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67 心配 ①
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2人でポトフを作り、ミハイルは私の切った不格好な人参を大切そうに食べている。
「美味しいな」
「切っただけだよ」
「ああ、幸せだ。毎日食べたい」
「私はミハイルの料理の方が毎日食べたいけどね」
ボトッーー
人参をスープに落として固まっている。
食卓に零れているのにミハイルはそのまま動かないので、ミハイルの横で拭いていると、手を掴まれる。
「どうしたの?」
「プロボーズをされた」
「え、また?」
「ああ、僕の返事はもちろん「はい」だ。マールと結婚して、毎日僕の手料理を食べさせるよ」
「はいはい、そうですね」
スープに沈んだ人参を掬い、ミハイルの口に持っていく。
嬉しそうに口角を上げ、人参を噛み締めている姿に私も自然と笑っていた。
「ふふっ」
「幸せだな」
「そうだね」
私達はお互いに見つめ合いながら、ゆっくりと食事をした。
(ミハイルといると、楽しいな・・・)
やはり彼との相性は100パーセントなだけあって、逃げられないでいるが、それでもこうして過ごすのは居心地が良く感じた。
手を繋ぎながら、夫婦の寝室に戻る。
部屋に入ると、ミハイルは思いついたかのように、少し待ってろと言い残すと手を離して出て行ってしまった。
急にいなくなった温もりに寂しさを感じ、とりあえずソファーに向かって歩いていると、すぐに戻ってきた扉の方へ振り向いた。
惹かれ合うようにお互いが近づく。
「マール」
「ミハイル」
「なんだ、僕が離れて寂しかったのか」
「まあね」
「ふっ、愛おしいな」
頭を優しく撫でられ、ミハイルを見ていると満面の笑みでカーディガンを手渡された。
「そんなに僕の匂いが好きなのなら」
手に取ったカーディガンを無意識に抱きしめて顔を埋める。ミハイルの香りを堪能していると、奪われてしまった。
ポイとソファーに投げられる。
「なんだか腹が立つ」
「ミハイルが渡したのに」
「僕がいる時は、直接嗅いでくれ」
そういうとシャツのボタンを全て外し、はだけた肌から色気が溢れ出ている。
艶めかしさから目を泳がせていると、首に両手がまわる。
その距離に心臓が痛いほどバクバクしていると、ミハイルは嗅がせるように私の顔に首を密着させた。
「好きなだけ、どうぞ」
恥ずかしながらも、愛おしい匂いを吸い込んだ。ミハイルの体がピクリと動くが、首から鎖骨、胸元まで顔を埋めがなら嗅いでいると脳がクラクラとしていた。
自然と彼の腰を抱き寄せると、優しいく髪を撫でられる。
擦り寄せていた胸元から見上げ、甘さで満たされた紫の瞳と目が合う。
キラキラと輝く彼と見つめ合い、唇が近づいてくる。
今度は逸らすことなく、甘い唇を受け入れた。
(甘い・・・幸せ)
幼なじみとするキスに、心が満たされていく。
ゆっくりと離れると、名残惜しく視線が絡み合っている。
「マール、好きだ」
「私もミハイルが好き」
「・・・っ、それは・・・いや、ミハイルならいいんだ」
頬を撫でる優しい指は、切なく感じた。
「そのまま、もっと僕だけを見ていて」
瞳を覗き込まれると、また唇が触れる。
だけどさっきの口付けよりも、甘く感じなかった。
お風呂にあがり、さっきのキスのことを考えながら、ミハイルが用意してくれていた水を飲む。
ミハイルはお風呂に入っているので、ソファーにあったカーディガンを羽織り、余った袖から自然と匂いを嗅いで落ち着いていた。
(ミハイル・・・)
この気持ちは、魔法にかかった彼に対してなのか、幼なじみに対してなのか分からない。
だけどさっきの幼なじみとのキスは、お互いの心が通じ合っている気がした。
(私が好きって言った時の顔は・・・)
自分の心の切なさに、耐えられなくなり広い部屋を見渡す。
この家では特にする事がないので、部屋についている大きなバルコニーに出てみた。
久しぶりに星を眺める。
夜は少し涼しくて、肌を撫でる風が心地いい。
(星、綺麗だな・・・)
空気が澄んでいるのか、今日の夜空の光は綺麗に見えた。
なんとなく住宅街の風景を見ていると、そこにはアルノーが立っていた。
(家この辺だったよね、散歩かな?)
