魔力を持つ人間は30歳までに結婚しないといけないらしい

ここりす

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66 魔力の鎖

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広い食卓に座りながら、ピンクの花を眺めて、私の好きなケーキが口に運ばれる。

「マール、美味しい?」

「うん」

(さっきのは何だったんだろう、ミハイルはあれから何も変わらない・・・)

ケーキが運ばれる手をやんわり止めて、大好きな味がする紅茶を飲んだ。

(だけどミハイルが心配だし、回復魔法をかけて、あとは私が出来ることをしよう)

「ミハイル」

「どうしたの、マール」

「一口、食べる?」

「ああ、そうだね」

口を開けて待っているミハイルに、いつものようにフォークを持っていく。

「美味しいね」

「ふふっ」

笑顔を向けるが、心から笑えているか分からない。フォークを置いて、ミハイルの両手を握った。

「マ、マール」

回復魔法を流すと、私は手を握ったまま見上げる。

「ミハイル、ごめんね。ずっと辛い思いをさせて。全部私にぶつけていいんだよ。貴方にそんな悲しい顔をさせてるのは私なんだから」

目を伏せているミハイルは動き出さない。

「食べ終わったら、今日からは私の好きにしてもいい?ふふっ、私からじゃないとね」

その言葉を聞いて、さらに黙り込んでしまった。

「ケーキ、食べさせてくれるんでしょ?」

「ああ、すまない」

ケーキを食べながら、罪悪感に満ちた彼の表情に、胸が痛む。

(そんな顔させてるのは、私だもんね)

まだこの状況から諦めたくない私は、甘やかす作戦でいこうと思った。

(傷付いた心が少しでも癒せたら・・・)

「ミハイルが選んでくれたケーキ、美味しいよ。今度一緒に行きたいお店があってね、付き合ってくれる?」

「もちろんだ」

「デートだね」

ケーキを食べさせてくれるミハイルは、照れるように目を逸らしている。

「その・・・僕とデートしてくれるのか。嫌じゃ・・・ないのか」

「私の方こそミハイルに愛想尽かされて、デートして貰えないと思ったよ」

「それは絶対にない」

「ふふっ、ありがとう」

そこからはいつものように、私の今日あった話に耳を傾けているミハイルの瞳は、キラキラと輝きを取り戻していた。


広い家を腕を組みながら歩く。この距離に慣れていないミハイルは、幸せそうにチラチラと私を見ていた。

「とても、マールを近く感じる」

「そうだね。ミハイル、嬉しいのは分かるけど、全然前見てないよ」

「ああ、君がいる」

運ばれている時よりもゆっくりとした歩幅に、隣からミハイルの嬉しさが伝わる。彼を見上げると優しく微笑まれ、私も笑顔を向けていた。

「可愛すぎる」

「ふふっ、これからもその話し方がいいな」

「ああ、そうだな」

幼なじみの彼の話し方に、自然と心が落ち着いていた。

「運動しないと、また丸くなっちゃう」

「どんなマールでも好きだ」

「ふふっ」

「かわいい・・・」

「運ばれるのもいいけど、こうやって歩くのもいいね」

「かわいい」

「もー、ミハイル!部屋に着いたから入るよ!」



夫婦の寝室に入り、ソファーに座る。
隣にピトリとくっつくと、ミハイルはとても嬉しそうに笑っている。

「笑いすぎだってば」

「ああ、嬉しくて」

「手を貸してくれる?」

彼の手を取ると、マッサージをする。

久しぶりなので、思い出しながら綺麗な手を解していく。どんどん彼の血行が良くなっていく手の温かさに安堵した。

(さっき震えていた時は、すごく冷たく感じた・・・良かった・・・)

「これは、いいな」

「気持ちいい?」

「ああ、マールに触れてもらえて頭がおかしくなりそうだ」

「ふふっ、そっちの手も貸して」

「ここに座って続きをお願い出来ないか」

私は素直にミハイルの間に座って、もう片方の手を揉みほぐす。

「たまらないな」

今日はミハイルにサイドにひとまとめにした髪型にしてもらっていたみたいだ。朝の記憶が無かったので、気が付いたら私よりも上達しているヘアスタイルになっていた。

空いた手で髪を触り、楽しそうに首に唇が触れた。

「ちょっと!おとなしく・・・うっ」

前よりも大胆に唇が触れていき、マッサージする手が止まる。

「昨日、僕のお風呂に入ってから、マールと僕と混ざった匂いがする」

うなじをなぞるように唇が動くので、体がビクリとはねる。

「ふっ、マッサージはもう終わりか?」

マッサージしていた手を握られるので、再開した。揉みほぐすことに集中したいのに、楽しそうに私の香りを嗅ぐので、その度に体が反応してしまう。

ひと通り嗅ぎ終わると、横から覗き込まれ甘い瞳と目を合わせた。

「まるで、僕のものみたいだ」

驚きながらも、受け入れる。

「そうだよ」

「マール・・・それは、・・・いや、いいんだ」

目を伏せるミハイルをよそに、マッサージを再開する。

「熱心にしてくれるんだな。ありがとう」

「ミハイルの手、綺麗だよね」

「そうか、この手も僕も君のものだ」

「そうだね」

マッサージをやめて、綺麗な手を観察するように触れる。

「指も、しなやかで綺麗だし、爪もピンク色だね。肌もすごくなめらかで、羨ましいな」

指を絡めて、彼の方を向くと真っ赤なミハイルと目が合う。

紫の瞳を見ながら、絡めた手を持ち上げ、彼の手の甲にキスをする。ミハイルもそれに答えるように、私の手の甲にキスをした。

唇は触れ合っていないのに、この距離に心がときめきそうになる。

お互いゆっくり離れると唇に切ない視線を感じたが、ミハイルはふっと笑い、視線を逸らすと離れてしまった。

手を解き、肩に彼の顔が埋められている。

サラリと首に髪が触れて、こそばゆい。

「キス、しないの?」

「ああ、僕はもうこれ以上君に・・・好かれることは無いからな」

(ミハイル・・・)

同じような悲しい気持ちになり俯いていると、むき出しのうなじにミハイルの唇が触れる。

ゆっくりと歯が立てられた。

「うっ、ぁぁ」

ぞわりと全身の肌が立ち、体が前のめりになると、前から首を掴まれ引き寄せられる。
さらに深く歯を立てられると、噛みつかれた肌に熱を持った痛みを感じた。

「あぁぁぁっ」

ゆっくり、ゆっくりと歯を沈めると、甘く震える体を治めるように、舌が歯型をじゅるりと舐めている。

「うっ、ああっ」

「これで、我慢しよう・・・」

満足そうな声が聞こえたので、私は腰にまわった彼の手を解く。

立ち上がってミハイルの方を向くと、悲しそうに俯いていた。

「すまない、嫌だったか」

彼の上に跨り、優しく胸に俯く顔を抱き寄せた。

「なっ・・・」

嬉しそうに抱きつくと、顔を擦り寄せている。

「これは・・・たまらないな」

優しく髪を撫でると、ビクリと驚いた彼が埋もれながら私を見上げる。

「ミハイル幸せそうだね」

「ああ、とても。今日は随分と甘やかしてくれるんだな」

「いつものお返しだよ」

「君を閉じ込めているから?」

撫でていた手を止めると、自分の逃げたい気持ちを隠すように、ミハイルの顔を覗き込む。

「ミハイルに辛い思いをさせているから」

「すいない・・・だけどもう離したくはない」

「はいはい」

また埋もれる彼の髪を、飽きるまで撫で続けた。

「息、大丈夫?」

胸元からミハイルの熱い息を感じているが、そこから動かなくなってしまった。心配になり離れようとしても、腕が解かれない。

「はぁー、最高だ。毎日して欲しい」

「ええ・・・」

「マールに甘やかされるのはとても良いな」

機嫌が戻ったミハイルに安堵すると、ゆっくり離れる。

「じゃあ私も少しだけ」


シャツのボタンを開けると、綺麗な首がさらけ出される。

露わになった首に擦り寄り、ミハイルの香りを体内に取り入れる。
強く吸い込むと、脳が痺れそうなくらい酔いしれていた。

「んっ、マール・・・」

私の動きを受け止めるミハイルは、戸惑っている。抱きしめられていた手も解かれ、されるがまま目を泳がせていた。

そんなミハイルの瞳を覗き込み、しっかりと瞳を捉えるとゾクリとした表情に変わる。

彼の綺麗な首に手を優しくかけると、魔力を流した。

ーーガシャリ

魔力の鎖が首にかかる。

ミハイルは驚いた顔からすぐに恍惚とした表情に変わる。
蕩けるように笑うその姿は、ゾッとするほど美しい。

「ああ、最高だ」

「そ、そう・・・」

「これを離さないで」

首に繋がった鎖の先を手に握らせる。

解かれた手は逆に私を強く抱き締めているので、どちらが繋がれているのか分からない。

「僕はもうマールから逃げられないな」

「良かったね」

「ああ、一生繋いでおいてくれ」

「ダメだよ。魔力が持たない」

「大丈夫だ、君の魔力は強い。自信を持つんだ」

「あ、ありがとう・・・」

「僕に鎖は繋いだことあるのか?」

「初めてだよ」

「そうか」

蕩けきった顔で鎖を持ち上げると、唇を落としている。とても幸せそうに満たされている表情に思わず見蕩れていた。

「そろそろ夕食の支度をしてくる。君は好きに過ごすといい。大丈夫だ、僕は繋がれているから逃げない」

「分かったよ」

飛んでいきそうなほど、嬉しそうに部屋を出ていく彼の後ろ姿を眺めていた。
私を好きすぎて頭がおかしくなってしまった幼なじみに、今日初めて心から笑っていた気がした。


鎖を持ちながらソファーに座っていると、あの家のことを思い出す。

(ピアス・・・)

ミハイルの家にいるので、ピアスの箱を眺めていない。
環境が変わったからなのか、彼に逃がしてもらえないからか、思い出を振り返る暇がなかった。

そんなことを考えていると、手に持った鎖に反応がある。

(これは・・・)

初めて魔力の鎖を使ったので、効果を良く分かっていなかったが、繋いだ先の相手が何をしているのか鎖を通して読み取れるようになっていた。

今、キッチンで食材を切っているのがわかる。

(あ、鎖にキスした)

楽しそうに料理をしているのが伝わり、繋いだことを後悔した。

きっとミハイルはこの効果を分かっている。

(また、キスした)

「はあー、知らずにやっちゃったな・・・」

頭を抱えながら、何度もキスをされている鎖を手放し、魔力を切る。

するとエプロンをしたミハイルが魔力の渦から飛び出してきた。

「マール!どうして切ったんだ!」

「なんでそれ使って来るのよ・・・」

さらに頭を抱えながら、真横までやって来たミハイルを見上げる。

「もー、拗ねないでよ」

「首が寂しい」

「分かったよ、また今度ね。私も一緒に料理したいな」

「そうか!じゃあ行こう!」

底知れない魔力を持っている彼の魔力の渦に、手を繋いで一緒に入っていった。
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