課長の様子がおかしい

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密かな視線

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ピピピピッ!ピピピピッ!
「...あぁ...最悪...」
目覚まし時計が絶望を呼び起こした。金曜日の衝撃的な事件から早3日が経ち、とうとう月曜日の朝となってしまった。

出勤したくねぇ...

心の中でそう嘆きつつ、私は毛布から上半身をのそのそと起き上がらせた。

「会社~!潰れろ~!」
あの瞬間から今まで、会社に隕石が直撃して物理的に潰れることを幾度となく祈った。しかし現実はそう都合よくいかない。私ができることは、フカフカの布団の上で体育座りをしながらその願いを唱えることだけだった。

すべてはアイツのせいだ。

私は彼に苛立ちを覚えながらも、会社に行く準備のために仕方なくベッドから重い腰をあげた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ホント、どーにかしてるぜこの世の中...
「はぁ~...」
世界の厳しさを嘆きつつ、私は出勤中に何度も肺いっぱいの空気をドラゴンのように吐き出した。ただひたすらに、会社の物理的な崩壊を祈って...

そして、とうとう職場に到着した。

あぁ、結局デスクにたどり着いてしまった。そして課長はもう出勤してる。今日からまたあの人と同じ空間で過ごすのか...

そんな憂鬱な気分のまま、私はバッグを机の上に置いて一息ついた。ついでに課長をチラ見すると、彼は目線をパソコン画面にやりながら、無表情でキーボードを素早く叩いていた。

ぐぬぬ。人がこんだけ悩んでんのにスカした顔しやがって。

私は彼を恨めしそうに睨んだ。

しばらくすると、彼の指の動きがピタッと止まった。

「?」
何だ?

私の頭上に?が浮かんだと同時に、その鋭い視線が私の瞳を一瞬にしてつらぬいた。

「!?」
ヤバっ!

私は彼を見ていたことを悟られまいと、咄嗟に目線を自分の机に向けた。

ふぃー、危なかったぜ。

自分の心臓がドキドキしているのがいやでも分かる。

「...」
カタカタカタカタ

数秒後、彼はまた無言、無表情でキーボードを打ちはじめた。

課長、貴方は謎すぎる...

そんな事を思いながら、私はやっと席についた。
「はぁ...」
疲れた。朝からこんなに疲れたのなんて学生のときに二日酔いを経験して以来だ。
「紺野さん、大丈夫ですか?」
疲労困憊した私に話しかけてくれたのは隣の席の可愛い後輩、蠣崎優くんだった。彼は普段は大人しい性格だが、隣の席同士ということもあって私が積極的に話しかけていったら自然と仲良くなったのだ。
「何だか辛そうですけど...」
「あ、そう?全然大丈夫だけど。」
私は自分の精神状態に気づかれないように、平気を装った。
「あの、生意気かもしれないですけどあまり無理はしないでくださいね。」
彼は子犬のような笑顔で私にそう言ってくれた。

優しい!大仏かよ!後光が見える!

「ありがとう。蠣崎君も無理しないでね。」
私はありったけの笑顔で彼の慈悲に対して心から感謝した。
「はい...//」
彼はか細い声でそう答えた。しかし、私は蠣崎君の顔がほんのり赤くなったことにはまったく気づかなかった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「...あ、そーいや。」
課長のサインもらわないといけない書類あるんだった。

私はパソコンに向かいつつ、彼のサインが必要な見積もり書の存在をふいに思い出した。あの出来事を忘れるためにひたすらに無心で仕事をしていたものの、いきなり彼を意識しなければいけない状況になったのだ。

いやー、課長と顔を合わせたくない。しかしこれは仕事だ。私の意志には関係なくやらなければならない。どーする自分。後回しにしたらそのままずるずると引き延ばしになるだけだぞ。

私はしばらく考えた後、今やることに決めた。
「よし。」
私はその言葉を皮切りに自分自身を椅子から立ち上がらせた。

ただ、無心になればいいんだ。課長は空気、課長は空気。意識しちゃ駄目。

そう自分に言い聞かせて、私は何事もないように課長の机に向かった。

「課長、こちらの見積もり書にサインをお願いします。」
私は緊張で自分の声が微かに震えるのを自覚した。
「あぁ。」
彼は案の定、表情一つ変えずにサラサラとペンを走らせた。
「ありがとうございます。」
「...」
課長はいつも通り、私を一切見ずに無言の返事をした。私は普段、彼のこのドライな態度が苦手だったが、今はそれが逆にありがたい。余計な会話が生まれないからだ。

そーいや課長って私をあ、愛してるくせにそれっぽい態度とか全然出さんな。しかも現に私たちの間には何も起こってないし。つまり、このまま私も今までみたいに不干渉貫けばいいってことか!
「ふふっ。」
それに気付いた瞬間、私は自然と笑みをこぼした。そして、嬉嬉として自分の椅子に腰を下ろした。

「何かいいことがあったんですか?」
「え?」
「嬉しそうに見えました。」
「あぁ...ちょっとね。」
さすがに訳を言うわけにもいかなかったので、私は少しぼかして返答した。
「なるほど...そ、そういえばこれ昨日作ったんですけど、よろしければ、どうぞ。」
そう言って彼が自分のバッグから取り出したものは、可愛くラッピングされた数枚のクッキーだった。
「やったー!また作ってきてくれたんだ!」
蠣崎くんはお菓子作りが好きらしく、たまにこうして手作り菓子を分け与えてくれるのだ。疲労マックスだったのもあり、私はいつも以上に彼の厚意が嬉しく感じられ満面の笑みを浮かべた。
「ありがとう。すっごい嬉しい。後で大事に食べるね。」
「はは...//」
彼は、私が予想以上に喜んだことに対して少し照れくさそうにした。

うっしゃー!クッキーゲットだぜ!やったね!

「ふんふんふん~。」
あの出来事を忘れたかのように、私は呑気に鼻歌を歌った。

しかし私は知りもしなかった。このとき、課長のシャープな目が私を突き刺すように見ていたことに...
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