58 / 61
2章
海の与えるサイゴノ試練
しおりを挟む海の上位捕食者、クラーケン。それが悪夢化したのである。彼を止めれる者はもはや誰もいない…………ただ、ひとつの生命体を除いて。
「アあァ!」
触手での攻撃ばかりしか見せていなかった悪夢クラーケンだが、ここに来てなんと体当たりを仕掛けてきた!
「フ!?」
その標的となったのは、悪夢クラーケンの一番近くにいたサルヴァント。触手での攻撃ほどダメージはなさそうだが…それでも不意打ちとしてなら、十分仕事を果たしたともいえる。
「ァあア!」
怯んで一瞬固まってしまったサルヴァント。もちろん、それを悪夢クラーケンが見過ごさないわけがない。
「ア…ァあ」
悪夢クラーケンは自慢の触手たちで今度こそ一匹捻り潰そうとした。獲物をテレポートさせて逃してくる男は、自分に怖気付いて逃げてしまった…とでも思っているのだろうか?
残念、その予想はハズレだ。
「アぁァ?」
自分の自慢の触手たちがツルリと滑った。何故だ?何故だ。何故だ。何故だ。何故だ。何故だ。何故だ。
「離れるのですわー!」
「ワンワン!」
「アぁゥア!」
ティルが伸ばした犬の首たちが、悪夢クラーケンの赤く濁った目を襲う!
いくら頑丈なナイトメア種といえども、流石に目を襲われるのはまずいのか一度退いた。
悪夢クラーケンはかなり困惑していたように見えた。何故、自分の使い慣れた触手たちが自分の思うように動かなかったのかと。
その原因は…
「バレなくてよかった…!!」
「ザァ!」
俺たちが悪夢クラーケンの死角に潜り込み、ヤツメに体力を吸わせていたからだ。リゲルはこの地獄のような海ではあまり戦力にはならない。しかしワニであるからか、隠密行動が大の得意なのだ。
「アオもありがと。おかげで成功したわ」
「ゴシャ」
アオのテレパシー能力により作戦が早く伝わって助かった。アオにまず作戦を話し、そこから他の仲間たちに伝達させたのだ。
本当はコケコで奇襲しようとしたのだがヤツメに変えた。
今は中途半端に高いダメージを与えてすぐに気づかれるよりも、ダメージはない代わりに奴の動きを妨害できる方が良い。そう判断したのだ。
まあもちろん、クラーケン…それもナイトメア種なので長い間吸わせる必要があったが、なんとかバレなくて助かった。
「ただ、安心するのはまだ早いわよ」
「そうだな…ここから、どうするか」
依然こちらが不利なのは変わっていない。確かに、今までも海での戦いはなかなかに困難を極めていた。しかし、今回はそれの比ではない…
「ファラクも増援として呼びたいけどまだ召喚できないしな…」
ファラクはまだ洞窟の中にいるのか、呼び出すことができない。
呼び出せればまだ少しは楽になるのに!!クソ、ゲームでよくある序盤限定の助っ人枠かなんかか!?
と、そんなことを言っている場合ではない。
「クラーケンの弱点って何かあったりする!?」
「私も流石に弱点までは知らないわ!」
藁にも縋る思いでサフンに聞いてみたが…
クソ、ダメかぁぁぁ!!!
「合ってるかどうかはわかりませんが、わかりますわ」
?
「嘘はよくないよ?」
「本当ですわ!クラーケンは、衝撃にバカ弱いのですわ!たいそうな名前がつけられているものの、所詮はただのデカいタコ。普通のタコと同じように、ストレスを感じると自分の足を食べ出すのですわ!」
普通に知らなかった。でも…
「この状況でどうやってストレスを感じさせるんだ?」
「まずクラーケンを海面まで誘き寄せてサバルの雷でバーンとやるのでしてよ!」
「サバルは今、洞窟の中なんよ」
「この作戦は失敗ですわ」
ダメだったかぁ…
今一歩のティルは置いておく。でも実際、サバルの雷攻撃はシーサーペントのサルヴァントにはよく効いてたし…見る目はあると思うんだけどなぁ…
「待て…ティル?目?」
そういえばあの悪夢タコ、ティルに目を攻撃されたときだけは露骨に嫌がり退いていた。
「目だ!目をつぶせー!!」
「ファー!!」
それまでは悪夢クラーケンの胴体や触手に向かって仲間たちは攻撃していたが、目標を変え悪夢クラーケンの目を積極的に攻撃しようとし始めた!
サルヴァントが振り回した長い尻尾が、悪夢クラーケンの目を切り裂…
「ァあア!」
このクラーケンは歴戦の猛者。ちょっとやそっと弱いところがバレたところで、遅れを取ったりなどしない。決して、怖気付かないこと。それこそが、成功の秘訣だ。
悪夢クラーケンはドラクイの尻尾を触手で受け止めた!そして、三度目の正直とばかりに触手で締め殺そうとする。
「それはさっきも見た、今だクロム!」
「フシュ!」
超巨体のクロムが、悪夢クラーケンの胴体に全力で体当たりをした!いくら皮膚が鋼鉄のように硬いからって、流石に助走もつけた神鯨の全力の体当たりはかなり痛いだろう。
「ァアァ!」
流石の悪夢クラーケンもこの攻撃には痛みで悶える。今までもダメージこそ受けてはいたが、あまり効いていなさそうだった。ここに来てやっと、ようやく大ダメージを与えられたのである。悪夢クラーケンは一旦距離を取ろうと…
「今だドラクイ!昏睡の潮じゃああああ!!」
「ォォォ!」
先回りしていたドラクイの背中から赤い潮が噴き出る!海の色が徐々に紅に染まってゆく…
「ァあァアぁ」
通常ならこの紅潮攻撃は対して仕事をなさなかっただろう。だが、彼女はヤツメの体力吸収で弱っていた。クロムの体当たりにより吹き飛ばされた先で、目に直接紅潮を叩き込まれてしまっていた。
それらが奇跡的に噛み合ったことで、俺たちの予想以上に昏睡の効果が現れたのである!
「ァあァァ…」
しかし、だからといって昏睡してしまうというわけではない。少しばかり意識を剥ぎ取っただけだ。
少しばかり、隙が生まれてしまっただけだ。
「フシュー!」
クロムの全力の体当たりが、再び悪夢クラーケンを襲う!
だが奇襲ではなく真正面からの突撃であればいくらでも対応の手段はある、とばかりに悪夢クラーケンはカウンターを仕掛けようとした…………仕掛けようとした。
昏睡の潮が、悪夢クラーケンにカウンターを取らせるのを一コンマ遅らせてしまったのだ。たかが一コンマ、されど一コンマ。
結果、カウンターは間に合わず…
再び、悪夢クラーケンは突き飛ばされることとなる。
「やりましたわ!」
フラグ発言が聞こえてきたのを見るに、まだ悪夢クラーケンは生きているみたいですねありがとうございました。
「ァアあァ」
案の定、悪夢クラーケンはまだ生きていた。だが、奴も相当ダメージを受けている。ようやく、勝機が見えて…
「ゴシャーーーーーー!」
いきなりアオが仲間の魔物たちにそこから離れるように叫んだ!なんだなんだ、なんだってんだ!?あのタコ、まだ切り札を隠してたってのか!?
しかし、その予想は間違いだったとすぐに判明する。
今まで海では数多くの脅威と鉢合わせてきた。あるときは、危険な魚群と。あるときは、犬の首とタコの触手を持つ妖艶の美少女と。あるときは、龍をも喰らう巨大エイと。あるときは、謎の集団と。あるときは、規格外の大きさを持つ最強の鯨と。
アオが警告を鳴らした脅威はそのどれでもなく、そのどれよりも圧倒的に危険な脅威であった。そう、それは……
「ァあ!?」
「ファ!?」
いきなり、全てを貫くツノが割り込んできた。アオの警告によりなんとか奇襲攻撃は避けることはできたが……すぐに絶望と鉢合わせることになる。
「…dpmgwaw」
この海で最強の存在であり、食物連鎖の頂点。海の魔物についてほとんど知らないサフンですら絶叫するほどの存在。
「ウネリツノじゃないの…!」
この海での戦いは、苛烈を極めることとなる…!!
