Cactus

ぱり

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それから

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まさか自分が捨てられるなんて。
サボテンの絶望感は尋常ではない。

「あれ…?」
声のする方を見ると、安藤智慧だった。
「君…匠くんのサボテンだよね?まさか君も捨てられたの?」
安藤智慧は驚きながら私を拾った。

「…おかしい、私だけならまだしも、あんなに大切にしてたこの子まで捨てるなんて…」
安藤智慧は何かを深く考えていたが、深く傷ついたサボテンには知る由もなかった。


「おかしくなりはじめたのは、匠くんの誕生日あたりからだった気がする」
安藤智慧はノートに何か書きつけながら考えている。傍にはこのサボテンも置いていた。
「誕生日…別に変わったところもなかったし、嬉しそうだった。まだ年齢に悲観的になる歳でもない…」
雉真匠はあの女に騙されているのだ。そうに決まってる。サボテン的勘がビンビン感じるのだ。それをどうしてこの卵はんは気づいてくれないのか…
サボテンは困り果てて暗い顔色をしていた。「君もかわいそうにな…どことなく元気もないし」
そりゃそうだ。卵さんは意外と元気そうだな。とサボテンは思った。
「…そうか、分かったぞ!」
安藤智慧が急に立ち上がる。振動でサボテンがひっくり返りそうになったがなんとか持ち堪える。
「あのブレスレットのせいなんだ!!」
安藤智慧は確信した瞳でキラキラしていた。この鈍感卵さん、どうしたらいいんだろ。サボテンはため息をついた。


誕生日プレゼントで贈ったブレスレットが何か悪いもので、魑魅魍魎を雉真匠に寄せ付けているのだ、と安藤智慧は決めつけていた。魑魅魍魎にあの女も含まれているなら間違いではないな、とサボテンは思った。
「しかし、腕につけてるブレスレットをどうやって盗めば…」
うーん、うーんと悩んでいる安藤智慧には悪いが、そんな計画をしても何の意味もない。だって絶対あの女が原因なんだから。サボテンは自分が喋れないことをこんなに辛く思うことはなかった。

「そうだ!」
安藤智慧はスマホを取り出ししばらく触っていた。またスマホが光り、確認すると「よし」と小さくガッツポーズをする。
もうどうでもいいという気持ちになりながら、安藤智慧は私をちゃんと面倒見てくれるのかという不安がよぎった。


しばらく暗い部屋にいたがガチャガチャ、と音がすると高揚した安藤智慧がドタドタと帰ってきた。
「やったよ!!サボテンちゃん!」
手には雉真匠のブレスレットを持っていた。

どうやら安藤智慧は「忘れものがある」と言い、雉真匠の家に行ったらしい。
しかもお邪魔しておきながらお茶の強要をし、しかもそれを雉真匠にかけた。
それも全部作戦のようだが、よく雉真匠も怒らなかったと思う。
着替えるだけに済まそうとした雉真匠だったが、安藤智慧が必死に風呂に入ることを勧め、「ほら、お土産に高級アイスも買ってきてあるからさ!お風呂上がりのアイスほど美味しいものはないって前に言ってたでしょ?」とゴリ押しし、食欲に負けた雉真匠は観念して風呂場に行った。
そこで雉真匠が風呂に入っている間に別のよく似たブレスレットにすり替えたそうだ。

ここまでの話を意気揚々とサボテンに話した安藤智慧は、すぐさま持ってきたブレスレットを何重にも梱包し、遠くの町のゴミ捨て場まで捨てに行った。ここまですれば大丈夫でしょ。と安心し、自分用に買っておいた高級アイスを美味しそうに家で食べた。小さな皿にサボテン用にも取り分けてくれた。
サボテンはいつの日だったか、雉真匠と一緒に晩酌した夜のことを思い出していた。
その日のサボテンがどこか湿っぽかったのは、霧吹きの水のせいだけではなかったかもしれない。アイスは少しずつ溶け始めていた。
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