会が減ったんだよね・・・やっぱりさっき返事しとくべきだったかな)
なんて残りの食材を探しながら歩いていると、人とぶつかりそうになる。
「あっ、すいませーーー」
「偶然ですね」
「ア、アルノー」
「そんな顔、しないでくださいよ」
「あ、ごめんね・・・」
先ほどいた店から離れた場所に移動していたので、まさか遭遇するとは思っていなかった。
「今日は一人で買い物っすか?」
いつものように話しかけてくれる彼の声は暗い。
「そうだよ」
「何買うんですか?」
「スコーン作りたくて、あとはバターだけかな」
「いいですね・・・」
買う食材のメモを一緒に覗き込むと、ミハイルに作ろうとしているのがバレているみたいだ。気まずいので、立ち去ることにした。
「じゃあ、また王宮で」
「あのっ、ついて行ったらダメですか?」
「アルノー・・・」
「すいません、俺のわがままで。でも、まだこのままでいたいんです」
告白の返事のことのように聞こえ、私は彼を見上げる。少し潤んだ青い瞳と真っ直ぐ目を合わせた。
「私の気持ちは変わらないよ」
「・・・はい、俺もです」
とても苦しそうに、だけど久々ちゃんと目が合った彼は嬉しそうに笑う。
恋に落ちたら離れられない。痛いほど彼の気持ちは分かるのに、大切な後輩以上には見れない。
買い物を終わらせると、近くまで荷物を持つと言うことを聞かないので、ついてくる彼にいつもの後輩との会話をしながら帰る。
「そろそろこの辺りでいいよ」
「はい・・・」
「今日はありがとうね。それにいつも「先輩」」
今までのお礼を言おうとしたら、手を取られて荷物を渡される。最後に手を包み込まれると、すぐに離れた。
「また王宮で」
「・・・うん、またね」
アルノーが去って行く後ろ姿を、今までの感謝の気持ちで見つめていると、彼が振り返る。思わずいつものように手を振ると、嬉しそうに笑っていた。
「先輩、帰れなくなりますって」
「ごめんごめん、じゃあ」
少し遠くから聞こえた声に返事をすると、私も背を向け家の方へ歩き出す。
私は振り返ることなく家が見えてきた所まで足を進めていたら、呼ばれた気がした。
「行かないで」
先ほど別れたばかりの声に立ち止まる。
私の前まで来ると、息の上がったアルノーと目が合う。またここまで追いかけて来たのだろう。
「その・・・傘」
「あ!ごめん!返そうと思ってたのに!」
「ふっ、すいません」
「すぐそこだから、取ってくるね」
「俺も家の前まで行きます」
「なんか、いつも悪いね」
気まずいので慌てて話題を探す。
「そういえば、アルノー前よりピアス増えた?」
前よりも日に日に増えていくピアスをしている耳を見上げる。
「あ、分かります?」
「そんなに着けて痛くなかったの?」
「まあー、毎日凄くなっていくんで」
左手にチラリと視線を感じたので、私には感じ取れないオーラを纏う指輪を見る。
「まさか・・・」
(このオーラに耐えるためとかじゃ、ないよね。それにそんなアクセサリーどうやって・・・)
「先輩!俺のこと気にしてくれるの嬉しいっすけど、家の前着いちゃいましたよ」
「あ!取ってくるね!」
アルノーがいつもの雰囲気に戻り安堵し、家に入りキッチンに荷物を置く。
玄関にあった傘を手に取りまた彼の元へ向かう時には、私もいつも通りに接することを心がけた。
「お待たせ、ごめんね。助かったよ」
「良かったです」
彼が帰ろうとしないので、視線を合わせたままだ。
「先輩、そのピアス・・・外してくれて良いですからね」
「・・・ごめんね、折角くれたのに」
彼は俯きながら首を振る。
無言の時間が続き、俯く黒髪を眺めていたらゆっくりと顔を私に向けるアルノーは、いつもの表情に戻っていた。
「俺にはこれがあるんで」
私と同じ場所にある泣きボクロを指さす。
「凄いね」
彼のめげない気持ちに思わず感心してしまった。