私と目が合ったアルノーは嬉しそうに微笑んでいる。
とりあえずいつものように手を振って、彼を見ていた。
(今日大丈夫だったのかな、明日様子を聞いてみよう)
お風呂場の扉が開いた音がするので、一瞬そっちに気を取られ、アルノーに最後に手を振ろうとしたら、彼の姿はもうなかった。
(あれ、あっという間に・・・)
とりあえず私も戻ろうとしたら、ガラス扉の向こうで立っている紫の瞳は輝きを失っていた。
(え、さっきまであんなに輝いていたのに)
また何かしたのかと、小さくため息をついて部屋に戻る。
「何、していたんだ」
「星を眺めていたの」
「それだけか」
「そうだよ、それすらもダメなの?」
アルノーのことを出すと、今日の帰りの出来事みたいになりかねないので、穏便に済ませたかった。
ミハイルは黙り込んでいるので、逃げると疑われた私は苛立ちが止まらなくなってしまった。
「もうバルコニーには出ない!これいい?私別に逃げようとしてないじゃないっ」
「それは・・・」
「もういいよ・・・寝る。貴方は好きにして」
ベットに入り、ミハイルがいる方には背を向ける。
「君が思っている以上に危険なんだ」
それだけをつぶやくと、ミハイルは部屋を出て行ってしまった。
(そんなに外に出したくないの・・・)
落ち込む気持ちを紛らわすように、カーディガンを匂いながら眠りについた。
翌朝、苛立ちつつも、家でも王宮に向かう時も手を繋がれるので手を握り返さない小さな抵抗をしている。
「今日は、忙しいんだ」
「そう、じゃああの家に帰っとくね」
「いや、鍵を渡すから、僕の家に居て欲しい」
立派な家の鍵を手渡される。
「帰ったら、ダメなの」
「ああ、あの家は王宮に引き渡すように近々しようと手続きをしている」
「どうして・・・」
「結婚したらあの家には住めない」
「そう、だけど・・・」
「あの家がそんなに好きなのか?」
「荷物とか全部置いてるし、あの家気に入ってるんだよね」
「棚関係は全て繋いでおく。近々荷物を取りに行こう」
「・・・うん」
「魔法にかかった僕と過ごした家だからか」
その言葉にばっと顔を上げる。
「だから僕の家にいて欲しいんだ。すまない」
俯いたまま、彼に手を引かれていた。
魔法支援室で作業していると、アルノーに声をかけられる。
「先輩、在庫確認行きましょう」
「そうだね」
いつものように保管室でアルノーが魔石を数え、私が隣でリストに控える。
ある程度数え終えると、昨日のことを聞いてみた。
「昨日、大丈夫だった?」
「ああ、全然大丈夫っすよ。それより昨日散歩してたら偶然見かけて驚きました」
「私もびっくりしたよ。あの近辺に住んでるんだね。アルノーの家の前通ったけど凄く大きいね」
「俺、王宮以外にも収入があって、あの家持ってるんすよね」
「凄いね、でも寮も利用してたんだ」
「それは先輩が女子寮だったんで、どんなのか体験したくてって言ったら信じます?」
「ええ・・・そんな使い方する人見たことないよ。ちゃんと立派な家があるのに」
「じゃあ家遊びに来ます?」
「んー、機会があったらね」
「楽しみにしてますね」
アルノーが箱を倒し、魔石がこぼれ落ちる。
「もー、何やってるの」
拾い上げていると、指輪に手が触れた。
「どうした、の・・・ーーー」
青い瞳の奥が赤く光ったように見えたが、一瞬で消えた。
はっと気が付くと魔石は全て元に戻っていて、リストも埋まっていた。
(えっ、いつの間に・・・)
アルノーを見るといつも通りの表情だ。
「首、痛そうっすね」
思わず手で隠すように首に触れる。
「えっ、見えてたの?」
昨日の歯型が見えないように、今日はハーフアップにしてもらっている。
ポニーテールにしようとするミハイルと揉めあって、苛立ちの原因が増えた。
「回復魔法かけましょうか?」
「いやいや、もっと恐ろしいことになるから大丈夫」
消したなんてバレたらと想像して、背中がゾクリと震えた。
