魔物と共にこの過酷な世界を生きる。

やまたのおろち

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2章

悪夢との邂逅

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「ゴシャ?」

「いやいや、私のレーダーの方が正確ですわ。確かに、ここら辺にクラーケンがいるはずですわ」

「ゴシャー!」

「だーかーらー!間違いなくこれはクラーケンの匂いでしてよ!自分のミスを認めろですわ!」

「喧嘩するな!!」

神鯨も無事に仲間にできた俺たちは、クラーケンを捕まえようと探索していた。探索していたのだが…

「熱探知にそれらしきものが引っかかっていない?」

「ゴシャ」

アオが自信満々に肯定する。しかし…

「いーや、これは間違いなくクラーケンですわ。神にも誓いましてよ」

「フシュ?」

「いや、そっちの神じゃないですわ」

どうやらティルの匂い探知には引っかかっているようだ。何故だ?あ、もしかして…

「クラーケンってスキュラと同じく体温を変えれる能力持ちだったりする?」

これが答えだろ。自分でいうのもなんだが、素晴らしい推理力だ。それならば、ティルの言ってることが正しいな。

「そんな能力なかったと思いますわ。それができるのは私たちスキュラと磯撫でくらいしかいなかったと思いますわ」

磯撫でってこの前も聞いたな。結局あれってなんなの?しかし、それなら…

「じゃあなんでアオちゃんの熱探知に反応がないのかしら」

そう…海の中では熱探知能力が弱体化するとはいえ、流石にこれはおかしい。
アオは『何もいない』と言っているのだ。

「待て、"何もいない"?」

普通、アオの熱探知にはなんらかの生き物がひっかかる。微生物は流石に無理だが、小魚程度なら問題なく感知できる。それらが全ていない…?

「ここの水域はおかしい!離れるぞ!」

ここにいるのは、ただのクラーケンじゃない!おぞましい、おぞましい…別の何かだ!

しかし、逃げるという判断を下すには…もう、遅すぎた。

「ァアァ…」

おぞましい、黒と紫に汚染された巨大イカのクラーケン…全てを憎み、苦しみ、全ての生命体に害を為す存在となったクラーケン。

そう、あれは…

「ォォォ…!」
「悪夢クラーケン…!」

身をも滅ぼす悪夢に侵された、ナイトメア種。赤く濁った目がこちらを捉え、黒と紫の混じった触手をこちらへ向かって叩きつけてきた!

ナイトメア種は、元からその姿だったわけではない。かつてはふつうの魔物だった…
そのふつうの魔物が、増幅された悪意を抑えきれず変化した姿がナイトメア種なのだ。

ナイトメア種は、まるで悪夢にうなされているかのような鳴き声を上げる。それが名前の由来だ。
ナイトメア種にはもう意識はない。ただ、悪夢に侵されていない他の生命体の根絶を目指すのみ。まるでコンピューターのように、彼らは動いている。そして、ひとつ言っておかなければならないことがある。

ナイトメア種は、絶対に獲物を逃さない。
死を覚悟しろ。


「ファー!」

予想外の事態に咄嗟に反応できたのは、サルヴァントだけだった。彼は身を挺してなんとか悪夢クラーケンの攻撃を防いだのだ。

「逃げれるなら逃げた方がいいが…」

「あれは悪夢種。例え逃げたとしても絶対に地獄の果てまで追いかけてくるわよ」

冷や汗が、海にとける。生き残るには、あれを殺すしかない。

「あれと互角に渡り合えるのはクロム、おまえだけだ!ティル、ドラクイはクロムのサポート!サルヴァントは…な!?」

サルヴァントがクラーケンに触手で掴まれている!?サルヴァントはたちまち弱ってい…

「戻れサルヴァント、出てこいサルヴァント!」

俺は一度サルヴァントを杖の中に戻した後、再び俺の近くに呼び出した!サルヴァントはあの短期間のうちにかなり傷ついていた。

「まずい、ファラクは…無理か」

まだファラクは洞窟の中にいるらしく、呼び出すことができなかった。
今は神鯨のクロムが自慢の巨体で悪夢クラーケンと格闘しているが…だめだ、タイマン最強のように思われたクロムでも悪夢クラーケンには一歩及ばない。ドラクイやティル、サルヴァントのサポートもあってなんとか戦えている状況だ。

「アキモとコケコは…だめだ、危険すぎる」

サルヴァントがあの短期間のうちに傷だらけになるほどの強敵なのだ。アキモやコケコでは即死してしまうかもしれない。
同じ理由でリゲルやアオも悪夢クラーケンとは戦わせられない。

「ってまずい、ティルが掴まれている!」

クロムくらいの大きさになると掴まれないようだが、それ以外はばっちり掴まれる。俺は慌てながらティルを杖の中に戻しまた再召喚した。

「これはちとまずいですわね。肋骨が少々折れたかもしれませんわ…」

あの短期間でか。そこまでの破壊力をあの悪夢クラーケンは持ち合わせているのか。

「ギガヒール、ギガヒール…これでどう?少しはマシになったはずよ」

「チッ!できれば安静にしていたかったですわ」

サフンの回復により戦える状態にはなったようだが…ありゃ相当無理している。昔悪夢デスワームと戦ったことはあるが…それよりも遥かに強い。やはり、元の種族がクラーケンだからなのか?

「アァア!」

「フシュ…」

さっきまであのクラーケンは特定の誰かを掴んで集中砲火をする…という戦法だったのが、あまりにも俺のせいで逃げられすぎて腹でも立ってきたのか、戦法を変えたらしい。

自慢の触手たちを無差別に振り回し始めた!

「フシュ!」

彼らはクロムの後ろに隠れることで、なんとかあの攻撃をやり過ごせたみたいだ。

しかし、その判断がいけなかった。

「ァアぁ」

クラーケンが、ニヤリと笑った。いや、実際には笑っていなかったのだろう。だが…俺には、そう見えた。

「ァあァ!」

悪夢クラーケンの触手が、伸ばされた。その狙いはクロムでも、ドラクイでも、サルヴァントでも、ティルでもない。

俺とサフンだ。

「どうせそうやると思った!アクベス、コケコ、ヤツメ!」

「…!」

アクベスに触手から俺たちを守る壁となってもらい、アクベスの隙間からコケコとヤツメで反撃する!

「ァあアァ」

流石にコケコとヤツメの同時攻撃は効いたのだろう。奴は一瞬怯んだ。そう、一瞬だけ…
すぐにそれがどうした?とでも言いたげに攻撃を再開しようとした。

「ァアァ!」

全ての触手を振り上げ、アクベスを叩き割ろうとする!だが…

「させませんでしてよー!」
「ォォォ!」

サルヴァントやクロムたちが悪夢クラーケンに全力の体当たりをぶつけたことで、なんとかその攻撃をキャンセルすることができた。

「アクベス、大丈夫か…げ、甲羅が割れかかってる」

心配するなとでも言いたげにハサミを振り回しているが、どう考えてもかなりのダメージを喰らっていた。幸い、サフンの回復によってなんとか元通りとなったが。

「まだまだこの戦いは始まったばかり…これは、どうなる」

再び、冷や汗が海にとけた。





そしてまだ彼らは知らない…この戦いが、想像を絶する展開になるとは。

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