魔力を持つ人間は30歳までに結婚しないといけないらしい

ここりす

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68 心配 ②

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いつも寄っていたカフェに来ていた。
今日は横並びの大きいソファー席に座る。

2人の美人な顔を間で眺めていると、いつの間にか大量に私が好きな物ばかりテーブルに並んでいた。

「え、こんなに・・・」

「ほら、マール好きだったじゃない。食べなよ」

「・・・ありがとう」

有難くパンケーキやフレンチトーストなど、みんなで取り分けて食べる。

「美味しいね~」

「せっかくマールの好きなもの頼んだんだから、もっと食べなよ。てかあんた痩せたね」

「うん、とても可愛くなったね。マールちゃん」

「でも私は食べてる時のマールがいちばん可愛いと思うけど」

「私もマールちゃんの美味しそうなものを食べてる時の笑顔が大好き~」

ふたりの会話に涙があふれる。

「ぐすっ・・・ありがとう。私もふたりが大好き」

「当然じゃん、あんたと何年親友やってると思ってるのよ。もっと私達を頼ってよ・・・」

「ううっ・・・ごめん」

「ふふふっ」

クラリスが涙をハンカチで拭いてくれる。

「それで、何があったの?」

魔法が解けて、彼とミハイルを重ねてしまうこと。
同じミハイルでも、今ミハイルに惹かれているのか気持ちが分からないことを伝えた。

「それは辛かったね。魔力持ちは恋に落ちると一途だけど、同じ人間でもあれだけ態度が違うと別人としてみちゃうわ」

「戸惑う気持ちもわかるくらい、雰囲気違ったもんね~」

「まー、でも、魔法がかかってようが解けようが正直やってること変わんないどころか同じじゃん」

「確かに~同じミハイルだもんね」

「同じミハイル・・・」

「口調が優しかっただけで、行動もマールを見てる時の顔も全部一緒じゃない?まあ、ここまでマールを追い込んでることは許せないけど、アイツも必死なのね~自分なのに自分に負けてるって悔しいんじゃない?」

「マールちゃんの気持ちをもう一度取り戻したいんだよね」

「やり方に問題あり過ぎるけど、それだけ愛が深いのよ。私達魔力持ちは。いや、やっぱりアイツはかなり超えていってるけど」

「確かに~ダーリンと同じ状況になったら振り向かせるのに色々頑張っちゃう」

「そうねー私も気持ちは分かる。ずっと重ねられると、キツい気持ちも分かる」

「同じ自分なんだから、今の自分を見て欲しいって思うよね~」

「アイツを擁護する訳じゃないけど、マールはこれからどうしたい?」

(確かに・・・私が逆の立場だったら必死に追いかけるだろうな)

「まだ、わからない・・・」

「結婚式も控えてるじゃない」

「うん・・・」

「伴侶システムで相性が良かろうが、国に決められようが、あんたの気持ちが大事でしょ」

「ミリア・・・」

「マールちゃん。元に戻ったミハイルとは、これから先も一緒に居たくない?」

「結婚しても別に無理して一緒にいる必要は無いんじゃない?まあ、離してはもらえなさそうだけど」

(ミハイルと離れる・・・)

「すぐに答えは出ないと思うけど、そういう選択肢もあるんじゃない?」

「ふふっ、もう一度魔法にかかってもらう~?」

「いいじゃん!あーでも、私だったら素直にかからないかもね」

「そうだね~もう自分で愛せなくなるもんね」

私の胸はざわめく。

(魔法にかかったミハイル・・・か)

「とりあえず、私達はマールの幸せを一番に考えてるからね」

「そうだよ~マールちゃんの幸せが大切だよ」

2人の心からの優しい言葉に私はもう一度涙する。

(幸せ、か・・・)




2人に見送られ、私はミハイルの家に向かっていた。

(ミハイルと離れる)

「そうなると、結婚を・・・」

(やめるしか、彼から離れる方法はない)

『僕が元に戻って、たとえ君を傷付けたとしても必ず結婚式をしてほしい』

魔法にかかったミハイルとの約束を思い出し、頭を悩ませる。

(あの家に帰れないのも、ミハイルの家から逃して貰えないのも、私が魔法にかかったミハイルを想う気持ちを許されていないから・・・)

ミハイルを、彼を傷付けてしまうのは私がそばにいるからだ。

辛い日を続けて結婚するのは、彼にとって幸せなのだろうか。

(やっぱり、このままだとミハイルは幸せじゃないよね・・・だけど私はミハイルのそばを、離れられるのかな)

悩む気持ちを切り替えるように、足りない物を買おうと、家の方向から店の方へ足を進めた。



日用品を見に来ている。

(棚は繋いでくれるって言ってたけど、もうすぐ無くなるし買い足しておこう)