0
あなたにおすすめの小説
『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる
仙道
ファンタジー
気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。 この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。 俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。 オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。 腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。 俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。 こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。
異世界転生おじさんは最強とハーレムを極める
自ら
ファンタジー
定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。
その「お詫び」として、健一は剣と魔法の異世界へと30代後半の肉体で転生することになる。チート能力の選択を迫られ、彼はあらゆる経験から無限に成長できる**【無限成長(アンリミテッド・グロース)】**を選び取る。
異世界で早速遭遇したゴブリンを一撃で倒し、チート能力を実感した健一は、くたびれた人生を捨て、最強のセカンドライフを謳歌することを決意する。
定年間際のおじさんが、女神の気まぐれチートで異世界最強への道を歩み始める、転生ファンタジーの開幕。
ハズレスキル【地図化(マッピング)】で追放された俺、実は未踏破ダンジョンの隠し通路やギミックを全て見通せる世界で唯一の『攻略神』でした
夏見ナイ
ファンタジー
勇者パーティの荷物持ちだったユキナガは、戦闘に役立たない【地図化】スキルを理由に「無能」と罵られ、追放された。
しかし、孤独の中で己のスキルと向き合った彼は、その真価に覚醒する。彼の脳内に広がるのは、モンスター、トラップ、隠し通路に至るまで、ダンジョンの全てを完璧に映し出す三次元マップだった。これは最強の『攻略神』の眼だ――。
彼はその圧倒的な情報力を武器に、同じく不遇なスキルを持つ仲間たちの才能を見出し、不可能と言われたダンジョンを次々と制覇していく。知略と分析で全てを先読みし、完璧な指示で仲間を導く『指揮官』の成り上がり譚。
一方、彼を失った勇者パーティは迷走を始める……。爽快なダンジョン攻略とカタルシス溢れる英雄譚が、今、始まる!
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
掘鑿王(くっさくおう)~ボクしか知らない隠しダンジョンでSSRアイテムばかり掘り出し大金持ち~
テツみン
ファンタジー
『掘削士』エリオットは、ダンジョンの鉱脈から鉱石を掘り出すのが仕事。
しかし、非戦闘職の彼は冒険者仲間から不遇な扱いを受けていた。
ある日、ダンジョンに入ると天災級モンスター、イフリートに遭遇。エリオットは仲間が逃げ出すための囮(おとり)にされてしまう。
「生きて帰るんだ――妹が待つ家へ!」
彼は岩の割れ目につるはしを打ち込み、崩落を誘発させ――
目が覚めると未知の洞窟にいた。
貴重な鉱脈ばかりに興奮するエリオットだったが、特に不思議な形をしたクリスタルが気になり、それを掘り出す。
その中から現れたモノは……
「えっ? 女の子???」
これは、不遇な扱いを受けていた少年が大陸一の大富豪へと成り上がっていく――そんな物語である。
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
嵌められたオッサン冒険者、Sランクモンスター(幼体)に懐かれたので、その力で復讐しようと思います
ゆさま
ファンタジー
ベテランオッサン冒険者が、美少女パーティーにオヤジ狩りの標的にされてしまった。生死の境をさまよっていたら、Sランクモンスターに懐かれて……。
懐いたモンスターが成長し、美女に擬態できるようになって迫ってきます。どうするオッサン!?
異世界帰りの少年は現実世界で冒険者になる
家高菜
ファンタジー
ある日突然、異世界に勇者として召喚された平凡な中学生の小鳥遊優人。
召喚者は優人を含めた5人の勇者に魔王討伐を依頼してきて、優人たちは魔王討伐を引き受ける。
多くの人々の助けを借り4年の月日を経て魔王討伐を成し遂げた優人たちは、なんとか元の世界に帰還を果たした。
しかし優人が帰還した世界には元々は無かったはずのダンジョンと、ダンジョンを探索するのを生業とする冒険者という職業が存在していた。
何故かダンジョンを探索する冒険者を育成する『冒険者育成学園』に入学することになった優人は、新たな仲間と共に冒険に身を投じるのであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる