鎖血のタルト 〜裏切られた王女は復讐をやめた〜

狐隠リオ

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第二話 新しい日常

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 新たな任務を二人で担当しながらも、ついにこの日が訪れた。

「それじゃあタルト。数日で他のバディと合流する事になるだろうけど、それまでは一人で気を付けてね」
「ピーチも気を付けろよ。頭の中がお花畑なんだ。悪い奴に騙されるなよ」
「えっ、意外。心配してくれるんだ?」

 そう言って嬉しそうに下から顔を覗き込んできやがった。もっと嫌味に反応しろよ。そんな純粋に喜ぶな。本当にムカつく女だ。

「うざい」
「アハッ。また合流するはずだけど、それまで新人二人と仲良くするんだよ?」
「えっ、新人なのか!?」
「そうだよー。暫くはタルトが上官の立場になるんだからね」
「……うわ。最悪」

 憂鬱なのは本気だけど、言われてみれば自然な事か。オレとピーチの階級は中位だ。有している戦闘能力は個人で一流戦士複数を相手に戦える。それも高確率で勝てるレベルだ。

 本来なら中位同士がバディになる事はない。オレが新人でありながらも中位になったからこそ起きた例外だ。
 本来なら中位と下位が組むのが基本。一時的とはいえ三人で行動するなら下位の新人二人と合流するのが妥当だ。

「ふふっ、頑張ってね、新人育成っ」
「こいつ、楽しそうにしやがって」

 新人教育か……オレに出来るのか? 組織のメンバーの中でもっとも適さない人選だと思うのだが……。

「はぁー、こんな事になるならまだピーチと一緒に居た方が楽だったな」
「ふふっ、甘えん坊さんなのね?」
「死ね」
「あっ! それは流石に言い過ぎだよっ」

 両手を腰に当てて頬を膨らませるピーチ。なんだそのあざとい仕草は。

「悪かった悪かった。ほらっ、そろそろ出発時間だろ。行けよ」
「もー。次会った時にはもっと優しい言葉を掛けてね!」
「考えとくー」
「ああ! またそうやって! もうっ。……はぁー、じゃあまたね、タルト」
「ああ、またなピーチ」

 オレはこれから新人二人と組む事になるのだろう。新人とはいえ軽い祝福を受けている同胞だ。格上と戦うならまだしも、足纏いになる事は少ないだろう。
 最悪、自身を守る事に集中してもらって、対象撃破は一人でやる。それで良い。

 だけどピーチは違う。
 ピーチはこれから正真正銘一人になるんだ。オレよりも数倍もしもは近い。
 万が一よりも確率は低いと思う。だけど絶対なんてない。もしもピーチが——

「……くだらない」

 久しぶりに訪れた静かな時間。
 求めていた静寂。
 だけど少しだけ……本当に少しだけ……。

「はぁ、暇だな」

 久しぶりに修行でもするか。

   ☆ ★ ☆ ★

 壁国センズファスト。
 オレが生まれ育った国の名前だ。
 世界には壁国と呼ばれる国が数多存在している。外敵から国民を守るために国境を壁で囲んだ小さな国々。
 壁外に数多の外敵が蔓延っている事から各国の交流も難しく、技術なども流通しない。安定からは遠く離れた現状だ。

 こんな世界だからこそ国のトップ。王には大きな責任がある。そんな国王の娘として生まれたのがオレだった。

 毎日のように美味しい料理、甘いデザート。不自由なんてない毎日だった。
 誰からも好意的で、褒められる毎日。
 ——だけど、その日は訪れた。
 父の部下だった男を主導にした反乱が起きたんだ。
 父は殺され、母も殺された。そしてオレは地下に幽閉され、処刑の日を待っていた。

 裏切りだ。
 こんなの裏切りでしかない。
 王である父直属の部下。右腕とまで呼ばれた男だった。報酬だって決して少なくなかったはずだ。
 父のおかげで充実した日々を過ごしていたはずの男。そんなクズによる反乱。

 憎んだ。
 今のお前があるのは父様のおかげだ。
 恨んだ。
 お前のせいで私は今、こんな地下牢で苦しんでいる。
 許さない。
 絶対に許さない。
 殺してやる。
 この手で絶対に殺してやる。
 地下牢での日々が続き、彼女は現れた。

『初めまして。貴方に選択肢をあげるわ』

 差し伸べられた手を取った。
 そして私は、オレになった。

「——っ!」

 嫌な夢を見た。
 オレがオレとなった日の夢。
 早く忘れたいと思っている過去。

「……はぁー、最悪」

 ため息と共に起き上がると、視界に映った時計は信じたくない現実を突き付けた。

「はあ!? 遅刻するじゃん!」

 ピーチと別れてから一年が経っていた。
 ホムラフェルマ。それが現在滞在している壁国の名前だ。
 電車が走り、若者は携帯電話を持っている。銃の所持は禁止されているが、許可された奴らもいる。
 規模が違うけれど、組織の拠点と技術レベルが近い場所だった。

 そんな壁国の学校に転校生として入学する。それが今回の任務だった。
 ——まあ、正確には違うけど。
 女子の制服であるスカート以外、共通のシャツとブレザーを着て走った。

 祝福の力を使うつもりはない。使えば使うほどに消費され、補充の必要がある力をこんな事で使う気にはならないし、そもそも生涯使う気すらない。

 いつの間にか十六歳になっていたオレは今日、この国を代表する学校に所属する。転校生だから入学式という広域睡眠魔法を受ける事はないけれど、このままじゃ初日に遅刻という目立ちの重ねになってしまう。

 転校生は注目される。それは仕方がない。だが、余計なそれは面倒だ。

「……【天血《てんけつ》】」

 転校初日から遅刻だなんて目立つに決まってる。そんなの嫌だ。だから仕方が無く、眷属としての力を使った。
 オレの力と混ざり合い、変質した祝福の力でハバタキ、学校へと急いだ。
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