首が出ないように髪を背中側に流す。
「先輩、悩み事は誰かに相談した方がいいっすよ。今日帰りに時間あります?」
「あるけど・・・でも・・・」
「ああ、大丈夫です。俺じゃないんで、帰りについてきてくだいね」
私が持っていたリストを手に取ると、部屋を出ていくので、慌ててついて行った。
ミハイルとお昼を食べていると、指輪に視線を感じる。
「今日何かあったか」
「別にいつも通りだよ」
「そうか、帰りは気を付けて帰るんだ。寄り道はあまりしないように」
「はいはい」
左手を取られ、いつものように魔力を流しているのが分かった。どんな時でも毎日続いている。
「このオーラって最初の時より、もっと凄くなってるの?」
「そうだな」
「どれくらい、なの・・・」
「君に嫌われるくらい」
「ええ・・・」
隣を見上げると紫の瞳は揺れていた。
「もー、別に嫌ってないよ」
「そうか、良かった」
彼に好きという言葉を使うのは、もう勇気がなかった。
また、悲しい顔をさせたくないから。
仕事が定刻に終わると、アルノーに声をかけられて王宮の門までの道のりを歩く。
あの家に帰れないことに落ち込み、自然とため息が増えていた。
「帰りたく無さそうっすね」
「そうだね・・・」
「女子寮にはもう帰らないんすか」
「鍵、無いんだよね」
「取られちゃったんすね。あんなに女子寮好きだったのに、可哀想」
頭を撫でられながら、王宮の門に着いた。
そこにはミリアとクラリスがいた。
「ずっとこんな感じなんで、先輩方お願いします」
「もー仕方ないなあ!いつもマールは1人で抱え込むんだから・・・アルノーは来ないの?」
「俺じゃ力不足なんで。それに女性同士の方が話しやすいとかあると思いますし」
「アルノー優しいね~じゃあマールちゃん、行こうか」
ミリアとクラリスに両腕を組まれ、歩き出す。アルノーはニコニコと手を振って私達を見送っていた。
「美味しいな」
「切っただけだよ」
「ああ、幸せだ。毎日食べたい」
「私はミハイルの料理の方が毎日食べたいけどね」
ボトッーー
人参をスープに落として固まっている。
食卓に零れているのにミハイルはそのまま動かないので、ミハイルの横で拭いていると、手を掴まれる。
「どうしたの?」
「プロボーズをされた」
「え、また?」
「ああ、僕の返事はもちろん「はい」だ。マールと結婚して、毎日僕の手料理を食べさせるよ」
「はいはい、そうですね」
スープに沈んだ人参を掬い、ミハイルの口に持っていく。
嬉しそうに口角を上げ、人参を噛み締めている姿に私も自然と笑っていた。
「ふふっ」
「幸せだな」
「そうだね」
私達はお互いに見つめ合いながら、ゆっくりと食事をした。
(ミハイルといると、楽しいな・・・)
やはり彼との相性は100パーセントなだけあって、逃げられないでいるが、それでもこうして過ごすのは居心地が良く感じた。
手を繋ぎながら、夫婦の寝室に戻る。
部屋に入ると、ミハイルは思いついたかのように、少し待ってろと言い残すと手を離して出て行ってしまった。
急にいなくなった温もりに寂しさを感じ、とりあえずソファーに向かって歩いていると、すぐに戻ってきた扉の方へ振り向いた。
惹かれ合うようにお互いが近づく。
「マール」
「ミハイル」
「なんだ、僕が離れて寂しかったのか」
「まあね」
「ふっ、愛おしいな」
頭を優しく撫でられ、ミハイルを見ていると満面の笑みでカーディガンを手渡された。
「そんなに僕の匂いが好きなのなら」
手に取ったカーディガンを無意識に抱きしめて顔を埋める。ミハイルの香りを堪能していると、奪われてしまった。
ポイとソファーに投げられる。
「なんだか腹が立つ」
「ミハイルが渡したのに」
「僕がいる時は、直接嗅いでくれ」
そういうとシャツのボタンを全て外し、はだけた肌から色気が溢れ出ている。
艶めかしさから目を泳がせていると、首に両手がまわる。
その距離に心臓が痛いほどバクバクしていると、ミハイルは嗅がせるように私の顔に首を密着させた。
「好きなだけ、どうぞ」
恥ずかしながらも、愛おしい匂いを吸い込んだ。ミハイルの体がピクリと動くが、首から鎖骨、胸元まで顔を埋めがなら嗅いでいると脳がクラクラとしていた。
自然と彼の腰を抱き寄せると、優しいく髪を撫でられる。
擦り寄せていた胸元から見上げ、甘さで満たされた紫の瞳と目が合う。
キラキラと輝く彼と見つめ合い、唇が近づいてくる。
今度は逸らすことなく、甘い唇を受け入れた。
(甘い・・・幸せ)
幼なじみとするキスに、心が満たされていく。
ゆっくりと離れると、名残惜しく視線が絡み合っている。
「マール、好きだ」
「私もミハイルが好き」
「・・・っ、それは・・・いや、ミハイルならいいんだ」
頬を撫でる優しい指は、切なく感じた。
「そのまま、もっと僕だけを見ていて」
瞳を覗き込まれると、また唇が触れる。
だけどさっきの口付けよりも、甘く感じなかった。
お風呂にあがり、さっきのキスのことを考えながら、ミハイルが用意してくれていた水を飲む。
ミハイルはお風呂に入っているので、ソファーにあったカーディガンを羽織り、余った袖から自然と匂いを嗅いで落ち着いていた。
(ミハイル・・・)
この気持ちは、魔法にかかった彼に対してなのか、幼なじみに対してなのか分からない。
だけどさっきの幼なじみとのキスは、お互いの心が通じ合っている気がした。
(私が好きって言った時の顔は・・・)
自分の心の切なさに、耐えられなくなり広い部屋を見渡す。
この家では特にする事がないので、部屋についている大きなバルコニーに出てみた。
久しぶりに星を眺める。
夜は少し涼しくて、肌を撫でる風が心地いい。
(星、綺麗だな・・・)
空気が澄んでいるのか、今日の夜空の光は綺麗に見えた。
なんとなく住宅街の風景を見ていると、そこにはアルノーが立っていた。
(家この辺だったよね、散歩かな?)
私と目が合ったアルノーは嬉しそうに微笑んでいる。
とりあえずいつものように手を振って、彼を見ていた。
(今日大丈夫だったのかな、明日様子を聞いてみよう)
お風呂場の扉が開いた音がするので、一瞬そっちに気を取られ、アルノーに最後に手を振ろうとしたら、彼の姿はもうなかった。
(あれ、あっという間に・・・)
とりあえず私も戻ろうとしたら、ガラス扉の向こうで立っている紫の瞳は輝きを失っていた。
(え、さっきまであんなに輝いていたのに)
また何かしたのかと、小さくため息をついて部屋に戻る。
「何、していたんだ」
「星を眺めていたの」
「それだけか」
「そうだよ、それすらもダメなの?」
アルノーのことを出すと、今日の帰りの出来事みたいになりかねないので、穏便に済ませたかった。
ミハイルは黙り込んでいるので、逃げると疑われた私は苛立ちが止まらなくなってしまった。
「もうバルコニーには出ない!これいい?私別に逃げようとしてないじゃないっ」
「それは・・・」
「もういいよ・・・寝る。貴方は好きにして」
ベットに入り、ミハイルがいる方には背を向ける。
「君が思っている以上に危険なんだ」
それだけをつぶやくと、ミハイルは部屋を出て行ってしまった。
(そんなに外に出したくないの・・・)
落ち込む気持ちを紛らわすように、カーディガンを匂いながら眠りについた。
翌朝、苛立ちつつも、家でも王宮に向かう時も手を繋がれるので手を握り返さない小さな抵抗をしている。
「今日は、忙しいんだ」
「そう、じゃああの家に帰っとくね」
「いや、鍵を渡すから、僕の家に居て欲しい」
立派な家の鍵を手渡される。
「帰ったら、ダメなの」
「ああ、あの家は王宮に引き渡すように近々しようと手続きをしている」
「どうして・・・」
「結婚したらあの家には住めない」
「そう、だけど・・・」
「あの家がそんなに好きなのか?」
「荷物とか全部置いてるし、あの家気に入ってるんだよね」
「棚関係は全て繋いでおく。近々荷物を取りに行こう」
