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第二章
プロローグ
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大切な二人の家族、姉である冬華と妹の夏実。魔法に触れ、魔装騎士《ドールナイト》になると決めたあの日、俺は二人を護る騎士になると誓ったんだ。
大切な家族を護るため。そのために力を求め、努力を重ねた。
だけど姉さんは俺なんかより何倍も、いや何十倍も強いってわかっている。むしろ守られているのは俺の方だ。なんせ三人で生活出来ているのは姉さんが騎士として働いているからだから。
俺よりも強くて、才能に満ちている姉さん。一番年上だからって理由でいつも俺たちのために頑張ってくれているけど、姉さんだってまだまだ子供なんだ。
少しでも早く強くなって今までの恩を百倍返しして、それからは俺が二人を護るんだ。
そんな日が来ない知ったあの日。俺は一度目の絶望を経験した。
姉さんの失踪。現場に死体は残っていなかったけど、撒き散らされていた夥しい量の血痕は姉さんのものだと判明した。……つまり、姉さんは死んでしまったんだ。
姉を失った俺たちは深い悲しみの谷へと落ちていった。だけどこのままじゃ二人して無意味に死んでしまう。俺たちが死んでしまったら今まで姉さんがくれた多くのものが無意味になってしまう。
ここからは俺の番だ。姉さんに変わって、俺が妹を夏実を守るんだ。
……その誓いすら……すぐに。
唯一残ったのはずっと共に戦って来た相棒、マーレ。残ったのはそんな彼女が転生した最後の家族、水花。
水花こそは、必ず。
護るんだ。
☆ ★ ☆ ★
橋の上で水花と話している時に彼女は現れた。
ミニスカのくノ一装束を着た小柄な少女。黒髪をボブカットにしている彼女は現れるなり苛立った様子で物騒な事を口にしていた。
「俺たちと戦うつもり? たったの一人で?」
「舐められるのは不愉快なのです。何も知らない子供が粋がってんじゃねえのです」
「それはこっちのセリフだよ」
明らかにあっちの方が子供だし、何も知らないのだって向こうだ。俺と水花は二人で魔族の娘と名乗っていた赤髪の少女、イズキを倒している。
——とはいえ水花は精神的に厳しいかもしれないね。
魔族の娘イズキと俺たちは友人だった。お互いの事が好きだったし、本当は戦いたくなかってけれど、お互いの立場がそれを許さなかった。
俺にとって大恩人であり、水花という新型の魔装人形《マギカドール》を作り出した張本人である人物、通称ロロコが言うにはどうやらイズキは魔族ではないらしい。それでも魔族の娘と名乗った彼女と戦うのは人間として当然の事だった。
人間と魔族は敵対関係にある。魔族は人を襲い、人間は魔族を討伐する。
大切な家族、妹である夏実を殺したのは魔族の一人だし、きっと姉さんを殺したのも魔族だ。
しかも、イズキが言うには彼女は妹の仇である魔族=フィドゴレムランの娘らしい。娘だからなんだって気もしたけれど、どちらにせよ戦うのは必然だった。
俺たちは命をかけて戦い。僅かの差でイズキに勝つ事が出来た。そして人間と魔族の戦いに決着が付くという事は、相手を殺すという事だ。
自らの手で友人を殺す。水花はその重みに押し潰されていた。ついさっきまで弱音を吐いていたんだ。まともに戦える精神状況じゃない。
「水花は下がってて。俺が一人でやるから」
「春護っ、でも!」
「大丈夫だって。俺はもう前までの弱い俺とは違う」
水花が弱っているんだ。それなら俺がやるしかない。
イズキとの戦いを経験して俺の実力は少し前と比べたら雲泥の差がある。この子からは不思議と強者のオーラが出ているけど、大丈夫だ。イズキレベルじゃない。それなら一人で十分戦える。
「はぁー、本当にうざってえのです。これだから引きこもりの勘違い共は嫌いなのです。まあ、すぐに理解させてあげるのです」
武器を取り出す事なく、構える事なく、自然な形でゆっくりと歩き出した少女。次の瞬間、彼女の全身から凄まじい量の魔力が溢れ出し——
——そして、少女を見失った。
「胴がガラ空きなのです」
「——っ!?」
いつの間にか間合いの内側に来ていた少女が拳を握って引いた。そして放たれるのは純粋な正拳突きだった。
