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覚醒と豹変
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「あの~、ここってお高くないですか?」
「真琴さんは心配しなくていい。私がもつ。」
課長に連れられて彼のおすすめの店に来たはいいものの、そこではなぜか庶民のランチとは思えないほどの値段がメニューに連なっていた。
心配しなくていいって...申し訳ないに決まってんじゃん...
「食べたいものを頼みなさい。」
「えぇ...」
「何だ?」
「えっと、奢られるようなことしてませんし...」
私がそうして躊躇すると、彼は一瞬わずかに悲しそうな表情を浮かべた。
「でも連れてきたのは私だ。だからいいんだ。」
「はぁ...」
課長はその切れ長な目を私に突きつけて、堂々とそう言い切った。そして私はその迫力に圧倒され、それ以上は何も反論できなかった。
うーん、これでいいのか...
しかし食事は驚くほど楽しかった。なぜなら課長は、私の趣味について非常に詳しく、その他の私が興味のあることにも造詣が深かったのだから。
「課長色んなこと知ってるんですね。すごいです。」
「...」
私がそう言って課長を褒めたら、なぜだか彼は私をジッと見つめて何も言葉を発しなくなった。
「どうしましたか?」
「...真琴さん。」
「はい。」
「ここ、ソースが...」
「あっ。」
恥ずっ!
課長に指摘されて、私は顔が見る見る赤くなるのを感じた。
うぅ~!恥を晒してしまった!
「ふっ。」
彼は慌てる私を見て小さく、しかしこの上なく優しく微笑んだ。
「...」
「どうした?」
「あ、いや、何でも...」
私は、今まで見たことがなかった彼の表情に思わず見惚れてしまっていた。
「そうか。そうだ、来週の土曜は空いてるか?」
ゴクッ
こりゃあ...
私は息を飲み、その後の展開を察知した。
「もし良かったら、私とどこかに出かけてほしい。」
ドクンッ
予想が見事に当たり、心臓が一気に飛び上がったのが分かった。
「あ...そうですね。」
このときまで、私は彼からのその言葉を密かに待っていたのかもしれない。その結果がこの答えなのだから。
「どこか行きたいところは?」
「ん~、映画なんかどうです?」
「映画か...分かった。」
「観たい作品があるんですけど...ほら、これです。」
私は前から気になっていた、少し前に上映開始された映画をスマホで検索し、課長にその画面を見せた。
「なるほど。ちなみに映画館は横井シネマで問題ないか?」
「あぁ、はい。」
「席は予約しておく。後で希望の座席を言ってくれ。」
「あら、ありがとうこざいます。」
「あぁ。」
こうして、私たちはあれよあれよという間に遊びにいく計画を立て終わった。
そういえば横井シネマって私の最寄りの映画館だよね...ま、ただの偶然か。
この話の後、私はふと課長の言ったことが少し引っかかったが、このときはあまり問題視せずに流してしまった。
―――――――――――――――――――
お、これは安い。
私は退社後、家に帰った後に月一の買い出しに出かけた。
今夜はモヤシとササミの炒め物かなぁ。
「あ、紺野さん!」
「えっ!?」
突然自分の名前が呼ばれ、私は驚いて肩が少し上がった。そして声が発せられた方を見ると、なんと蠣崎くんがいるではないか。
「偶然ですね!」
彼は満面の笑みでそう言った。
「紺野さんもよくここのスーパーにいらっしゃるんですか?」
「あぁ、うん。」
「僕もです。もしかしたら僕たちご近所さんかもですね。」
「そう、だね...」
私は一瞬警戒心が働き、余計なことは漏らさないようにそれ以上のことは言えなかった。
「...紺野さん、もしかしてこの頃何かおかしな目にあってませんか?」
「は?」
蠣崎くんは、唐突に不思議なことを言い出した。
「何もないですか?」
「いや別に...」
「そうですか...」
私は、彼の言っていることがさっぱり分からなかった。
「え、どうしたの?」
「...実は、少しお話があるんですけど、お互いの買い物が終わったら近くの公園で会えませんか?」
蠣崎くんは、深刻そうな顔をしてそんなことを提案した。
「時間は取らせませんから。」
「...分かった。」
私は彼の真剣さから拒否をしたらいけない雰囲気を感じ、そう承諾した。
「じゃあ、30分後に吉松公園で。」
「おっけ。」
―――――――――――――――――――
「あ...来てくれてありがとうございます。」
「うん。」
先に待っていたと思われる蠣崎くんは、私を見つけたと同時にそれまで座っていたブランコから立ち上がった。
「ここ座っていい?」
「どうぞ。」
私は彼の隣のブランコに座った。そして少しの沈黙の後、蠣崎くんはようやく口を開いた。
「紺野さん、1つ聞いてほしいことがあるんです。」
「うん?」
蠣崎くんは、私の目を真っ直ぐに見ながらそう切り出した。
「実は、この前変な手紙が届いたんです。これなんですけど...」
彼は、その「変な手紙」というものを撮った写真をスマホ画面に写して私に見せてきた。
お前があの方に釣り合うわけがない。何も努力をしてないお前ごときが。今すぐ彼女に手を出すのはやめろ。さもないとお前に未来はない。
「え...これマジ?」
「マジです。言おうかどうか迷ったんですけど、紺野さん、気をつけた方がいいですよ。」
こんなことする人なんてあの人しかいないよね...
