フィフティドールは笑いたい 〜謎の組織から支援を受けてるけど怪し過ぎるんですけど!?〜

狐隠リオ

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第一章

第二十七話 試験

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 前々から約束していた、というより水花の機転によって実現した小泉との模擬戦。
 正直……もうあいつとは戦いたくない。

「魔力がほぼ空だな」
「春護が悪いよ。遠慮なく魔法連発するんだもん。ついて行くの大変だった」
「いや、じゃなきゃ無理だったじゃん。色々と」
「それは……うん、そうだね」

 俺たち四人の家に帰って来たわけだけど、常と小泉は用事があるらしくて今はいない。
 ……理由に関してはあまり深追いしたくないかな。この半年で常は……。

「お腹空いた。ご飯ー」
「何食べたい?」
「んー、野菜たっぷりでウインナーも入ったコンソメスープ!」
「……それで良いのか?」
「うん!」
「わかった。具材は運良くあるし、それにメインは……あっ、卵があるしオムライスなんてどう?」
「やった! 春護好き!」

 オーダーされたメニューの具材がある事は把握している。
 野菜は端材が色々とあるし、それを使えば問題ない。ウインナーは朝食で便利だからね、大体いつも冷房庫にある。

 卵だって常に居て欲しい食材の代表だ。何もなければホッカホカのご飯に生卵を乗せ、醤油をたらー、うん、美味い。
 卵は我々人類の救い。きっと誰もがその事を無意識のうちに刻まれている事であろう。

 オムライスを作るのに必要な最低限の食材はある。
 さあ、料理スタートだ。

 コンソメスープに関しては特に語る事はないかな。ただオムライスに関しては聞いて欲しい。
 鶏肉を一口大に切り分け……たいところだけど無いよ!

 確かにオムライスを作るにおいて鶏肉の存在は重要だと俺も思う。しかし、スープにウインナーという肉が入っている事だし、無くても良いと思うんだ。
 その代わりに肉がなくても満足出来る一品にしたやろうじゃないか。

 まずは一人につき卵を二つ、今回は俺と水花だけだから四つを割り、白身と黄身が一つになるように掻き混ぜる。
 ある程度混ざったら牛乳を入れ、細かく刻んだバターを入れて混ぜる。これでもかってくらいに混ぜる。
 摩擦熱でバターが溶けて一体化したと錯覚したくらいで終わりだ。

 卵の方は一旦そのままにしておき、細かく刻んだ玉ねぎをフライパンに加え、おろしニンニクを少しだけ加えて炒める。
 玉ねぎが薄ら茶色になったところでご飯を加え、ほぐすように混ぜつつ軽く加熱した後、ケチャップビーム!
 全体が赤く染まってある程度酸味が飛べばごはん部分は完成だ。

 本格的にやるなら出汁を加えるんだけど、今回は用意してないから無しだ。これだけで十分美味しいからね。

 常温に戻った卵液を綺麗にしたフライパンに投入。フライパンを上下にコトコトさせながら菜箸をグルグルと回し、頃合いを待つ。
 やり方は色々とあるけど、全体の液が固まり始めたくらいで俺は火を消す。

 菜箸で卵盤をフライパンから外し端っこを内側に返した後、トントンとフライパンを叩いてオムレツを作る。
 フライパンの予熱で接着したら予めお皿に盛っていたケチャップライスの上に中身トロトロのオムレツを乗せ、薄皮をナイフで切り裂いた。

「おおっ!」

 上部を斬られたオムレツは観念したかのように広がり、ケチャップライスを覆った。
 いつの間にか隣にいた水花が手を叩きながら感嘆しているけど……うん、普通に嬉しい。

「はい、水花のオムライス完成」
「わーいっ、やたーっ!」
「俺のはオムレツ作るだけですぐだから、先に食べてて」

 ケチャップライスをオムライスに進化させるオムレツを作るのは一瞬だ。火加減とか気を付ける部分は多いけれど、慣れれば簡単だ。
 だから腹ペコな水花には先に食べ始めてもらっても良かったんだけど……あれ、怒ってます?

「春護」
「えーと、どしたの?」
「アタシ、そんな子供じゃないよ、むぅー」
「……えっ?」
「少しくらい待てるもん。一緒に食べようよ、その……家族、なんでしょ?」
「水花……」

 この一ヶ月間、俺は水花の事を本物の家族だと思って接して来た。その事は水花自身も受け入れてくれていたけど、こう言葉にされると……良いね。

「そうだね。ちょっとだけ待ってて、すぐだから」
「うんっ!」

 二度目の流れ広がるオムレツに再び歓声をあげる水花。本当に感情的になったよね、いや最初からだったかな。もうわかんないや。
 ただし表情筋殿は未だに働いてくれていない。ロロコは何も問題ないと言ってたけど、ちょっと心配なんだよね。
 早く水花の笑顔が見たいな。

   ☆ ★ ☆ ★

 早朝から俺と水花は制服姿で山登りをしていた。理由はロロコたちに会うためだ。
 別邸を通り過ぎる時にちょっとした騒ぎになったけれど、特にこれといって問題なく本邸へと到着した。