ただし、その威力は明らかに彼女の細腕で到達出来るようなレベルではなかった。
「春護っ!?」
ただの正拳突きによって力強く吹き飛ばされた俺の身体は欄干の上を飛び越し、河岸へと落とされた。
この高さから落下するのはマズイ。当たりどころが悪ければ十分即死だってありえる。だけど俺に落下死という三文字は適応されない。
「【花鳥風月・風応用形・纏嵐刃】!」
イズキから受け継いだ紅蓮の刃を空中で抜くと、即座に暴風を纏わせた。出力を抑えた風を地面に向けて放出する事で落下の勢いを減らし、無傷で着地した時、それを見た。
一切躊躇う事なく。橋の上から飛び降りる少女の姿を。
「なっ!」
「この程度で驚いてんじゃねえのです。魔法なんてなくても、魔力があればサラサラお茶々なのです」
「魔力で?」
この子は何を言っているんだ? 魔力は魔法を発動するために必要な未知も多いエネルギーだけど、それ単体では何の効力もない。
確かに魔力の圧力を受けて感じる事はあるけど、それは魔力の感覚を知る者だからこそ錯覚しているだけで、実際には何の力もないんだ。
「メイドさんのお土産として教えてやるのですよ。この国の引きこもり騎士共はどいつもこいつも魔法と術式にばかり注目して、奇跡を可能としている根本的な力である魔力を軽視し過ぎなのです。そもそも魔力の事を魔力と呼んでいる地域は大抵どこも全体レベルが低過ぎるのです」
何を言っているんだ?
この子は一体何者なんだ? だけどなんでだろう。この感覚には既視感があった。根本的な常識が、知識量が違う相手。
——こいつ、ロロコの関係者か!?
何処からか現れ、この国のとある一族を乗っ取った少女の姿をした強者。それがロロコだ。あいつも俺たちが知らない事をたくさん知っていたし、未知の技術力によって俺は救われている。水花だってそうだ。きっと彼女を彼女たらしめている技術はロロコの膨大な知識がなければ不可能な事だと思う。
「お前、ロロコの関係者か? もしそうだとすれば、なんで襲ってきたんだ?」
「ロロコなんて名前は知らないのです」
首を傾けて不思議そうに疑問符を浮かべている少女。
そっか。ロロコって俺が勝手につけたあだ名だもんね。仮に関係者だったとしても知るわけないか。本人が認めたというより、諦めて受け入れてる感じだもんね。
「悪い。えーと、そうあいつの名前は——月隠玉零《つきごもりぎょくれい》だ」
大切な家族を護るため。そのために力を求め、努力を重ねた。
だけど姉さんは俺なんかより何倍も、いや何十倍も強いってわかっている。むしろ守られているのは俺の方だ。なんせ三人で生活出来ているのは姉さんが騎士として働いているからだから。
俺よりも強くて、才能に満ちている姉さん。一番年上だからって理由でいつも俺たちのために頑張ってくれているけど、姉さんだってまだまだ子供なんだ。
少しでも早く強くなって今までの恩を百倍返しして、それからは俺が二人を護るんだ。
そんな日が来ない知ったあの日。俺は一度目の絶望を経験した。
姉さんの失踪。現場に死体は残っていなかったけど、撒き散らされていた夥しい量の血痕は姉さんのものだと判明した。……つまり、姉さんは死んでしまったんだ。
姉を失った俺たちは深い悲しみの谷へと落ちていった。だけどこのままじゃ二人して無意味に死んでしまう。俺たちが死んでしまったら今まで姉さんがくれた多くのものが無意味になってしまう。
ここからは俺の番だ。姉さんに変わって、俺が妹を夏実を守るんだ。
……その誓いすら……すぐに。
唯一残ったのはずっと共に戦って来た相棒、マーレ。残ったのはそんな彼女が転生した最後の家族、水花。
水花こそは、必ず。
護るんだ。
☆ ★ ☆ ★
橋の上で水花と話している時に彼女は現れた。
ミニスカのくノ一装束を着た小柄な少女。黒髪をボブカットにしている彼女は現れるなり苛立った様子で物騒な事を口にしていた。
「俺たちと戦うつもり? たったの一人で?」
「舐められるのは不愉快なのです。何も知らない子供が粋がってんじゃねえのです」
「それはこっちのセリフだよ」
明らかにあっちの方が子供だし、何も知らないのだって向こうだ。俺と水花は二人で魔族の娘と名乗っていた赤髪の少女、イズキを倒している。
——とはいえ水花は精神的に厳しいかもしれないね。
魔族の娘イズキと俺たちは友人だった。お互いの事が好きだったし、本当は戦いたくなかってけれど、お互いの立場がそれを許さなかった。
俺にとって大恩人であり、水花という新型の魔装人形《マギカドール》を作り出した張本人である人物、通称ロロコが言うにはどうやらイズキは魔族ではないらしい。それでも魔族の娘と名乗った彼女と戦うのは人間として当然の事だった。
人間と魔族は敵対関係にある。魔族は人を襲い、人間は魔族を討伐する。
大切な家族、妹である夏実を殺したのは魔族の一人だし、きっと姉さんを殺したのも魔族だ。
しかも、イズキが言うには彼女は妹の仇である魔族=フィドゴレムランの娘らしい。娘だからなんだって気もしたけれど、どちらにせよ戦うのは必然だった。
俺たちは命をかけて戦い。僅かの差でイズキに勝つ事が出来た。そして人間と魔族の戦いに決着が付くという事は、相手を殺すという事だ。
自らの手で友人を殺す。水花はその重みに押し潰されていた。ついさっきまで弱音を吐いていたんだ。まともに戦える精神状況じゃない。
「水花は下がってて。俺が一人でやるから」
「春護っ、でも!」
「大丈夫だって。俺はもう前までの弱い俺とは違う」
水花が弱っているんだ。それなら俺がやるしかない。
イズキとの戦いを経験して俺の実力は少し前と比べたら雲泥の差がある。この子からは不思議と強者のオーラが出ているけど、大丈夫だ。イズキレベルじゃない。それなら一人で十分戦える。
「はぁー、本当にうざってえのです。これだから引きこもりの勘違い共は嫌いなのです。まあ、すぐに理解させてあげるのです」
武器を取り出す事なく、構える事なく、自然な形でゆっくりと歩き出した少女。次の瞬間、彼女の全身から凄まじい量の魔力が溢れ出し——
——そして、少女を見失った。
「胴がガラ空きなのです」
「——っ!?」
いつの間にか間合いの内側に来ていた少女が拳を握って引いた。そして放たれるのは純粋な正拳突きだった。
ただし、その威力は明らかに彼女の細腕で到達出来るようなレベルではなかった。
「春護っ!?」
ただの正拳突きによって力強く吹き飛ばされた俺の身体は欄干の上を飛び越し、河岸へと落とされた。
この高さから落下するのはマズイ。当たりどころが悪ければ十分即死だってありえる。だけど俺に落下死という三文字は適応されない。
「【花鳥風月・風応用形・纏嵐刃】!」
イズキから受け継いだ紅蓮の刃を空中で抜くと、即座に暴風を纏わせた。出力を抑えた風を地面に向けて放出する事で落下の勢いを減らし、無傷で着地した時、それを見た。
一切躊躇う事なく。橋の上から飛び降りる少女の姿を。
「なっ!」
「この程度で驚いてんじゃねえのです。魔法なんてなくても、魔力があればサラサラお茶々なのです」
「魔力で?」
この子は何を言っているんだ? 魔力は魔法を発動するために必要な未知も多いエネルギーだけど、それ単体では何の効力もない。
確かに魔力の圧力を受けて感じる事はあるけど、それは魔力の感覚を知る者だからこそ錯覚しているだけで、実際には何の力もないんだ。
「メイドさんのお土産として教えてやるのですよ。この国の引きこもり騎士共はどいつもこいつも魔法と術式にばかり注目して、奇跡を可能としている根本的な力である魔力を軽視し過ぎなのです。そもそも魔力の事を魔力と呼んでいる地域は大抵どこも全体レベルが低過ぎるのです」
何を言っているんだ?
この子は一体何者なんだ? だけどなんでだろう。この感覚には既視感があった。根本的な常識が、知識量が違う相手。
——こいつ、ロロコの関係者か!?
何処からか現れ、この国のとある一族を乗っ取った少女の姿をした強者。それがロロコだ。あいつも俺たちが知らない事をたくさん知っていたし、未知の技術力によって俺は救われている。水花だってそうだ。きっと彼女を彼女たらしめている技術はロロコの膨大な知識がなければ不可能な事だと思う。
「お前、ロロコの関係者か? もしそうだとすれば、なんで襲ってきたんだ?」
「ロロコなんて名前は知らないのです」
首を傾けて不思議そうに疑問符を浮かべている少女。
そっか。ロロコって俺が勝手につけたあだ名だもんね。仮に関係者だったとしても知るわけないか。本人が認めたというより、諦めて受け入れてる感じだもんね。
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