「・・・うん」
「魔法にかかった僕と過ごした家だからか」
その言葉にばっと顔を上げる。
「だから僕の家にいて欲しいんだ。すまない」
俯いたまま、彼に手を引かれていた。
魔法支援室で作業していると、アルノーに声をかけられる。
「先輩、在庫確認行きましょう」
「そうだね」
いつものように保管室でアルノーが魔石を数え、私が隣でリストに控える。
ある程度数え終えると、昨日のことを聞いてみた。
「昨日、大丈夫だった?」
「ああ、全然大丈夫っすよ。それより昨日散歩してたら偶然見かけて驚きました」
「私もびっくりしたよ。あの近辺に住んでるんだね。アルノーの家の前通ったけど凄く大きいね」
「俺、王宮以外にも収入があって、あの家持ってるんすよね」
「凄いね、でも寮も利用してたんだ」
「それは先輩が女子寮だったんで、どんなのか体験したくてって言ったら信じます?」
「ええ・・・そんな使い方する人見たことないよ。ちゃんと立派な家があるのに」
「じゃあ家遊びに来ます?」
「んー、機会があったらね」
「楽しみにしてますね」
アルノーが箱を倒し、魔石がこぼれ落ちる。
「もー、何やってるの」
拾い上げていると、指輪に手が触れた。
「どうした、の・・・ーーー」
青い瞳の奥が赤く光ったように見えたが、一瞬で消えた。
はっと気が付くと魔石は全て元に戻っていて、リストも埋まっていた。
(えっ、いつの間に・・・)
アルノーを見るといつも通りの表情だ。
「首、痛そうっすね」
思わず手で隠すように首に触れる。
「えっ、見えてたの?」
昨日の歯型が見えないように、今日はハーフアップにしてもらっている。
ポニーテールにしようとするミハイルと揉めあって、苛立ちの原因が増えた。
「回復魔法かけましょうか?」
「いやいや、もっと恐ろしいことになるから大丈夫」
消したなんてバレたらと想像して、背中がゾクリと震えた。
首が出ないように髪を背中側に流す。
「先輩、悩み事は誰かに相談した方がいいっすよ。今日帰りに時間あります?」
「あるけど・・・でも・・・」
「ああ、大丈夫です。俺じゃないんで、帰りについてきてくだいね」
私が持っていたリストを手に取ると、部屋を出ていくので、慌ててついて行った。
ミハイルとお昼を食べていると、指輪に視線を感じる。
「今日何かあったか」
「別にいつも通りだよ」
「そうか、帰りは気を付けて帰るんだ。寄り道はあまりしないように」
「はいはい」
左手を取られ、いつものように魔力を流しているのが分かった。どんな時でも毎日続いている。
「このオーラって最初の時より、もっと凄くなってるの?」
「そうだな」
「どれくらい、なの・・・」
「君に嫌われるくらい」
「ええ・・・」
隣を見上げると紫の瞳は揺れていた。
「もー、別に嫌ってないよ」
「そうか、良かった」
彼に好きという言葉を使うのは、もう勇気がなかった。
また、悲しい顔をさせたくないから。
仕事が定刻に終わると、アルノーに声をかけられて王宮の門までの道のりを歩く。
あの家に帰れないことに落ち込み、自然とため息が増えていた。
「帰りたく無さそうっすね」
「そうだね・・・」
「女子寮にはもう帰らないんすか」
「鍵、無いんだよね」
「取られちゃったんすね。あんなに女子寮好きだったのに、可哀想」
頭を撫でられながら、王宮の門に着いた。
そこにはミリアとクラリスがいた。
「ずっとこんな感じなんで、先輩方お願いします」
「もー仕方ないなあ!いつもマールは1人で抱え込むんだから・・・アルノーは来ないの?」
「俺じゃ力不足なんで。それに女性同士の方が話しやすいとかあると思いますし」
「アルノー優しいね~じゃあマールちゃん、行こうか」
ミリアとクラリスに両腕を組まれ、歩き出す。アルノーはニコニコと手を振って私達を見送っていた。
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