9 / 11
それから
しおりを挟む
まさか自分が捨てられるなんて。
サボテンの絶望感は尋常ではない。
「あれ…?」
声のする方を見ると、安藤智慧だった。
「君…匠くんのサボテンだよね?まさか君も捨てられたの?」
安藤智慧は驚きながら私を拾った。
「…おかしい、私だけならまだしも、あんなに大切にしてたこの子まで捨てるなんて…」
安藤智慧は何かを深く考えていたが、深く傷ついたサボテンには知る由もなかった。
「おかしくなりはじめたのは、匠くんの誕生日あたりからだった気がする」
安藤智慧はノートに何か書きつけながら考えている。傍にはこのサボテンも置いていた。
「誕生日…別に変わったところもなかったし、嬉しそうだった。まだ年齢に悲観的になる歳でもない…」
雉真匠はあの女に騙されているのだ。そうに決まってる。サボテン的勘がビンビン感じるのだ。それをどうしてこの卵はんは気づいてくれないのか…
サボテンは困り果てて暗い顔色をしていた。「君もかわいそうにな…どことなく元気もないし」
そりゃそうだ。卵さんは意外と元気そうだな。とサボテンは思った。
「…そうか、分かったぞ!」
安藤智慧が急に立ち上がる。振動でサボテンがひっくり返りそうになったがなんとか持ち堪える。
「あのブレスレットのせいなんだ!!」
安藤智慧は確信した瞳でキラキラしていた。この鈍感卵さん、どうしたらいいんだろ。サボテンはため息をついた。
誕生日プレゼントで贈ったブレスレットが何か悪いもので、魑魅魍魎を雉真匠に寄せ付けているのだ、と安藤智慧は決めつけていた。魑魅魍魎にあの女も含まれているなら間違いではないな、とサボテンは思った。
「しかし、腕につけてるブレスレットをどうやって盗めば…」
うーん、うーんと悩んでいる安藤智慧には悪いが、そんな計画をしても何の意味もない。だって絶対あの女が原因なんだから。サボテンは自分が喋れないことをこんなに辛く思うことはなかった。
「そうだ!」
安藤智慧はスマホを取り出ししばらく触っていた。またスマホが光り、確認すると「よし」と小さくガッツポーズをする。
もうどうでもいいという気持ちになりながら、安藤智慧は私をちゃんと面倒見てくれるのかという不安がよぎった。
しばらく暗い部屋にいたがガチャガチャ、と音がすると高揚した安藤智慧がドタドタと帰ってきた。
「やったよ!!サボテンちゃん!」
手には雉真匠のブレスレットを持っていた。
どうやら安藤智慧は「忘れものがある」と言い、雉真匠の家に行ったらしい。
しかもお邪魔しておきながらお茶の強要をし、しかもそれを雉真匠にかけた。
それも全部作戦のようだが、よく雉真匠も怒らなかったと思う。
着替えるだけに済まそうとした雉真匠だったが、安藤智慧が必死に風呂に入ることを勧め、「ほら、お土産に高級アイスも買ってきてあるからさ!お風呂上がりのアイスほど美味しいものはないって前に言ってたでしょ?」とゴリ押しし、食欲に負けた雉真匠は観念して風呂場に行った。
そこで雉真匠が風呂に入っている間に別のよく似たブレスレットにすり替えたそうだ。
ここまでの話を意気揚々とサボテンに話した安藤智慧は、すぐさま持ってきたブレスレットを何重にも梱包し、遠くの町のゴミ捨て場まで捨てに行った。ここまですれば大丈夫でしょ。と安心し、自分用に買っておいた高級アイスを美味しそうに家で食べた。小さな皿にサボテン用にも取り分けてくれた。
サボテンはいつの日だったか、雉真匠と一緒に晩酌した夜のことを思い出していた。
その日のサボテンがどこか湿っぽかったのは、霧吹きの水のせいだけではなかったかもしれない。アイスは少しずつ溶け始めていた。
サボテンの絶望感は尋常ではない。
「あれ…?」
声のする方を見ると、安藤智慧だった。
「君…匠くんのサボテンだよね?まさか君も捨てられたの?」
安藤智慧は驚きながら私を拾った。
「…おかしい、私だけならまだしも、あんなに大切にしてたこの子まで捨てるなんて…」
安藤智慧は何かを深く考えていたが、深く傷ついたサボテンには知る由もなかった。
「おかしくなりはじめたのは、匠くんの誕生日あたりからだった気がする」
安藤智慧はノートに何か書きつけながら考えている。傍にはこのサボテンも置いていた。
「誕生日…別に変わったところもなかったし、嬉しそうだった。まだ年齢に悲観的になる歳でもない…」
雉真匠はあの女に騙されているのだ。そうに決まってる。サボテン的勘がビンビン感じるのだ。それをどうしてこの卵はんは気づいてくれないのか…
サボテンは困り果てて暗い顔色をしていた。「君もかわいそうにな…どことなく元気もないし」
そりゃそうだ。卵さんは意外と元気そうだな。とサボテンは思った。
「…そうか、分かったぞ!」
安藤智慧が急に立ち上がる。振動でサボテンがひっくり返りそうになったがなんとか持ち堪える。
「あのブレスレットのせいなんだ!!」
安藤智慧は確信した瞳でキラキラしていた。この鈍感卵さん、どうしたらいいんだろ。サボテンはため息をついた。
誕生日プレゼントで贈ったブレスレットが何か悪いもので、魑魅魍魎を雉真匠に寄せ付けているのだ、と安藤智慧は決めつけていた。魑魅魍魎にあの女も含まれているなら間違いではないな、とサボテンは思った。
「しかし、腕につけてるブレスレットをどうやって盗めば…」
うーん、うーんと悩んでいる安藤智慧には悪いが、そんな計画をしても何の意味もない。だって絶対あの女が原因なんだから。サボテンは自分が喋れないことをこんなに辛く思うことはなかった。
「そうだ!」
安藤智慧はスマホを取り出ししばらく触っていた。またスマホが光り、確認すると「よし」と小さくガッツポーズをする。
もうどうでもいいという気持ちになりながら、安藤智慧は私をちゃんと面倒見てくれるのかという不安がよぎった。
しばらく暗い部屋にいたがガチャガチャ、と音がすると高揚した安藤智慧がドタドタと帰ってきた。
「やったよ!!サボテンちゃん!」
手には雉真匠のブレスレットを持っていた。
どうやら安藤智慧は「忘れものがある」と言い、雉真匠の家に行ったらしい。
しかもお邪魔しておきながらお茶の強要をし、しかもそれを雉真匠にかけた。
それも全部作戦のようだが、よく雉真匠も怒らなかったと思う。
着替えるだけに済まそうとした雉真匠だったが、安藤智慧が必死に風呂に入ることを勧め、「ほら、お土産に高級アイスも買ってきてあるからさ!お風呂上がりのアイスほど美味しいものはないって前に言ってたでしょ?」とゴリ押しし、食欲に負けた雉真匠は観念して風呂場に行った。
そこで雉真匠が風呂に入っている間に別のよく似たブレスレットにすり替えたそうだ。
ここまでの話を意気揚々とサボテンに話した安藤智慧は、すぐさま持ってきたブレスレットを何重にも梱包し、遠くの町のゴミ捨て場まで捨てに行った。ここまですれば大丈夫でしょ。と安心し、自分用に買っておいた高級アイスを美味しそうに家で食べた。小さな皿にサボテン用にも取り分けてくれた。
サボテンはいつの日だったか、雉真匠と一緒に晩酌した夜のことを思い出していた。
その日のサボテンがどこか湿っぽかったのは、霧吹きの水のせいだけではなかったかもしれない。アイスは少しずつ溶け始めていた。
0
あなたにおすすめの小説
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
〈完結〉デイジー・ディズリーは信じてる。
ごろごろみかん。
恋愛
デイジー・ディズリーは信じてる。
婚約者の愛が自分にあることを。
だけど、彼女は知っている。
婚約者が本当は自分を愛していないことを。
これは愛に生きるデイジーが愛のために悪女になり、その愛を守るお話。
☆8000文字以内の完結を目指したい→無理そう。ほんと短編って難しい…→次こそ8000文字を目標にしますT_T
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる