18 / 56
第一章
第十八話 美少女たちは二度変身する
しおりを挟む
「お騒がせしてしまい、誠に申し訳ございませんでしたーっ!」
リビングで綺麗な土下座を披露しているのは、欲のせいで限界突破し幸せ気絶してしまった小泉だ。
「もうっ、本当に心配したんだよー?」
「長風呂は危ない。アタシ覚えたです」
「まあ、何があったのかは聞かないけど……とりあえず小泉は反省した方が良いと思う。風呂場で気絶するなんて本当に危ないぞ」
今回は大丈夫だったけど、場合によっては倒れた時に頭をぶつけて大怪我に繋がってしまう、だなんて事も十分ありえるからね。
「そ、そうだよね! 今回はあたしが受け止めれたから良かったけど……ねえ水花ちゃん。これからもお風呂は三人で入る事にしない? もしも一人でって思ったらいずみんの事心配だし」
「うんっ、良いと思う!」
「……」
目の前で気絶されたわけだし、二人とも小泉の事が心配になるのは当然なのかもしれないけど、良く見てごらん。あいつ、とても気まずそうな顔してるぞ。
二人の純粋な優しさに、邪念まみれの己が随分と卑しく感じたんだろうね。
ふと小泉と目が合った。明らかに狼狽している彼女に、俺は何も言わずにただ微笑んだ。
「——ししし、志季さん? わわ、わたしはその、えーと、あのー」
うわー、取り繕うの下手過ぎるでしょ。思わず水花たちも目を向けていた。
まあ、小泉からすれば地獄だよね。余計な事を言って場が拗れる前に助けてあげようかな。
「小泉に怪我がなくて良かった。これからお風呂時間は程々にね?」
「——っ、ありがとうございます」
あの様子なら微妙なニュアンスの違いに気が付いてくれたみたいだね。
お風呂に入り過ぎないようにという意味合いではなく、お風呂に入っている時間の中でって意味だ。
本人を除いてただ一人、俺だけが小泉の真実を知っているわけだし、二人がこの違いに気がつく事はないだろう。
お礼だって心配してくれてって意味に変換されているはずだ。
本当は黙ってくれていて、そして何より自分にとって都合の良い話の流れを止めないでくれて、ありがとうって意味なんだ。
ちなみに俺が小泉に優しくしている理由には一つだけ裏がある。
これは俺からのささやかなお礼なんだ。良いものを見せてくれてありがとうという。
どういう事かというと、彼女たち三人はお風呂上りだ。となれば当然着替えている。水花は元々私服だけど、部屋着へと着替えた三人娘の格好は、特に小泉の姿は凄かった。
黄金に光り輝く髪は解かれていて、それだけでも普段との違いに少しだけドキッと男心がくすぐられてしまうのだが、彼女が着ているのは黒のキャミソールワンピースだ。肩の部分がほぼ紐でしかなく、上半身の上部が広く露出しているワンピースだった。
さっきまでタンクトップを着ていた水花よりも露出面積は広い、となれば当然の如く胸元の防御力はゼロだ。
ただ立っているだけでも深い谷が主張しているというのに、さっきまで小泉はどんな姿勢をしていたのか。……そう、土下座だ。となれば当然……凄かった。
次に常の部屋着だけど、グレーのショートパンツと丈が短くておへそが出ている白いキャミソールの上から、うっすらと透けている丈が太ももまである茶色の上着を着ていた。
学校で会う時は当然いつも制服姿だから常の部屋着は新鮮だね。
明るい今の彼女の雰囲気に良く似合っていた。
最後に水花の部屋着なんだけど……これはわざとだよね。
白のスカートに桃色のワイシャツ。色の組み合わせは違うけど、制服コーデだよね。
「水花さん。もしも欲しいというなら正式な制服も用意出来ますよ? 魔装科の中には自身の魔装人形に制服を着せる生徒もいますし、申請も代わりに済ませておきますが」
「欲しいっ!」
「わかりました。サイズなどは……問題ないですね」
「えっ、それってどういう——」
「良かったな水花。小泉もありがと」
水花がキョトンとした声を出した瞬間にすかさずフォロー。本当に勘弁してくれ小泉。……よく半年間も俺無しでバレなかったな。それとも今は水花もいるから制御が出来ていないだけなのか?
「それじゃあ次は俺の番だね」
「——っ!」
小泉サンドイッチ事件の後始末も終わり、なんだかんだ朝から三回も戦った事でそれなりにかいている汗を流すため、お風呂場に向かおうとすると、何やら小泉が身体を反応させて近寄って来た。
——くっ、近いな!
お風呂上り美少女の急接近。俺なんかじゃ表現出来ないような香りが、まるで俺を包み込んでいるかのようだった。
しかも服装が服装だから、こう……大変だ。
「な、何?」
「信じていますからね?」
「……何を?」
「残り湯を悪——」
「バカがよー」
これは怒るというより呆れた。ただただ呆れた。そもそもどういう事だよ。残り湯をどうするって?
……美少女三人が浸かっていたお湯をどうするっていうんだよ。怖いよ。俺は小泉の発想が怖いよ。
……怖い。
☆ ★ ☆ ★
まずは結論から、湯船には浸かりませんでした。その代わりにシャワーを沢山浴びたよ。
水道代? 小泉が悪いので俺は知りません。あいつの言葉がなければ何も気にする事なんてなかったのに……あれ? もしかして今後はシャワーのみの生活になるとかある?
よし、小泉にはささやかな仕返しをしておこうと思います。
「ねえねえ、明日の放課後は春護君の剣を買いに行こうよ。いつもあたしが利用してるお店があるんだけど一緒に行かない?」
「そうだね。擬態のためにも持っておかないとだし」
「うんっ! それじゃあ決まりだね!」
個人的には剣を使う気はもうないんだけど、擬態は重要だもんね。仕方がない。それにちょっと閃いた事もあるし、どうせなら試してみようかな。
「ねえ常。そこって安価な量産剣もある?」
「あったと思うけどどうして?」
「試したい事があるんだ」
「ほほーう? 企んでおりますねぇ」
楽しそうに悪い笑みを浮かべた常は、閃いたとばかりに口を開いた。
「ねえねえ! どうせなら水花ちゃんも剣買ってみない!?」
「えっ、アタシがですか?」
「そうそうっ、どうかな?」
「どうと言われても……剣なんて握った事すらないですよ?」
「そりゃ最初は誰だってそうだよ! 剣を振う魔装人形だなんて新しくて良くないかなっ!?」
水花に剣を持たせるか。なるほど。
今まで剣を持つのは魔装騎士であって、魔装人形は自身の身体に組み込まれた術式で戦う後方支援だった。
常の提案は今までの常識を正面から覆すアイデアだ。
「それ、ありだね」
「春護っ!?」
水花は目を丸くしているけど、常の提案はきっと彼女が思っているより何倍も有効だと思うんだ。
水花なら案外俺なんかを超える剣士としての才能があるかもしれないしね。
それに、彼女の戦い方からしても相性は良いと思うんだ。
「俺と戦った時を思い出してよ。初めて[花]を起動した時、もしもあの時[花]を使うんじゃなくて、手にした剣を振るっていたらどうなると思う?」
「——っ!」
「気付いた? 確実に俺の反応は遅れたと思うよ」
あの時の反応が間に合ったのは、背後から水花の最略詠唱が聞こえたからだ。
だから背中に攻撃を受ける事になると判断し、俺は[花]による防御を実行出来たんだ。
「どれくらいの有効打を受けるかはわからないけど、無傷はありえなかっただろうね」
「なるほど、それは……良いですね」
「常。本当にナイスアイデア。ありがとね」
「えへへ、褒められちゃった」
それにしても全く思い付かなかった。水花は魔装で戦うっていう先入観が強過ぎたね。
常だって同じ魔装科なのに、発想が柔軟で羨ましいな。
「ねえねえ、いずみんは明日どうする? 剣選びがメインになっちゃうんだけど」
「わたしは遠慮しておきます。生徒会の仕事もありますので」
「あっ、そっか。お仕事頑張ってね!」
「常ちゃまの応援があればわたしは無敵です!」
キメ顔をする小泉に手をパチパチと楽しそうに叩いている常。
冗談とか、そういうノリだと思っているだろうけど、ガチだぞ。存在しない尻尾がパタパタと揺れている姿が見えた気がした。
☆ ★ ☆ ★
それで、えーと……これは一体どういう状況なんだ?
「春護春護。ドキドキですっ」
「えへへ、楽しいなー」
「……今日だけですからね」
俺の部屋に三人娘の姿があった。
どうしてこうなったのか少しだけ振り返ってみよう。そう、俺はそろそろ寝ようと思ってまだ起きているらしい三人に声を掛けてから自室へと向かったんだ。
今日は三戦もしたから身体は十分過ぎるほどに疲れていた。ベッドで横になるとすぐにウトウトとし始めて強めの睡魔に襲われた。
逆らう理由もないし、誘われるがまま暗闇に落ちようとしたその時だった。
「あっ、やっぱり鍵締めてないよっ」
「勝ちです!」
「……はぁー、仕方がありませんね」
そんな会話と共に扉が開き、三つの気配が侵入した。
思わず睡魔を振り払って起き上がると、そこにモコモコとした三つの気配。
「ぴょんぴょん!」
「にゃぁ」
「わ、わんっ」
「なっななっ! なんだよその格好!」
気配の正体はモコモコとした動物パーカーを着ている三人娘の姿だった。
「春護君、これは寝巻きだよー。ぴょんぴょーんっ」
三人ともフード付きのパーカーを着ているけれど、それぞれ違う動物がモチーフになっていた。その中で常が担当しているのは兎だった。
語尾は兎だから跳ねてるイメージなのかな。
フードには片方が曲がっている兎耳があって、お尻の部分にはポンポンみたいな尻尾もある。全体的にモコモコフワフワとしていてとても暖かそうだった。
「春護春護、にゃぁー」
水花の担当はなんともわかりやすい語尾をしている猫だ。
無表情なのは変わらないけれど、猫の手をしてポーズまで決めているところからしても、ノリノリなのは明白だね。
「うぅ……」
顔を真っ赤にして蹲っている小泉。そんな彼女の担当は犬だ。
……うん、なんか色々と限界みたいだ。さっきのワンッで色々と使い切った感があった。
多分この一連は常の提案だろうし……忠犬か。
「えーと、どうしたの?」
「これから四人で暮らす記念だよ! 四人で一緒に寝ようよ!」
「……小泉」
満面の笑みでなんだか凄い事を言っている常。これは流石に俺じゃ無理だよ。そう思って小泉に振ったんだけど……。
「……すみません。わたしは惨敗兵なのです」
「水花、説明よろしく」
ダメっぽいから即座に救援者を変更。俺は信じてるぞ。お前なら救ってくれるって。
「お泊まり楽しみ!」
……はい。終わりですっと。
「えーと、騒ぐなとは言わない。だけど俺はもう眠い。あとは勝手にしてくれ」
それだけ言い残すと俺は三人に背中を向けて横になった。
そして何があったとしてもそのまま眠る気でいたんだけど……うるさい。
「おいっ、お前らいい加減にしろ!」
「やっぱり寝たフリだったね!」
「春護っお楽しみだよ!」
「……諦めた方が良いですよ」
こいつら……。
そして冒頭に戻る。
この経験で得た教訓は一つ。男だとしても鍵を掛けるのは重要だって事だ。
☆ ★ ☆ ★
リビングで綺麗な土下座を披露しているのは、欲のせいで限界突破し幸せ気絶してしまった小泉だ。
「もうっ、本当に心配したんだよー?」
「長風呂は危ない。アタシ覚えたです」
「まあ、何があったのかは聞かないけど……とりあえず小泉は反省した方が良いと思う。風呂場で気絶するなんて本当に危ないぞ」
今回は大丈夫だったけど、場合によっては倒れた時に頭をぶつけて大怪我に繋がってしまう、だなんて事も十分ありえるからね。
「そ、そうだよね! 今回はあたしが受け止めれたから良かったけど……ねえ水花ちゃん。これからもお風呂は三人で入る事にしない? もしも一人でって思ったらいずみんの事心配だし」
「うんっ、良いと思う!」
「……」
目の前で気絶されたわけだし、二人とも小泉の事が心配になるのは当然なのかもしれないけど、良く見てごらん。あいつ、とても気まずそうな顔してるぞ。
二人の純粋な優しさに、邪念まみれの己が随分と卑しく感じたんだろうね。
ふと小泉と目が合った。明らかに狼狽している彼女に、俺は何も言わずにただ微笑んだ。
「——ししし、志季さん? わわ、わたしはその、えーと、あのー」
うわー、取り繕うの下手過ぎるでしょ。思わず水花たちも目を向けていた。
まあ、小泉からすれば地獄だよね。余計な事を言って場が拗れる前に助けてあげようかな。
「小泉に怪我がなくて良かった。これからお風呂時間は程々にね?」
「——っ、ありがとうございます」
あの様子なら微妙なニュアンスの違いに気が付いてくれたみたいだね。
お風呂に入り過ぎないようにという意味合いではなく、お風呂に入っている時間の中でって意味だ。
本人を除いてただ一人、俺だけが小泉の真実を知っているわけだし、二人がこの違いに気がつく事はないだろう。
