鎖血のタルト 〜裏切られた王女は復讐をやめた〜

狐隠リオ

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第二十七話 赤色

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 赤髪は進む。
 未だ見ぬ赤髪と出会うために。
 未来のために、己のために、母のために、しかしやはり、願望のために。

   ☆ ★ ☆ ★

 涼樹との放課後デートについて、結果から言おうか。

「満足!」

 我ながら満面の笑みを浮かべているオレとは正反対に、公園のベンチで隣に座っている涼樹の顔色は悪かった。

「……お前、よくもあんな量食えるな」
「甘い物は別腹だ」
「……いや、お前……どんな容量だよ」

 人の身体を上から順に下まで眺めてくる変態。いや、今は機嫌が良いんだ。触らないのならばそれくらいのセクハラは許してやろう。

「いや、だっておの特大タルト……いや、何でもない」

 もう言う事はないとばかりにぐったりとする涼樹。
 噂のカフェとやらで提供された[乙女専用特大タルト]だが、そのサイズは驚きの直径一メートルという中々のものだった。
 ビザのように複数の味に分けられていて、最後まで飽きる事なく食べる事が出来た。

 最初は量重視で味は二の次なんだろうなと、失礼な事を考えていたのだが、そんな事は全然なかった。
 特製ソースは種類も豊富で、様々な果肉がたっぷりと使われた豪華な一品。
 ……値段については聞かないでおこう。……うん。

「女子は甘い物が好きって聞いた事あるけど、流石にタルトは別格だよな? そうだよな?」
「さあな? 比べた事なんてないからな」

 とは口で言いつつも、我ながら食べる方だとは思っている。デザート限定だけど、今まで甘い物を食べていてこれ以上は無理ってなった事はないな。

「……あれ、確かにあの量どこに消えたんだ?」

 特大タルトを一人で食べたのだけど……あれ、質量と重量どこ? 身体が重くなったような感覚はないぞ?

「「……」」

 涼樹とお互い無言のまま視線が合った。そしてどちらともなく同時に頷き合った。
 この件について考えるのはもうやめよう。世の中には不思議な事があるんだ。知るべきでない事もあるのだよ。

「それにしても涼樹。結局今日のこれはなんだったんだ?」
「あー、それはあれだ。ほら、なんか最近元気無かっただろ? 気分転換になればと思ったんだけど、どうだ?」
「……は?」

 元気が無かった? 何を言っている?
 ……いや、少なくとも涼樹の目にはそう映っていたという事か。心当たりは……あるか。

「はぁー、なんというか……オマエはいつもオレを脅かせるな」

 初対面時の距離の詰め方といい、マオとのあれこれの時といい、今回もそうだ。

「そうか? みんな気が付いてたと思うぞ?」
「……そりゃない」

 ピーチなら絶対に、むしろ過剰に心配するはずだ。昨日会った時にそれがなかった以上、そうは見えなかったって事だ。
 撫照は……どうだろうな。昨日の一件でちょっと怖い印象があるけど、目敏いし声を掛けるくらいしてくれると思う。

 一番オレの近くにいるのはその二人だ。アイツらが気が付かない事を涼樹は気が付いた。それは……少し嬉しいかもしれない。

「なんせオレ自身がオマエに言われるまで無自覚だったからな」
「そうなのか?」
「ああ」

 いつの間にか顔色が戻った涼樹は、背もたれに体重を任せて天を仰いでいるオレに向けて、心配そうな視線を向けていた。
 さっきまで胃もたれ起こしてたくせに。なんだよそれ、ふざけんな。

「はあー、なんか弱くなった気分だ」
「おいおい、俺に圧勝しておいてなんだその言い草はよー」
「落ち込んでた理由に心当たりがあるんだよ」
「それ、聞いて平気か?」
「あー、どうだろうな」

 いつかオマエらを裏切り事が確定している立場。それを明かす事は出来ない。それは組織に対する裏切りに等しい。ピーチだってそう判断するはずだ。
 だからそれを話す事は出来ないけど、もう一つは良いかな。

 私がオレとなり、抜け殻の人形へと堕ちた理由。これは個人的な事だからな。

「オレ、両親がいないんだ。まだ無力だった頃に二人とも殺された。だから復讐を誓って力を求めた。血が滲むような修行を続けて、復讐を果たせるほどまでに強くなったと自負してる」
「……そっか。大変だったな」

 ああ、これはきっと勘違いしてる。既に復讐を終えた後だって。
 復讐を終え目的がなくなって失意、あるいは虚しさに襲われている。そんな風に思っているんだろうな。
 でも違う。そうじゃないんだ。

「復讐はまだだよ。でも、もうする気がないんだ」
「えっ? な、なんでだよ」

 目を丸くしている涼樹。そりゃそんな反応にもなる。復讐のために生きていた奴がそれを止める。どうしてって、理由が気になるに決まっている。

 ここで黙るなんてしない。ちゃんと教えるよ。本当に単純な理由だから。

「オレに復讐する資格がないからだよ。悪いのは——」

 悪はオレたちだった。
 両親は殺されて当然の事をしていた。オレは知らなかったし、当時は十歳だった。だけど、この身体には罪人の血が流れている。大勢を自分勝手な理由で殺し続けた悪の血が。

 それを言葉にしようとした時だった。

「——漸く見つけましたわ」
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