道化師のとある人形店

さくらもち

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一話

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「いつ見ても趣味の悪いこった」

 ティーカップに紅茶を注いでいると、どこからともなく現れた空を飛んでいる人形がいた。
 人形、黒色の兎で赤色の瞳をしている。
 黒色だし、絵みたいだから、クロエ、と自分は呼んでいる。

 クロエは僕の目の前にあるモノを見て、そうやっていつも皮肉を言う。

「そう?」

「なんだって、人の感情なんて集めてるのさ?」

 注いでいた手を止め、ティーポットを机へ置く。
 そして、クロエの方を向いてにこっと多分優しく微笑みながら言った。

「……だって、面白くない?悲しいだって、いろんな種類があるでしょ?〇〇で悲しいとかね」

「それが、おかしいんだよ、道化師」

「褒め言葉として受け取ったほうがいい?」

「知らん。お前の相談者になるやつが可哀想だ」

 はぁと深いため息を付き、自分から目をそらす。何かおかしいことでも言っただろうか。
 僕はわからない。

「何言ってるの?僕は願いを叶えてあげた代償にもらうんだから、良くない?駄目なの?」

「お前なぁ……って、言っても、お前のせいじゃないもんな」

 呆れたような口調、というか哀れんでいるのかもしれない。
 同情しているのだろうか。

「それで?どんな成果があったんだ?」

「成果?」

「感情を知りたいから、願いを叶える代償にその感情をもらうんだろ?」

「そうだねぇ……しいて言うなら、わからないモノだった、かな」

「は?」

 僕は湯気が出ている紅茶をゆっくり持ち上げ、それを少し啜った。
 ほのかな甘みとちょっとした苦さ、ローズマリーの匂いが口全体に広がる。

 その紅茶を持ちながら、僕は棚に置いてある人形をもう片方の手に取った。
 その人形は人の形をした人ではないモノ。白くもないし、黒くもない。
 けれど、首にかけてある赤い雫形の宝石は強く美しく光っている。

「なんで、人が死んで悲しいの?なんで、お金が増えて嬉しいの?」

 その雫の宝石を揺らしながら、誰かにといた。

「それが、道化師なんだろ?」

「そうだね」

 人形を棚に戻し、ティーカップを机へ置く。揺れる湯気。

 そして、今日もベルが鳴る。

「ようこそ、お客様?」

 とある人形店の噂。

 それは普通の人形店ではなく、もしも叶わぬ願い、悩みがあるのであれば、いつの間にかその店に彷徨いつくという。

 そこの店は人形は並んでいるが、真っ白な人形を手に持つと、悩みとその感情がその人形にあらわれるといった。

 けど、その店にいる道化師はその悩み、願いを叶える代わりに、感情をもらうという。

 でも、そんな所、誰も場所を知らぬ所。

 さぁ、今日も可哀想なお客様、誰が来るでしょうか。
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