「先輩、好き」
「ええ、無理だよ」
「知ってます、じゃあまた王宮で」
「うん、また・・・王宮で」
いつも通りのアルノーから流れるように告白をされたが、悲しい気持ちを振り切ったようにも見えた。
振り返らない彼の背中を見送ると、私も家に入ることにした。
キッチンに置いていた食材を片付けると、部屋に戻り汚れても大丈夫な服に着替える。
邪魔にならないように髪をひとつにまとめようとすると、ピンクのピアスが目に入った。
貰ってからずっと私の耳に視線を感じるので、彼がくれたこのピアスを眺めているのだろう。
今日もよくここに視線を感じた。
アルノーに言われた通り外そうかと思ったが、ミハイルの耳にも別のピアスが着けられているので、外そうとした手を止める。
彼が着けているピアスの理由を聞く勇気ははなく、かと言ってミハイルから貰ったピアスをもう一度彼の前で着ける気にもなれなかった。
思わず箱を手に取り、2つのピアスを取り出す。
チャリ・・・
そのままベットに寝転ぶとピアスを両手で包み込み、叶わなかったプロポーズの日にこうしてミハイルと眠りについたことを思い出す。
(貴方との3ヶ月は忘れない)
(あれ、今日の顔は少し苦しそうじゃない・・・)
お昼を食べに行こうと思い、準備するために部屋に戻ろうとすると、扉に『食事を用意しておいたから好きな時に食べてくれ。今日は早く帰るから夕食は僕が準備する。ゆっくり家にいろ』と書かれていた。
きれいな字で書かれたぶっきらぼうなメモに思わず笑ってしまう。
食卓を見ると、食事が並べられていたのでそのまま席に着いて食べる。
魔法が解けてからも毎日欠かさず用意してくれているので、ありがたく頂いていた。
(うーん、食費を渡そうとしたらもの凄く嫌そうな顔して断られたな。だけど貰ってばっかりも悪いよね・・・)
何か彼に返せないかと思い悩んだ結果、今日はお菓子を作りたい気分だったので、レシピ本を読む。
(甘いのあんまりって言ってたな)
ミハイルと一緒に料理していた時に分かったが、私はかなり不器用な方らしい。なかなか上達しないのに、それでもミハイルはいつも優しく教えてくれたな・・・と思い返していたら手が止まっていた。
「よし、スコーンにしよ!」
私は本に印をつけて、キッチンを覗き込む。ルールは無効になったのに、綺麗に片付けられているキッチンをそっと探り、足りない食材をメモすると家を出ることにした。
食材を買っていると、見覚えのあるピアスをつけた彼がいた。あれからも隣にいることは変わらないのに、ずっと暗い彼になんて声をかけていいのか分からない。私は気付かれないようにそっとその場から離れると、別の店に移動した。
(ミハイルとほとんど一緒に過ごすようになってから、話す機会が減ったんだよね・・・やっぱりさっき返事しとくべきだったかな)
なんて残りの食材を探しながら歩いていると、人とぶつかりそうになる。
「あっ、すいませーーー」
「偶然ですね」
「ア、アルノー」
「そんな顔、しないでくださいよ」
「あ、ごめんね・・・」
先ほどいた店から離れた場所に移動していたので、まさか遭遇するとは思っていなかった。
「今日は一人で買い物っすか?」
いつものように話しかけてくれる彼の声は暗い。
「そうだよ」
「何買うんですか?」
「スコーン作りたくて、あとはバターだけかな」
「いいですね・・・」
買う食材のメモを一緒に覗き込むと、ミハイルに作ろうとしているのがバレているみたいだ。気まずいので、立ち去ることにした。
「じゃあ、また王宮で」
「あのっ、ついて行ったらダメですか?」
「アルノー・・・」
「すいません、俺のわがままで。でも、まだこのままでいたいんです」
告白の返事のことのように聞こえ、私は彼を見上げる。少し潤んだ青い瞳と真っ直ぐ目を合わせた。
「私の気持ちは変わらないよ」
「・・・はい、俺もです」