「おはようロロコ。報告しに来たよ」

 小泉という強者と戦い、勝利したという報告をするためにここまで来たんだ。今後魔族と、一先ずは黒曜を倒した存在と戦う許可をもらうために。

「小泉雫、生徒会副会長の巨乳美人と戦ったのじゃろう? 既にクリスから聞いておるぞ」
「えっ、そうなの?」

 見慣れた畳張りの部屋。ロロコの私室で俺たち三人は座っていた。勿論上座にロロコ、下座に俺と水花って形だね。
 それにしてもクリスさんから聞いたってどういう事? あの場に彼女の姿はなかったと思うんだけど。

 そんな俺の疑問などお見通しらしく、ロロコは答えを教えてくれた。

「こっそりと遠くから見ていたらしい。遠慮せず近くまで行けば良かろうに」
「あー、白夜がいたからかな」

 クリスさんは大の男嫌いだって公言してるからね。なんせ初対面事にいきなり出禁宣告されるくらいの拒絶だ。
 ロリコンである白夜にとってクリスさんはそういう対象外だと思うけど、そんな女性側からすればそんな事関係ないもんね。
 嫌なものは嫌なんだろう。

「ロロコ様、アタシたちは合格? 戦っても良い?」
「そうじゃな……小泉雫の事は少々調べさせた。地古白夜のような実績はないものの、その実力は同格、並の魔操騎士を超える実力者じゃな。そんな彼女と本気の戦闘を行い、勝利した」
「まあ、俺としては完全に勝ったとは思えないけどね」

 小泉の魔法を突破したのは本当の事だ。だけどそこで戦いは終わってしまった。本当ならまだ先の戦いがあったと思うんだ。一つの魔法を攻略されたくらいで終わる小泉じゃない。それでも自ら降参し、負けを受け入れたのは彼女なりの表明だったのかな。

 俺たち二人の力を認めるっていう。

「認められた。そういう事じゃろうな」
「……そっか」

 ロロコも同じ意見らしい。俺たちの事を認めてくれたから小泉は負けを宣言したんだって。

「オヌシらを認めたのは小泉雫だけではない。クリスもまた、オヌシらならば魔族とも戦えるだろうと言っておったぞ」
「クリスさんが?」

 揶揄うようにニヤリとした笑みを浮かべたロロコの言葉に、俺は目を見開いた。
 クリスさんは元々ロロコの関係者。黒曜の事も知っているようだった。それなら彼女の実力だって知っているはずだ。
 そんな黒曜を倒した存在との交戦を認めるって事は、それだけ俺たちを評価してくれているって事だ。

「じゃがクリスは既にワシの元から卒業した身じゃ、いくらアヤツが認めたところでこのワシを認めさせなければ交戦は許さん」
「……今、ここで披露しろって事か?」

 本来ならこの屋敷を訪れた客人は武器の所持が認められていない。
 必ず通る事になる別邸に預けなければならないいうルールがあるんだけど、俺たちは例外として見逃されていた。

 だから俺の腰にはクリスさんに作って貰った完成系のロングソードがあった。

——ロロコの性格からしていきなり襲ってくる可能性は高い。

 意識を戦闘時へと切り替え、集中力を高める。体内を巡る魔力を制御しいつでも[内蔵魔装群・花鳥風月]を起動出来るように準備しつつ、抜剣出来るように重心を少しだけ調節した。

 次の瞬間、俺は死んだ。

「ほう、見えてはいたようじゃな」
「……化物め」

 シンプルな罵倒。だけどすぐ目の前にいるロロコは怒る事なく、楽しそうに笑っていた。

 座った状態から瞬きをする暇がないほどに一瞬で彼女はすぐ目の前にいた。そして同時に指先を俺の喉へと添えていた。彼女がその気ならきっとその指は喉を突き破っていたと思う。
 距離は二メートル以上は確実にあった。身体能力じゃ説明出来ない。となれば手段は一つしかない。

「今のって、魔法?」
「そうじゃ」

 答えながら指を喉元から引き、自分の席へと戻って行くロロコ。
 俺は無意識の内に自身の喉元を撫でて確かめていた。

 常識的に考えるなら指が人体を貫通するだなんて事はない。喉という柔らかい場所だとしても、貫通する事はなくただ潰れるだけだと思う。
 それでもあの瞬間、俺は貫かれるイメージをした。

 俺は強くなった。小泉と対等に戦い、クリスさんにも認められた。だけど、その力でさえロロコには届かない、遠く及ばないとわからされた。

「ちなみに問題じゃ。今のは魔装《ドール》と魔操《メイジ》どっちだったと思う?」
「それは……」

 見せ付けるように両手を開いてこちらに向けているロロコ。その手は空で何も持っていない。指輪もなく、腕輪もない。
 これは……なんだ?
 魔操術なら小泉のように杖を、正確には宝玉が埋め込まれた媒体を使用しているはずだ。
 魔装術ならそれもそれで魔装具を使う。そのどちらもない?