お礼だって心配してくれてって意味に変換されているはずだ。
本当は黙ってくれていて、そして何より自分にとって都合の良い話の流れを止めないでくれて、ありがとうって意味なんだ。
ちなみに俺が小泉に優しくしている理由には一つだけ裏がある。
これは俺からのささやかなお礼なんだ。良いものを見せてくれてありがとうという。
どういう事かというと、彼女たち三人はお風呂上りだ。となれば当然着替えている。水花は元々私服だけど、部屋着へと着替えた三人娘の格好は、特に小泉の姿は凄かった。
黄金に光り輝く髪は解かれていて、それだけでも普段との違いに少しだけドキッと男心がくすぐられてしまうのだが、彼女が着ているのは黒のキャミソールワンピースだ。肩の部分がほぼ紐でしかなく、上半身の上部が広く露出しているワンピースだった。
さっきまでタンクトップを着ていた水花よりも露出面積は広い、となれば当然の如く胸元の防御力はゼロだ。
ただ立っているだけでも深い谷が主張しているというのに、さっきまで小泉はどんな姿勢をしていたのか。……そう、土下座だ。となれば当然……凄かった。
次に常の部屋着だけど、グレーのショートパンツと丈が短くておへそが出ている白いキャミソールの上から、うっすらと透けている丈が太ももまである茶色の上着を着ていた。
学校で会う時は当然いつも制服姿だから常の部屋着は新鮮だね。
明るい今の彼女の雰囲気に良く似合っていた。
最後に水花の部屋着なんだけど……これはわざとだよね。
白のスカートに桃色のワイシャツ。色の組み合わせは違うけど、制服コーデだよね。
「水花さん。もしも欲しいというなら正式な制服も用意出来ますよ? 魔装科の中には自身の魔装人形に制服を着せる生徒もいますし、申請も代わりに済ませておきますが」
「欲しいっ!」
「わかりました。サイズなどは……問題ないですね」
「えっ、それってどういう——」
「良かったな水花。小泉もありがと」
水花がキョトンとした声を出した瞬間にすかさずフォロー。本当に勘弁してくれ小泉。……よく半年間も俺無しでバレなかったな。それとも今は水花もいるから制御が出来ていないだけなのか?
「それじゃあ次は俺の番だね」
「——っ!」
小泉サンドイッチ事件の後始末も終わり、なんだかんだ朝から三回も戦った事でそれなりにかいている汗を流すため、お風呂場に向かおうとすると、何やら小泉が身体を反応させて近寄って来た。
——くっ、近いな!
お風呂上り美少女の急接近。俺なんかじゃ表現出来ないような香りが、まるで俺を包み込んでいるかのようだった。
しかも服装が服装だから、こう……大変だ。
「な、何?」
「信じていますからね?」
「……何を?」
「残り湯を悪——」
「バカがよー」
これは怒るというより呆れた。ただただ呆れた。そもそもどういう事だよ。残り湯をどうするって?
……美少女三人が浸かっていたお湯をどうするっていうんだよ。怖いよ。俺は小泉の発想が怖いよ。
……怖い。
☆ ★ ☆ ★
まずは結論から、湯船には浸かりませんでした。その代わりにシャワーを沢山浴びたよ。
水道代? 小泉が悪いので俺は知りません。あいつの言葉がなければ何も気にする事なんてなかったのに……あれ? もしかして今後はシャワーのみの生活になるとかある?
よし、小泉にはささやかな仕返しをしておこうと思います。
「ねえねえ、明日の放課後は春護君の剣を買いに行こうよ。いつもあたしが利用してるお店があるんだけど一緒に行かない?」
「そうだね。擬態のためにも持っておかないとだし」
「うんっ! それじゃあ決まりだね!」
個人的には剣を使う気はもうないんだけど、擬態は重要だもんね。仕方がない。それにちょっと閃いた事もあるし、どうせなら試してみようかな。
「ねえ常。そこって安価な量産剣もある?」
「あったと思うけどどうして?」
「試したい事があるんだ」
「ほほーう? 企んでおりますねぇ」
楽しそうに悪い笑みを浮かべた常は、閃いたとばかりに口を開いた。
「ねえねえ! どうせなら水花ちゃんも剣買ってみない!?」
「えっ、アタシがですか?」
「そうそうっ、どうかな?」
「どうと言われても……剣なんて握った事すらないですよ?」
「そりゃ最初は誰だってそうだよ! 剣を振う魔装人形だなんて新しくて良くないかなっ!?」
水花に剣を持たせるか。なるほど。
今まで剣を持つのは魔装騎士であって、魔装人形は自身の身体に組み込まれた術式で戦う後方支援だった。
常の提案は今までの常識を正面から覆すアイデアだ。
「それ、ありだね」
「春護っ!?」