とても苦しそうに、だけど久々ちゃんと目が合った彼は嬉しそうに笑う。
恋に落ちたら離れられない。痛いほど彼の気持ちは分かるのに、大切な後輩以上には見れない。
買い物を終わらせると、近くまで荷物を持つと言うことを聞かないので、ついてくる彼にいつもの後輩との会話をしながら帰る。
「そろそろこの辺りでいいよ」
「はい・・・」
「今日はありがとうね。それにいつも「先輩」」
今までのお礼を言おうとしたら、手を取られて荷物を渡される。最後に手を包み込まれると、すぐに離れた。
「また王宮で」
「・・・うん、またね」
アルノーが去って行く後ろ姿を、今までの感謝の気持ちで見つめていると、彼が振り返る。思わずいつものように手を振ると、嬉しそうに笑っていた。
「先輩、帰れなくなりますって」
「ごめんごめん、じゃあ」
少し遠くから聞こえた声に返事をすると、私も背を向け家の方へ歩き出す。
私は振り返ることなく家が見えてきた所まで足を進めていたら、呼ばれた気がした。
「行かないで」
先ほど別れたばかりの声に立ち止まる。
私の前まで来ると、息の上がったアルノーと目が合う。またここまで追いかけて来たのだろう。
「その・・・傘」
「あ!ごめん!返そうと思ってたのに!」
「ふっ、すいません」
「すぐそこだから、取ってくるね」
「俺も家の前まで行きます」
「なんか、いつも悪いね」
気まずいので慌てて話題を探す。
「そういえば、アルノー前よりピアス増えた?」
前よりも日に日に増えていくピアスをしている耳を見上げる。
「あ、分かります?」
「そんなに着けて痛くなかったの?」
「まあー、毎日凄くなっていくんで」
左手にチラリと視線を感じたので、私には感じ取れないオーラを纏う指輪を見る。
「まさか・・・」
(このオーラに耐えるためとかじゃ、ないよね。それにそんなアクセサリーどうやって・・・)
「先輩!俺のこと気にしてくれるの嬉しいっすけど、家の前着いちゃいましたよ」
「あ!取ってくるね!」
アルノーがいつもの雰囲気に戻り安堵し、家に入りキッチンに荷物を置く。
玄関にあった傘を手に取りまた彼の元へ向かう時には、私もいつも通りに接することを心がけた。
「お待たせ、ごめんね。助かったよ」
「良かったです」
彼が帰ろうとしないので、視線を合わせたままだ。
「先輩、そのピアス・・・外してくれて良いですからね」
「・・・ごめんね、折角くれたのに」
彼は俯きながら首を振る。
無言の時間が続き、俯く黒髪を眺めていたらゆっくりと顔を私に向けるアルノーは、いつもの表情に戻っていた。
「俺にはこれがあるんで」
私と同じ場所にある泣きボクロを指さす。
「凄いね」
彼のめげない気持ちに思わず感心してしまった。
「先輩、好き」
「ええ、無理だよ」
「知ってます、じゃあまた王宮で」
「うん、また・・・王宮で」
いつも通りのアルノーから流れるように告白をされたが、悲しい気持ちを振り切ったようにも見えた。
振り返らない彼の背中を見送ると、私も家に入ることにした。
キッチンに置いていた食材を片付けると、部屋に戻り汚れても大丈夫な服に着替える。
邪魔にならないように髪をひとつにまとめようとすると、ピンクのピアスが目に入った。
貰ってからずっと私の耳に視線を感じるので、彼がくれたこのピアスを眺めているのだろう。
今日もよくここに視線を感じた。
アルノーに言われた通り外そうかと思ったが、ミハイルの耳にも別のピアスが着けられているので、外そうとした手を止める。
彼が着けているピアスの理由を聞く勇気ははなく、かと言ってミハイルから貰ったピアスをもう一度彼の前で着ける気にもなれなかった。
思わず箱を手に取り、2つのピアスを取り出す。
チャリ・・・
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