「どういう事?」
「なんじゃ、オヌシらならわかると思ったんじゃがな」
「……」

 つまり、これはテストって事か。ロロコに認められるための試練。
 考えろ、考えるんだ。どうやってロロコは魔法を発動した? 何処に術式があったんだ?

 必死に考えを巡らせている時だった。

「……春護?」
「えっ、いきなりどうしたんだ?」

 突然俺の名前を呼ぶ水花。それにどうして疑問系?

「あっ、違う。呼んだんじゃなくて、春護と同じなんじゃないかなって」
「俺と同じ? ……あっ」

 水花の言葉に笑みを深めるロロコ。正解って事なんだろう。
 魔装具も宝玉も使わずに、正確にはそれらを一切持たずに魔法を発動させる。それはずっと俺もしている事だった。
 この身体に埋め込まれた[花鳥風月]を使う事によって。

「水花の方が思考が柔軟じゃな」
「やったのブイ」

 無表情のまま胸を張ってピースする水花。ドヤ顔が出来ないからその分をハンドサインで表現したようだ。

 ロロコも俺と同じように魔装具を身体に埋め込んでいる。自身という前例があったからこそ、あの場で俺を助ける事を提案してくれたのかな。
 どうして彼女自身がそんな身体になっているのか。その事は聞かない方が良いよね。気安く聞いて良い事じゃない。そう思うから。

「さて、そろそろ結論を出すとするかの」
「「——っ!?」」

 突然座ったまま腕を組んで目を瞑ると、そんな事を言うロロコ。
 俺と水花は同時に緊張が走った。

 思わず座り直し、正座になった俺たちに向かって水花は大きく口を開いた。

「く、くくく、クカカカカカッ! 二人とも素直で可愛い奴じゃな!」
「ロロコっ!」「ロロコ様っ!」

 涙まで流しながら大笑いしている鬼畜に、俺と水花は思わず立ち上がっていた。

「ククク、すまぬすまぬ。悪戯心はほんの少しだけじゃ、残りは悪意じゃな」
「余計にタチ悪いじゃん!」
「ロロコ様! 流石にそれはアタシも怒っちゃうよ!」
「水花に怒られるなんてご褒美でしあるまい?」

 そんな事を言ってニヤリと笑うロロコ。思わず水花を背中に隠した。

「うちの妹に変な事を教えるのやめてくれないか!?」
「……んー、妹は微妙かも」
「え、水花?」

 背後から聞こえた声に思わず固まった。
 えっ、今妹拒絶しましたか? 家族じゃないの?

「春護。春護は家族。でも、妹は嫌」
「えーと、お姉ちゃんが良いって事?」

 妹が嫌なら姉って事? 流石に母とかはないよね? いやいや、姉って時点で俺からすれば違和感しかないですけど水花ちゃん!?
 どうやらそんな心配は杞憂で済んだらしい。無言のまま首を横に振っていた。

「えーと、それならどういう事?」
「妹は嫌だ。でも春護は家族だよ」
「……つまり?」

 家族だけど妹は嫌で姉になるつもりもない。……どういう事? 水花の考えている事がわからない。

「んー、アタシ自身も良くわからない。ただ、妹って言われたら嫌って思ったの。……なんでかな?」
「えーと、なんでだろ」

 水花自身もわからない? ダメだ。もう意味がわからない。
 俺たちガキの経験値じゃわからない事なんじゃないか? そう思ってロロコに視線を向けると……お腹を抑えて必死に笑うのを我慢している姿があった。

「……ロロコ?」
「クカカカカッ! もう無理じゃ! こんなのワシが我慢出来るわけないのじゃあハハハハハっ!」

 なんかわからないけど、めっちゃ笑ってる。
 その姿に俺たちはただただ困惑するのと同時に、少しだけ怖かった。

「ヒヒヒっ、二人とも恥ずかしいところを見せたの。出来る事なら忘れるのじゃ」
「「えっ無理」」
「ぐふっ、本当に息がぴったりじゃな。その姿はまるでそう……夫婦のようじゃ」
「「……ええっ!?」」

 待て待て待て待て、今なんか凄い事言わなかったか!?
 家族だけど妹でも姉でもない。それならもう一つしかない。つまり水花は俺のよ——

「なんて冗談じゃ。十中八九マーレの影響じゃろう」
「ま、マーレ? アタシの前世の?」
「そうじゃ。魔装人形としてマーレは春護と共におった。水花にもそうであるようにマーレの事も家族のように扱ったのじゃろう。家族じゃが妹でも姉でもない新しい家族の形。既存の言葉で表現される事を嫌がったのじゃろう」
「……そっか。確かにそうかも?」

 自分の胸に手を当てて頷く水花。
 そんな彼女の姿を見ていると、強い視線を感じた。

——ロロコ?

 理由はわからないけれど、真剣な顔をしたロロコが何も言う事なく、ただ黙って俺の事を見詰めていた。

   ☆ ★ ☆ ★
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