私の頭の中には、1人の男が思い浮かんだ。
「今日はどうやって帰るんですか?」
「歩き...」
「僕もです。でも心配なので送らせてください。」
「うん...」
そうして、私は蠣崎くんに家までついてきてもらったのだった。
何やってんのよ課長。こんな卑怯なやり方して...あんなの脅迫文と同じじゃんか。
私は家に着くと、今度課長に直接会うときに彼を叱ることを心に決めた。
「真琴さんは心配しなくていい。私がもつ。」
課長に連れられて彼のおすすめの店に来たはいいものの、そこではなぜか庶民のランチとは思えないほどの値段がメニューに連なっていた。
心配しなくていいって...申し訳ないに決まってんじゃん...
「食べたいものを頼みなさい。」
「えぇ...」
「何だ?」
「えっと、奢られるようなことしてませんし...」
私がそうして躊躇すると、彼は一瞬わずかに悲しそうな表情を浮かべた。
「でも連れてきたのは私だ。だからいいんだ。」
「はぁ...」
課長はその切れ長な目を私に突きつけて、堂々とそう言い切った。そして私はその迫力に圧倒され、それ以上は何も反論できなかった。
うーん、これでいいのか...
しかし食事は驚くほど楽しかった。なぜなら課長は、私の趣味について非常に詳しく、その他の私が興味のあることにも造詣が深かったのだから。
「課長色んなこと知ってるんですね。すごいです。」
「...」
私がそう言って課長を褒めたら、なぜだか彼は私をジッと見つめて何も言葉を発しなくなった。
「どうしましたか?」
「...真琴さん。」
「はい。」
「ここ、ソースが...」
「あっ。」
恥ずっ!
課長に指摘されて、私は顔が見る見る赤くなるのを感じた。
うぅ~!恥を晒してしまった!
「ふっ。」
彼は慌てる私を見て小さく、しかしこの上なく優しく微笑んだ。
「...」
「どうした?」
「あ、いや、何でも...」
私は、今まで見たことがなかった彼の表情に思わず見惚れてしまっていた。
「そうか。そうだ、来週の土曜は空いてるか?」
ゴクッ
こりゃあ...
私は息を飲み、その後の展開を察知した。
「もし良かったら、私とどこかに出かけてほしい。」
ドクンッ
予想が見事に当たり、心臓が一気に飛び上がったのが分かった。
「あ...そうですね。」
このときまで、私は彼からのその言葉を密かに待っていたのかもしれない。その結果がこの答えなのだから。
「どこか行きたいところは?」
「ん~、映画なんかどうです?」
「映画か...分かった。」
「観たい作品があるんですけど...ほら、これです。」
私は前から気になっていた、少し前に上映開始された映画をスマホで検索し、課長にその画面を見せた。
「なるほど。ちなみに映画館は横井シネマで問題ないか?」
「あぁ、はい。」
「席は予約しておく。後で希望の座席を言ってくれ。」
「あら、ありがとうこざいます。」
「あぁ。」
こうして、私たちはあれよあれよという間に遊びにいく計画を立て終わった。
そういえば横井シネマって私の最寄りの映画館だよね...ま、ただの偶然か。
この話の後、私はふと課長の言ったことが少し引っかかったが、このときはあまり問題視せずに流してしまった。
―――――――――――――――――――
お、これは安い。
私は退社後、家に帰った後に月一の買い出しに出かけた。
今夜はモヤシとササミの炒め物かなぁ。
「あ、紺野さん!」
「えっ!?」
突然自分の名前が呼ばれ、私は驚いて肩が少し上がった。そして声が発せられた方を見ると、なんと蠣崎くんがいるではないか。
「偶然ですね!」
彼は満面の笑みでそう言った。
「紺野さんもよくここのスーパーにいらっしゃるんですか?」
「あぁ、うん。」
「僕もです。もしかしたら僕たちご近所さんかもですね。」
「そう、だね...」
私は一瞬警戒心が働き、余計なことは漏らさないようにそれ以上のことは言えなかった。
「...紺野さん、もしかしてこの頃何かおかしな目にあってませんか?」
「は?」
蠣崎くんは、唐突に不思議なことを言い出した。
「何もないですか?」
「いや別に...」
「そうですか...」
私は、彼の言っていることがさっぱり分からなかった。
「え、どうしたの?」
「...実は、少しお話があるんですけど、お互いの買い物が終わったら近くの公園で会えませんか?」
蠣崎くんは、深刻そうな顔をしてそんなことを提案した。
「時間は取らせませんから。」
「...分かった。」
私は彼の真剣さから拒否をしたらいけない雰囲気を感じ、そう承諾した。
「じゃあ、30分後に吉松公園で。」
「おっけ。」
―――――――――――――――――――
「あ...来てくれてありがとうございます。」
「うん。」
先に待っていたと思われる蠣崎くんは、私を見つけたと同時にそれまで座っていたブランコから立ち上がった。
「ここ座っていい?」
「どうぞ。」
私は彼の隣のブランコに座った。そして少しの沈黙の後、蠣崎くんはようやく口を開いた。
「紺野さん、1つ聞いてほしいことがあるんです。」
「うん?」
蠣崎くんは、私の目を真っ直ぐに見ながらそう切り出した。
「実は、この前変な手紙が届いたんです。これなんですけど...」
彼は、その「変な手紙」というものを撮った写真をスマホ画面に写して私に見せてきた。
お前があの方に釣り合うわけがない。何も努力をしてないお前ごときが。今すぐ彼女に手を出すのはやめろ。さもないとお前に未来はない。
「え...これマジ?」
「マジです。言おうかどうか迷ったんですけど、紺野さん、気をつけた方がいいですよ。」
こんなことする人なんてあの人しかいないよね...
私の頭の中には、1人の男が思い浮かんだ。
「今日はどうやって帰るんですか?」
「歩き...」
「僕もです。でも心配なので送らせてください。」
「うん...」
そうして、私は蠣崎くんに家までついてきてもらったのだった。
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