カゴに入れながら、足りない物を思い出すように棚を眺めて歩いていると、誰かにぶつかる。

「あっ、すいませーー」

「わっ、先輩」

アルノーと偶然出会う時は、こうしてぶつかって支えられることが多い。何故か気配をいつも感じないので、不思議に思っている。

(私ってぼんやりし過ぎなのかな・・・)

ぶつかってしまった彼を見上げる。

「ごめんね。考え込んじゃうと周り見えてない見たいで、よくアルノーにぶつかっちゃうね」

「いいんすよ、それで」

「偶然だね、アルノーも買い物?」

「はい、これ今日も安かったんで」

「あ、トリートメント。確か私と同じの使ってたよね」

前にも偶然出会った時に、彼はこうしてトリートメントを買っていた気がする。
たまたま私と同じのを使っているらしく、彼の黒髪はサラサラだ。

嬉しそうなアルノーが私の手からいつものようにカゴを受け取る。買い物をしている時に偶然出会うと、こうして荷物を持ってくれていた。

「今日はいいよ、自分で持つ」

ひょいと持っているカゴを避けられた。

「先輩もトリートメント買っときます?」

「あ、そうだね」

「2階にありましたよ」

「じゃあすぐ取ってくるよ。アルノー買い物はそれだけ?」

「そうっすね」

「じゃあ、ここら辺適当に見てて」

「はーい」

彼はこう言わないと、いつまでもついてくるので、早足で2階へ向かった。

(あった、あった)

パッと手に取り早足で階段を降りていると、足がもつれてつまづく。

「あっ、ーーーー」

(落ちる!!!)

目を瞑ると、崩れ落ちながら誰かに支えられている。

ーーードサドサッ、ゴンッ!!

パッと目を開けると、アルノーが手すりを持ちながら、力強く抱き留めてくれている。私は彼を下敷きにしているのでどこも痛くない。

「アルノー!!」

壁に頭をぶつけけたのか、寄りかかっている。

「ごめんね、痛かったよね」

すぐに退くと、大きな音に周りの人も集まってきた。

それに気付き、アルノーは回復魔法をかけている。魔法をかけ終えると、私は支えるように彼を立たせた。

「すいません、自分は大丈夫なので。気にしないで下さい」

周囲の目を気にしつつ、どこか嬉しそうな声のアルノーを見上げる。

目が合うと、すぐに肩を掴まれ心配そうにアルノーが私を確かめていた。

「本当にごめんね、怪我してない?」

「先輩は大丈夫ですか?どこも痛くない?」

「うん。アルノーのおかげで、私は大丈夫だよ」

「なら、良かった・・・」

安堵しているアルノーに申し訳ない気持ちでいっぱいになる。

(いつも、助けてもらってばっかりだな・・・)

カゴからバラけた物を回収し、会計を済ませると、近くのベンチに座った。

心配で彼の顔を覗き込む。

「今はどこも痛くない?」

「頭ぶつけました」

「そうだよね、ごめんね。回復魔法かけるね」

彼は首を振り、頭を差し出す。

「えっ」

「褒めてください」

仕方なくサラサラの黒髪を撫でる。4つ下の彼を可愛い弟のように思っているので、以前はよく撫でていた。

「どこぶつけたの?」

「全部」

「もー!」

満遍なく撫で終えると、パッと離れた。

「今日は本当に助かったよ。いや、毎回助けてくれてありがとう」

「良かったです」

「ミリアとクラリスも誘ってくれてありがとう」

「ふっ、ちょっとはスッキリしました?」

「うん、相談してみて良かった」

そうだと思い出し、ポケットからクッキーを取り出す。先ほどのカフェで購入したものだ。

(あ、割れちゃってる)

慌てて仕舞おうとすると、アルノーがじっと見ている。

「割れてるクッキーがちょうど食べたかったんすよね」

「そ、そう・・・今日のお礼に良かったら」

「いいんすか!ありがとうございます!」

ニコニコと受け取る彼に、私も微笑む。
告白されていたことをすっかり忘れ、また頭を撫でていた。

「えっ」

「あ、ごめん」

「えー、もう離しちゃうんですか」

「ごめんごめん、じゃあ帰るよ」

「クッキー、一緒に食べましょうよ!」

「アルノーにあげたんだから、自分で食べなよ」

「じゃあ食べるの見てて下さい」

「そろそろ帰らないと、明日の私がどうなってるのか怖いよ」

「逃げたくなったら、俺が迎えに行きます」

「はいはい、どうも」

いつまでも帰りそうにないので、ベンチから立ち上がり、振り返った。

「じゃあ、私は帰るね」

「先輩、話はまとまりそうですか?」

座ってる彼に真剣に見つめられ、目を伏せる。

「うん・・・なんとか」

「それは、先輩が幸せになれそうですか?」

「それは・・・」

「貴女が幸せになれる答えを出して欲しいです」

「アルノー・・・」

「じゃないと、俺は諦められない」

「うん、ありがとう。家に帰ってもう一度よく考えるよ」

アルノーが手を振ったので、私も手を振ってその場で別れた。
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