水花は目を丸くしているけど、常の提案はきっと彼女が思っているより何倍も有効だと思うんだ。
水花なら案外俺なんかを超える剣士としての才能があるかもしれないしね。
それに、彼女の戦い方からしても相性は良いと思うんだ。
「俺と戦った時を思い出してよ。初めて[花]を起動した時、もしもあの時[花]を使うんじゃなくて、手にした剣を振るっていたらどうなると思う?」
「——っ!」
「気付いた? 確実に俺の反応は遅れたと思うよ」
あの時の反応が間に合ったのは、背後から水花の最略詠唱が聞こえたからだ。
だから背中に攻撃を受ける事になると判断し、俺は[花]による防御を実行出来たんだ。
「どれくらいの有効打を受けるかはわからないけど、無傷はありえなかっただろうね」
「なるほど、それは……良いですね」
「常。本当にナイスアイデア。ありがとね」
「えへへ、褒められちゃった」
それにしても全く思い付かなかった。水花は魔装で戦うっていう先入観が強過ぎたね。
常だって同じ魔装科なのに、発想が柔軟で羨ましいな。
「ねえねえ、いずみんは明日どうする? 剣選びがメインになっちゃうんだけど」
「わたしは遠慮しておきます。生徒会の仕事もありますので」
「あっ、そっか。お仕事頑張ってね!」
「常ちゃまの応援があればわたしは無敵です!」
キメ顔をする小泉に手をパチパチと楽しそうに叩いている常。
冗談とか、そういうノリだと思っているだろうけど、ガチだぞ。存在しない尻尾がパタパタと揺れている姿が見えた気がした。
☆ ★ ☆ ★
それで、えーと……これは一体どういう状況なんだ?
「春護春護。ドキドキですっ」
「えへへ、楽しいなー」
「……今日だけですからね」
俺の部屋に三人娘の姿があった。
どうしてこうなったのか少しだけ振り返ってみよう。そう、俺はそろそろ寝ようと思ってまだ起きているらしい三人に声を掛けてから自室へと向かったんだ。
今日は三戦もしたから身体は十分過ぎるほどに疲れていた。ベッドで横になるとすぐにウトウトとし始めて強めの睡魔に襲われた。
逆らう理由もないし、誘われるがまま暗闇に落ちようとしたその時だった。
「あっ、やっぱり鍵締めてないよっ」
「勝ちです!」
「……はぁー、仕方がありませんね」
そんな会話と共に扉が開き、三つの気配が侵入した。
思わず睡魔を振り払って起き上がると、そこにモコモコとした三つの気配。
「ぴょんぴょん!」
「にゃぁ」
「わ、わんっ」
「なっななっ! なんだよその格好!」
気配の正体はモコモコとした動物パーカーを着ている三人娘の姿だった。
「春護君、これは寝巻きだよー。ぴょんぴょーんっ」
三人ともフード付きのパーカーを着ているけれど、それぞれ違う動物がモチーフになっていた。その中で常が担当しているのは兎だった。
語尾は兎だから跳ねてるイメージなのかな。
フードには片方が曲がっている兎耳があって、お尻の部分にはポンポンみたいな尻尾もある。全体的にモコモコフワフワとしていてとても暖かそうだった。
「春護春護、にゃぁー」
水花の担当はなんともわかりやすい語尾をしている猫だ。
無表情なのは変わらないけれど、猫の手をしてポーズまで決めているところからしても、ノリノリなのは明白だね。
「うぅ……」
顔を真っ赤にして蹲っている小泉。そんな彼女の担当は犬だ。
……うん、なんか色々と限界みたいだ。さっきのワンッで色々と使い切った感があった。
多分この一連は常の提案だろうし……忠犬か。
「えーと、どうしたの?」
「これから四人で暮らす記念だよ! 四人で一緒に寝ようよ!」
「……小泉」
満面の笑みでなんだか凄い事を言っている常。これは流石に俺じゃ無理だよ。そう思って小泉に振ったんだけど……。
「……すみません。わたしは惨敗兵なのです」
「水花、説明よろしく」
ダメっぽいから即座に救援者を変更。俺は信じてるぞ。お前なら救ってくれるって。
「お泊まり楽しみ!」
……はい。終わりですっと。
「えーと、騒ぐなとは言わない。だけど俺はもう眠い。あとは勝手にしてくれ」
それだけ言い残すと俺は三人に背中を向けて横になった。
そして何があったとしてもそのまま眠る気でいたんだけど……うるさい。
「おいっ、お前らいい加減にしろ!」
「やっぱり寝たフリだったね!」
「春護っお楽しみだよ!」
「……諦めた方が良いですよ」
こいつら……。
そして冒頭に戻る。
この経験で得た教訓は一つ。男だとしても鍵を掛けるのは重要だって事だ。
☆ ★ ☆ ★
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる