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第二十八話 変異
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それは突然だった。背後から声を掛けられた。
「——っ!?」
ただ後方から声を掛けられただけ。変な事なんて何もない。それが知らない女性の声だったとしても、この場には二人いるんだ。妙な事はない。
それは本能だった。
本能的にオレは立ち上がり、振り返りながら距離を取っていた。そしていつでも攻撃出来るように右腕の位置を少しだけ調節する。
「タルト!?」
突然の行動に慌てる涼樹の声が聞こえるけれど、意識に入って来ない。オレは全感覚を目の前に立っているドレス姿の女性へと向けていた。
「……あら、タルトと呼んだのかしら? 妙だわ」
首を傾げて疑問符を浮かべている女性。その言葉に全身が震えた。
タルトという呼称に対する違和感。その理由は一つしかない。
(なんだこいつっ、なんでオレの事を知っている!?)
今の反応はオレの名前がタルトだというのはおかしいと知っている者の発言だ。それはつまりオレになる前のオレを知っているという事だ。
女性の正体、その容姿へと意識を向けた時、再び心が震えた。
「赤い……髪……」
長身で豊かな身体。足は長くドレス姿という事も相俟って、まるでどこかの国の女王様のような風格すらあった。
自身に自信がなければ、着こなす事なんて絶対に出来ない派手なドレス。そんな衣装と同じ色をした長い髪へと、オレの視線は縫い付けられていた。
真紅の髪。長い髪をハーフアップにしている女性は、動揺を隠せていないオレに向かって微笑み掛けた。
「お初にお目にかかりますわ。私《わたくし》の名前は塔怪《とうかい》——」
「死ね」
「「——っ!?」」
スカートを掴み、やや持ち上げて礼儀正しい挨拶を赤髪の女性が始めた直後、いや、彼女が己の名を語り出した瞬間にそれは起きた。
いつの間にか女性の足元へと移動していた涼樹がロングコートを纏い、ロングソードを振るっていたんだ。
あまりにも唐突な攻撃に女性は反応するものの、左腕を深々と斬り裂かれていた。
「ちっ」
舌打ちの直後に追撃を放つ涼樹。その刃にはあまりにも明確に、強過ぎる殺意が込められていた。
「【血英《けつえい》ノ刃《やいば》】」
「「——っ!?」」
女性が術名を唱えた瞬間、左腕に負った傷から溢れるように流れる血液が、まるで意志を持ったかのように蠢き、液体ならばありえない事に涼樹の斬撃を受け止めていた。
「悪い子にはお仕置きが必要ですわね」
刃を受け止めた血から分裂した血液が鋭い刃を形取ると、四方から涼樹へと襲い掛かる。
「涼樹っ!」
あの状態からの防御は本来ならばありえない。動揺した瞬間を狙ったカウンターだ。しかも同時に四発の斬撃。防ぐ事はおろか回避する事だって不可能だ。
夥しい量の血が噴き出す。そんな光景を幻視しオレは叫んだ。
「やっぱりそうだ」
その未来は幻でしかなかった。
地面を擦る音が聞こえたかと思えば、いつの間にかオレのすぐ側に涼樹の姿があった。
(なんだ、今のスピード。オレの知ってる涼樹のそれじゃない)
今までは手加減していたのか? いや、授業で戦っていた時にはそんな風にはとても見えなかった。偽装? 何のために?
それよりも、どうしてこんな事になっているんだ? どうしてこんなにも、涼樹は怒りを露わにしているんだ?
「血を操る魔術《・・》。そしてその赤い髪。ずっと、ずっと探したぞ」
涼樹の言葉に、その声に込められた強い怒気に身体が、そして何よりも心が震えた。
「俺の名は高根涼樹。高根という姓に聞き覚えはあるか?」
「さあ? 気にした事もない家名ですわね」
「だろうな! 長年人を殺し続けた闇の血族だもんなっ!」
……え?
「俺はお前を探していた。その穢れた血をこの世から絶やすために、ずっと、ずっと、ずっとだっ!」
「あら、そうなのね。ですが残念ですわね。それは叶いませんわよ」
「いや、叶う。俺はお前を殺す。そのために手に入れた力だ! 覚悟しろ——」
「——塔怪、瑠海《るみ》っ!」
……な、んで?
「うふふ、うふふふふ。なるほど、これは何とも……面白い事になりましたわね」
そう言って彼女は笑う。
オレを見つめて楽しそうに、嗤う。
(やめろ、やめてくれ……)
どうしてこうなった?
あの女は一体何者なんだ?
何より、どうして知っている?
それは知らなければありえない反応だ。
知っている。知っているんだ。奴は知っている。そして、それが明らかになってしまう。
今、このタイミングで、涼樹に知られてしまう。
涼樹の過去を悟ってしまったが故にわかる。それは、絶対にあってはいけない事。
彼が叫んだ名前。
——塔怪瑠海がオレの本名だという事を。
☆ ★ ☆ ★
「——っ!?」
ただ後方から声を掛けられただけ。変な事なんて何もない。それが知らない女性の声だったとしても、この場には二人いるんだ。妙な事はない。
それは本能だった。
本能的にオレは立ち上がり、振り返りながら距離を取っていた。そしていつでも攻撃出来るように右腕の位置を少しだけ調節する。
「タルト!?」
突然の行動に慌てる涼樹の声が聞こえるけれど、意識に入って来ない。オレは全感覚を目の前に立っているドレス姿の女性へと向けていた。
「……あら、タルトと呼んだのかしら? 妙だわ」
首を傾げて疑問符を浮かべている女性。その言葉に全身が震えた。
タルトという呼称に対する違和感。その理由は一つしかない。
(なんだこいつっ、なんでオレの事を知っている!?)
今の反応はオレの名前がタルトだというのはおかしいと知っている者の発言だ。それはつまりオレになる前のオレを知っているという事だ。
女性の正体、その容姿へと意識を向けた時、再び心が震えた。
「赤い……髪……」
長身で豊かな身体。足は長くドレス姿という事も相俟って、まるでどこかの国の女王様のような風格すらあった。
自身に自信がなければ、着こなす事なんて絶対に出来ない派手なドレス。そんな衣装と同じ色をした長い髪へと、オレの視線は縫い付けられていた。
真紅の髪。長い髪をハーフアップにしている女性は、動揺を隠せていないオレに向かって微笑み掛けた。
「お初にお目にかかりますわ。私《わたくし》の名前は塔怪《とうかい》——」
「死ね」
「「——っ!?」」
スカートを掴み、やや持ち上げて礼儀正しい挨拶を赤髪の女性が始めた直後、いや、彼女が己の名を語り出した瞬間にそれは起きた。
いつの間にか女性の足元へと移動していた涼樹がロングコートを纏い、ロングソードを振るっていたんだ。
あまりにも唐突な攻撃に女性は反応するものの、左腕を深々と斬り裂かれていた。
「ちっ」
舌打ちの直後に追撃を放つ涼樹。その刃にはあまりにも明確に、強過ぎる殺意が込められていた。
「【血英《けつえい》ノ刃《やいば》】」
「「——っ!?」」
女性が術名を唱えた瞬間、左腕に負った傷から溢れるように流れる血液が、まるで意志を持ったかのように蠢き、液体ならばありえない事に涼樹の斬撃を受け止めていた。
「悪い子にはお仕置きが必要ですわね」
刃を受け止めた血から分裂した血液が鋭い刃を形取ると、四方から涼樹へと襲い掛かる。
「涼樹っ!」
あの状態からの防御は本来ならばありえない。動揺した瞬間を狙ったカウンターだ。しかも同時に四発の斬撃。防ぐ事はおろか回避する事だって不可能だ。
夥しい量の血が噴き出す。そんな光景を幻視しオレは叫んだ。
「やっぱりそうだ」
その未来は幻でしかなかった。
地面を擦る音が聞こえたかと思えば、いつの間にかオレのすぐ側に涼樹の姿があった。
(なんだ、今のスピード。オレの知ってる涼樹のそれじゃない)
今までは手加減していたのか? いや、授業で戦っていた時にはそんな風にはとても見えなかった。偽装? 何のために?
それよりも、どうしてこんな事になっているんだ? どうしてこんなにも、涼樹は怒りを露わにしているんだ?
「血を操る魔術《・・》。そしてその赤い髪。ずっと、ずっと探したぞ」
涼樹の言葉に、その声に込められた強い怒気に身体が、そして何よりも心が震えた。
「俺の名は高根涼樹。高根という姓に聞き覚えはあるか?」
「さあ? 気にした事もない家名ですわね」
「だろうな! 長年人を殺し続けた闇の血族だもんなっ!」
……え?
「俺はお前を探していた。その穢れた血をこの世から絶やすために、ずっと、ずっと、ずっとだっ!」
「あら、そうなのね。ですが残念ですわね。それは叶いませんわよ」
「いや、叶う。俺はお前を殺す。そのために手に入れた力だ! 覚悟しろ——」
「——塔怪、瑠海《るみ》っ!」
……な、んで?
「うふふ、うふふふふ。なるほど、これは何とも……面白い事になりましたわね」
そう言って彼女は笑う。
オレを見つめて楽しそうに、嗤う。
(やめろ、やめてくれ……)
どうしてこうなった?
あの女は一体何者なんだ?
何より、どうして知っている?
それは知らなければありえない反応だ。
知っている。知っているんだ。奴は知っている。そして、それが明らかになってしまう。
今、このタイミングで、涼樹に知られてしまう。
涼樹の過去を悟ってしまったが故にわかる。それは、絶対にあってはいけない事。
彼が叫んだ名前。
——塔怪瑠海がオレの本名だという事を。
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