鎖血のタルト 〜裏切られた王女は復讐をやめた〜

狐隠リオ

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第三話 仮初の友達

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「みんなヤッホー。今日も登校出来て偉い! 高校二年生になったみんなには沢山の選択肢があるね! 出来る事なら優秀な存在になる事を期待してるよ!」

 朝のホームルーム。これからクラスメイトに紹介されるはずだけど……眠い。

「さあさあ。ここからが本題。なんと君たち、珍しい事に転校生の紹介だ!」

 随分とテンションの高い担任だな。
 長い銀髪をツインテールにしている小柄な先生。
 先生という事はそれなりの年齢だろうけれど、随分と若いな。十代だと紹介されても違和感がないくらいだ。スーツ姿が本当に似合わない。

「へいへーい、いらっしゃーい」

 合図を受け引き戸を開けると教室内へと踏み出した。

「オレの名前はタルト・ドルマーレ。名前からわかる通り最近この国に来た新参者だ。偶然魔装具を手にしたからここに来た。よろしく」

 魔装具の使い手である魔装師を育成するために建てられた高等学校。それがここ[羽森魔装高等学校]だ。

 今は五月だ。この時期に転校してくる奴は珍しいのだろう。教室中の自然がオレへと向けられていた。

「おお! ちゃんと自己紹介出来て偉い! 席はあそこの一つ空いてる窓際の一番後ろを使ってねー」
「わかった」

 窓際の一番後ろの席か。これって結構当たりなんじゃないか? この学校でまともに学ぶ気のないオレにとっては都合が良い気がする。
 朝のホームルームが終わり、短い自由時間が訪れた。……が、特にやる事はないか。

「よっ! 俺は高根涼樹《たかねりょうき》だ。よろしくな!」
「……ああ、よろしく」

 隣の席に座っている男子生徒が話し掛けてきた。
 茶髪の男。体格は平均的というか普通なイメージ。大柄ではなく小柄でもない。太っているわけでもなく細いわけでもない。特にこれといって特徴のない奴だな。

「それにしても今って五月だろ? 珍しい時期だよな」
「魔装具の使い方に慣れるのはここが一番早いと思ったからな」

 オレの指に嵌められた二つの指輪。これが魔装具と呼ばれる数年前に発明された新時代の武装だ。

 強い意志を漲らせる事によって起動し、内に封じられた装備を展開する。その利便性は大きいものだ。戦闘時外における装備重量の低減は長期作戦において想像を超える利点だからな。
 ただ新しい装備であるため十分に使い熟すにはある程度の訓練が必要になる。この学校は魔装を持っている者しか入学出来ない特殊な学舎。訓練には最適解だ。という自然な建前だ。

(こいつか。まさか席が隣なのは意図的か?)

 命令された本当の任務。それは高根涼樹という人間の護衛だ。
 ただ護衛とはいってもずっと近くに引っ付く必要はなく。ある程度の距離から見守るだけで良いらしい。

 どうしてこの男を護衛するのか、その理由は教えられていない。どっちにせよ興味がないから問題はない。
 救われた恩を返すために命令通りに動く道具。それで良いんだ。

 この国には一年前から潜入している同胞がいる。席が隣なのが予定通りだという可能性は十分にあるだろうな。……いや、ないか。そういう命令をされるのは下位だからな。

 偶然というか、運命力? 確実に殺される未来を変えられた。もしかするとオレは運が良いのかもしれないな。

「タルトの魔装はどんな感じなんだ? 俺が持ってるのはシンプルでさ」
「魔装にシンプルも何もないだろ? 既存武器を展開するだけのつまらない道具だ」

 便利だとは思うけれど、通常装備をコンパクトにしているだけでしかない。
 常に武器を装備しているオレとしては無意味に近い技術だ。

「いや、ロマンの塊だろ! 変身みたいでカッコ良いじゃん!」
「……まあ、個人の解釈は自由だな」

 変身か。となるとこいつの魔装は武器じゃないな。

「いつまでここにいるかは知らんが、それまではよろしくな」
「なんだそれ、クラスが変わっても友達だろ?」
「……オレ、女だぞ?」

 何なんだこいつ。少し会話しただけで友達だと? それが通用するのはせめて同性だろ。
 ここは学校だ。だから服装は私服ではなく指定された制服を着る必要がある。が、ここは珍しい事に男女で制服が別れていない。

 だが皆が同じというわけではなく二種類存在している。ズボンタイプとスカートタイプの二つなのだが、どちらを着るのかは完全に自由となっているんだ。

 女子がズボンを選んでも良いし、男子がスカートを選んでも良い。
 オレとしてはズボンを選びたかったのだが……これは任務だ。そんな自由なんてなかった。

(あのクソビッチ。絶対に許さねえ)

 近いうちに模擬戦の申請でもするか? 戦闘能力はオレの方が上だって自信ならある。祝福無しなら勝率は決して低くないだろう。
 と、それは後で深く考え込むとして、今はこいつの対応だな。

 クソ上官の命令でスカートを強制されたせいでオレは現在、上半身はブレザーとワイシャツを着ていて、下半身はスカートと……パンツだ。
 髪も長いし声も高め、外見は確実に女だと思うのだが……まさか性格から男だと思っているのか? いや、可能性としてはとてつもなく低いだろうけれど、異性相手にファーストコンタクトからこんなグイグイ来るか?

(——いや、まさかこいつ!)

 脳裏を過ぎる一つの可能性。
 まさかこの男はアレなのか? 伝説の存在、その名も——陽キャなのか!?

 オレたちは現在十六歳。時代が時代なら既に家庭を作っていてもおかしくない年齢だ。まさか本能的に狙われている? ゆるりと間合いを詰められているのか!?

 ——そんな思考は無意味なただの杞憂でしかなかった。

「えっ、そんなの一目見りゃわかるだろ?」

 不思議そうな顔をしているオス。……素なのか? いやいや、むしろオレを女だと認識しているなら尚更狙っている可能性が上がるのでは?
 ——わざわざオレを狙う意味があるのか?
 交友関係なんてない。なんせ今日が登校初日だからな。オレ自身が目的ではなく、オレの知人との渡りとする目的? あるいは、孤立している転校生に優しくする事で周囲にアピールしているのか?

 ……いや、落ち着け。冷静になるんだ。
 単純なこの男がまだオスになれていない可能性だってある。脳みそ小学生だとするなら、色々と納得出来るか。
 そもそもこれは悪い状況か?
 オレは任務でこいつを護らないといけない。それなら近くにいられる友人という枠は良きなのでは?

「それならオレたちはこれから友達だ。よろしくな涼樹」

 ただのクラスメイトよりも都合が良い。それなら意味不明でもその立場を受け取るべきだな。
 それに万が一、オレの身体目当てだったとしても、血族であるオレの方が上だ。その時は軽く潰してやろう。二つあるんだ、一つくらい問題ないだろう。

 こいつがオレの事を友達だと思っているなら、その通りになってやろう。
 オレ達は友達だ。

   ☆ ★ ☆ ★
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