課長の様子がおかしい

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それぞれの変化

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「あぁ~~~!!!」
どーしよー!後悔するぐらいだったらあんなこと言わなきゃよかった!

私はこの日課長に発した言葉を思い出し、ベッドの上で仰向けになりながら両手両脚をバタバタさせながら嘆きまくった。

でもあれを言わなければそれはそれで後悔したかも...あーもーしゃーない!やらない後悔よりやる後悔!それにあんなことして私を責めるようじゃ人として問題がある!そんな上司がいる会社なんかこっちから辞めてやる!

私はそう自分に言い聞かせて、無理やり己を奮い立たせた。

「よし。」

私は、堂々とすればいいんだ。

―――――――――――――――――――

堂々と、堂々と。胸を張って。

翌日の朝、私は心の中でそう唱えながらオフィスのあるビルに入っていった。

「...げぇ。」

なんと、偶然にもエレベーターの前に課長がいたのだ。私は彼と顔を合わせることが嫌すぎて、思わずその足を止めた。

会いたくねぇ...いやしかし、ここで逃げるとあの人に負けた感じがする。

「うし。」
私はその言葉を皮切りに、エレベーターに向かって再度歩き出した。そして、あえて課長と同じエレベーターを待つことにして、彼のすぐ近くに立った。
「...ぁ...」
少し間をおいて私を視界に入れた課長は、聞こえるか聞こえないか、ギリギリの声を出した。

さぁて、私のこと愛してるならどんな風に行動するんでしょうねぇ。

「...あの、紺野...」
「あら課長、おはようございます。」
私はこれでもかと言うほど満面の笑みを浮かべて、前日と比べ物にならないほどの清々しい挨拶をした。
「お、おはよう...あの、昨日は、その、すまなかった...」
「何がですか?」
「...君の意向も確かめずに、勝手に関係を進めようとして...」

あら、分かってるじゃない。

私は彼に対して少しだけ感心した。そして私も大人として、自分の非を謝った。
「こちらこそ言い方をわきまえるべきでした。申し訳ありません。」
「いや、その、君は悪くない。」
彼は形式上か、はたまた本心からか、私を庇うような発言をした。
「しかし驚きでした。課長って誰かと友達になりたいとか思われるんですね。てっきり1人が好きなのかと思いました。」
私がそう言うと、彼は何とも言えない表情を浮かべた。そしてそれは、明らかにいつものような余裕のある無表情ではなかった。

あの課長がこんな顔するんだ...

彼の表情があまりにも新鮮すぎて、私の好奇心がニョキニョキと顔を出した。そして調子に乗ってしまった私は、やめとけばいいものを、余計なことを聞いてしまった。
「何で私と友達になりたいんですか?」
課長は目を少し見開きながら一瞬だけ私を見て、すぐに視線をずらした。
「...そ、それは、」
課長が理由を言いかけたちょうどその時、エレベーターが到着した。

ちっ!いいときだったのに!

私はエレベーターの中に入りつつ、こっそりとそのタイミングを恨んだ。

「その、さっきの続きだが...」
私の予想と反して、課長は自ら答えを言い出そうとしてくれた。
「...友人になりたいから。それだけじゃ駄目か...?」

ドキッ

私は心臓が飛び跳ねるのが分かった。しかし普段の緊張や恐怖からくるものじゃない。原因は、課長が慈悲を乞う捨て犬のような瞳でこちらを見つめてきたからだ。

あれ...何だこれ...

私は彼の瞳から目が離せなかった。そして同時に、自分の胸が段々と締めつけられていくのも実感した。

ごくっ

息を飲んだ私は、やっとの思いで返答した。
「まぁ、いいんじゃないんですか?」
「ぁ...//」
彼は微かに安堵したような顔を浮かべた。
「それじゃあ、私たちはどうやったら関係を深められる...?」
課長はおそるおそる、私の反応を確かめるようにそう聞いた。今度は、いつ怒られるのか分からずビクビクしている犬のような目をしながら。
「そうですね...まぁ、私に配慮さえしてくれれば。」
「そうか...//」
今度は若干嬉しそうな表情になった。

なんか、新鮮。この人面白いな。

そして、あっという間にエレベーターは10階に着いた。

あーあ、着いちゃった。もっと見たかったのに...
「...は?」

私は自分でも知らぬ内に、課長の表情の変化を楽しんでいたのだ。

ありえないありえないありえない!だってあの課長だよ!?あの変態に関心持っちゃ駄目だって!きもいきもいきもい!

先にエレベーターを降りて少し前を歩いていた課長がふと、私が動揺していた最中、その思惑が分からない質問をした。
「そういえば、今日の昼も下内と食べるのか?」
「へ?あ、えぇまぁ。」
「...そうか。」

ドキッ

あ...しょんぼりしてる...

彼は少し目線を落とし、若干落胆したような表情を浮かべた。そしてそれもまた、私の心を理由もなく惹きつけた。

それ以降、私たちは言葉を交わさなかった。しかし私は、今朝の短時間で知った課長の色々な表情、そして私に向けられた瞳がやけに忘れられなかった。

―――――――――――――――――――

「ふぅ。」
次はあの人にこれを持っていく、と。

午後の作業時間、私は課長に最終チェックをお願いする請求書を提出しなければならなかった。

...行こ。

以前の私なら仕事の用事でさえ彼のもとへと足を運ぶのをためらい、思い立ってから5分くらいかけてやっと動くことができた。しかし今回はなぜかすんなりと行く気になったのだ。

彼のデスクへと歩く間、いつもの変な動機は感じられなかった。そして私自身、やけに落ち着いていた。課長に声をかけるときも、ここ最近で初めて声が震えなかった。
「課長、この請求書の最終確認をよろしくお願いします。」
「あぁ。」
相変わらず彼はノールックで書類を受け取った。
「...」
「...何だ?」
私は自分でも気付かない内に、また新たな課長の顔を見たいと期待してしまっていたのだ。そして無言で立ち尽くしている私を不審に思ったのか、彼はこちらを見上げてそう聞いた。
「あっ、いやっ、失礼します...」
私は自分自身を恥じ、みるみるうちに自分の顔が赤くなるのが分かった。そして赤面しながら席に戻った私を、今度は蠣崎くんが怪しんだ。
「どうしたんですか?顔が赤いですよ。」
「えっ?あっ、そう?」
私はとぼけながら、両頬に手をあて、持ち前の末端冷え性で必死に顔を冷まそうとした。
「...紺野さん、この頃課長の前で変ですよね。」
「えっ?」
私は一瞬、彼の言ったことに耳を疑った。まさかそれを指摘されるとは夢にも思わなかったのだ。
「...ごめんなさい。変なこと言いました。」
「あ、いや、別に...」
私たちの間に少し妙な間が空いたと思ったら、蠣崎くんが先に言葉を発した。
「...あの、紺野さん。」
「うん?」
「退社後、何か用事がありますか?」
「いや、別に。」
「実は話があるんですけど、良かったら聞いてくれませんか...?」
彼は少し震えた声で、しかし私をまっすぐ見ながらそう言った。

ありゃ...どーしたんだろ。

私は彼の神妙な顔付きから何か悩みを抱えているとではないかと疑い、できる限り彼の助けになりたいと思った。
「もちろん。私にできることあったら何でも言ってよ。」
「そう言ってくれて助かります。あの、でも人がいるところでは話しにくいのでどこか個室のある飲食店とかでもよろしいですか?」
「あ、そうだね。分かった。」
「じゃあ僕、近くのところ予約しときますね。」
「うん。ありがとう。」
「いえ...」

大丈夫かな蠣崎くん。誰かにパワハラ受けたとか?とりあえず傷ついてないといいけど...

このときの私は真実なんてつゆ知らず、ただただ蠣崎くんのことが心配で心配でたまらなかった。
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